11 / 11
11 帝宮のサロンへ 2
しおりを挟む
会場の広間には、沢山の白いクロスをかけた丸テーブルが用意されていた。
席は指定されているようで、案内のメイドについて行く。
華やかに着飾った人々に目を奪われつつ、私は絶対にノエリアから離れないようにと気を付けて、彼女の後に続いて進む。
(これが、貴族のサロン……)
初めてっていうか、そんな場に来たのも初めてだ。
前世の勤め先は中小企業で、入社式なんてものはなかったし。
お祝いの飲み会は居酒屋。
もう感覚が全然違う。
(でも気を遣うのは変わらないかな。気を抜くなんて無理だし)
違うのは会場の床の大理石の美しさや壁の装飾石膏のすごさとか、優美な食器ばかりのテーブル。そしてみんなが豪華なドレスを着ていること。
やがて席に座ったところで、まずお茶が運ばれてくる。
「レノー産の茶葉を使用しております。ミルクやお砂糖はどうされますか?」
丁寧に聞くメイドに、私もノエリアも遠慮なく好みを伝えた。
二人とも、お菓子が来るのもあって砂糖はなし、ミルクを頼むことにする。
召使いが下がると、ノエリアは小声でささやいてきた。
「さ、まだ全員集まっていないうちに、近くにいる方の顔を覚えてね」
「わ、はい」
慌てつつ、私はノエリアが教えてくれる人を、お茶を飲むふりをしながらそっと見る。
あれが皇太后の友人オルバーン侯爵夫人。
その向こうにいるのが、カマラーシュ伯爵で甘いもの好きのおじさん。
左手のテーブルにいるのがクーヘン男爵で、レゼクにも皇妃にも献上品を送って双方にいい顔をしている人で、かなりの資産家……。
(まだ、目が慣れてないせいか人の見分けが大変……。服装で覚えたって、貴族は下手をすると外出着は二度と着ないこともあるし)
特に上流貴族は、見栄のためにも同じドレスを着ないようにする人がいるのだとか。
目印になりそうな、赤いリボンの人とか、髪の毛の量で覚えられそうな人がとても良い人に見えてくる。
「……そして向こうにいるのが、ウルスラ妃の弟、カール・デアーク小伯爵ね」
広間の少し奥の方に、私よりも少し年下の黒髪の少年がいた。
闇に溶けるような黒髪は、ウルスラ妃と同じ。
サラサラとしていそうな切りっぱなしのボブの髪型は、顔立ちが幼いせいもあって、ぱっと見だと女の子かなと勘違いしそうだ。
カールは自分と同じ年ごろの少年少女と同席している。
もう一人いる三十代過ぎの男性は、どちらかの父親だろうか。
「まだ14歳だったかしら。ウルスラ妃の弟だからと頻繁に帝宮に出入りしているの。私達は、ウルスラ妃と生家との連絡役をしているんだろうと思って見ている。あと……」
ただでさえ小声だったのに、ノエリアはさらに声をひそめた。
「あの子は、ものすごく人を懐柔するのが上手いらしいの。ウルスラ妃にあまり良い印象を持たない貴族でも、一瞬で意見を変えてしまったことがあるのよ」
「口が上手いんでしょうか?」
「そうね、話を少しするだけでも、賢い子なのはわかるわ。でもこう、なぜなのか好意的になるらしいのよね、話していると」
そういう人っているんだな、と私は驚く。
でも最初から沢山の人に好意的に接してもらえる人、というのは存在する。
前世の自分が、初対面のほんとうに顔を合わせて一秒で、無意識に距離をおかれやすい人間だったせいもあって、それがわかる。
ああいうのって、なんなんだろうな。
まぁ、死んでしまったのでもういいんだけど。
(リリになってからは、ああいった微妙な表情の変化に遭遇しなくなったから、顔立ちの問題とか雰囲気なのかなー?)
思わず自分の頬をつねってみたりする。
そこへ、通りすがりに声をかける人がいた。
「お久しぶりですね、ノエリア様」
明るい陽射しが差し込んだような気がする、爽やかな声。
だけど本人は、幻想的な雰囲気の青年だった。金の柔らかな髪に白皙の頬。瞳の色は緑で、微笑むと長いまつげが影を落としている。
どこかノエリアに印象が近いような人だった。
「今日はこのサロンのことを教えてくれてありがとう、ユーリウス様」
「様子を見ておきたいだろうからね、知らせて良かったみたいだ」
現れたユーリウスという人と挨拶したノエリアが、私に教えてくれる。
「こちらヴィラルト公爵家のご子息よ。私にとっては母同士が姉妹の、従兄なの」
「はじめましてお嬢さん。皇太后様もそうだけど、皇子殿下が気に入って取り立てたという話を聞きましたよ」
おっと、傍から見るとそんな感じ?
気に入ったとだけ言うと、私に侍女の素質があったかのような話になるけど、外見も性格も頭の良さも関係なく、一部能力だけで取り立てられたとわかってる分、なんだか申し訳ないような気分になる。
「よろしくお願いいたします、公子様」
一般的な礼儀作法として教えられた答え方をしておく。
ノエリアの従兄でこれだけきさくに話すのだから、きっと皇太后や皇子側の人なんだろう。
「こちらこそ。では、また後で」
ユーリアスは返事をした後、席が違うようで移動していく。
後ろ姿も、その歩き方も爽やかさをふりまくようで、あんな人間本当にいるんだ……と思ってしまう。
「あの方も、皇子殿下側の方なんですか?」
一応、ノエリアに確認を取る。
「ええ。彼は皇太后陛下に近い方なのよ。元々皇太后陛下はヴィラルド公爵家のご出身だから」
席は指定されているようで、案内のメイドについて行く。
華やかに着飾った人々に目を奪われつつ、私は絶対にノエリアから離れないようにと気を付けて、彼女の後に続いて進む。
(これが、貴族のサロン……)
初めてっていうか、そんな場に来たのも初めてだ。
前世の勤め先は中小企業で、入社式なんてものはなかったし。
お祝いの飲み会は居酒屋。
もう感覚が全然違う。
(でも気を遣うのは変わらないかな。気を抜くなんて無理だし)
違うのは会場の床の大理石の美しさや壁の装飾石膏のすごさとか、優美な食器ばかりのテーブル。そしてみんなが豪華なドレスを着ていること。
やがて席に座ったところで、まずお茶が運ばれてくる。
「レノー産の茶葉を使用しております。ミルクやお砂糖はどうされますか?」
丁寧に聞くメイドに、私もノエリアも遠慮なく好みを伝えた。
二人とも、お菓子が来るのもあって砂糖はなし、ミルクを頼むことにする。
召使いが下がると、ノエリアは小声でささやいてきた。
「さ、まだ全員集まっていないうちに、近くにいる方の顔を覚えてね」
「わ、はい」
慌てつつ、私はノエリアが教えてくれる人を、お茶を飲むふりをしながらそっと見る。
あれが皇太后の友人オルバーン侯爵夫人。
その向こうにいるのが、カマラーシュ伯爵で甘いもの好きのおじさん。
左手のテーブルにいるのがクーヘン男爵で、レゼクにも皇妃にも献上品を送って双方にいい顔をしている人で、かなりの資産家……。
(まだ、目が慣れてないせいか人の見分けが大変……。服装で覚えたって、貴族は下手をすると外出着は二度と着ないこともあるし)
特に上流貴族は、見栄のためにも同じドレスを着ないようにする人がいるのだとか。
目印になりそうな、赤いリボンの人とか、髪の毛の量で覚えられそうな人がとても良い人に見えてくる。
「……そして向こうにいるのが、ウルスラ妃の弟、カール・デアーク小伯爵ね」
広間の少し奥の方に、私よりも少し年下の黒髪の少年がいた。
闇に溶けるような黒髪は、ウルスラ妃と同じ。
サラサラとしていそうな切りっぱなしのボブの髪型は、顔立ちが幼いせいもあって、ぱっと見だと女の子かなと勘違いしそうだ。
カールは自分と同じ年ごろの少年少女と同席している。
もう一人いる三十代過ぎの男性は、どちらかの父親だろうか。
「まだ14歳だったかしら。ウルスラ妃の弟だからと頻繁に帝宮に出入りしているの。私達は、ウルスラ妃と生家との連絡役をしているんだろうと思って見ている。あと……」
ただでさえ小声だったのに、ノエリアはさらに声をひそめた。
「あの子は、ものすごく人を懐柔するのが上手いらしいの。ウルスラ妃にあまり良い印象を持たない貴族でも、一瞬で意見を変えてしまったことがあるのよ」
「口が上手いんでしょうか?」
「そうね、話を少しするだけでも、賢い子なのはわかるわ。でもこう、なぜなのか好意的になるらしいのよね、話していると」
そういう人っているんだな、と私は驚く。
でも最初から沢山の人に好意的に接してもらえる人、というのは存在する。
前世の自分が、初対面のほんとうに顔を合わせて一秒で、無意識に距離をおかれやすい人間だったせいもあって、それがわかる。
ああいうのって、なんなんだろうな。
まぁ、死んでしまったのでもういいんだけど。
(リリになってからは、ああいった微妙な表情の変化に遭遇しなくなったから、顔立ちの問題とか雰囲気なのかなー?)
思わず自分の頬をつねってみたりする。
そこへ、通りすがりに声をかける人がいた。
「お久しぶりですね、ノエリア様」
明るい陽射しが差し込んだような気がする、爽やかな声。
だけど本人は、幻想的な雰囲気の青年だった。金の柔らかな髪に白皙の頬。瞳の色は緑で、微笑むと長いまつげが影を落としている。
どこかノエリアに印象が近いような人だった。
「今日はこのサロンのことを教えてくれてありがとう、ユーリウス様」
「様子を見ておきたいだろうからね、知らせて良かったみたいだ」
現れたユーリウスという人と挨拶したノエリアが、私に教えてくれる。
「こちらヴィラルト公爵家のご子息よ。私にとっては母同士が姉妹の、従兄なの」
「はじめましてお嬢さん。皇太后様もそうだけど、皇子殿下が気に入って取り立てたという話を聞きましたよ」
おっと、傍から見るとそんな感じ?
気に入ったとだけ言うと、私に侍女の素質があったかのような話になるけど、外見も性格も頭の良さも関係なく、一部能力だけで取り立てられたとわかってる分、なんだか申し訳ないような気分になる。
「よろしくお願いいたします、公子様」
一般的な礼儀作法として教えられた答え方をしておく。
ノエリアの従兄でこれだけきさくに話すのだから、きっと皇太后や皇子側の人なんだろう。
「こちらこそ。では、また後で」
ユーリアスは返事をした後、席が違うようで移動していく。
後ろ姿も、その歩き方も爽やかさをふりまくようで、あんな人間本当にいるんだ……と思ってしまう。
「あの方も、皇子殿下側の方なんですか?」
一応、ノエリアに確認を取る。
「ええ。彼は皇太后陛下に近い方なのよ。元々皇太后陛下はヴィラルド公爵家のご出身だから」
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…
ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。
王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。
それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。
貧しかった少女は番に愛されそして……え?
氷の騎士と契約結婚したのですが、愛することはないと言われたので契約通り離縁します!
柚屋志宇
恋愛
「お前を愛することはない」
『氷の騎士』侯爵令息ライナスは、伯爵令嬢セルマに白い結婚を宣言した。
セルマは家同士の政略による契約結婚と割り切ってライナスの妻となり、二年後の離縁の日を待つ。
しかし結婚すると、最初は冷たかったライナスだが次第にセルマに好意的になる。
だがセルマは離縁の日が待ち遠しい。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない
堀 和三盆
恋愛
一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。
信じられなかった。
母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。
そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。
日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】明日も、生きることにします
楽歩
恋愛
神に選ばれた“光耀の癒聖”リディアナは、神殿で静かに祈りを捧げる日々を送っていた。
だがある日、突然「巡礼の旅に出よ」と告げられ、誰の助けもなく神殿を追われるように旅立つことに――。
「世間知らずの聖女様」と嘲笑された少女は、外の世界で人々と触れ合い、自らの祈りと癒しの力を見つめ直していく。
やがてその“純粋さ”が、神の真の意志を明らかにし、神殿に残された聖女たちの運命さえも揺るがすこととなる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる