なんとなくの短編

無名まい

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赤い花のガラス細工

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ある日君は僕の心にぱっと赤い花をさかせたんだ。でもそれは決して幸福なんかじゃない。僕はその花が君の頭の上で揺れるたび、心が乱れて、乱れてどうしようもなくて自分の手でふいっと消してしまいたくなるんだ。いつ枯れるのだろうと不安になる。やんわりとつないだこの手がいつ離れてしまうのか。君の手はとても柔らかい。僕がみるとその瞳は灰がかって小さくふるえて、それからそっとためらいがちに僕の姿を映すから、なんだか泣きたくなる。君のまえではなるべく綺麗でいることにしてるんだ。でもいつボロがでるか分からない。今もすぐにこの手をもっと強く握り肩を抱いて一人じめしたい。きっとそこらへんの女の子らしい女の子はそれを喜ぶかもしれないけれど、君は分からない。だから僕はそんな勇気もなくて、昨日と同じように君を家の前まで送った。今日もすずしげな顔で君はひらひらと手をふり僕が帰るのを見送った。人形みたいに無機質な顔だ。付き合いはじめて半年、僕は君に夢中だった。そして毎日同じような日々を二人ですごした。

それは時雨のふる放課後だったろうか。
「これ、いらなくなった、」
突如君はいつも頭につけている赤い花を僕に差し出した。
「どういうこと?」
僕は廊下の薄汚れた緑の壁をじっとみつめる。蝋のように視界がかたまる。呼吸はちぐはぐで動きもぎこちないことが自分でも分かった。
「じゃあね」 
きびすを返し彼女は立ち去る。どうして、どうして、どうして、、、。ただ思考だけがめまぐるしくまわる。なにも気にさわることなどしてないじゃないか。いや、なにもしなかったのか。それがいけなかったのか。だめだ。分からない。僕は必死に追いかけて混乱した頭で乱暴に彼女の肩を抱き、キスをした。
「ハァ、、まっ、、て、」
とぎれ、とぎれ、かっこわるい。何をすればつなぎとめられるか彼女から答えを教えてほしいくらいだった。
「ごめんね」
彼女の声がする。そのとき、やっと目に入った彼女の顔に驚いた。今までずっと人形のようだった彼女の表情が見たことないくらいまでに赤くなっていた。まるで人間みたいに。そのときだ。僕のなかでプツンっとなにかが切れた。彼女は続ける。
「少し、、ためしたの。あなたかをいつもこの花をみてたのわたし、知ってるの。」
あたりまえだ。僕があげた世界一美しい花。華奢なピン止めの上に赤のガラス細工があしらわれている。もう彼女の頭に赤い花はない。ガラガラとガラスの作品が壊れてくずれてく。音がした。
「ねぇ。わたしのことがすきなの?それとも、、、」
彼女の問いは雨で聞こえない。ぼくは彼女の目をもう一度見ることはできなかった。けれど、震える手で彼女の肩をそっと抱きなおし、
「君のこと好きなんだ。」
となぜか心にもないことをささやいた。
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