3 / 63
私の結婚相手?
しおりを挟む
「け、結婚っ? 私たちが?」
お祖父様は一体何を言ってるんだろう? まさか、ボケちゃったんじゃ……。
私がお祖父様の健康を心配し始めた時、猛従兄さんが口を開いた。
「あの、お祖父様がそんな事を仰るのは……この間の事件のせいですか?」
じ、事件!?
「そうだ。猛は察しが良くて助かる」
ニコニコとお祖父様が頷いている。私だけが置いてけぼり。
「事件ってなんですか? 私にも教えてください!」
ムッとしながら口を挟むと、お祖父様はきちんと答えてくださった。
“この間の事件”というのは、なんと特殊詐欺事件の事だった。私の知らないうちに、お祖父様はひと月前、詐欺グループの被害に遭っていたのだ。
猛従兄さんが会社のお金が入った鞄を新幹線の中に忘れてしまったから、代わりのお金を至急用意してほしい。お金は後できちんと返す。
猛従兄さんの上司を名乗った犯人は電話でそう告げて、近所の公園までお祖父様を呼び出した。そうしてお祖父様が銀行から下ろしたお金を、まんまと受け取って去って行ったのだという。
猛従兄さんを可愛がっているお祖父様は、まったく疑う事なく詐欺師の罠に嵌まってしまったのだ。その次の日まで猛従兄さんは出張中だったから、本当にタイミングが悪かった。
しかも事件が起きた時、伯父様や伯母様は運悪く不在だった。伯父様たちが家にいる時だったら、起きなかったかもしれない事件。お祖父様が相手の言を少しでも疑っていれば、起きなかったかもしれない事件。でも一番の原因は、詐欺なんかやる悪人たちの存在だ。
事件発覚後、お祖父様は大層落ち込んで、「恥ずかしいから誰にも話すな」と家族全員に箝口令を敷いたのだという。だから私も、お母さんも知らなかった。
「それ以来お祖父様は、家族以外の人間に対して不信感を抱くようになってしまってな」
猛従兄さんが困ったように言った。
「じゃあ私もお母さんも、お祖父様に信用されていないんですか?」
私が心配しながら訊ねると、お祖父様は「お前とお前の母さんは別だ。特にお前は、私の可愛い孫の一人だからな」と言ってくださった。
「でも、事件の事は教えて頂けませんでした」
「それは許せ。詐欺師にまんまと騙されたなどと、恥ずかしくて話したくなかったんだ。話していると、憎しみが蘇るしな」
そう言いながら、お祖父様は苦虫を噛み潰したような顔をした。今でも悔しさでいっぱいなのが伝わってきて、私はお祖父様の事を気の毒に感じた。
「お祖父様、元気を出してください」
「優しいな、椿は。秋雄にそっくりだ」
秋雄というのは、昨年亡くなった私のお父さんの事だ。
心不全で亡くなった、私のお父さん。お母さんと私を残して、突然この世からいなくなってしまった。
それ以来、私はお母さんと二人だけで暮らしている。お金持ちのお祖父様が心配して支援してくださった事もあったけど、お母さんは出来る限り自力で私を育ててくれている。
「あの、事件の事は分かりました。でもそれと、先ほどの……結婚のお話が結びつかないのですが」
私が正直に疑問を口にすると、お祖父様の代わりに猛従兄さんが答えてくれた。
「要するに、事件のせいで人間不信になったお祖父様は、俺が将来結婚する相手が親類でなければ嫌だと思っておられる訳だ」
「親類、ではない。椿でなければ私は認めん」
ええええええ。選択肢なし!?
「そんな、横暴です!」
私は叫んだ。でもお祖父様は、「もう決めた。もう変えん」の一点張りだ。そう、お祖父様はとても頑固なのだ。一度決めたらテコでも動かないのだ。
たしかに事件の事は可哀想だけど、でもでも、こんなのちょっと酷すぎる。
「でもっ! 猛従兄さんだって、結婚相手はご自分で選びたいはずです! ね、従兄さん?」
私は拳を握りしめながら、隣にいる猛従兄さんに訊ねた。もちろん、同意してくれる前提でだ。でも、猛従兄さんはこう言った。
「俺は別に構わないが」
「ねっ? 猛従兄さんだって嫌がって……って、え?」
えええええええ!?
お祖父様は一体何を言ってるんだろう? まさか、ボケちゃったんじゃ……。
私がお祖父様の健康を心配し始めた時、猛従兄さんが口を開いた。
「あの、お祖父様がそんな事を仰るのは……この間の事件のせいですか?」
じ、事件!?
「そうだ。猛は察しが良くて助かる」
ニコニコとお祖父様が頷いている。私だけが置いてけぼり。
「事件ってなんですか? 私にも教えてください!」
ムッとしながら口を挟むと、お祖父様はきちんと答えてくださった。
“この間の事件”というのは、なんと特殊詐欺事件の事だった。私の知らないうちに、お祖父様はひと月前、詐欺グループの被害に遭っていたのだ。
猛従兄さんが会社のお金が入った鞄を新幹線の中に忘れてしまったから、代わりのお金を至急用意してほしい。お金は後できちんと返す。
猛従兄さんの上司を名乗った犯人は電話でそう告げて、近所の公園までお祖父様を呼び出した。そうしてお祖父様が銀行から下ろしたお金を、まんまと受け取って去って行ったのだという。
猛従兄さんを可愛がっているお祖父様は、まったく疑う事なく詐欺師の罠に嵌まってしまったのだ。その次の日まで猛従兄さんは出張中だったから、本当にタイミングが悪かった。
しかも事件が起きた時、伯父様や伯母様は運悪く不在だった。伯父様たちが家にいる時だったら、起きなかったかもしれない事件。お祖父様が相手の言を少しでも疑っていれば、起きなかったかもしれない事件。でも一番の原因は、詐欺なんかやる悪人たちの存在だ。
事件発覚後、お祖父様は大層落ち込んで、「恥ずかしいから誰にも話すな」と家族全員に箝口令を敷いたのだという。だから私も、お母さんも知らなかった。
「それ以来お祖父様は、家族以外の人間に対して不信感を抱くようになってしまってな」
猛従兄さんが困ったように言った。
「じゃあ私もお母さんも、お祖父様に信用されていないんですか?」
私が心配しながら訊ねると、お祖父様は「お前とお前の母さんは別だ。特にお前は、私の可愛い孫の一人だからな」と言ってくださった。
「でも、事件の事は教えて頂けませんでした」
「それは許せ。詐欺師にまんまと騙されたなどと、恥ずかしくて話したくなかったんだ。話していると、憎しみが蘇るしな」
そう言いながら、お祖父様は苦虫を噛み潰したような顔をした。今でも悔しさでいっぱいなのが伝わってきて、私はお祖父様の事を気の毒に感じた。
「お祖父様、元気を出してください」
「優しいな、椿は。秋雄にそっくりだ」
秋雄というのは、昨年亡くなった私のお父さんの事だ。
心不全で亡くなった、私のお父さん。お母さんと私を残して、突然この世からいなくなってしまった。
それ以来、私はお母さんと二人だけで暮らしている。お金持ちのお祖父様が心配して支援してくださった事もあったけど、お母さんは出来る限り自力で私を育ててくれている。
「あの、事件の事は分かりました。でもそれと、先ほどの……結婚のお話が結びつかないのですが」
私が正直に疑問を口にすると、お祖父様の代わりに猛従兄さんが答えてくれた。
「要するに、事件のせいで人間不信になったお祖父様は、俺が将来結婚する相手が親類でなければ嫌だと思っておられる訳だ」
「親類、ではない。椿でなければ私は認めん」
ええええええ。選択肢なし!?
「そんな、横暴です!」
私は叫んだ。でもお祖父様は、「もう決めた。もう変えん」の一点張りだ。そう、お祖父様はとても頑固なのだ。一度決めたらテコでも動かないのだ。
たしかに事件の事は可哀想だけど、でもでも、こんなのちょっと酷すぎる。
「でもっ! 猛従兄さんだって、結婚相手はご自分で選びたいはずです! ね、従兄さん?」
私は拳を握りしめながら、隣にいる猛従兄さんに訊ねた。もちろん、同意してくれる前提でだ。でも、猛従兄さんはこう言った。
「俺は別に構わないが」
「ねっ? 猛従兄さんだって嫌がって……って、え?」
えええええええ!?
0
あなたにおすすめの小説
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる