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11.わたしだけの、【ローウェン視点】 ※微エロ
しおりを挟む「ん……」
腕に抱える小さな身体が身じろぐ。
歩いていた足を止め、緩やかに目覚める少女を見下ろした。
「ローウェン……?」
「悪い、起こしちゃったか」
声が反響する塔の内部。螺旋状になった階段の中ほどまで登ったところで、少女は目を覚ました。
部屋はどこだろうかと、隈なく探し回っていたために時間をかけてしまったせいだ。もっと早く見つけられていれば、途中で起こしてしまうこともなかったのに。
少し申し訳ない気持ちを抱えたまま、次の段差へ足を置く。
少女は微睡みながら、ここはどこだろうかと辺りを見渡し、次いで俺に横抱きされた状況を眺め――途端に目を見開いて頬を赤くした。
「わ、わたし、自分で歩ける……!」
「おあっ、動くな動くな。危ないって」
降りようと暴れる少女を、2本の腕で抑える。
階段から転げ落ちたら大変だ。
彼女も同じく思ったのだろう。すぐに大人しくなると、身を縮こませながら胸の前で両手をぎゅうっと握りしめ俯く。
恥ずかしがる姿に、俺の胸はくすぐられ同じように頬が熱くなった。
「あー……と、お前の部屋ってどこだ?」
「……いちばん、上」
「そ、そっか」
「……」
「……」
会話が続かない。
どこか気まずい静寂の中、俺の足音だけがやたら響いている。
何か話題を探そうとするが、なかなか見つからない。
いつもどんなことを話していたんだっけかと記憶を探っている内に、気づいたら塔の最上階へ辿り着いていた。
「ここまでで大丈夫」
「あ、ああ」
木製のドアの前で少女を下ろし、ふと視線が合う。しゃがんだ姿勢でいたために、距離が近い。
お互い硬直したように見つめ――俺が先か少女が先か。勢いよく顔を背けた。
「じゃ、じゃあ行くな。また3日後、に……」
言って、しまったと顔を両手で覆いたくなる。失言した。もっと他に言い方あるだろ、俺はバカかバカだ。
穴掘って埋まりたい。
いや、でもこれを機会に言っておこう。もうこんなことは止めようって。色々な話で有耶無耶になってしまったが、俺から聖女に言うからと――そう頭で整理する。よし、言うぞ。
「うん……」
小さな返事に、言葉を出そうと口を開いたまま少女を見る。
目を伏せたまま頷く彼女は、耳を赤くしながらおずおずと言った。
「また、お願いします……」
「っ、!」
ガンっと石造りの壁へ頭を打つ。大きく息を吸って吐いて、よし、正常正常。
いや正常なわけあるか。反則だろ……! 積極的に求めてくると思えば、ちょっとしたことで照れるとか、なんだよそれ。悶え転がりそうになる。
『その子は、貴方が好きなのよ』――聖女の言葉を思い出す。
目元を手で覆い隠すが、きっと赤くなっていることなんてバレバレだろう。
あーくそ、意識しまくってて気恥ずかしい。
「ローウェン……あ、頭大丈夫……?」
「――たぶん」
少女が心配してくれたのは壁に打ち付けた頭部のことだ。
だが中身の方は自分でも心配になるほど茹だってしまっている。夜風に当たれば少しは解消されるだろうか――そう思い踵を返した。
さすがに『もう止めよう』とは言いづらくて、撤退を決断する。
「おやすみ……」
「う、うん……おやすみなさい」
背中から、扉が軋みながら開く音が聞こえてくる。
もう少しだけ。そんな思いで振り返り、少女が扉に入っていく姿を見守った。
だが、目に飛び込んできた室内に「は?」と思わず声が漏れる。
足を踏み出す。嘘だろ、と心で呟きながら、閉まる扉を手で止めた。
少女が戸惑った様子で振り返る。
広がる光景に、息を飲んだ。
――何もない。何もない部屋だったのだ。あまりに殺風景な部屋を前に、呆然とする。
あるのは寝るためのベッド、座るための簡素な椅子、着替えの服が置かれた小さなテーブル。それだけだった。生活するにあたって自然と置かれるものも見当たらない。
思えば、塔の中を探索しているときもそうだった。1階は大きな水瓶があるだけ。2階は聖堂の1室のみ。だから他のものは自室がある最上階に纏められているのだろうと、そう勝手に考えて納得していた。
「お前、ずっと……この部屋で生活してたのか……?」
「う、うん。変なところあった?」
聞き返され、言葉に詰まる。
変? 変どころじゃない――おかしいだろ、こんなの。こんな環境に置かせる奴も、それを良しと見過ごす奴も。これはもはや囚人以下の扱いだ。人間が住む部屋じゃない。
そこまで考えて、今更聖女の言った『道具』の意味を深く理解する。
世界を延命させるためだけに産まれ、生きる存在。
多くを救うために犠牲になることを強いられ、自由も許されず、徹底的に心を殺され取り上げられ――この部屋は、その在り方を明白に映し出していた。
『この話を聞いても、聖女の役割を知っても、まだ同じことを言える?』
そう問うてきた彼女の淡い微笑みが、脳裏によぎる。
なんで、俺は、答えに迷ってしまったんだろう。
今なら答えられる。こんなのおかしいって。
何の罪もない人間が、産まれた瞬間に残酷な役目を押し付けられ、多くの人間を生かすために殺される。
そうしないと存続できない世界に、意味があるのか?
そうまでして生きるほどの権利が、誰にあるという。
この子も聖女の殻に押し込められた彼女も、道具なんかじゃない。人形なんかでもない。
俺達と何ら変わらない、一人の人間なのに。
「っ、」
ぎり、と歯を食いしばる。
俺は、この子に何をしてやれるだろう。何を与えてやれるだろう。
歴史の真実、聖女の役割――寿命が30年しかない、という事実。
どうしたら、守ってやれる。どうしたら解放してやれるんだ。全てのことから。どうすれば。
「ローウェン……? 怖い顔してる、どこか痛い?」
頬に彼女の手が触れ、はっとする。
慌てて取り繕った笑みを浮かべるが、それも長続きできず切なげに少女を見つめた。
(心配されるようじゃ駄目だな……)
大丈夫だ、と伝えるように頭を撫でた。少し驚いた彼女は目を細め、大人しく撫でられている。
「なあ、何か欲しいもんはないか?」
「……欲しい物?」
「甘い食い物でも、綺麗な服でもなんでもいい。あ、なんでもいいは困るか。んー……そうだ、髪飾りとかどうだ。お前の髪は綺麗だから、何もつけないのはもったいない」
「……」
そう言いながら、頭を撫でていた手で白銀の髪を梳く。触り心地が良くて綺麗な髪だ。瞳の色に合わせて金細工が施されたものも良いな。宝石を散りばめて、腕の良い職人に仕上げてもらうんだ。とびっきり高価なものをあつらえてやりたい。髪飾りだけじゃない、ドレスだってなんだって、欲しいものは全部贈りたい。うんと喜ばせてやりたい。けれど、そんなことさえ少女を取り巻く環境は許さなかった。
俺の言葉に目を丸くする少女は、さっと顔を赤くして俯きながらゆるりと首を振った。
「見つかると、怒られるから……」
その言葉に、胸が締め付けられる。
少し考えれば分かることなのに、本当に俺はバカだ。
「そっか……だよな。悪い、困らせた」
名残惜しそうに髪から手を離し、前髪を手の甲で払って隠れていた顔を見つめる。
――紅く染まる頬を手でなぞると、彼女は戸惑うように俺を見上げ、何かを思い返すように瞼を閉じた。
「……でも、欲しいもの……ひとつだけある」
頬に充てがわれた手に、少女の白い手が重ねられる。
委ねるように、体温を感じ取るように、俺の手に頬ずりする彼女は、ゆるく瞳を開いて願った。
「名前がほしい。ローウェンが呼ぶ、わたしだけの名前」
息が、わずかに乱れる。
「……それは、とても大事なものだ」
物を贈るのとは訳が違う。
少女の頬からすっと手を離す。
彼女は顔を曇らせ、少し残念そうにした。
「うん。欲しいもの、他に思い浮かばなかっただけだから……気にしないで、ロー……」
「っ、!」
最後まで言い切ることができず、少女は息を止めた。
衝動のままに小さくて細い身体を抱きしめる。柔らかくて、温かな身体を腕の中に閉じ込める。
吐き出された呼吸に、俺も同じように切なく息を吐いた。
「いいのか? 俺が、お前の大切な名前を決めちまって……お前の手に残る大事なもの、全部奪って」
「ローウェンは何も奪ってないよ。いつもわたしに、大事なものくれる。だからローウェンに名付けてもらいたいの。わたしの大切な人だから」
「でも、俺は、」
彼女の言葉に胸が張り裂けそうになる。
綺麗で、穢れなんて一切ない無垢な少女に、そんな風に想ってもらえる資格なんてない。だって、俺は――……。
声が震える。
「俺は、汚い」
その告白は、静寂を呼んだ。
早い鼓動の音が、内側から鳴り響く。
愛のない儀式によって産まれ、男児だったがために孤児院に放棄され、産み落とした女からは邪険にされ。
孤児院の仲間たちに救われたくせに彼らを見捨て、汚い身なりでその日の食料を漁り、血を分けた者を妬み、行き倒れて。
大事なものをつくっても、もしまた失ってしまったら。
生まれながらに汚い俺が、綺麗なものを穢してしまったら。
俺は、彼女にそう思われるほどの存在なんかじゃない。
なのに――少女は、みっともなく縋る情けない俺を、優しく抱きしめ返した。
「どうして? ローウェンは汚くないよ」
さも当たり前のことを言うように、少女は言う。
「笑った顔がだいすき。ソラと同じ色の瞳が綺麗で、大きな手は温かい。撫でられると気持ちがいいの。わたしの大好きなひと。いちばんいちばん、大好きなひと」
――なんの躊躇いもなく言い切る少女に、目の奥が熱くなる。
綺麗なのは、お前だ。月の光のように優しく、星の光のように瞬き、太陽の光のように眩しい。
俺は、少女の紡ぐ言葉ひとつひとつに、救われていた。
赦されることで、マシな人間だとさえ思える。彼女は光だった。暗がりに潜む俺を照らす、光のような存在。
「……エレノア」
呟いてから気づく。
それは、人に慈悲を与えた女神の名前だったと。大地を照らし、ソラから舞い降りて使者を遣わし人を救った――人間の歴史を始めさせた神と同じ名。
だがその後に起きたことを考え、思い留まる。
他の名前を考えた方がいいだろうか。悩む俺に、彼女は身を離して俺の顔を至近距離から見つめると、瞳を輝かせた。
「エレノア……わたしの名前?」
「あ……もし気に食わなかったら他の名前を考え――」
ぶんぶんと勢いよく首を振った少女は「エレノア」ともう一度呟くと、ようやく出会えた自身の名前を愛おしそうに抱きしめ笑った。
「うれしい。わたしだけの、名前」
――はじめて見る笑顔があまりに可愛くて、美しくて、心臓がうるさいほどに高鳴る。
「……エレノア」
「はい」
「エレノア」
「はい」
ふふっと小さく笑いながら、くすぐったそうに目を細めていたエレノアの頬に、もう一度手を添える。
「――唇に触れたい。いいか?」
顔を近づけ、強請る。
小さく頷きが返され、じっと互いに見つめ合った後――そうっと唇を重ね合わせた。
柔らかな感触と温もりに、心が満たされる。
「んぅ……」
少し離して、もう一度。
頬にあった手を耳の下まで潜り込ませ、親指で耳たぶを擽る。もう片方の手でエレノアの後頭部を支え、強く唇を押し付けた。
ずっと、ずっとこうしたかった。
触れるだけの口付けが、すごく気持ち良い。
もっと深くまで味わいたい。もっと、ずっとこうしていたい――。
顔を傾け、引き結ばれた唇を舐めてから覆うように吸い付く。
背中に回されたエレノアの手が、縋り付くように服を握りしめてくるのが可愛くて堪らない。
愛おしい気持ちのままに何度も唇を押し当てる。角度が少し違うだけで新鮮な感触を得られ、それにまた没頭する。
「ローウェン、まっ……息が、」
開かれた下唇を挟み込む。
エレノアも俺の上唇を挟み、徐々に互いに深く口を開いては吸い付き合う行為が続いた。
どこもかしこも高い体温の中で、エレノアの耳は冷たく柔らかい。口付けをひたすらに続けながら、指で耳の形を確かめるように触れ、中へと親指を侵入させる。
「んっ……ぅん……」
熱い息と共に漏れる声に、思考が霞む。
俺が、彼女を気持ちよくさせているのだ――そう思うと下腹部に熱が溜まった。
唇の隙間を舌先で舐める。
エレノアも同じように舐めようとしてくれたのだろう。伸ばされた舌が、意図せず俺のものと触れ合い、途端に脳が痺れた。
口を離し目を合わせ、数秒。
どちらからともなく顔を寄せ、舌を合わせる。
濡れた熱い舌で交わすキスは、ひどく官能的で興奮し、夢中にさせた。
エレノアの開いた口を覆って、口内で絡ませる。
蠢き合う2つの舌が卑猥な水音を鳴らし、口の端から唾液が溢れた。
後を追うように舌先で掬い上げ、もう一度舌の愛撫を再開させる。
「ふぁ、ん……」
「は……」
舌の根元から裏筋を舐め、柔らかな先をつつく。
同じように返された後、吸いながら口を離し、再び唇と舌を重ね合う。
耳輪を指で挟み上から下へ柔くなぞれば、エレノアの腰が揺れ動いた。
その反応が可愛くて、耳孔を指先で擦り、挿入する。
「まっ……ん、ぁ……んん……っ!」
エレノアが一際大きい嬌声を上げた直後、唇を離し背中を反らした。
慌てて身体を支える。
脱力し、俺の胸にもたれかかったエレノアの息は乱れ、頬は紅潮し、伏せられた瞳は潤みぼんやりとしていた。
まさか、と考えに行き着き、気恥ずかしさで顔を背ける。
「わ、悪い。やりすぎた……」
「……」
はー、はーと息苦しそうな呼吸音が続く。
エレノアは俺の胸辺りの服をきゅっと掴むと、熱に浮かされた瞳で見上げてきた。濡れた唇にどきりとする。
このまま続きをするか迷う。ものすごく迷う――が、俺は力が入らないままのエレノアを横抱きすると、ベッドへ向かい、寝かせて、寝具を被せた。
散々身体を暴いておいて今更ではあるが、大事にしたかったのだ。あと性に溺れる男と思われるのもいやだった。
「ローウェン……」
裾を掴むエレノアの手を優しく包み、前髪を整えて笑いかける。
「好きだよ、エレノア」
「――っ」
彼女の手に指を絡め、今度は触れるだけの軽い口付けを落とした。
「明日また、会いに来るから」
本当は離れたくない。
だがその気持ちを押し殺して、エレノアを休ませるために立ち上がる。
そして扉の前まで歩き、振り向いて「おやすみ」と声をかければ、恥ずかしそうにシーツで顔半分を隠したエレノアがふわり、と笑った顔を見せてくれた。
「おやすみなさい。ローウェン」
すごく幸せそうに笑うから、つられて頬が緩んでしまう。
そう――それは、今までで一番幸福な時間だった。
***
遠くにいるだろう見張りにバレないよう、こっそりと塔から抜け出す。彼らの死角になる位置はよく知っている。3年前にこっそりと逢っていた日々を懐かしみ、小さく笑んだ。
夜風が火照った身体を冷ますようで、その心地よさに深く息を吐いた。
気持ちが通じ合うというのは、こんなに心躍らせるものなのか――最後に見たエレノアの笑顔を思い返せば、冷めない熱が無限に生まれてきそうだった。また見たい。これからたくさん笑わせてやりたい。
浮かれていた。だから、油断していた。
「っ、!」
不意に背後から敵意を感じ、振り向きざまに剣を取ろうとして『しまった』と気づく。
塔へ送られた際に、聖女の部屋に置いてきてしまったようだ。魔法で牽制しようとすぐ切り替えるが、発動は相手の方が早かった。
地面からしなやかな糸状のものが身体に絡みつき、動きを封じられる。
首が徐々に締まり、苦しげに息を吐き出した。
「どうもはじめまして、僕はシド。聖女の研究、管理を行う一人だ。悪いけど、全部見させてもらったよ」
暗がりから、緑髪の男が姿を現す。
眼鏡越しに見える瞳は陰鬱とし、大きなクマが印象的な男だった。
手に止まる黄赤に染まった小鳥が、紐のようにバラけ、空気中に霧散する。
首を傾げ、ひどく気怠そうな彼は、拘束状態にある俺を忌々しそうに睨むと吐き捨てるように言った。
「――人形に心を与える真似はやめてくれないか」
「な、んだと……?」
「彼女は人形だ。性欲発散……人形遊びぐらいなら見逃すけど、そうじゃないんだろ」
じとり、と嫌な汗が全身に滲む。
緊張が全身を固くさせる。
俺はシドと名乗った男を眼光鋭く睨みつけて言った。
「俺を、あの子をどうするつもりだ」
「……ソレ。教える義理ある?」
眉を顰め、心底愚かしいものを見るような侮蔑の視線が突き刺さる。
無性にその態度が、言動が苛立って仕方ない。身体強化の魔法をかけ糸を引き千切ろうとするも、強靭な糸は俺の拘束を更に強めるだけだった。
「あの子は、エレノアは人形なんかじゃない……! こんな非人道的なことあってたまるか!」
俺の言葉に、シドの目が吊り上がる。
大股で近寄ると、勢いよく腕を振り被り、拳の裏で俺の頬を殴りつけた。
口の中に血の味が広がる。だが臆することなく、怒気を燃やした目を向けた。
胸ぐらを掴まれ、橙色の瞳とぶつかり合う。
「よく言う。その犠牲のおかげで今を生きている癖に! いいか、お前のしたことは多くの人間を殺すことに繋がるんだ! 次代の聖女が完成しなければ、生贄を用いて次に繋げなければいけない……! どれだけの人間を消費するか分かるか!? 1年で100人……『聖女』が完成するまで最短でも15年! お前が何も考えず! たった1人しかいない次代の聖女に心を与えたために! それだけの人間が死ぬんだ!」
「生贄になる人間には同情するくせに、『聖女』の犠牲は良しとすんのかよ!」
「ああそうだ! それが多数を生かすための最善だからだ! 彼女たちの存在意義だからだ!」
「どっちも変わらない人間だろうが! 少数であろうと犠牲がなきゃ成り立たないなんて間違ってる!」
「命は平等とかいう綺麗事が、通用する世界じゃないんだよ!」
「んなクソったれな世界なんざ、さっさと終わらせちまえばいい!」
「お前の身勝手な主張なんざ知るか! 頭の悪い自殺願望は独りで抱えていろ!」
互いに少しの理解も拒絶して、睨み合う。
俺達の間には冷え込んだ空気が流れ、ともすれば殺し合いが始まる雰囲気すら漂っていた。
相手の立場を、思考を、苦悩を慮るほど同情する気も起きない。ひどく絶望的に反りが合わない――そう、彼は俺の敵だ。奴もきっと同じ感想を抱いたことだろう。
「――もういい。連れて行け」
振り払うように胸ぐらから手を離したシドが、端的に告げる。すると背後から騎士が現れ、俺の後頭部を強打した。
抵抗もできず地面に倒れ込み、掠れゆく意識をなんとか保とうとするが、徐々に目の前が暗くなる。
「……エレ、ノア……」
意識が完全に途切れる寸前――俺は、彼女の名を呼んだ。
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