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第二章 亡霊、勇者のフリをする。
第十五話 バックドロップと男女の関係 #3
「い、痛っ……」
目を覚ました途端、ドナは鋭い痛みを覚えて頭を抱えた。
「気づいたようじゃの」
「司祭様……?」
見回せば、ここは礼拝所。
彼女は、その祭壇の前に横たわっていた。
どれぐらい意識を失っていたのだろう。
ステンドグラスの向こうから、夕陽が差し込んで床に赤味がかった影絵を描いている。
ぼんやりとしていた意識が覚醒していくにつれ、ドナは自分の身に何が起ったかを理解しはじめる。
そして彼女は、悔しげに奥歯を噛みしめた。
「も……申し訳ございません。また、ワタクシは……」
「不可抗力じゃ。お主が悪い訳ではない。強いていうなら、悪いのはあのゴブリンじゃの」
「しかし……」
「そのまま寝ておれ。実際、あらためて封印は施したが、誓約を媒介にしたものとは比べるべくもない。じゃが、一度誓約を破ったものは、二度と誓約を媒介にすることはできんからのう、仕方あるまいて」
「お手を……わずらわせて、申し訳ございません」
ドナが再び項垂れると、ソフィーは小さく首を振る。
「かまわん。ところでドナ・バロット。お主、悪霊に支配されている間の記憶は?」
「……ございます」
何から何まで覚えている。
今も、脳裏に焼き付いた遠い記憶。自らが手に掛けた両親の恐怖の色に染まった最後の表情が、ドナを絶え間なく責め立てていた。
「では聞くが、あのゴブリンは本当に勇者じゃと思うか?」
「ワタクシは勇者様と直接の面識はございませんので。何とも……ですが、あの強さはそうとしか……」
「……そうか」
ソフィーは眼を閉じて、考え込む様な素振りを見せる。
窓から差し込む赤い陽光に染められた彼女の横顔には、僅かに逡巡する様な様子が、見え隠れしている。
やがて、ソフィーは押し殺した低い声でドナへと告げた。
「ドナ・バロット。残念ながら、お主をもうこの砦に置いておくことは出来ん。兵士達はトアナベの悪霊の名に怯えて、まともにお主と話すこともできんじゃろうからな」
「はい……」」
「そこでじゃ。お主に一つ、頼みがある」
「頼み……でございますか?」
「お主には、あの耳長どもに同行してもらいたい」
「同行?」
「そうじゃ。お主は耳長と、あのゴブリンの関係をどう見る?」
「どうと言われましても……」
「儂は、あやつらは既に男女の関係にあると見た」
ドナが、思わず目を見開く。
「だ、男女の関係って、ゴブリンですよ!?」
「耳長もゴブリンもどっちも精霊のなれの果て。似たような者じゃろうが」
ミーシャが聞いたらブチギレるであろう科白を吐き捨てて、ソフィーは更に話を続ける。
「お主も見たじゃろう? あやつらは口に出さずとも、互いの思うところを察し合っておる。さながら夫婦のようじゃ」
「確かにそうですけれど……」
「あのゴブリンが勇者だというのであれば、それを耳長なぞに奪われておるこの状況は、由々しきこととは思わぬか?」
「それは……仰る通りです」
ソフィーの言うことは良くわかる。
だが、だからと言って、どうせよというのだ。
無理に引き離そうとすればするほど、勇者は反発するのではないだろうか?
ドナが戸惑いの表情を浮かべると、ソフィーは彼女の耳元へと顔を寄せて囁いた。
「籠絡するのじゃ」
「は?」
ドナは思わず目を見開く。
「幸いにも敵は、少々整った顔立ちをしておるが、ぺったんこじゃからのう。お主の豊満な肉体をもってすれば、さほど難しいことではあるまい」
「いや……あの……ワタクシは、まともに男性とお付き合いをしたことも……」
「心配するな。なにも、あやつに最後まで許せと申して居るわけではない。このまま放っておけば、あやつは我が国を救うことよりも、あの耳長とともに、行くことを選ぶじゃろう」
「勇者様に限ってそんなことは……」
「あるのじゃよ。お主は恋の恐ろしさを知らぬ。恋とは熱病のようなものじゃ。地位も名誉も、その前には芥も同じ。損得も考えずに、愚かと知りながらも、理屈に合わぬ振る舞いをさせる」
そう言って、ソフィーはどこか寂しげに目を伏せた。
「のう、ドナ・バロット。儂に、お主の信仰心を見せてくれぬか」
赤い夕陽に照らされて、祭壇の上に神を示す十字が浮かび上がっている。
ドナは静かに顔をあげると、その十字を見つめたまま、静かに頷いた。
「……わかりました。神の化身である勇者様にお仕えできることこそ、ワタクシの喜びでございます」
この時、二人が気づくことはなかったが、窓の外で聞き耳を立てる者がいた。
子供の様な体躯のそれは、ばさりと翼を広げると夕闇に溶ける様に、ディアボラ山脈の向こうへと飛び去って行った。
目を覚ました途端、ドナは鋭い痛みを覚えて頭を抱えた。
「気づいたようじゃの」
「司祭様……?」
見回せば、ここは礼拝所。
彼女は、その祭壇の前に横たわっていた。
どれぐらい意識を失っていたのだろう。
ステンドグラスの向こうから、夕陽が差し込んで床に赤味がかった影絵を描いている。
ぼんやりとしていた意識が覚醒していくにつれ、ドナは自分の身に何が起ったかを理解しはじめる。
そして彼女は、悔しげに奥歯を噛みしめた。
「も……申し訳ございません。また、ワタクシは……」
「不可抗力じゃ。お主が悪い訳ではない。強いていうなら、悪いのはあのゴブリンじゃの」
「しかし……」
「そのまま寝ておれ。実際、あらためて封印は施したが、誓約を媒介にしたものとは比べるべくもない。じゃが、一度誓約を破ったものは、二度と誓約を媒介にすることはできんからのう、仕方あるまいて」
「お手を……わずらわせて、申し訳ございません」
ドナが再び項垂れると、ソフィーは小さく首を振る。
「かまわん。ところでドナ・バロット。お主、悪霊に支配されている間の記憶は?」
「……ございます」
何から何まで覚えている。
今も、脳裏に焼き付いた遠い記憶。自らが手に掛けた両親の恐怖の色に染まった最後の表情が、ドナを絶え間なく責め立てていた。
「では聞くが、あのゴブリンは本当に勇者じゃと思うか?」
「ワタクシは勇者様と直接の面識はございませんので。何とも……ですが、あの強さはそうとしか……」
「……そうか」
ソフィーは眼を閉じて、考え込む様な素振りを見せる。
窓から差し込む赤い陽光に染められた彼女の横顔には、僅かに逡巡する様な様子が、見え隠れしている。
やがて、ソフィーは押し殺した低い声でドナへと告げた。
「ドナ・バロット。残念ながら、お主をもうこの砦に置いておくことは出来ん。兵士達はトアナベの悪霊の名に怯えて、まともにお主と話すこともできんじゃろうからな」
「はい……」」
「そこでじゃ。お主に一つ、頼みがある」
「頼み……でございますか?」
「お主には、あの耳長どもに同行してもらいたい」
「同行?」
「そうじゃ。お主は耳長と、あのゴブリンの関係をどう見る?」
「どうと言われましても……」
「儂は、あやつらは既に男女の関係にあると見た」
ドナが、思わず目を見開く。
「だ、男女の関係って、ゴブリンですよ!?」
「耳長もゴブリンもどっちも精霊のなれの果て。似たような者じゃろうが」
ミーシャが聞いたらブチギレるであろう科白を吐き捨てて、ソフィーは更に話を続ける。
「お主も見たじゃろう? あやつらは口に出さずとも、互いの思うところを察し合っておる。さながら夫婦のようじゃ」
「確かにそうですけれど……」
「あのゴブリンが勇者だというのであれば、それを耳長なぞに奪われておるこの状況は、由々しきこととは思わぬか?」
「それは……仰る通りです」
ソフィーの言うことは良くわかる。
だが、だからと言って、どうせよというのだ。
無理に引き離そうとすればするほど、勇者は反発するのではないだろうか?
ドナが戸惑いの表情を浮かべると、ソフィーは彼女の耳元へと顔を寄せて囁いた。
「籠絡するのじゃ」
「は?」
ドナは思わず目を見開く。
「幸いにも敵は、少々整った顔立ちをしておるが、ぺったんこじゃからのう。お主の豊満な肉体をもってすれば、さほど難しいことではあるまい」
「いや……あの……ワタクシは、まともに男性とお付き合いをしたことも……」
「心配するな。なにも、あやつに最後まで許せと申して居るわけではない。このまま放っておけば、あやつは我が国を救うことよりも、あの耳長とともに、行くことを選ぶじゃろう」
「勇者様に限ってそんなことは……」
「あるのじゃよ。お主は恋の恐ろしさを知らぬ。恋とは熱病のようなものじゃ。地位も名誉も、その前には芥も同じ。損得も考えずに、愚かと知りながらも、理屈に合わぬ振る舞いをさせる」
そう言って、ソフィーはどこか寂しげに目を伏せた。
「のう、ドナ・バロット。儂に、お主の信仰心を見せてくれぬか」
赤い夕陽に照らされて、祭壇の上に神を示す十字が浮かび上がっている。
ドナは静かに顔をあげると、その十字を見つめたまま、静かに頷いた。
「……わかりました。神の化身である勇者様にお仕えできることこそ、ワタクシの喜びでございます」
この時、二人が気づくことはなかったが、窓の外で聞き耳を立てる者がいた。
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