想紅(おもいくれない)

笹椰かな

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川面の落ち葉

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 少しも想像していなかったことを言われた。しかも、嬉しそうに。


 学生時代の従兄にいさんは、猛禽もうきん類みたいな鋭い目つきのせいで、大抵の女子から怖がられていたようだ。女子のみならず、男子からも時々、腫れ物に触るような態度を取られていたらしかった。
 年が離れているせいで、私はそういう場面を実際に見たことはほとんどなかったけれど、伯父様たちがそんな話をしていたことが時々あったっけ。

 怖がられていたのは目つきの悪さに加えて、あんまり積極的にしゃべる方じゃないし、表情があまり変わらないせいもあったのだろう。
 けど、それだけだ。怖そうに見えるだけ。
 だから私は、幼心に『もったいない』と思っていた。だって、従兄さんは怖い人なんかじゃない。優しいもの。

 私が本家に遊びに行くと、いつも一緒に遊んでくれた。見守っていてくれた。
 私は女子だし、年だってかなり離れているのに。面倒くさいとかウザいとか、そんな言葉や態度を示された記憶はない。
 当時はそれを当たり前だと、普通だと思っていたけれど、十五歳となった今なら、そんな男子は貴重な存在なのだとよく分かる。

 だからこそ、従兄さんが寂しい――もしくは悲しい――気持ちを抱いていたことを今更知って、少しショックを受けた。
 従兄さんはいつも毅然としていて、つらさを口に出したことなんかなかったから。

 当時のまだ少年と呼べる年齢だった頃の従兄さんが、他の人の視線や態度を気にしていると分かっていたら、幼かった私は全力で慰めていたに違いない。
『私は従兄さんを怖いと思ったことなんてないよ!』
 そう言って、折り紙で作ったチューリップでも渡していたかもしれない。……というか、渡したかったな。
 でも、もう遅いのだ。時間はとっくに過ぎてしまったのだから。


「私、従兄さんがそんなことを思ってたなんて、全然気付かなかった」
 己のふがいなさに肩を落とすと、従兄さんが苦笑を漏らした。
「失望したか?」
「違うよ! 昔の私が気付けていたら……その……慰めてあげられたのにって思って。幼い従妹から慰められても、あんまり意味はなかっただろうけど」
 無理やり笑みを浮かべながら自嘲ぎみに話すと、従兄さんはしんと黙ってしまった。
「その通りだ」って呆れられたのかな? そう思った矢先に、従兄さんがまた苦笑した。
「お前は……いつもそうだな。元気のないヤツが側にいると、自分には何ができるのかと真っ先に考える」
「え? そんなこと、ないと思うけど。私、そんなに良い人じゃないよ」
「そうなのか?」
 私はそんな立派な――漫画の主人公のような善人じゃないよ。
 そんな思いから力強く「そうだよ!」と答えると、従兄さんは声を上げて笑った。珍しい。
 思わず、うぐいすの鳴き声を聞いた時のように耳を傾けてしまった。

「そんなに必死になって言うことじゃないだろう。それにな、俺は感心してるんだ」
「感心?」
「椿はまだ十四……いや、もう今日で十五歳だったな。その年齢で他人ひとを思いやれるなんて、お前はやっぱりしっかりしている」
「私、しっかりなんてしてないよ」

 はっきりと即答した。だって本当にしっかりしていたら、周りに流されるように従兄さんと付き合ったりしていなかったはずだからだ。それを後悔したことはないけれど……。

 でも、私がもっと自分の意志をはっきり持っている子だったら、大人のように将来を見据えて物事を選択していただろうことは明白だ。
 そう思うと、今の自分のことを少し恥ずかしく感じた。周囲の大人たちの意見や気持ちに動かされてばかりだなんて、川を流れる落ち葉のようなものだ。
「だって私、他人に流されてばっかりだもん。従兄さんと付き合い始めたきっかけだって、そんな感じだし」
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