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第30話 守護者の叫び
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「俺がこのスペクターを現したのもお前と同じ16歳だった」
エンリケは言った。
ニヤニヤと笑いながらエリスを見つめて。
実に下品な笑顔だった。
「だからなんだと言うのですか」
「まぁ、世間話だ。聞けよ」
エンリケはまたクツクツと喉を鳴らす不愉快な笑い声を漏らす。
「俺が産まれたのは、もしくは引き取られたのは盗賊の一味だった。今となってはどっちでも良い。俺はそこで育てられた」
盗賊一味が産まれた場所だったのか。
「連中でも聖痕があることの意味は分かってたな。だが、だからといって上等な扱いを受ける訳じゃない。いずれ守護者という強力な力を手に入れる道具としての扱いだった。まぁ、ろくなもんじゃなかったな」
盗賊一味はエンリケを強力な武力として扱ったのか。銃や剣と同じだったのだろう。
「本当にろくな連中じゃなかった。盗みも殺しも当たり前。人間を人間と思ってない。仲間なんか言葉だけだ。本当にクソッタレだった」
エンリケは思い出すように虚空を見ていた。その目はガラス玉のように無機質だった。
「だから、俺はスペクターが現れたと同時に皆殺しにした。気持ちよかったねぇあれは。あれより気分の良いことには出会えてない。かはは」
エンリケは本当に楽しそうだった。
生まれ育った集団を自分の手で全員殺したと言って実に楽しそうだった。
俺もエリスも不愉快だった。そして、この男がなにが楽しいのか全然分からなかった。
「第6聖女エリス。お前もだろ? お前もそうだったんだろ? 周りに『守護者はまだ出ないのか』って毎日言われてたんだろ? 普通より遅いって言われてたんだろ? 俺みたいに殴り飛ばされはしないだろうが、それなりにキツかったはずだ」
エンリケはエリスを見る。
不愉快だった。だが、エンリケの言葉は全てが的外れなわけではなかった。
「俺にはお前が少し分かる。そんでお前も俺が少し分かるはずだ」
冗談じゃない。こいつにエリスの何が分かるものか。
それ以上エリスに話しかけるな。
「スカッとするぜ? むかつくやつを全員殺すってのは」
「ふざけないでくださいっっ!!!」
エリスは怒りをあらわにした。
俺も良い加減にキレそうだった。
エリスにそんなことを勧めるな。
「お前、その守護者はかなりのもんだが。お前自身の強さはそこまでだな。聖女聖人ってのは生まれついて破格の魔力を持ってるもんだが、お前はそれほどじゃない。それだって散々なじられたんだろう?」
「っっ!」
「なんだと?」
息を呑むエリス。
そうだったのか。エリスは魔力がそんなに多くなかったのか。そんなこと気づきもしなかった。
この世界にうといせいだ。
「分かるだろう? 周りは今はお前を讃えるが、そのうちにボロが出るぜ。諦めとけよ。全部諦めて堕ちちまえ。どうせ、守護者なんか博打みたいなもんだからな。身に余る幸運ってのは必ず不幸を呼び寄せる」
「や、やめてくださいっっ!!!」
「おやおや、思ったより心に響いちまったみたいだな。くはは」
エリスはこんなくだらない当てずっぽうみたな言葉に動揺していた。それほど、エンリケの言葉がエリスの今までに、そしてこれからの不安に刺さってしまったのか。
なんてやつだ。
エリスを陰湿にいびりやがって。
許せなかった。
「それ以上しゃべるなクソ野郎」
「お? 守護者が話しかけてきやがった。こりゃあ、貴重な経験だ」
「黙れ。エリスにお前の言葉は当てはまらない。お前はエリスのことなんかなにも分かっちゃいない」
俺は怒りのままに言う。
「エリスは今日まで必死に訓練してきたんだ。俺が現れる前だって必死に毎日やってきたんだ。お前みたいに全部殺して終わりにするやつとは違う」
エリスが今まで苦労してきたのは知っている。俺は夢で見てしまったのだから。
「大体、エリス。魔力が低いなんてなんで言ってくれなかったんだ。そしたらもっとサポートしたのに」
「ま、マコト様...」
「魔力が低いのにここまで頑張ってるなんてとても普通の人にできることじゃない。エリスはもっと自分を誇って良い」
俺はエリスの目をまっすぐ見て言った。
それから再びエンリケを睨む。
「こんなに頑張ってきて、これからだって頑張るエリスの未来が暗いものになるわけないだろ。お前みたいに全部投げ出したやつと一緒にするな。エリスは戦ってるんだ。そして、これから全部に勝っていくんだよ。エリスの未来は薔薇色だってんだよ!」
俺は叫んでいた。
そうだ。エリスがこれから不幸になるなんてあるものか。
こんなに良い子で、こんなに健気で、こんなに頑張っていて。
それは人生全部うまくいくなんてことはなかなかないけど。でも、それでも。一緒にいると元気になるこの子は、これから立派に成長していくんだと俺は確信しているんだから。
「だから、エリス。あいつの言葉なんか聞くな」
「.......。ありがとう、本当にありがとうございます、マコト様。少し弱いところを見せてしまいました」
「良いんだよ。人間そんなもんだ」
そりゃあそうだ。どんな偉人だって誰かに弱いところを見せているだろう。
今回エリスはそれを俺に見せたってだけだ。
そして、今はそれより散々エリスを弄んでくれたこのクソ野郎のど玉にどうすれば全力の右ストレートを打ち込めるかの方が大事だ。
「くくく、くはははは! 良いね、良いものを見れた。守護者に励まされる聖女か! ははは! 傑作だね」
「エリス、なにも聞かなくて良い」
「分かってます。もう惑わされません」
もう、このクソ野郎の言葉は1ミリだって理解しなくていい。
俺たちが考えるべきはただ勝機のことのみ。
「だが、死んじまうから全部一緒だな!!!」
その時だった。
天井から、すさまじい勢いで影の杭が突き出しだのだ。
「マコト様!!!!」
エリスが叫ぶ。
しかし、その杭はまさしく修復が終わりかけた、あらわになったエリスの肌に直撃する。
その結果がどういうものかを理解しているエンリケは一層その笑みを深く、醜悪に歪めた。
エンリケは言った。
ニヤニヤと笑いながらエリスを見つめて。
実に下品な笑顔だった。
「だからなんだと言うのですか」
「まぁ、世間話だ。聞けよ」
エンリケはまたクツクツと喉を鳴らす不愉快な笑い声を漏らす。
「俺が産まれたのは、もしくは引き取られたのは盗賊の一味だった。今となってはどっちでも良い。俺はそこで育てられた」
盗賊一味が産まれた場所だったのか。
「連中でも聖痕があることの意味は分かってたな。だが、だからといって上等な扱いを受ける訳じゃない。いずれ守護者という強力な力を手に入れる道具としての扱いだった。まぁ、ろくなもんじゃなかったな」
盗賊一味はエンリケを強力な武力として扱ったのか。銃や剣と同じだったのだろう。
「本当にろくな連中じゃなかった。盗みも殺しも当たり前。人間を人間と思ってない。仲間なんか言葉だけだ。本当にクソッタレだった」
エンリケは思い出すように虚空を見ていた。その目はガラス玉のように無機質だった。
「だから、俺はスペクターが現れたと同時に皆殺しにした。気持ちよかったねぇあれは。あれより気分の良いことには出会えてない。かはは」
エンリケは本当に楽しそうだった。
生まれ育った集団を自分の手で全員殺したと言って実に楽しそうだった。
俺もエリスも不愉快だった。そして、この男がなにが楽しいのか全然分からなかった。
「第6聖女エリス。お前もだろ? お前もそうだったんだろ? 周りに『守護者はまだ出ないのか』って毎日言われてたんだろ? 普通より遅いって言われてたんだろ? 俺みたいに殴り飛ばされはしないだろうが、それなりにキツかったはずだ」
エンリケはエリスを見る。
不愉快だった。だが、エンリケの言葉は全てが的外れなわけではなかった。
「俺にはお前が少し分かる。そんでお前も俺が少し分かるはずだ」
冗談じゃない。こいつにエリスの何が分かるものか。
それ以上エリスに話しかけるな。
「スカッとするぜ? むかつくやつを全員殺すってのは」
「ふざけないでくださいっっ!!!」
エリスは怒りをあらわにした。
俺も良い加減にキレそうだった。
エリスにそんなことを勧めるな。
「お前、その守護者はかなりのもんだが。お前自身の強さはそこまでだな。聖女聖人ってのは生まれついて破格の魔力を持ってるもんだが、お前はそれほどじゃない。それだって散々なじられたんだろう?」
「っっ!」
「なんだと?」
息を呑むエリス。
そうだったのか。エリスは魔力がそんなに多くなかったのか。そんなこと気づきもしなかった。
この世界にうといせいだ。
「分かるだろう? 周りは今はお前を讃えるが、そのうちにボロが出るぜ。諦めとけよ。全部諦めて堕ちちまえ。どうせ、守護者なんか博打みたいなもんだからな。身に余る幸運ってのは必ず不幸を呼び寄せる」
「や、やめてくださいっっ!!!」
「おやおや、思ったより心に響いちまったみたいだな。くはは」
エリスはこんなくだらない当てずっぽうみたな言葉に動揺していた。それほど、エンリケの言葉がエリスの今までに、そしてこれからの不安に刺さってしまったのか。
なんてやつだ。
エリスを陰湿にいびりやがって。
許せなかった。
「それ以上しゃべるなクソ野郎」
「お? 守護者が話しかけてきやがった。こりゃあ、貴重な経験だ」
「黙れ。エリスにお前の言葉は当てはまらない。お前はエリスのことなんかなにも分かっちゃいない」
俺は怒りのままに言う。
「エリスは今日まで必死に訓練してきたんだ。俺が現れる前だって必死に毎日やってきたんだ。お前みたいに全部殺して終わりにするやつとは違う」
エリスが今まで苦労してきたのは知っている。俺は夢で見てしまったのだから。
「大体、エリス。魔力が低いなんてなんで言ってくれなかったんだ。そしたらもっとサポートしたのに」
「ま、マコト様...」
「魔力が低いのにここまで頑張ってるなんてとても普通の人にできることじゃない。エリスはもっと自分を誇って良い」
俺はエリスの目をまっすぐ見て言った。
それから再びエンリケを睨む。
「こんなに頑張ってきて、これからだって頑張るエリスの未来が暗いものになるわけないだろ。お前みたいに全部投げ出したやつと一緒にするな。エリスは戦ってるんだ。そして、これから全部に勝っていくんだよ。エリスの未来は薔薇色だってんだよ!」
俺は叫んでいた。
そうだ。エリスがこれから不幸になるなんてあるものか。
こんなに良い子で、こんなに健気で、こんなに頑張っていて。
それは人生全部うまくいくなんてことはなかなかないけど。でも、それでも。一緒にいると元気になるこの子は、これから立派に成長していくんだと俺は確信しているんだから。
「だから、エリス。あいつの言葉なんか聞くな」
「.......。ありがとう、本当にありがとうございます、マコト様。少し弱いところを見せてしまいました」
「良いんだよ。人間そんなもんだ」
そりゃあそうだ。どんな偉人だって誰かに弱いところを見せているだろう。
今回エリスはそれを俺に見せたってだけだ。
そして、今はそれより散々エリスを弄んでくれたこのクソ野郎のど玉にどうすれば全力の右ストレートを打ち込めるかの方が大事だ。
「くくく、くはははは! 良いね、良いものを見れた。守護者に励まされる聖女か! ははは! 傑作だね」
「エリス、なにも聞かなくて良い」
「分かってます。もう惑わされません」
もう、このクソ野郎の言葉は1ミリだって理解しなくていい。
俺たちが考えるべきはただ勝機のことのみ。
「だが、死んじまうから全部一緒だな!!!」
その時だった。
天井から、すさまじい勢いで影の杭が突き出しだのだ。
「マコト様!!!!」
エリスが叫ぶ。
しかし、その杭はまさしく修復が終わりかけた、あらわになったエリスの肌に直撃する。
その結果がどういうものかを理解しているエンリケは一層その笑みを深く、醜悪に歪めた。
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