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第一章 亡霊、大地に立つ
第八話 VSデスワーム #1
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ずるずる……。
雨音とは異なる、どこか水気を感じさせる音を立てて、赤鶏冠を呑み込み終えた巨大な腸は、どろりとした粘液を滴らせながら、プルプルと小刻みに震えている。
崖の半ばあたりの壁面を突き破って垂れ下がる、余りにも巨大な肉色の蚯蚓。
直径は一メートル余り、長さに至っては岩山の中にどれだけ残っているのか想像もつかないが、見える範囲だけでも三十メートルを優に越えている。
眼は見当たらない。
見当たらないどころか、顔そのものがない。
何を考えているのかを、推測できる要素は何も無い。
そんな訳の分からない化け物が、鋭い牙のびっしりと生えた巨大な口。口というか穴? それを開いたり閉じたりしながら、頭上でふらふらと揺れているのだから、ミーシャが今にも卒倒しそうな顔で硬直していたとしても、無理からぬ事である。
一方のレイはというと、彼女を救いに行きたいのは山々なのだが、唐突に現れたこの巨大な蚯蚓が、この後どんな行動を取るのか想像もつかなければ、迂闊に動く訳にはいかない。
せいぜい音を立てないように、じりじりと彼女の方へとにじり寄るのが精一杯であった。
そんな余りにもイヤすぎる緊張感の中、当の化け物は、二人のことなどまるで気に留める様子も無く、唐突に動き始める。
後ろから引っ張られる様にズルズルッ! と、崖の中へとひっこんだかと思うと、一呼吸の後、逃走していくゴブリンの群れの方が、俄かに騒がしくなった。
ぎゃああああああ! ぎゃあああああ!
絶叫と表現するしかないような、ゴブリン達の奇声が響き渡る。
降りしきる雨の向こうに眼を凝らせば、渓谷の奥で壁面から垂れ下がったデスワームが鎌首を擡げて、次々にゴブリン達を呑み込んでいくのが見えた。
――ひどいものだ。
レイは我に返ると、ミーシャの方へと駆け寄って、カチンコチンに硬直したままの彼女を助け起こす。
――何なんだ? あの化け物は。
ミーシャは表情を引き攣らせたままレイに縋りついて、フルフルと首を振った。
「デ、デ、デ、デ、デスワーム! あ、あれはダメ! 戦ってどうにか出来るような相手じゃない! 土精霊達が警告してたのは、あいつのことだったのよ!」
――どうする。
「とりあえず逃げる!」
――それから?
「あ、後で考える!」
――考え無しだな。
「う、うるさい! だってヤなんだもん! あのヌメッとして、ぐちゅぐちゅーっていうの、ヤなの! ヤっ!」
よっぽど怖かったのだろう。
恐怖の余り、幼児退行しきった末に、身を捩って、イヤイヤするバカエルフの姿があった。
雨音とは異なる、どこか水気を感じさせる音を立てて、赤鶏冠を呑み込み終えた巨大な腸は、どろりとした粘液を滴らせながら、プルプルと小刻みに震えている。
崖の半ばあたりの壁面を突き破って垂れ下がる、余りにも巨大な肉色の蚯蚓。
直径は一メートル余り、長さに至っては岩山の中にどれだけ残っているのか想像もつかないが、見える範囲だけでも三十メートルを優に越えている。
眼は見当たらない。
見当たらないどころか、顔そのものがない。
何を考えているのかを、推測できる要素は何も無い。
そんな訳の分からない化け物が、鋭い牙のびっしりと生えた巨大な口。口というか穴? それを開いたり閉じたりしながら、頭上でふらふらと揺れているのだから、ミーシャが今にも卒倒しそうな顔で硬直していたとしても、無理からぬ事である。
一方のレイはというと、彼女を救いに行きたいのは山々なのだが、唐突に現れたこの巨大な蚯蚓が、この後どんな行動を取るのか想像もつかなければ、迂闊に動く訳にはいかない。
せいぜい音を立てないように、じりじりと彼女の方へとにじり寄るのが精一杯であった。
そんな余りにもイヤすぎる緊張感の中、当の化け物は、二人のことなどまるで気に留める様子も無く、唐突に動き始める。
後ろから引っ張られる様にズルズルッ! と、崖の中へとひっこんだかと思うと、一呼吸の後、逃走していくゴブリンの群れの方が、俄かに騒がしくなった。
ぎゃああああああ! ぎゃあああああ!
絶叫と表現するしかないような、ゴブリン達の奇声が響き渡る。
降りしきる雨の向こうに眼を凝らせば、渓谷の奥で壁面から垂れ下がったデスワームが鎌首を擡げて、次々にゴブリン達を呑み込んでいくのが見えた。
――ひどいものだ。
レイは我に返ると、ミーシャの方へと駆け寄って、カチンコチンに硬直したままの彼女を助け起こす。
――何なんだ? あの化け物は。
ミーシャは表情を引き攣らせたままレイに縋りついて、フルフルと首を振った。
「デ、デ、デ、デ、デスワーム! あ、あれはダメ! 戦ってどうにか出来るような相手じゃない! 土精霊達が警告してたのは、あいつのことだったのよ!」
――どうする。
「とりあえず逃げる!」
――それから?
「あ、後で考える!」
――考え無しだな。
「う、うるさい! だってヤなんだもん! あのヌメッとして、ぐちゅぐちゅーっていうの、ヤなの! ヤっ!」
よっぽど怖かったのだろう。
恐怖の余り、幼児退行しきった末に、身を捩って、イヤイヤするバカエルフの姿があった。
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