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第32話 悪夢②
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ボクは、怯えた龍人族の少女の手をそっと握りしめ、静かに彼女を引き起こした。彼女の小さな体は泥と血にまみれ、その目は恐怖に染まっていた。
「ア、アンタ……誰……?」
彼女のかすれた声は、まるで喉の奥に引っかかった石を吐き出すかのように弱々しかった。少女は見たところ、ボクより少し幼い。だが、その身体には数えきれない傷痕が刻まれている。希少な龍人族が目の前にいるという事実が、じわじわとボクの胸に冷たい実感として広がった。彼らは絶滅したとされる一族――それだけで彼女の存在が特別で、価値のあるものだと瞬時に理解した。
ボクは冷徹に彼女の手を乱暴に引き寄せ、近くに落ちていた汚れた布切れを拾い上げ、無造作に彼女の頭に被せた。銀色の髪を隠すようにして。
「誰でもいいよ。ボクについてきたまえ」
ボクの声は、どこか無機質で冷めていた。彼女を助けたいわけではない。ただ、彼女の存在がボクにとって何かしらの利益になる、それだけのことだ。彼女の手を強く握りしめ、足早に街の中心部へ向かって歩き出した。
「ど、どこ行くの……?」
震える少女の声がボクの耳に届く。恐怖が混じったその声には、まだ幼さが残っていた。
「今からキミを売るんだよ」
淡々とした口調で答えたその言葉が、彼女の心にどれほどの衝撃を与えたのか、容易に想像がつく。龍人族の子供――それはこの街では信じられないほどの高値で取引されるだろう。彼女を売れば、ボクの今の惨めな生活も少しはマシになる。食糧や、本、何でも手に入るに違いない。
「えっ!?いや!ヤダ!離して!」
突然、彼女が激しく抵抗し始めた。ボクの手を振りほどき、必死に逃れようとする。薄汚れた布切れを地面に叩きつけ、まるでそこに置いていかれたくないかのように、全速力で走り出した。
「あっ、こら!暴れるな!」
ボクは咄嗟に追いかけようとしたが、彼女は逃げ足が速かった。細く小さな体がゴミの山の間を縫うようにして消え、瞬く間に視界から外れた。
「クソ……逃げ足が早いな……」
だが、街の構造についてはボクの方が詳しい。この腐りきった街の隅々までを知っているボクにとって、彼女の逃げ道は限られている。先回りしてやる――そう考えたボクは、別の道から彼女を追うことにした。
◇
数分後、彼女が走ってくる姿が見えた。こちらの存在に気づいた瞬間、彼女の足が止まる。怯えた瞳がボクを見上げ、全身が小刻みに震えている。
「もう逃げられないぞ」
ボクはじりじりと彼女に近づいた。彼女の恐怖は手に取るように分かる。だが、そんなことは気にしない。ボクには彼女を売ることで得られる利益だけが重要だった。
「な、なんで私を売るの……?」
彼女の声は震え、涙で滲んでいるようだった。
「高く売れそうだからだ」
その言葉に、彼女の顔がますます青ざめる。ボクにとっては当たり前のことだ。価値があるものを売って、必要なものと交換する。それがこの街で生き延びる唯一の方法だ。
「売ってどうするの……?」
「もっといい物と交換してもらう」
「いい物って……?」
「メシとか、本とかだ」
「……本?アンタ本読むの?」
彼女の反応が意外だった。龍人族でありながら、なぜかボクが本を読むことに興味を持っている。
「本は面白いからねぇ……」
それだけ答えて、彼女の様子を伺った。すると、彼女はしばらく沈黙した後、何かを決意したように、震える声で言った。
「……わ、私が本もご飯も取ってきてあげるから……。だから、売るのはやめて」
その言葉に、ボクは一瞬、考え込んだ。確かに、龍人族は希少で高価だが、今すぐ売るのは少しもったいないかもしれない。彼女がボクに何かしらの利益をもたらすなら、それもまた一つの手だ。
「……逃げないな?」
ボクがそう問いかけると、彼女は全力でうんうんと頷いた。その必死さに、ボクは少しばかりの信頼を寄せた。
「よし!じゃあメシだ。メシを取ってこい!」
命令するように言うと、彼女は「分かった!」と元気よく返事をし、その場から走り去った。
しかし、ボクの中には疑念が残った。この街で誰もが信じられないことは常識だ。
「……アイツ、やっぱり逃げたな……」
ボクは苦々しい気持ちを胸に、再び彼女の後を追いかけた。
「ア、アンタ……誰……?」
彼女のかすれた声は、まるで喉の奥に引っかかった石を吐き出すかのように弱々しかった。少女は見たところ、ボクより少し幼い。だが、その身体には数えきれない傷痕が刻まれている。希少な龍人族が目の前にいるという事実が、じわじわとボクの胸に冷たい実感として広がった。彼らは絶滅したとされる一族――それだけで彼女の存在が特別で、価値のあるものだと瞬時に理解した。
ボクは冷徹に彼女の手を乱暴に引き寄せ、近くに落ちていた汚れた布切れを拾い上げ、無造作に彼女の頭に被せた。銀色の髪を隠すようにして。
「誰でもいいよ。ボクについてきたまえ」
ボクの声は、どこか無機質で冷めていた。彼女を助けたいわけではない。ただ、彼女の存在がボクにとって何かしらの利益になる、それだけのことだ。彼女の手を強く握りしめ、足早に街の中心部へ向かって歩き出した。
「ど、どこ行くの……?」
震える少女の声がボクの耳に届く。恐怖が混じったその声には、まだ幼さが残っていた。
「今からキミを売るんだよ」
淡々とした口調で答えたその言葉が、彼女の心にどれほどの衝撃を与えたのか、容易に想像がつく。龍人族の子供――それはこの街では信じられないほどの高値で取引されるだろう。彼女を売れば、ボクの今の惨めな生活も少しはマシになる。食糧や、本、何でも手に入るに違いない。
「えっ!?いや!ヤダ!離して!」
突然、彼女が激しく抵抗し始めた。ボクの手を振りほどき、必死に逃れようとする。薄汚れた布切れを地面に叩きつけ、まるでそこに置いていかれたくないかのように、全速力で走り出した。
「あっ、こら!暴れるな!」
ボクは咄嗟に追いかけようとしたが、彼女は逃げ足が速かった。細く小さな体がゴミの山の間を縫うようにして消え、瞬く間に視界から外れた。
「クソ……逃げ足が早いな……」
だが、街の構造についてはボクの方が詳しい。この腐りきった街の隅々までを知っているボクにとって、彼女の逃げ道は限られている。先回りしてやる――そう考えたボクは、別の道から彼女を追うことにした。
◇
数分後、彼女が走ってくる姿が見えた。こちらの存在に気づいた瞬間、彼女の足が止まる。怯えた瞳がボクを見上げ、全身が小刻みに震えている。
「もう逃げられないぞ」
ボクはじりじりと彼女に近づいた。彼女の恐怖は手に取るように分かる。だが、そんなことは気にしない。ボクには彼女を売ることで得られる利益だけが重要だった。
「な、なんで私を売るの……?」
彼女の声は震え、涙で滲んでいるようだった。
「高く売れそうだからだ」
その言葉に、彼女の顔がますます青ざめる。ボクにとっては当たり前のことだ。価値があるものを売って、必要なものと交換する。それがこの街で生き延びる唯一の方法だ。
「売ってどうするの……?」
「もっといい物と交換してもらう」
「いい物って……?」
「メシとか、本とかだ」
「……本?アンタ本読むの?」
彼女の反応が意外だった。龍人族でありながら、なぜかボクが本を読むことに興味を持っている。
「本は面白いからねぇ……」
それだけ答えて、彼女の様子を伺った。すると、彼女はしばらく沈黙した後、何かを決意したように、震える声で言った。
「……わ、私が本もご飯も取ってきてあげるから……。だから、売るのはやめて」
その言葉に、ボクは一瞬、考え込んだ。確かに、龍人族は希少で高価だが、今すぐ売るのは少しもったいないかもしれない。彼女がボクに何かしらの利益をもたらすなら、それもまた一つの手だ。
「……逃げないな?」
ボクがそう問いかけると、彼女は全力でうんうんと頷いた。その必死さに、ボクは少しばかりの信頼を寄せた。
「よし!じゃあメシだ。メシを取ってこい!」
命令するように言うと、彼女は「分かった!」と元気よく返事をし、その場から走り去った。
しかし、ボクの中には疑念が残った。この街で誰もが信じられないことは常識だ。
「……アイツ、やっぱり逃げたな……」
ボクは苦々しい気持ちを胸に、再び彼女の後を追いかけた。
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