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第39話 - 最果の戦場 星を堕とす
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【星剣】が輝く。刀身全体が強く輝き、魔力の奔流が溢れる。
アルスはその魔力で光る剣を振るう。すると【星剣】の刃から、波濤のような高出力のエネルギーが撃ち出された。
辺りが昼間かのように照らし出される。全てを焼き尽くすかのような圧倒的な凄まじ熱量の光の束がレウにぶつかる。
最早それは斬撃ではない。高出力の大量破壊兵器だ。
これが妖精武器【星剣】の力であった。込められた魔力を、高出力のエネルギーに変換し、撃ち出す。
まともに食らって耐えられる者などいないだろう。大地すら荒廃させる最強の剣の攻撃は、しかし、唯一、打ち破れる者が存在する。
斬撃の光が収まった後。黒焦げの死体と化しているはずのレウの健在な姿が、そこにあった。
彼は、剣を振り下ろした格好のまま、アルスを睨みつけている。
「魔崩剣、か」
アルスが呟く。
魔力の斬撃は、すなわち単純な魔法の攻撃である。
彼の魔崩剣であれば、斬り裂けるのだ。己に迫る光のエネルギーのみを斬り、激突を避けた。
とはいえ、発生した熱量全てを無効にできるわけではない。
大地が溶けるような高温に変化しているが、そんなものは意に介さず、レウはアルスに向かって駆ける。
それを受ける金髪の男は、再び【星剣】に魔力を回し、上段に構えた。
「無駄だ。その曲芸がどこまで続くか、見てやる」
先ほどよりも、光が強く増す。大剣の刀身から立ち昇る光の奔流が、天を衝くように高く立ち昇った。
そして迫り来る少年に向かって、光の柱のようにそり経つ魔力のエネルギーを、無慈悲に振り落とした。
先ほどよりも明らかに強いエネルギーがレウを襲う。
頭上から振り落とされる光芒の、それらを構成する妖精文字を精密に観察し、レウは真横に剣を振り抜いた。
彼の頭すぐ上の光が断ち切られる。しかし、全ての光を斬ったわけではない。レウに断ち切られる直前までの、剣から伸びる光の束は、そのまま地面に激突した。
大地が燃える。大地が割かれる。大地が悲鳴を上げるように、土砂が舞う。
レウとアルスの間は、赤熱した溶岩のような大地に変貌した。
これこそが、ここを最果に追いやった要因。圧倒的なエネルギーは、全てを焼きし、不毛にしてしまう。
レウがアルスに攻撃するには、近付かなくてはならない。しかし、そのためには赤熱した地面を踏みしめる必要がある。
二の足を踏まざるを得ないだろう。その躊躇いの瞬間が、敗北が決定する時でもある。
アルスは間断無く【星剣】に魔力を回す。猛然と唸りを上げ、伝説の剣は光を迸らせる。
これで詰みだと、アルスが剣を大きく振りかぶる。
しかし、予想外のことが起きた。レウが、一切の躊躇なく、灼熱の大地を駆けたのだ。
防御魔法などが発動しているわけではない。そもそも魔法を使えない。妖精武器を装備しているわけでもない。
ただのそのへんの、くたびれた靴で、足を焼きながら、一直線に駆けてる、
アルスが言う通り、レウは全てが無価値であるという虚無の理論に、水平の悟りを見出している。然らば、己の命も無価値でしかなく、死など恐れるべきものではない。
であるならば、足が焼けるくらいが、なんであろうか。
その距離を一瞬で駆けた。
アルスは大きく振りかぶったが故に、予想外の突撃に反応しきれない。
レウは剣を低く構え、眼前に敵の姿を捉えると。
鋭く空を裂く音と共に、剣を振り薙いだ。
その刃は過たず、アルスの首に当たっている。
そう。刃は、当たっているのだ。アルスの首に、見事に命中しているが。
彼の皮膚の表面で、静止している。鉄の刃が、首一つ斬れず、止まっているのだ。
剣を握るレウは、実感として、それを理解した。
「見事だ。しかし、無駄だった」
アルスの握る【星剣】が激しく輝き、込められた魔力を、その場で爆発させた。
自身ごと巻き込む範囲攻撃。察知したレウは、魔力の爆発に巻き込まれまいと、咄嗟に後方に飛びのいた。
爆煙で周囲は曇るが、すぐさま晴れる。
そこには、一切の傷を負っていない、アルスの姿があった。
金髪の男は、こきこきと首を左右に傾ける。
ダイオンのような防御魔法を纏っているわけでもない。
エルセイドのような鎧を装着しているわけでもない。そもそもアルスは、普段着のような緩い恰好をしている。
しかし、一連の行動でのダメージは、一切無い。
「【同化魔法】……」
「なんだ、知ってるんだ」
レウの呟きを、アルスは肯定した。
「そう。【翠碧の翅族】が【同化魔法】。その最大規模の同化を、ボクは完成させている。【星の世界】。それが魔法の名前だ」
――【同化魔法】とは。術者と特定の物質を同化させる魔法だ。岩と同化させれば、岩と同様の硬さを得る。水と同化させれば、水と同じく不定形の生きる液体として活動できる。そんな代物だ。
その最大規模の同化を、アルスは完成させていると言った。
レウは、ハーヴィスの言葉を思い出す。
――あいつはな。その中でも最高峰だ。【星の世界】で、奴はこの星そのものと同化をしている。つまりな、あいつと戦うってことは、この星と戦うってことと変わりない。
アルスの首に刃を当てた時。感じたのは、広大な大地に、木の棒で落書きをしているかのような感触であった。
どれだけこのちっぽけな剣を振り回そうが、星には極小の落書きが刻まれるくらいの変化しかない。ダメージを与えられるはずがないのだ。
アルスは、この星と同じ体力、同じ防御力、同じ魔力を保有している。
正しくは、星からこれらのステータスを流し込まれているのだ。
つまり、彼を殺そうとするのであれば、星を斬るような力が必要となる。
アルスは、星そのものである。
星を倒せうるのは同じ星のみ。なのでアルスは《星崩し》と呼ばれている。
「絶望だ。ボクと戦った奴は、皆そんな目をする。君が、ボクに勝てる道理はないよ――」
「どんな目をしてるって? お星さま」
アルスが再び【星剣】に魔力を込めようとしたとき、異変に気付いた。
ほんの僅かな差異だが、先ほどよりも、込められる魔力が少なくなっていることに気付いたのだ。
驚くアルスが、先ほど斬られた首に手をやる。傷一つついていないが、何かがおかしい。
その様子を見て、レウはにやりと笑った。
彼は全身が星そのものである。そんな最大規模の同化を果たすには、精密で膨大な妖精文字が必要である。
つまり、アルスの全身には、星と契約するための無数の条文が刻み込まれているような状態なのだ。
その一つが、削り除かれている。
――星を砕く力なんざ、普通の人間には持てねえ。アルスにダメージを与えられる人間は、この世に何人いるだろうな。……だが、レウ。お前の魔崩剣は、違う。
「お前……まさか。狂ってるぞ。そんなの」
「はっ。今更かよ《星崩し》。僕ァ、これが平常運転だ」
――お前の刃なら、アルスの契約を削ることができる。一太刀につき一つずつだろうが。斬りつければ斬りつけるほど、あいつは唯の人間に戻っていくだろうよ。
これが、レウが取るべき作戦であった。否。作戦と呼ぶのも烏滸がましい、狂った突撃だ。
アルスの魔法を全て剥がすまで、特攻を続ける。
ギルド最強の剣士を目の前にして、それをすることを決めたのだ。
レウの目は、獲物を前に興奮する肉食獣のように光っている。
アルスは初めて、恐ろしい、と思った。
細い勝ち筋を、狂気の覚悟で手繰り寄せる、死を恐れぬ者の底知れなさに。
レウは、目の前に立つ星を堕とすため、再び駆け出した。
アルスはその魔力で光る剣を振るう。すると【星剣】の刃から、波濤のような高出力のエネルギーが撃ち出された。
辺りが昼間かのように照らし出される。全てを焼き尽くすかのような圧倒的な凄まじ熱量の光の束がレウにぶつかる。
最早それは斬撃ではない。高出力の大量破壊兵器だ。
これが妖精武器【星剣】の力であった。込められた魔力を、高出力のエネルギーに変換し、撃ち出す。
まともに食らって耐えられる者などいないだろう。大地すら荒廃させる最強の剣の攻撃は、しかし、唯一、打ち破れる者が存在する。
斬撃の光が収まった後。黒焦げの死体と化しているはずのレウの健在な姿が、そこにあった。
彼は、剣を振り下ろした格好のまま、アルスを睨みつけている。
「魔崩剣、か」
アルスが呟く。
魔力の斬撃は、すなわち単純な魔法の攻撃である。
彼の魔崩剣であれば、斬り裂けるのだ。己に迫る光のエネルギーのみを斬り、激突を避けた。
とはいえ、発生した熱量全てを無効にできるわけではない。
大地が溶けるような高温に変化しているが、そんなものは意に介さず、レウはアルスに向かって駆ける。
それを受ける金髪の男は、再び【星剣】に魔力を回し、上段に構えた。
「無駄だ。その曲芸がどこまで続くか、見てやる」
先ほどよりも、光が強く増す。大剣の刀身から立ち昇る光の奔流が、天を衝くように高く立ち昇った。
そして迫り来る少年に向かって、光の柱のようにそり経つ魔力のエネルギーを、無慈悲に振り落とした。
先ほどよりも明らかに強いエネルギーがレウを襲う。
頭上から振り落とされる光芒の、それらを構成する妖精文字を精密に観察し、レウは真横に剣を振り抜いた。
彼の頭すぐ上の光が断ち切られる。しかし、全ての光を斬ったわけではない。レウに断ち切られる直前までの、剣から伸びる光の束は、そのまま地面に激突した。
大地が燃える。大地が割かれる。大地が悲鳴を上げるように、土砂が舞う。
レウとアルスの間は、赤熱した溶岩のような大地に変貌した。
これこそが、ここを最果に追いやった要因。圧倒的なエネルギーは、全てを焼きし、不毛にしてしまう。
レウがアルスに攻撃するには、近付かなくてはならない。しかし、そのためには赤熱した地面を踏みしめる必要がある。
二の足を踏まざるを得ないだろう。その躊躇いの瞬間が、敗北が決定する時でもある。
アルスは間断無く【星剣】に魔力を回す。猛然と唸りを上げ、伝説の剣は光を迸らせる。
これで詰みだと、アルスが剣を大きく振りかぶる。
しかし、予想外のことが起きた。レウが、一切の躊躇なく、灼熱の大地を駆けたのだ。
防御魔法などが発動しているわけではない。そもそも魔法を使えない。妖精武器を装備しているわけでもない。
ただのそのへんの、くたびれた靴で、足を焼きながら、一直線に駆けてる、
アルスが言う通り、レウは全てが無価値であるという虚無の理論に、水平の悟りを見出している。然らば、己の命も無価値でしかなく、死など恐れるべきものではない。
であるならば、足が焼けるくらいが、なんであろうか。
その距離を一瞬で駆けた。
アルスは大きく振りかぶったが故に、予想外の突撃に反応しきれない。
レウは剣を低く構え、眼前に敵の姿を捉えると。
鋭く空を裂く音と共に、剣を振り薙いだ。
その刃は過たず、アルスの首に当たっている。
そう。刃は、当たっているのだ。アルスの首に、見事に命中しているが。
彼の皮膚の表面で、静止している。鉄の刃が、首一つ斬れず、止まっているのだ。
剣を握るレウは、実感として、それを理解した。
「見事だ。しかし、無駄だった」
アルスの握る【星剣】が激しく輝き、込められた魔力を、その場で爆発させた。
自身ごと巻き込む範囲攻撃。察知したレウは、魔力の爆発に巻き込まれまいと、咄嗟に後方に飛びのいた。
爆煙で周囲は曇るが、すぐさま晴れる。
そこには、一切の傷を負っていない、アルスの姿があった。
金髪の男は、こきこきと首を左右に傾ける。
ダイオンのような防御魔法を纏っているわけでもない。
エルセイドのような鎧を装着しているわけでもない。そもそもアルスは、普段着のような緩い恰好をしている。
しかし、一連の行動でのダメージは、一切無い。
「【同化魔法】……」
「なんだ、知ってるんだ」
レウの呟きを、アルスは肯定した。
「そう。【翠碧の翅族】が【同化魔法】。その最大規模の同化を、ボクは完成させている。【星の世界】。それが魔法の名前だ」
――【同化魔法】とは。術者と特定の物質を同化させる魔法だ。岩と同化させれば、岩と同様の硬さを得る。水と同化させれば、水と同じく不定形の生きる液体として活動できる。そんな代物だ。
その最大規模の同化を、アルスは完成させていると言った。
レウは、ハーヴィスの言葉を思い出す。
――あいつはな。その中でも最高峰だ。【星の世界】で、奴はこの星そのものと同化をしている。つまりな、あいつと戦うってことは、この星と戦うってことと変わりない。
アルスの首に刃を当てた時。感じたのは、広大な大地に、木の棒で落書きをしているかのような感触であった。
どれだけこのちっぽけな剣を振り回そうが、星には極小の落書きが刻まれるくらいの変化しかない。ダメージを与えられるはずがないのだ。
アルスは、この星と同じ体力、同じ防御力、同じ魔力を保有している。
正しくは、星からこれらのステータスを流し込まれているのだ。
つまり、彼を殺そうとするのであれば、星を斬るような力が必要となる。
アルスは、星そのものである。
星を倒せうるのは同じ星のみ。なのでアルスは《星崩し》と呼ばれている。
「絶望だ。ボクと戦った奴は、皆そんな目をする。君が、ボクに勝てる道理はないよ――」
「どんな目をしてるって? お星さま」
アルスが再び【星剣】に魔力を込めようとしたとき、異変に気付いた。
ほんの僅かな差異だが、先ほどよりも、込められる魔力が少なくなっていることに気付いたのだ。
驚くアルスが、先ほど斬られた首に手をやる。傷一つついていないが、何かがおかしい。
その様子を見て、レウはにやりと笑った。
彼は全身が星そのものである。そんな最大規模の同化を果たすには、精密で膨大な妖精文字が必要である。
つまり、アルスの全身には、星と契約するための無数の条文が刻み込まれているような状態なのだ。
その一つが、削り除かれている。
――星を砕く力なんざ、普通の人間には持てねえ。アルスにダメージを与えられる人間は、この世に何人いるだろうな。……だが、レウ。お前の魔崩剣は、違う。
「お前……まさか。狂ってるぞ。そんなの」
「はっ。今更かよ《星崩し》。僕ァ、これが平常運転だ」
――お前の刃なら、アルスの契約を削ることができる。一太刀につき一つずつだろうが。斬りつければ斬りつけるほど、あいつは唯の人間に戻っていくだろうよ。
これが、レウが取るべき作戦であった。否。作戦と呼ぶのも烏滸がましい、狂った突撃だ。
アルスの魔法を全て剥がすまで、特攻を続ける。
ギルド最強の剣士を目の前にして、それをすることを決めたのだ。
レウの目は、獲物を前に興奮する肉食獣のように光っている。
アルスは初めて、恐ろしい、と思った。
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