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今、私はひっそりと自身の住む屋敷を抜け出して城下街へと来ている。
というのも、今日は年に数回しかないグラオスが城下へと降りてくる日だからだ。
まあ、例年までの私ならこの日は屋敷から抜けすこともなく大人しく屋敷内でダラダラと過ごしていたのだが私もそろそろ何処かの家へと嫁がないといけない年齢。
なので、今回は自身がその何処かへ嫁ぐ前に一目でもいいからグラオスの姿を見ておきたくてこんな事をしていたりする。
恐らくこの事がバレたりしたら父様や母様は勿論の事、屋敷の人達に物凄く長い説教を受けそうな気もするけれどどうしても彼の様子を見ておきたかったのだから仕方ない。
私はグラオスが通る道があるという沢山の人々が集まっている街の中央へと行くと、人混みをくぐり抜けてどうにかこうにかグラオスを正面から見られるであろう位置に立つ。
そして、そこで待つ事数時間。
漸く見えてきたのは多くの騎士を引き連れた自身もかつて乗った事のある豪華な見た目の馬車。
私はその馬車の中から微笑みを浮かべて民衆に手を振るグラオスと、彼の正面で彼同様に微笑みを浮かべながら私達民衆へと手を振る前世での愛息と愛娘であるレグロスとニアに目を向ける。
グラオスによく似た容姿に深い青色をした髪に黄金色の瞳を持つレグロスと、前世の私とよく似た容姿に髪色と瞳の色だけはグラオスに似ているニア。
私は元気そうなグラオスの姿と、順調に大きくなっている我が子達の姿に泣きそうになるのを我慢しながら周囲の人々と同様に彼らへと手を振る。
その時だ、ふとニアがこちらに顔を向けたかと思うと大きく目を見開きながらグラオスとレグロスに何かを話し掛けた。
途端に先程まで微笑みを浮かべながら民衆に手を振っていたグラオスが真剣な表情で私がいる方向を見てから、馬車を動かしている御者に話し掛けて馬車を止めたではないか。
突然の出来事に私や民衆は勿論のこと騎士達ですら困惑を顕にする。
しかし、そんな周囲の困惑を気にすること無く馬車から降りて来たグラオスとレグロスとニアの三人は堂々としながら真っ直ぐにこちらまでやって来ると、私の前で立ち止まりこう言った。
「ティリア、なのか?」
私は自身を真っ直ぐな目で見てくるグラオスと、彼の後ろで黙ったままこちらを見詰めるレグロスとニアに慌てて首を横に振るう。
「ち、違いますわ」
確かに私は前世ではティリア・グレゴニアだった。
しかし、今世の私はシェルバート家の一人娘であるリーザ・シェルバートでありティリア・グレゴニアではないのだ。
けれど、彼はそんな私の否定の言葉を耳にするなり眉を顰めたかと思うと私の胸元を指差しながらこう言った。
「では聞くが、お前がその胸元に持っている宝玉は俺が自身の番であるティリアに渡した物。何故お前がそれを持っている……?」
鋭い目付きでこちらを睨み付けながら眉間に皺を寄せて瞳孔を鋭く光らせる彼。
私はそんな彼の瞳に対して内心で『初めて出会った頃の彼みたい』なんて見当はずれなことを考えながら、急かすように「答えられないのか?」と言ってきた彼の言葉に頷いた。
「……はい」
すると、ふとそんな私達のやり取りを黙って見ていたニアが唐突に私とグラオスの間に入って来たかと思うとこんなことをグラオスへと告げた。
「父様、一度彼女を連れて城に帰るのはどうですか?竜人族の番の証のことについてはここで話すようなことではないですし……」
そうすればニアの言葉を聞くなり顎に手を添えて何かを思案している様子の彼。
私は次に彼がどんな回答を口に出すのだろうかと冷や冷やとしながら、目の前でこちらを振り返って微笑む愛娘に無理矢理作った微笑みを向けると、小さく溜息を吐いた後に「分かった。詳しい話は城に帰ってから聞こう」と言ってきたグラオスに対して思わず口元を引き攣らせる。
私の予想だとあのまま行けば彼は大人しく「……ならいい」と言ってその場から立ち去っていた筈。
えっと、まさか本当に私を城に連れていく気なの?
と、私が思った瞬間にグラオスがニアを退けて私の真正面にやって来るなり私を軽々と肩に担いだではないか。
私は突然の彼の行動に一瞬だけ固まるものの、自分の状況を理解するなり彼の肩の上で必死の抵抗をしてみせる。
しかし、彼はそんな私の抵抗など全く気にすることなく元々彼らが乗っていた馬車に私を押し込んだ。
これは間違いなくあれだ、絶体絶命だ。
私は自身の隣で『逃がさない』と言わんばかりに私の腕を掴んでいるグラオスをちらりと横目で確認すると、正面で少し困ったように笑うニアとその隣で少し心配そうにこちらを見ているレグロスにこれからどうしようかと頭を悩ませる。
私は彼に自身がティリアであった事は知られたくない。
だからこそ城について何かを聞かれたら嘘を交えながら受け答えをしなければならない。
大丈夫、大丈夫。
落ち着いて受け答えすることさえ出来たらきっときちんとした嘘が付ける。
私は何度が自分にそう言い聞かせると、段々と近づいてくるグレゴニア城を見上げて一度小さく深呼吸をした。
というのも、今日は年に数回しかないグラオスが城下へと降りてくる日だからだ。
まあ、例年までの私ならこの日は屋敷から抜けすこともなく大人しく屋敷内でダラダラと過ごしていたのだが私もそろそろ何処かの家へと嫁がないといけない年齢。
なので、今回は自身がその何処かへ嫁ぐ前に一目でもいいからグラオスの姿を見ておきたくてこんな事をしていたりする。
恐らくこの事がバレたりしたら父様や母様は勿論の事、屋敷の人達に物凄く長い説教を受けそうな気もするけれどどうしても彼の様子を見ておきたかったのだから仕方ない。
私はグラオスが通る道があるという沢山の人々が集まっている街の中央へと行くと、人混みをくぐり抜けてどうにかこうにかグラオスを正面から見られるであろう位置に立つ。
そして、そこで待つ事数時間。
漸く見えてきたのは多くの騎士を引き連れた自身もかつて乗った事のある豪華な見た目の馬車。
私はその馬車の中から微笑みを浮かべて民衆に手を振るグラオスと、彼の正面で彼同様に微笑みを浮かべながら私達民衆へと手を振る前世での愛息と愛娘であるレグロスとニアに目を向ける。
グラオスによく似た容姿に深い青色をした髪に黄金色の瞳を持つレグロスと、前世の私とよく似た容姿に髪色と瞳の色だけはグラオスに似ているニア。
私は元気そうなグラオスの姿と、順調に大きくなっている我が子達の姿に泣きそうになるのを我慢しながら周囲の人々と同様に彼らへと手を振る。
その時だ、ふとニアがこちらに顔を向けたかと思うと大きく目を見開きながらグラオスとレグロスに何かを話し掛けた。
途端に先程まで微笑みを浮かべながら民衆に手を振っていたグラオスが真剣な表情で私がいる方向を見てから、馬車を動かしている御者に話し掛けて馬車を止めたではないか。
突然の出来事に私や民衆は勿論のこと騎士達ですら困惑を顕にする。
しかし、そんな周囲の困惑を気にすること無く馬車から降りて来たグラオスとレグロスとニアの三人は堂々としながら真っ直ぐにこちらまでやって来ると、私の前で立ち止まりこう言った。
「ティリア、なのか?」
私は自身を真っ直ぐな目で見てくるグラオスと、彼の後ろで黙ったままこちらを見詰めるレグロスとニアに慌てて首を横に振るう。
「ち、違いますわ」
確かに私は前世ではティリア・グレゴニアだった。
しかし、今世の私はシェルバート家の一人娘であるリーザ・シェルバートでありティリア・グレゴニアではないのだ。
けれど、彼はそんな私の否定の言葉を耳にするなり眉を顰めたかと思うと私の胸元を指差しながらこう言った。
「では聞くが、お前がその胸元に持っている宝玉は俺が自身の番であるティリアに渡した物。何故お前がそれを持っている……?」
鋭い目付きでこちらを睨み付けながら眉間に皺を寄せて瞳孔を鋭く光らせる彼。
私はそんな彼の瞳に対して内心で『初めて出会った頃の彼みたい』なんて見当はずれなことを考えながら、急かすように「答えられないのか?」と言ってきた彼の言葉に頷いた。
「……はい」
すると、ふとそんな私達のやり取りを黙って見ていたニアが唐突に私とグラオスの間に入って来たかと思うとこんなことをグラオスへと告げた。
「父様、一度彼女を連れて城に帰るのはどうですか?竜人族の番の証のことについてはここで話すようなことではないですし……」
そうすればニアの言葉を聞くなり顎に手を添えて何かを思案している様子の彼。
私は次に彼がどんな回答を口に出すのだろうかと冷や冷やとしながら、目の前でこちらを振り返って微笑む愛娘に無理矢理作った微笑みを向けると、小さく溜息を吐いた後に「分かった。詳しい話は城に帰ってから聞こう」と言ってきたグラオスに対して思わず口元を引き攣らせる。
私の予想だとあのまま行けば彼は大人しく「……ならいい」と言ってその場から立ち去っていた筈。
えっと、まさか本当に私を城に連れていく気なの?
と、私が思った瞬間にグラオスがニアを退けて私の真正面にやって来るなり私を軽々と肩に担いだではないか。
私は突然の彼の行動に一瞬だけ固まるものの、自分の状況を理解するなり彼の肩の上で必死の抵抗をしてみせる。
しかし、彼はそんな私の抵抗など全く気にすることなく元々彼らが乗っていた馬車に私を押し込んだ。
これは間違いなくあれだ、絶体絶命だ。
私は自身の隣で『逃がさない』と言わんばかりに私の腕を掴んでいるグラオスをちらりと横目で確認すると、正面で少し困ったように笑うニアとその隣で少し心配そうにこちらを見ているレグロスにこれからどうしようかと頭を悩ませる。
私は彼に自身がティリアであった事は知られたくない。
だからこそ城について何かを聞かれたら嘘を交えながら受け答えをしなければならない。
大丈夫、大丈夫。
落ち着いて受け答えすることさえ出来たらきっときちんとした嘘が付ける。
私は何度が自分にそう言い聞かせると、段々と近づいてくるグレゴニア城を見上げて一度小さく深呼吸をした。
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