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第一部
第8話 僕の冒険
しおりを挟む兄たちが僕にぴったりな依頼を受けてくれたはずなんだけど、何で森とか草原に行かないで、前世の世界のサモエドによく似た犬の散歩をしてるんだろう・・・
「ワン!」
犬は好きだよ?
賢くて可愛いし、特に前世の世界にいた柴犬が一番好きだったな。
もしもこの世界に柴犬がいたら、赤・黒・白・胡麻、全色お迎えしてお世話したいくらい大好き。
でも冒険者のお仕事は、コレじゃない感が強すぎる・・・
「ランス兄上、スライムとかやっつけないんですか?」
「ルルにはまだ早いよ。」
「ワン!」
「メルク兄さまもそう思ってる?」
「うん、だってルル、ダガー持てなかったし。」
「ワフっ」
そう、僕はあまりにも非力だった。
RPGでおなじみのレベル1の冒険者の初期装備の短剣、片手はおろか、両手でも持てなかったんだ。
いや、正確には何とか頑張って、一回振り回せるかどうかだったんだけどね。
つまり、僕の腕には剣を扱う筋力が全く無かったんだ・・・
じゃあ、カドケウス持って行けばいいじゃん、ってなるんだけど、カドケウスの聖なる錫杖は治癒と回復、浄化が専門だから、魔力操作初心者の僕がスライムとかをカドケウスで叩いたら、スライムの回復をするだけで、倒すことができない可能性があるんだって。
兄たちもAランクになるまでは、自分の聖剣とか神器を使わないって言ってた。
聖具や神器は武器として強すぎるっていうのもあるけれど、目立つのが困るんだ。
ランクが低いのに目立つ武器を持っていると、質の悪い冒険者とか、貴族とかに目を付けられやすくなるんだ。
叔父上が粋がってた若い時、それで面倒ごとに巻き込まれて大変だったんだって。
叔父上の愛刀は「ムラマサ」っていう妖刀で、先代の教皇さまから受け継いだものなんだって。
妖刀は魔剣の部類で、下手すると装備者でさえ呪われてしまう呪具だ。
でも叔父上は強運のスキルと状態異常無効化の特殊スキルがあるから呪われないんだよね。
だからレイス系とか、ゾンビ系の討伐では呪いもゾンビ化も無効なので、浄化魔法を纏った素手で殴ってやっつけてるらしいよ。
「ストレス解消にお薦めだ!」
って、いつも言ってるけど、叔父上と同じ特殊スキルが無いと殴れないよ?
とりあえず僕は、王都内で簡単なお手伝いして、あちこち歩いて体力と方向感覚を身に付けた方がいいんだって。
叔父上みたいに「ヒャッハー」ってドラゴン退治ができるようになるのは何年後だろう?
でもまずは、ダガーを自由に振り回せるように体力と腕力つけないとね。
でないと、せっかく冒険者登録したのに、僕の冒険は週一なんだ。
今年13歳になった兄たちが、学園に通わなければいけない年になったから、一人で外出する許可が降りていない僕はお留守番なんだ。
貴族の子供って、そういうとこ、不便だよね。
でも勝手に一人で出かけて迷子になったり誘拐されたりしたら、僕付きのメイド、侍従、護衛の皆の失点になるし、下手したら失職になるんだ。
彼等の生活の安寧の為に僕は自分勝手な行動をしないと決めているんだよ。
あ~あ、早く兄たちが帰って来る週末にならないかなぁ・・・
そういうわけで僕は、ベテラン聖騎士フェルゼン君と、見習いが取れたばかりの新人聖騎士オスカー君と一緒に家の庭園をグルグルとウオーキングしたり、彼らに手伝ってもらいながら簡単な筋トレをしている。
本格的な筋トレは、成長しきってない子供がしてしまうと、背が伸びにくくなるんだって。
大きくなる為には、ただ鍛えればいいってものじゃないんだね。
バランスが大事らしい。
僕の護衛の筆頭のフェルゼン君は叔父上と同年代で、聖弓クピードの主で、聖騎士団の参謀で、副団長に次ぐナンバースリーだ。
新人のオスカー君は兄たちと同じ年で、最年少で聖槍バイデントに選ばれた聖騎士なんだ。
魔法の方はね、カドケウスと祖父に教わっているんだよ。
最近、打ち身、捻挫、肩こり、かすり傷程度なら、浄化と治癒を組み合わせて治せるようになったんだ。
もっと深い傷とか病気は人体の構造をきちんと覚えてからでないとダメなんだ。
でも前世の知識がある分、進度は早いから、もうすぐ合格点をもらえそうなんだ。
あと、カドケウスの力を活かしたスタンピードを想定した戦いの補助、広範囲への浄化と結界の訓練と、結界石の作り方も同時進行で学んでいるんだよ。
スタンピードで大量発生した魔物を弱体化させるために、魔物が苦手な聖水を広範囲に撒くイメージで、「聖なる雨」という魔法を祖父とメルク兄さまと一緒に作り上げたんだ。
これも前世の記憶が役に立ったんだよ。
空気中の原子を結合させて水分子にして、その水分子に聖属性を付与するんだ。
そうすれば既存の水を流用するより、より純度の高い聖水を作り出せるんだ。
でも、いちいち現場で一から水分子で聖水を作るのは面倒だし時間がかかるから、前もって聖水で作った雨雲を封じた魔方陣の巻物の試作品を祖父とメルク兄さまに手伝ってもらって作ったんだ。
でも、聖水の雨雲、作るの大変なんだよ。
今の僕が作れるのは直径100m圏内の分を一日一回分だけ。
魔力は余裕があるんだけれど、体力がもたないんだ。
もっと、体、鍛えないと!!
「聖なる雨」の魔方陣の巻物はね、教会本部に試作品を渡して、聖者や聖女の皆さんに効果をモニターしてもらっているんだ。
魔方陣を展開する為の魔力消費も半端ないので、僕の魔力詰まりから出来た純度の高い魔石もつけたよ。
そしたら、教会本部から金貨入りの袋が一つ届いちゃった。
金貨100枚くらい入ってた。
金貨一枚は、うちのメイドさんの初任給と同じなんだよ。
それが100枚だから、凄いお金持ちになった気分。
祖父が「全部ルルのお小遣いにしなさい」って言ってくれたけれど、必要なものは母さまや執事のトマスが手配してくれるから、使い道が無いよ。
大金を手元に置いておくのも怖いから、取りあえず僕の亜空間収納に袋ごとしまったよ。
特殊スキルの亜空間収納はRPGでお馴染みのアイテムボックスみたいなものなんだ。
普通のスキルの空間収納と違って魔力依存ではないので、量とか大きさの制限がないんだ。
普通の空間収納スキルは、持ってる人は割と多いんだよね。
ただし、入れられる量や大きさは魔力量に依存するので、お金に余裕のある人は魔道具のアイテムバッグを持っているんだ。
アイテムバッグは錬金術で作られた、亜空間収納ができる高級品なんだ。
持ち主の魔力量に左右されないけれど、作れる錬金術師が少ないので、前世の2トントラック1台分の収納力で家一軒買える位の値段なんだよ。
そんな稀少なアイテムバッグを作れる祖父とメルク兄さま。
僕も錬金術のスキルはあるけれど、今はポーションとか聖水とか、護符くらいしか作れない。
でもいつかおしゃれで可愛いアイテムバッグを作れるようになりたいな。
僕が冒険者として活動している時に愛用しているベルトポーチ型のアイテムバッグは、メルク兄さまと祖父の共同制作品で、僕専用に作ってくれたんだ。
盗難防止と、うっかりなくした時に自動で僕の所に帰って来る機能がついているんだよ。
僕の特殊スキルの亜空間収納も極秘なので、それをごまかす為に、メルク兄さまと祖父が作ってくれたんだ。
僕の家族ってチート属性な人たちばかりだね。
かくいう僕もチート持ちなんだけどね。
体力が無くてそのチート能力を活かしきれてない、という宝の持ち腐れ状態なんだよね。
魔法学園に入学する頃までには体力をせめて今の倍くらいには上げたいな。
教皇国の魔法学園に入学できるのは10歳になってからなんだけれど、貴族の子の大半は初等教育+αは家庭教師に教わるので、殆どの貴族家の子は13歳になってから、つまり中等科からの入学なんだ。
10歳から入れる初等科は魔力があれば身分関係なく誰でも入学できて、教皇国内の各地にある教会が「分教室」となっているんだ。
中等科からは寄宿学校となるのでお金もかかるし、校舎も各主要都市にしかないから、平民の一般家庭の子供は奨学生になる為の試験に合格しないと進学できないんだ。
ゲームのシャルルは魔力がなかったので、教皇国ではなく、魔力なしでも入学できるフルール王国の王立学園の中等科に入学したんだ。
大公子息であることは隠して、魔法伯家の子息として。
そんなシャルルを守るために兄たちもフルール王国の学園に移ったんだよね。
今の僕は魔法が使えるし、教皇国の魔法学園にも通えるから兄たちに面倒をかけなくて済むね。
でも、ゲームのシャルルとは立ち位置がすっかり変わってしまったよ。
もし、ゲーム通り魔法が使えなかったら、僕は喜んでフルール王国の学園に通っただろうな。
前世の記憶が戻った時だって「聖地巡礼」気分があったから、自分が知ってる乙女ゲーム通りに行動しようと思ってた。
でも、今は聖者としての活動を視野に入れているから教皇国を離れるわけにはいかない。
きちんと勉強して、一日でも早く聖者として皆の役に立ちたいって思っているんだ。
「教皇」の称号の特典で聖者のレベルが上限になっているけれど、使いこなせていないのが現状だもの。
ヒロインちゃんたちがゲーム通りの清廉な性格で努力家ならば、僕がいなくても収まるところに収まるよね?
ここはゲームの世界かもしれないけれど、今の僕にとっては現実なんだ。
だから、僕は僕にできる事をするって決めたんだ。
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