異世界マナー無双 ~マナー違反でマナが奪われる世界。魔法の力でムカつく貴族達をマナー違反させまくって貧乏領地から成り上がる~

座佑紀

文字の大きさ
15 / 43

第15話 - 第六王子

しおりを挟む
「お見事でしたキース様。随分と腕を上げられましたな。私、感動いたしました」
「【この地に隠しているものがあるか】」

 キースは、間髪いれずに、魔法を発動させる。ここは第七領、己の領地だ。【テーブル】が閉じたのなら、何も考えずに魔法を使えばいい。
 だが、その強制質問は再び不発に終わる。キースの体内のマナが、空っぽになっていたのだ。

 ――【テーブル】が閉じたとき、僕のマナは「0」で、クロシェは「1」だった。
 己のマナがクロシェに移動したのだ。しばらくは、自身のマナは空っぽのままだろう。

 カールはこれを狙っていたのだ。【テーブル】で負けることなどどうでもよく、とにかくキースのマナを「0」にするのが、彼の勝利条件だったのだ。
 強制質問など使わなくとも、ここには秘密があると雄弁に物語るに等しい行為なのに。

「あまりにも愚かだ。カール、どうなるかわかってるのか」
「カール様」

 キースが詰るのを、クロシェが割って入り、止める。彼女は、固く目を閉じ、受け入れがたい現実と戦いながら、小さな唇から必死に言葉を吐き出していく。

「一つだけ、お聞かせください」
「……なんでしょうか、暗黒姫」

 あんなにも朗らかな忠臣だった男は、いとも簡単に、彼女の蔑称を口に出す。そんな彼に対し、クロシェは、真摯に向き合うばかりだった。

「貴方に、我々への叛意があることを、許しましょう」
「……ほう」

 飛び出したのは、そんな予想外の、許しの言葉であった。目を丸くするカールに向き合ったまま、彼女は語る。

「隠し事があることも許しましょう、マナーバトルを仕掛けたことも許します、私を、暗黒姫と呼んだことも、許します。――それらの行動が、本当に、貴方のマナーに従ったが故のことであるのならば」

 クロシェは、双眸から精一杯貯め込んだ涙が溢れないように必死にこらえながら、必死に語り続ける。

「私は今でも、カール様を信じております。貴方が最善と考える道が、第六領へ与することならば、私はそれを支持いたします。……だから私たちは、ここに眠るものが、貴方のマナーに沿うものなのかを、確かる必要があります」
「確かめる……? ははは! 仮に、ですが、隠し物があるとして、私がそれを全力で隠すなら……貴方たちには、なにも、見つけることなどできませんよ」
「いいえ、そんなことはありません」

 震える声は、そのときだけ、心地いいくらいに、言い切るのであった。

「真実は必ず、姿を見せます」
「……不愉快な方だ」

 そう呟くと、カールは、傍の扉を静かに開いた。

「ここで管を巻いても、何も出やしませんよ。どちらにせよ、本日はお帰りいただいたほうがよいかと愚考しますが」

 その不遜な物言いに、キースが、敵意を隠そうともしなくなったカールを睨んだ。

「覚悟しておくんだな、カール」
「ほう? なにを、ですかな」
「彼女を暗黒姫などと呼んだこと、を、だ」
「……ははは、おお、怖いものですね」

 そう言うと、その貴族は、恭しく一礼をした。
 険しい顔のまま、二人はその傍を通り過ぎ、無言のまま廊下を歩いた。そして、クライン家のエントランスホールまで出る。
 その時、強烈な視線を、キースは感じた。
 上階から、睨まれている。仰ぎ見ると――一人の少年が、王子を見下ろしていた。
 上等な服を着て、艶やかな茶髪は美しく整えられている。その下の顔に付いている、目、鼻、口は、どことなく、カールの面影に似ていて。
 ――あれが、ルイス、か?
 カールの一人息子、そして、キースの悪友、だという話だ。
 なのに、なんだ、あれは、あの目に籠った、強烈な殺意は!
 キースがなにか声を掛けようとした瞬間に、ルイスは振り返り、何処かへ消えてしまった。
 二人はしばらくその場に立ち尽くし、混乱する頭を宥めていた。
 あれほどの好漢が、なにかを隠していて、それを守ために手段を選ばなかった。そして、親友であるはずの少年も、敵意を抱いている。
 ここには何が眠っている、それは、領地交換にどう関わってくる?
 無論、この場で結論が出るはずもない。

「……行こうか」

 ようやく絞りだしたキースの答えに、クロシェは頷き、彼らは外へ出た。
 今はひとまず、話を整理する時間が必要だ。急ぎ、王子邸へ帰るしかない。

 風が吹いていた。クライン家自慢の薬草たちは、空の下、葉を擦り合わせ、気ままな合唱を奏でている。

「【テーブル】の強制発動……あんなとんでもない魔術具は、相当な立場の者のみが、保有するものです」
「つまり、クライン家の背後には、誰かが付いている、と?」
「……考えられるのは、一人しかいません。それが、ここの秘密にどう関わってくるのかはわかりませんが、おそらくは――」

 風が吹く。海鳴りのように、草がざわめく。そして、彼らが正面を向いたとき、いつの間にかそこには、人影があった。

「――よォ、なにやってんだよ……キーーーース? ひゃははははは」

 長い黒髪に、病んだように黒い隈を刻んだ両目、痩せた体躯から発せられるのは、底知れぬ悪意が籠った挨拶だった。

「相変わらずグズだなァおい? 俺様にまだ挨拶がねえぞ? あァ?」

 そいつは、あまりにも不遜で、下卑た笑みを浮かべながら、こちらに寄ってきていた。
 だが申し訳ないことに、キースは彼が誰だかわからない。クロシェに助けを求めようと視線をやると――。
 明らかに、おかしかった。
 目を見開き、はっはっ、と荒い呼吸を繰り返し、顔色はみるみるうちに蒼白に染まっていく。

「クロシェ」

 呼びかけ肩を揺するが、彼女は兄に返事をしない。代わりに、譫言のようにつぶやいたのは。

「ミ、ゼル……」

 ある男の名前だった。そしてキースは正面を向く。呼気を荒くしている少女を眺め、実に心地よさそうに口の端を歪めている。
 その名は、昨日、突貫でたたき込まれた知識の中にあった。
 目の前の悪性の塊のような男の名。躊躇なく弱者を踏みつけられる破綻者。
 彼こそはミゼル・ユークリッド。件の領地交換を持ち掛けた本人――第六王子その人である。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...