【Lv.999】から始まる異世界攻略譚 ~落ちこぼれゲーマーの俺は、ユニークスキル「ゲーム」を使って異世界を無双攻略する~

𝔐𝔞𝔡-𝔈𝔫𝔡

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第35話 悪夢⑤

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「こ、ここは……?」

目を覚ました瞬間、ボクは冷たい石の感触に気づいた。周囲は薄暗く、湿り気を帯びた空気が肌にまとわりつく。薄汚れた建物の中で、粗末な鉄格子に囲まれた檻の中に閉じ込められている。外の光はほとんど入らず、わずかな明かりだけがボクの視界をかろうじて照らしていた。見回すと、いくつもの檻が並んでおり、その中には見覚えのあるガタラ街の人々が無気力に横たわっている。

隣を見やると、シラーが倒れているのが目に入った。彼女の小さな身体が檻の中で無防備に横たわり、かすかに上下する呼吸が辛うじて彼女がまだ生きていることを示していた。

「シラー、大丈夫か?」

ボクは急いで彼女の体を揺すった。冷たい汗が背中を伝い、心臓が早鐘のように鳴る。

「ん……?」

シラーはゆっくりと目を開け、ぼんやりとした表情で起き上がった。彼女の目はまだ焦点が合っていない。

「ここ……どこ?」

「分からない。でも、きっと良くない場所だ。」

しばらくの沈黙が続く。息を潜めていると、遠くからカツン、カツンという足音が静かに響いてきた。その足音は徐々にこちらに近づき、金属の冷たい響きが檻の中に広がる。

「……コイツです」

低く押し殺したような声が耳に届いた。ボクたちを攫ったローブの男が、手に不気味なランプを持って立っている。その背後には、さらに別の人物の影がぼんやりと浮かび上がった。彼らの姿がランプの薄い光に照らされ、背筋が凍りつくような冷たい空気が場を支配する。

「龍人族の娘か……悪くないね」

現れたのは、黒い服に身を包んだ長身の女性だった。彼女の髪は漆黒で長く、乱れたまま垂れており、その目は怪しく紫色に光っている。白い肌は薄暗い檻の中でも不気味なほど目立ち、その唇には冷たい笑みが浮かんでいた。美しいというよりも、どこか異質で、危険な匂いを放つ女性だった。 

「初めまして。私の名はハーレー。貴女は?」

女性――ハーレーと名乗る彼女は、静かにシラーの前にしゃがみ込むと、目を細めて彼女の顔を覗き込んだ。
シラーは無意識のうちに後ずさるように身を引いたが、その声に反応し、かすかに答えた。

「……シラー」

「なるほど、シラーというのか。素晴らしい、丈夫そうな娘だ。これなら上手くいくかもしれない」

ハーレーはまるで商品を見るかのようにシラーを観察し、無遠慮に顔を眺め回す。その視線が冷たく、ボクの胸が強く締めつけられるようだった。

「ん?他にも子供がいるな。これは?」

ハーレーがローブの男に振り返る。男はボクを一瞥し、無感情な声で答えた。

「一緒にいたので、ついでに連れてきました」

「ただのガキを連れてきてどうするんだい?成人以上の男でなければ、役に立たないだろう」

「申し訳ありません。処分しますか?」

「はぁ、前途ある子供を処分なんて……非道なことを言うもんだね。適当に捨ててやりなよ」

冷酷なやり取りが繰り広げられる中、ハーレーはやや興味を失った様子で手を振ると、シラーに向かって指をさした。

「それより、さっそくシラーを連れていこう」

ローブの男が無造作に檻の鍵を開け、シラーに手を差し出す。シラーは怯えながらも、必死でその手を振り払おうとした。

「いや!離してよ!」

ボクも衝動的にその男の腕を掴み、叫んだ。

「やめろ!シラーをどうするつもりだ!?」

その時、ハーレーは不気味な笑みを浮かべたまま、ボクの目を覗き込んだ。

「君も来るかい?」

その言葉と同時に、ローブの男は素早く動き、シラーの首元に手を伸ばし、一瞬で彼女を気絶させた。

「シラー!」

ボクは震えた声で叫んだが、ローブの男は冷たく言い放つ。

「大人しくしていろ。さもなくば……」

ボクは彼の冷たい瞳に射抜かれ、言葉を失った。シラーを抱えた男に従い、ボクも檻の外へと引きずり出された。





「うっ……ここは……」

ボクたちはしばらく歩き、冷たい空気の広がる広間にたどり着いた。足元には暗赤色に染まったものが無造作に広がり、濃厚な鉄の香りと共に、死を感じさせる異様な匂いが鼻を突いた。空気は重く、まるでそれ自体が何かの亡霊であるかのように、ボクの肺を圧迫する。気を抜けば吐き気が込み上げそうだった。

広間の中央には、鉄製の無機質な寝台が置かれていた。その周囲にはこびりついた赤黒い何かが、まるでここで行われたことの痕跡を無言で主張しているかのようにべったりと残っている。ローブの男がシラーを寝台に横たえ、無情にも彼女の手足を器具で拘束していく。その動作はあまりにも機械的で、生命を扱うという感覚が彼からは一切感じられなかった。ボクの胸に不安が広がり、冷たい恐怖がゆっくりと心臓を締め付ける。

「おいやめろ、何をするつもりだ!」

ボクは必死に声を張り上げたが、かすかに震えている自分の声が広間の中で虚しく響いた。対するハーレーは、何事もなかったかのように涼しげな顔で答えた。

「私がしているのは、不老不死の研究よ。龍人族の肉体なら、実験の過酷な条件にも耐えられるかもしれないと思ってね」

ハーレーの言葉に背筋が凍る。彼女はシラーを実験の道具としてしか見ていない。その事実が胸に重くのしかかり、息が詰まるような感覚が広がった。

「やめろ!お願いだから、やめてくれ!」

ボクは絶望的な思いでハーレーの足元にしがみついた。しかし彼女は冷たい瞳でボクを見下ろし、静かに問いかけてきた。

「じゃあ、代わりに君が実験を受けるかい?」

その言葉に、ボクは一瞬、答えに詰まった。死の影が薄暗い部屋の隅々から迫ってくるのを感じる。

「君は彼女の友達なんだろう?友達なら代わってやらないのか?」

ハーレーの声が、ボクの心を揺さぶった。シラーはボクの初めての友達だ。友達を救うのは当然のこと。それはわかっている……でも。

「うぅ……うぅ……」

突然、広間の隅から不気味な唸り声が響いてきた。ボクはその声に反応し、恐る恐る周囲を見渡した。

「な、なに……?」

視界に入ってきたのは、醜悪に歪んだ人型の存在だった。彼らは苦痛に喘ぎ、ねじれた手足を震わせながら這い回っている。ボクの目はそれが魔物だと理解するまでに時間がかかった。

「なんだこれ……魔物?」

「ええ……そうよ。彼らはかつては人間だったの」

「へっ?」

ハーレーの言葉が頭の中で響き、信じられない現実がボクの胸をえぐった。

「これは私の実験の産物さ。全部失敗作だけどね。不死に近い存在だけれど、再生速度が遅すぎて使い物にならないわ」

ハーレーは淡々と説明する。彼女の声には後悔も罪悪感も微塵も感じられない。ボクの喉が乾き、言葉が出てこなかった。

「ど、どうして、そんなことを……」

かすれた声で問いかけると、ハーレーは軽々と答えた。

「私はこれでも、魔王軍の四天王の一人。最強の魔物軍団を作るのが私の役目よ。悲しいけれど、これは戦争なの。仕方ないことなのよ」

ハーレーの声には無情さが漂い、その言葉の重みがボクの心にずっしりとのしかかってきた。

「いや、ハーレー様の場合、自分が不老不死になりたいだけでしょう?」

ローブの男が冷静に指摘した。

「シーッ!それは言わないでよ」

ハーレーが、ふてくされたように唇を尖らせる。それがこの状況をさらに異様なものに感じさせた。

「で、どうする?貴女も彼らの仲間になってみる?」

ハーレーは不気味に歪んだ魔物たちを指さす。その時、化け物たちが苦しげに呻きながら何かを訴えるようにしていた。

「ぐぇ……こ……ろ……して……」

彼らの言葉は断片的で、恐ろしくも明確な絶望が宿っていた。ボクの全身が震えた。ああはなりたくない、絶対に。でも、シラーがそうなるのを見過ごすこともできない。

「分かった、ボクが──」

ボクが自ら身代わりになる決心をしたその瞬間、シラーがか細い声でボクを遮った。

「ごめんね……」

その声は、小さく、壊れそうで、悲痛な響きを持っていた。

「私と友達になんか……なっちゃったから……こんなことに……」

シラーの頬を涙が伝い、彼女はボクに向かって何度も謝罪の言葉を繰り返す。その姿に、ボクの心が壊れそうになった。

「ごめんね……ごめんね……」

涙がこぼれ落ち、ボクもまた、気がつけば泣いていた。シラーの苦しみに、ボクはどうすることもできない。すべてが終わり、崩れ去っていく。友達、夢、希望――すべてが無力に感じられた。この残酷な世界では、ボクが望んだものなど初めから叶わなかったのだ。

涙は音を立てて床に落ち、その音が虚しく広間に響き渡る。ボクはもう何も考えられなくなり、ただ立ち尽くし、絶望の淵に沈んでいった。

「可哀想に……」

ハーレーはボクの顔に手を差し伸べ、優しく涙を拭い取った。その手は暖かく、まるで慈しみのように見えたが、その裏にある冷たさがボクをさらに打ちのめす。

「泣かないで。君には何もしないから」

彼女の言葉は慰めのようでありながら、そこには底知れぬ悪意が潜んでいる。ハーレーの優しげな笑みが、広間の闇の中で不気味に浮かび上がった。





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