92 / 92
一攫千金の国『ベガ・ラグナス編』
フィオ&マルコの大冒険! 花火でビックリドッキリお祭り騒ぎ大作戦っス!
しおりを挟む
「キタキタキターあああああああああああああああッ‼ 大当たりっスよぉおおおおおおおおおお!」
「いいんですか……? こんなことしてて……」
「ダイジョブ、ダイジョブ! 急がなくても平気っスよ!」
目まぐるしく回り続けるスロットマシンから金色のメダルがジャンジャンバリバリと吐き出されている。カジノで呑気に遊んでいるフィオにマルコは心配そうにしていた。
*
時刻は午前2時31分。ミドは単独行動で最上階を目指し、フィオとマルコの二人はカジノの地下を目指している。
二人の目的はカジノの地下に向かい、依頼者のニオを探し出すことだった。キールが問題行動を起こしたせいで、一緒に入国したフィオとマルコもカジノ側から目をつけられてしまい、普通に入店はできなかった。
変装で身分を偽って入店する方法を二人は使えないため、入口を見張る黒服の目を逸らす方法をフィオとマルコが知恵を出し合った。その結果フィオが花火を使った作戦を思いつく。名付けて『花火でビックリドッキリお祭り騒ぎ大作戦』である。
そうと決まれば、さっそく大量の花火をフィオとマルコは買いに行く。黒服の視界に入らないように茂みに隠れながら、一気に花火に火をつけられる仕掛けをフィオが施した。フィオとマルコはお互いに頷く。
ヒュルルルルルルル〰〰〰〰〰〰〰〰………………ドン、ドドン‼ バチバチ! ドドドドドドドドドドドド! ヒュルル! ヒュルル‼ バチバチバチバチバチバチ! ドン! ドン! ドドン! ドン‼ ババババババババ‼ パチパチパチパチパチパチ‼ ドン、ドドン‼ バチバチ! ドドドドドドドドドドドド! ヒュルル! ヒュルル‼ バチバチバチバチバチバチ! ドン! ドン! ドドン! ドン‼ ババババババババ‼ パチパチパチパチパチパチ‼
突然、花火大会のような勢いでロケット花火や打ち上げ花火が打ち上がると黒服が驚いて凝視する。しかもそこから女性の悲鳴が響き渡った。
「きゃああああああああああああああああ! 花火が暴走してるっスううううううううううううううううううう‼」
悲鳴を聞いた黒服は慌てて花火が吹き上がっている場所に走っていく。……それを入口の端っこで見ていたフィオとマルコが忍び足で入っていった。
カジノの中に入ってしまえばこっちのものである。フィオとマルコは堂々と中に入って周囲を見渡す。煌々と輝く天井の照明、白く光沢した床は傷一つなく、鏡のように顔まで映りそうだ。緊張感のある表情でマルコがフィオに言う。
「上手く入れましたね。これからどうしますか?」
「決まってるっスよ……まずは──」
「まずは?」
真剣な表情で訊ねるマルコに対してフィオが静かに拳を握り、胸まで上げて言った。
「メダルを買って、スロットで遊ぶっスッ‼」
「えぇ⁉」
こうして今までスロットマシンでフィオは遊び呆けていたのだ。大当たりを出して積み上がるメダルの山を見てフィオは有頂天だ。後ろで見ていたマルコは早く地下に向かいたがっている様子でソワソワしながら言う。
「フィオさん早くしないと……いつまで遊んでる気ですか?」
「マルちゃん……物事にはタイミングってのがあるっス。焦ってタイミングを外せば上手く行くものも、うまく行かなくなるっス……ほら、こんな風に!」
ダン! ダン! ダン!
そう言って勢い良くスロットをストップボタンをフィオが目押しする。するとスロットの三つの絵柄が『777』で並び、再び楽しげな音楽と共にメダルが大量にスロットの口から吐き出された。
ジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラ‼
「ぎゃっはっは! チョロいチョロい! 笑いが止まらないっス!」
「もう……」
ケースに積み上がるコインを見てフィオは大喜びだ。呆れたマルコは一人で地下に行く場所を探しに行った。おそらく地下に行く通路は関係者以外立ち入り禁止になっているはずだ。カジノスタッフや黒服たちをマルコが遠目で観察する。
周囲を散策するように奥まで入っていったマルコがカジノの換金所を発見した。セキュリティが厳重で強化防弾ガラスと鉄格子で鳥かごのように囲まれている。換金所のスタッフと思わしき女性が中に座ってなにか仕事をしており、その後ろに裏に通じる扉が見える。
「あの奥に地下があるのかな……?」
マルコがつぶやいた。すると背後から人の気配を感じてマルコが振り返る。
「お客様、ちょっとよろしいですか?」
「え? え? えぇ⁉」
いつの間にか、いかつい黒服たちにマルコは囲まれていた。すると遠くからフィオの叫び声が聞こえてくる。
「納得いかないっスよ‼ イカサマなんてしてないっス‼ 普通に遊んでただけじゃないっスか‼」
「申し訳ありません、お客様。少々お時間をいただきます」
「離してほしいっス! あ、マルちゃん! あーしイカサマなんてしてないっスよね⁉」
屈強そうな黒服に両脇から捕まった宇宙人のように腕を持ち上げられたフィオが必死に無実を叫んでいる。思わずマルコは目をそらしてしまった。フィオが慌てて叫ぶ。
「ちょっとちょっと⁉ なに他人のフリしようとしてるっスか、マルちゃん⁉ もう〰〰離してほしいっス! あ、今お尻触った! 右のおじさんがお尻触ったっスよ‼ んぎゃあああ、痛い痛い‼ 耳は痛い! 耳を引っ張るのは勘弁してほしいっス‼」
黒服たちに連れられてフィオは事務所の奥に消えていく。それを見ていたマルコのこめかみを一滴の汗が流れていく。落ち着いてマルコが言う。
「あ、あの! ボクとあの人は赤の他人なんで! それじゃあ……」
「……おい」
「な、なんですか?」
「ごまかせると思ってんのか? お前もあの女と一緒にこの国に来てるのは調べ済みなんだよ……」
「いや……あの……それは……」
「さっさと来いッ!」
急に黒服の口調が変わり、マルコは動揺する。黒服はマルコの服を掴んで乱暴に裏に連れて行った。
その後、フィオとマルコは所持品の検査されて衣服以外はすべて没収をされた。そのままカジノの地下に連行されて拷問部屋らしき所に投げ入れられた。
何やら特別な拷問のプロがいるらしく、その人を呼んでくると言って全員いなくなってしまった。フィオとマルコは椅子に両手と足を縛られたまま拷問部屋に取り残されてしまう。普通は見張りの一人や二人残すものなのだが、どうやら完全に舐められているようだ。
黒服の中には「ガキだろうとイカサマはイカサマだ! 二度と舐めた真似できねぇようにしねぇとな!」と息巻いている者もいたため、このままじっとしていたらおそらく痛い目に遭わされることだろう。
周囲の痛々しい血に染まった壁を見渡しながらマルコが言う。
「ど、どど、どうしましょう、フィオさん‼」
「……さて、こんな陰気な場所に長居は無用っス。さっさと脱出するっスよ」
「え?」
「何のために、わざとイカサマまでして捕まったと思ってるっスか? カジノの地下に入れてくれなんて頼んでも入れてくれるわけないじゃないっスか。この方法なら勝手に地下まで案内してもらえると思ったっスよ」
「なるほど……。あえてイカサマをして事務所の中に入ったわけですね。じゃあこの部屋にボクたち以外いなくなるのも想定の範囲内だったんですか⁉」
「それは完全な幸運だったっス。いや~ラッキーだったっスね~。とにかく両手足の縄を解くのが先っス。マルちゃん、なにかいい方法ないっスか?」
「えぇ⁉ 何も考えてないんですか⁉」
「あーしは縄抜けは専門外っス! ここはマルちゃんの出番っス!」
「そ、そんな⁉」
無責任なフィオの頼みにマルコは困りながらもなんとか縄抜けをしようともがき始めた。顔を真っ赤にしながら体をくねらせて必死で抜け出そうとするが縄はびくともしない。それでも必死に縄抜けしようとマルコは暴れまわる。
「んぎぎぎぎぎ〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰‼」
──ボワッッッ‼
焦りと恐怖で感情が高まったのか、マルコが鼻息を荒くして竜人化してしまった⁉ ときおり鼻から火炎の息を吹き出すほど興奮している。
すると鼻の火炎放射がマルコの足を縛る縄に当たって火がついた。そのまま全身に燃え広がり、マルコの全身が炎に覆われた。縄は焼き切れて椅子は崩れ落ちると、マルコは立ち上がって大きく息を吸った。
「ふんッ!」
マルコが息を吐くと全身の炎が一瞬だけ天井まで燃え広がって消えた。そこに立っていたのは黒焦げマルコだった。
「マルちゃん⁉」
驚いてフィオが声をかけると黒焦げのそれは動き出してヒビが入り始めた。そしてパキパキっと表面が崩れ落ち、中からマルコが現れた。マルコは目を覚ますように目を開けてフィオを見ながら言った。
「フィオ……さん?」
「生きてるっスか⁉」
「ええ、はい……。あれ……ボク……どう、なったん、ですか?」
「なんか普通の拷問よりすごかったっスよ。火炙りで処刑されてるみたいだったっス。やっぱ竜って熱さに強いんスね……」
「火炙り?」
マルコは自分が丸焼きになったことを覚えてないらしい。割れて落ちた黒焦げの物体を観察してみると竜の皮膚のように見えた。よく分からないが全身を燃やされる前に竜の皮膚が生成されてマルコの肉体を守ったようだ。服も焼け焦げていなかったため皮膚の中は高温にさらされなかったのだろう。
あまり深く考えずにフィオの拘束もマルコに解いてもらって無事に二人は拘束から逃れた。
次は部屋からの脱出なのだが、拷問部屋の扉は鉄格子で外から南京錠で施錠されているようだ。それを見てマルコが言う。
「当然ですけど施錠されてますね……どうしましょう」
「意外とシンプルな南京錠っスね。これな開けられるんじゃないっスか?」
「え? 本当ですか⁉」
「次はあーしに任せるっス!」
そう言うとフィオは解除に取り掛かった。
ゼムクリップと呼ばれる小さな針金を二つ衣服の袖から引っ張り出す。そして二つのクリップ開いたり閉じたり変形させ始めた。
鉄格子の隙間から外に手を出してクリップを一つ南京錠の鍵穴に入れ、右回りにテンションをかけるように力を加える。その状態をキープしたまま、もう一つのクリップを鍵穴に入れて中のピンを一つ一つ上げていく作業をしていく。
ガチャガチャ……ガチャガチャ……ガチャガチャ……。
フィオは慣れていない様子でガチャガチャと針金を中で暴れさせている。マルコが心配そうに言う。
「開きそうですか?」
「おっかしいな~、キールは南京錠くらいなら簡単に開けてたっスよ~?」
「もしかして、やったことないんですか⁉」
「キールがやってるのを後ろで見てただけで、実は一回もないっス」
「一回も⁉」
「ま、なんとかなるもんっスよ! 安心してほしいっス!」
「で、でも鍵開けって専門的な技術が必要なんじゃ……」
そう言って眉を下げて不安そうなマルコをフィオがなだめつつ鍵開けを続行する。
ガチャガチャ……ガチャガチャ……カチッ!
「ほらきた!」
「本当ですか⁉」
「やっぱ、試してみるもんっスね!」
固く閉ざされていた南京錠が開き、なんとか拷問担当の人が来る前に逃げ出せそうである。フィオとマルコは音をなるべく立てないように息を止めながら錆びついた扉を開く。
ンキィィィィ……。
扉の隙間からフィオが外の通路を覗き込む。誰もいないことを確認してフィオがつま先立ちで外に出て、続けてマルコもついて行く。
通路は暗く空気が淀んでおり、薄気味悪い空間だった。この上できらびやかなカジノが広がってると思うと、まるで地獄に落とされたかのような屈辱感さえ覚える。
通路を通っていった先に小さな灯りを発見したフィオがマルコに言う。
「マルちゃんマルちゃん! 古そうなエレベーターあるっスよ!」
「まだ地下に降りられるんでしょうか?」
「とにかく行ってみるっス!」
「はい」
古めかしいエレベーターは金属の網の蛇腹式扉で閉ざされている。しかし外扉が施錠されており開かない。フィオとマルコが周囲を見渡すと扉横の壁に金属のフックが後からつけられたように打ち付けられており、そこに三角形の鍵を発見する。フィオが三角形の鍵穴に三角キーを差し込んで解錠した。
すると蛇腹の外扉が開いて「チン♪」という音が鳴った。フィオとマルコがお互いの顔を見てから頷いてエレベーターに乗り、さらに地下に下がっていった。2、3分くらい時間が経過し、エレベーターは更に地下に到着した。
再び「チン♪」と音が響き、蛇腹扉が開かれる。慎重に周囲を確認しながらフィオとマルコはエレベーターを降りる。最下層と思われる場所を目の当たりにしたマルコがつぶやく。
ヴゥー…… ピッ ピッ ピッ
「何ですか? コレ……」
「発電機? いや蓄電器っスかね。えらくデカいヤツっス……」
フィオとマルコが見上げたそれは巨大な機械は様々な回線が繋がっており、たくさんのメーターが白く光っている。重厚な音と振動が微かに床から伝わってくる。
巨大な蓄電器の手前には電気椅子のような椅子が複数並べられている。回線が椅子の肘掛けや腰、椅子の脚に伸びていて手足を拘束する金具に繋がっている。
「……まさか、この電気椅子みたいなのに座らせるんでしょうか?」
「処刑用の電気椅子じゃなさそうっスね。もしそうなら周囲に赤い血とか汚物のシミが散らばってるはずっスから……」
「電気を流すんじゃなくて……電気を奪うための椅子ってことですか?」
「……たぶん」
不快感を示しながらマルコが訊ねるとフィオが小さく答えた。マルコは冷静に周囲を観察している。
「──おい……! 誰か、いるのか……。頼む……ここから、出して……」
すると巨大な機械の裏から弱々しい声が聞こえてきた。するとマルコが一目散に声の方向に走っていた。フィオが慌ててマルコを追う。
「!」
マルコが声の主に気づく。遅れてフィオもその光景を目の当たりにする。
その視線の先には檻の中で壁にもたれかかる鬼族の男たちの姿だった。両手に手枷をつけられて壁に繋がれている者。両足には鉄球の足枷をつけられて思うように動けない者。手前の鉄格子にしがみつきながらこちらを睨む者など様々だ。
そこから目を離さずにマルコが言う。
「これって……もしかして」
「たぶん、ニオがいってた鬼族たちっスね」
「じゃあニオさんもこの中にいるんじゃないですか⁉」
「探してみるっス!」
そういってフィオが歩きだし、マルコもそれについていく。檻は複数あり、すべてに鬼族の男たちが複数人で入れられている。皆、発電に利用されているためか疲弊しており、鬼族にしては筋肉量が少ない気がする。
「……っ!」
マルコが何かに気づいてフィオに言う。
「いましたフィオさん! アレ、ニオさんじゃないですか⁉」
「あ、ホントっス‼」
「この檻、さっきの鍵開けで開けられませんか!」
「やってみるっス!」
フィオがさっきと同じように檻の鍵穴にクリップを入れてガチャガチャとピッキング作業に取り掛かった。すると、さっきよりも時間をかけずに解錠に成功し、金属がこすれる不快な音を出しながら檻の扉をを開いた。檻の中の鬼族の男の一人が声を漏らすように言った。
「あり、がとう。やっと……出られ、る……助かった……!」
檻が開いたのに気づいた中の鬼族たちは我先にと出ていこうとした。一気に7~8人が出ていく。フィオとマルコは他の檻も順番に開けていった。次々と鬼族たちは檻の外に出てきてフィオとマルコが来た道とは逆の通路の奥に向かって消えていく。
最後の檻の中に一人だけ取り残されている男がおり、すでに息絶えているようでピクリとも動かない。それに気づいたマルコがつぶやいた。
「……そんな」
悲しそうにマルコが見下ろしている鬼族の男は息絶えた依頼者のニオだった。フィオがマルコに声をかける。
「マルちゃん……」
「ボクがあの時、ニオさんを守れていれば……」
「しょうがないっス……あの吸血鬼女じゃ相手が悪かったっス。マルちゃんは悪くないっスよ……」
落ち込んでいるマルコの肩に手を乗せたフィオが言った。その時──。
「ひゃあ⁉ やめろ! 来るなァ‼ ひぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼‼‼」
「⁉」
突然悲鳴が聞こえてフィオとマルコが振り返る! するとさきほど逃した鬼族たちが血相を変えてこちらに走ってきて、そのまま逆方向のフィオたちが来た道の方に逃げていった。
「──いきなり襲いかかってくるなんて、失礼だと思うのだけど?」
赤い血で汚れた包丁と逃げた鬼族の男の生首を持った女が立っていた。右手に凶器の包丁を持ち、左手には鬼族の頭頂部の髪を掴んで、ぶら下げるように持っている。
おそらくさきほど檻から逃した鬼族の男の死体の一部だろう。切り落とされた直後のようで首から血がダラダラと流れている。
女は左手の生首を振り子のように前後に揺らしてフィオとマルコの足元に投げた。
ボトっ。……ゴロゴロ。
「!」
生気のない生首と目があってフィオとマルコが緊張して目を見開く。すると女が言う。
「ゴメンナサイ。その殿方がいきなり抱きつこうとしてきたから……つい首を切り落としちゃったの。許してね」
まるで当然の行為だったかのように女は笑顔で言った。緊張してフィオとマルコは女を凝視したまま動けずにいる。それを見て女が言った。
「あらあら、もしかしてアナタたちがイカサマで捕まったって子たちかしら? せっかく拷問してあげようと思って来たのに、逃げるなんて残念なのだけど?」
「冗談じゃないっス! 逃げるっスよマルちゃん‼」
「は、はい!」
そう言うと、フィオはマルコの手を引いて一目散に逃げ出した。さっき通ってきた道を戻り、エレベーターの前までくると鬼族立ちが必死でエレベーターの蛇腹扉を開こうとしている。しかし痩せ細った筋肉では開けられない様子だ。そこにフィオとマルコが走ってきて三角キーを差し込んで蛇腹扉を開ける。
金属の網が左右に開かれると鬼族の男たちが我先にと乗り出した。フィオとマルコが乗ろうとすると「ビー!」と定員オーバーのブザーが鳴った。それに驚いたマルコがエレベーターからピョンっと降りるとブザーが鳴り止む。どうやらギリギリマルコまで乗れないようだ。
フィオとマルコがエレベーター内を振り返ると鬼族の男たちは一斉に目を逸らす。当然だ。誰だって一人だけ残されて犠牲になど、なりたくはない。
コツ……コツ……コツ。
「!」
奥の方からヒールの足音が近づいてきた。ゾイが優雅に歩いて迫ってきている。するとマルコが覚悟を決めたように言った。
「フィオさん……鬼族の人たちをお願いします」
「大丈夫っス! あーしが配線イジってなんとかしてみせるっス‼ 早く乗るっスよ‼」
フィオがマルコに手を伸ばす。しかしマルコは困ったように微笑みながらエレベーターのドアを締めてしまう。そして蛇腹式の金属扉が閉じるとマルコは鍵をかけた。
フィオが慌てて叫ぶ。
「ちょっと何してるっスか⁉」
「ここでボクがあの女を足止めします! フィオさんは鬼族の人たちを連れて逃げてください!」
「馬鹿なこと言ってないで早くエレベーターに乗るっスよ‼」
フィオの言葉に嬉しそうに、そして少し不安そうに微笑んだマルコはエレベーターの上がるボタンを押した。エレベーターはガシャンと音を立てて昇っていく。蛇腹の金属の隙間から見えるフィオの姿を見送ったマルコは、背後から近づく足音に意識を向けて振り返る。
コツ……コツ……コツ。
「あらあら、勇敢な坊やなのね。そんなにお姉さんと遊んで欲しいのかしら?」
「残念でしたね。他の人はエレベーターで上まで行きました。このエレベーターの鍵はボクが持ってます。ボクから鍵を奪わないとエレベーターには乗れませんよ……」
「それは残念ね。あ、そうそう。殺す前に聞いておかないと」
「……?」
「緑髪の死神は、今どこ?」
「ま、前にも言いましたよね? そんな人、知りません……!」
「地下に来てないってことは……最上階かしら?」
「──ッ!」
「んふふ、可愛い。図星かしら♥」
「……くっ‼ ミドさんの手を煩わせるわけには行きません‼ ボクがお前を止める‼」
「良い子だから鍵を渡してくれないかしら?」
「嫌だといったら……?」
「聞き分けのない子ね。大人の言うことは素直に聞いた方が身のためだと思うのだけど?」
「すいませんね。いま絶賛、反抗期中なんですよ……!」
──ボワッ‼
マルコは周囲の空気が変わった。顔の左半分に紫色の竜の鱗が浮かぶ上がり、マルコはゾイを見据えて言う。
「鍵は渡さない! ボクを捕まえられるもんなら、捕まえてみろ‼」
「んふふ……いいわ。お姉さんが『イケナイ遊び』を教えてあげる。昇天するくらいに♥」
ついに竜人マルコと血濡れの女淫魔「ゾイ・ゲルヴィラ」の鬼ごっこが始まった──。
「いいんですか……? こんなことしてて……」
「ダイジョブ、ダイジョブ! 急がなくても平気っスよ!」
目まぐるしく回り続けるスロットマシンから金色のメダルがジャンジャンバリバリと吐き出されている。カジノで呑気に遊んでいるフィオにマルコは心配そうにしていた。
*
時刻は午前2時31分。ミドは単独行動で最上階を目指し、フィオとマルコの二人はカジノの地下を目指している。
二人の目的はカジノの地下に向かい、依頼者のニオを探し出すことだった。キールが問題行動を起こしたせいで、一緒に入国したフィオとマルコもカジノ側から目をつけられてしまい、普通に入店はできなかった。
変装で身分を偽って入店する方法を二人は使えないため、入口を見張る黒服の目を逸らす方法をフィオとマルコが知恵を出し合った。その結果フィオが花火を使った作戦を思いつく。名付けて『花火でビックリドッキリお祭り騒ぎ大作戦』である。
そうと決まれば、さっそく大量の花火をフィオとマルコは買いに行く。黒服の視界に入らないように茂みに隠れながら、一気に花火に火をつけられる仕掛けをフィオが施した。フィオとマルコはお互いに頷く。
ヒュルルルルルルル〰〰〰〰〰〰〰〰………………ドン、ドドン‼ バチバチ! ドドドドドドドドドドドド! ヒュルル! ヒュルル‼ バチバチバチバチバチバチ! ドン! ドン! ドドン! ドン‼ ババババババババ‼ パチパチパチパチパチパチ‼ ドン、ドドン‼ バチバチ! ドドドドドドドドドドドド! ヒュルル! ヒュルル‼ バチバチバチバチバチバチ! ドン! ドン! ドドン! ドン‼ ババババババババ‼ パチパチパチパチパチパチ‼
突然、花火大会のような勢いでロケット花火や打ち上げ花火が打ち上がると黒服が驚いて凝視する。しかもそこから女性の悲鳴が響き渡った。
「きゃああああああああああああああああ! 花火が暴走してるっスううううううううううううううううううう‼」
悲鳴を聞いた黒服は慌てて花火が吹き上がっている場所に走っていく。……それを入口の端っこで見ていたフィオとマルコが忍び足で入っていった。
カジノの中に入ってしまえばこっちのものである。フィオとマルコは堂々と中に入って周囲を見渡す。煌々と輝く天井の照明、白く光沢した床は傷一つなく、鏡のように顔まで映りそうだ。緊張感のある表情でマルコがフィオに言う。
「上手く入れましたね。これからどうしますか?」
「決まってるっスよ……まずは──」
「まずは?」
真剣な表情で訊ねるマルコに対してフィオが静かに拳を握り、胸まで上げて言った。
「メダルを買って、スロットで遊ぶっスッ‼」
「えぇ⁉」
こうして今までスロットマシンでフィオは遊び呆けていたのだ。大当たりを出して積み上がるメダルの山を見てフィオは有頂天だ。後ろで見ていたマルコは早く地下に向かいたがっている様子でソワソワしながら言う。
「フィオさん早くしないと……いつまで遊んでる気ですか?」
「マルちゃん……物事にはタイミングってのがあるっス。焦ってタイミングを外せば上手く行くものも、うまく行かなくなるっス……ほら、こんな風に!」
ダン! ダン! ダン!
そう言って勢い良くスロットをストップボタンをフィオが目押しする。するとスロットの三つの絵柄が『777』で並び、再び楽しげな音楽と共にメダルが大量にスロットの口から吐き出された。
ジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラ‼
「ぎゃっはっは! チョロいチョロい! 笑いが止まらないっス!」
「もう……」
ケースに積み上がるコインを見てフィオは大喜びだ。呆れたマルコは一人で地下に行く場所を探しに行った。おそらく地下に行く通路は関係者以外立ち入り禁止になっているはずだ。カジノスタッフや黒服たちをマルコが遠目で観察する。
周囲を散策するように奥まで入っていったマルコがカジノの換金所を発見した。セキュリティが厳重で強化防弾ガラスと鉄格子で鳥かごのように囲まれている。換金所のスタッフと思わしき女性が中に座ってなにか仕事をしており、その後ろに裏に通じる扉が見える。
「あの奥に地下があるのかな……?」
マルコがつぶやいた。すると背後から人の気配を感じてマルコが振り返る。
「お客様、ちょっとよろしいですか?」
「え? え? えぇ⁉」
いつの間にか、いかつい黒服たちにマルコは囲まれていた。すると遠くからフィオの叫び声が聞こえてくる。
「納得いかないっスよ‼ イカサマなんてしてないっス‼ 普通に遊んでただけじゃないっスか‼」
「申し訳ありません、お客様。少々お時間をいただきます」
「離してほしいっス! あ、マルちゃん! あーしイカサマなんてしてないっスよね⁉」
屈強そうな黒服に両脇から捕まった宇宙人のように腕を持ち上げられたフィオが必死に無実を叫んでいる。思わずマルコは目をそらしてしまった。フィオが慌てて叫ぶ。
「ちょっとちょっと⁉ なに他人のフリしようとしてるっスか、マルちゃん⁉ もう〰〰離してほしいっス! あ、今お尻触った! 右のおじさんがお尻触ったっスよ‼ んぎゃあああ、痛い痛い‼ 耳は痛い! 耳を引っ張るのは勘弁してほしいっス‼」
黒服たちに連れられてフィオは事務所の奥に消えていく。それを見ていたマルコのこめかみを一滴の汗が流れていく。落ち着いてマルコが言う。
「あ、あの! ボクとあの人は赤の他人なんで! それじゃあ……」
「……おい」
「な、なんですか?」
「ごまかせると思ってんのか? お前もあの女と一緒にこの国に来てるのは調べ済みなんだよ……」
「いや……あの……それは……」
「さっさと来いッ!」
急に黒服の口調が変わり、マルコは動揺する。黒服はマルコの服を掴んで乱暴に裏に連れて行った。
その後、フィオとマルコは所持品の検査されて衣服以外はすべて没収をされた。そのままカジノの地下に連行されて拷問部屋らしき所に投げ入れられた。
何やら特別な拷問のプロがいるらしく、その人を呼んでくると言って全員いなくなってしまった。フィオとマルコは椅子に両手と足を縛られたまま拷問部屋に取り残されてしまう。普通は見張りの一人や二人残すものなのだが、どうやら完全に舐められているようだ。
黒服の中には「ガキだろうとイカサマはイカサマだ! 二度と舐めた真似できねぇようにしねぇとな!」と息巻いている者もいたため、このままじっとしていたらおそらく痛い目に遭わされることだろう。
周囲の痛々しい血に染まった壁を見渡しながらマルコが言う。
「ど、どど、どうしましょう、フィオさん‼」
「……さて、こんな陰気な場所に長居は無用っス。さっさと脱出するっスよ」
「え?」
「何のために、わざとイカサマまでして捕まったと思ってるっスか? カジノの地下に入れてくれなんて頼んでも入れてくれるわけないじゃないっスか。この方法なら勝手に地下まで案内してもらえると思ったっスよ」
「なるほど……。あえてイカサマをして事務所の中に入ったわけですね。じゃあこの部屋にボクたち以外いなくなるのも想定の範囲内だったんですか⁉」
「それは完全な幸運だったっス。いや~ラッキーだったっスね~。とにかく両手足の縄を解くのが先っス。マルちゃん、なにかいい方法ないっスか?」
「えぇ⁉ 何も考えてないんですか⁉」
「あーしは縄抜けは専門外っス! ここはマルちゃんの出番っス!」
「そ、そんな⁉」
無責任なフィオの頼みにマルコは困りながらもなんとか縄抜けをしようともがき始めた。顔を真っ赤にしながら体をくねらせて必死で抜け出そうとするが縄はびくともしない。それでも必死に縄抜けしようとマルコは暴れまわる。
「んぎぎぎぎぎ〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰‼」
──ボワッッッ‼
焦りと恐怖で感情が高まったのか、マルコが鼻息を荒くして竜人化してしまった⁉ ときおり鼻から火炎の息を吹き出すほど興奮している。
すると鼻の火炎放射がマルコの足を縛る縄に当たって火がついた。そのまま全身に燃え広がり、マルコの全身が炎に覆われた。縄は焼き切れて椅子は崩れ落ちると、マルコは立ち上がって大きく息を吸った。
「ふんッ!」
マルコが息を吐くと全身の炎が一瞬だけ天井まで燃え広がって消えた。そこに立っていたのは黒焦げマルコだった。
「マルちゃん⁉」
驚いてフィオが声をかけると黒焦げのそれは動き出してヒビが入り始めた。そしてパキパキっと表面が崩れ落ち、中からマルコが現れた。マルコは目を覚ますように目を開けてフィオを見ながら言った。
「フィオ……さん?」
「生きてるっスか⁉」
「ええ、はい……。あれ……ボク……どう、なったん、ですか?」
「なんか普通の拷問よりすごかったっスよ。火炙りで処刑されてるみたいだったっス。やっぱ竜って熱さに強いんスね……」
「火炙り?」
マルコは自分が丸焼きになったことを覚えてないらしい。割れて落ちた黒焦げの物体を観察してみると竜の皮膚のように見えた。よく分からないが全身を燃やされる前に竜の皮膚が生成されてマルコの肉体を守ったようだ。服も焼け焦げていなかったため皮膚の中は高温にさらされなかったのだろう。
あまり深く考えずにフィオの拘束もマルコに解いてもらって無事に二人は拘束から逃れた。
次は部屋からの脱出なのだが、拷問部屋の扉は鉄格子で外から南京錠で施錠されているようだ。それを見てマルコが言う。
「当然ですけど施錠されてますね……どうしましょう」
「意外とシンプルな南京錠っスね。これな開けられるんじゃないっスか?」
「え? 本当ですか⁉」
「次はあーしに任せるっス!」
そう言うとフィオは解除に取り掛かった。
ゼムクリップと呼ばれる小さな針金を二つ衣服の袖から引っ張り出す。そして二つのクリップ開いたり閉じたり変形させ始めた。
鉄格子の隙間から外に手を出してクリップを一つ南京錠の鍵穴に入れ、右回りにテンションをかけるように力を加える。その状態をキープしたまま、もう一つのクリップを鍵穴に入れて中のピンを一つ一つ上げていく作業をしていく。
ガチャガチャ……ガチャガチャ……ガチャガチャ……。
フィオは慣れていない様子でガチャガチャと針金を中で暴れさせている。マルコが心配そうに言う。
「開きそうですか?」
「おっかしいな~、キールは南京錠くらいなら簡単に開けてたっスよ~?」
「もしかして、やったことないんですか⁉」
「キールがやってるのを後ろで見てただけで、実は一回もないっス」
「一回も⁉」
「ま、なんとかなるもんっスよ! 安心してほしいっス!」
「で、でも鍵開けって専門的な技術が必要なんじゃ……」
そう言って眉を下げて不安そうなマルコをフィオがなだめつつ鍵開けを続行する。
ガチャガチャ……ガチャガチャ……カチッ!
「ほらきた!」
「本当ですか⁉」
「やっぱ、試してみるもんっスね!」
固く閉ざされていた南京錠が開き、なんとか拷問担当の人が来る前に逃げ出せそうである。フィオとマルコは音をなるべく立てないように息を止めながら錆びついた扉を開く。
ンキィィィィ……。
扉の隙間からフィオが外の通路を覗き込む。誰もいないことを確認してフィオがつま先立ちで外に出て、続けてマルコもついて行く。
通路は暗く空気が淀んでおり、薄気味悪い空間だった。この上できらびやかなカジノが広がってると思うと、まるで地獄に落とされたかのような屈辱感さえ覚える。
通路を通っていった先に小さな灯りを発見したフィオがマルコに言う。
「マルちゃんマルちゃん! 古そうなエレベーターあるっスよ!」
「まだ地下に降りられるんでしょうか?」
「とにかく行ってみるっス!」
「はい」
古めかしいエレベーターは金属の網の蛇腹式扉で閉ざされている。しかし外扉が施錠されており開かない。フィオとマルコが周囲を見渡すと扉横の壁に金属のフックが後からつけられたように打ち付けられており、そこに三角形の鍵を発見する。フィオが三角形の鍵穴に三角キーを差し込んで解錠した。
すると蛇腹の外扉が開いて「チン♪」という音が鳴った。フィオとマルコがお互いの顔を見てから頷いてエレベーターに乗り、さらに地下に下がっていった。2、3分くらい時間が経過し、エレベーターは更に地下に到着した。
再び「チン♪」と音が響き、蛇腹扉が開かれる。慎重に周囲を確認しながらフィオとマルコはエレベーターを降りる。最下層と思われる場所を目の当たりにしたマルコがつぶやく。
ヴゥー…… ピッ ピッ ピッ
「何ですか? コレ……」
「発電機? いや蓄電器っスかね。えらくデカいヤツっス……」
フィオとマルコが見上げたそれは巨大な機械は様々な回線が繋がっており、たくさんのメーターが白く光っている。重厚な音と振動が微かに床から伝わってくる。
巨大な蓄電器の手前には電気椅子のような椅子が複数並べられている。回線が椅子の肘掛けや腰、椅子の脚に伸びていて手足を拘束する金具に繋がっている。
「……まさか、この電気椅子みたいなのに座らせるんでしょうか?」
「処刑用の電気椅子じゃなさそうっスね。もしそうなら周囲に赤い血とか汚物のシミが散らばってるはずっスから……」
「電気を流すんじゃなくて……電気を奪うための椅子ってことですか?」
「……たぶん」
不快感を示しながらマルコが訊ねるとフィオが小さく答えた。マルコは冷静に周囲を観察している。
「──おい……! 誰か、いるのか……。頼む……ここから、出して……」
すると巨大な機械の裏から弱々しい声が聞こえてきた。するとマルコが一目散に声の方向に走っていた。フィオが慌ててマルコを追う。
「!」
マルコが声の主に気づく。遅れてフィオもその光景を目の当たりにする。
その視線の先には檻の中で壁にもたれかかる鬼族の男たちの姿だった。両手に手枷をつけられて壁に繋がれている者。両足には鉄球の足枷をつけられて思うように動けない者。手前の鉄格子にしがみつきながらこちらを睨む者など様々だ。
そこから目を離さずにマルコが言う。
「これって……もしかして」
「たぶん、ニオがいってた鬼族たちっスね」
「じゃあニオさんもこの中にいるんじゃないですか⁉」
「探してみるっス!」
そういってフィオが歩きだし、マルコもそれについていく。檻は複数あり、すべてに鬼族の男たちが複数人で入れられている。皆、発電に利用されているためか疲弊しており、鬼族にしては筋肉量が少ない気がする。
「……っ!」
マルコが何かに気づいてフィオに言う。
「いましたフィオさん! アレ、ニオさんじゃないですか⁉」
「あ、ホントっス‼」
「この檻、さっきの鍵開けで開けられませんか!」
「やってみるっス!」
フィオがさっきと同じように檻の鍵穴にクリップを入れてガチャガチャとピッキング作業に取り掛かった。すると、さっきよりも時間をかけずに解錠に成功し、金属がこすれる不快な音を出しながら檻の扉をを開いた。檻の中の鬼族の男の一人が声を漏らすように言った。
「あり、がとう。やっと……出られ、る……助かった……!」
檻が開いたのに気づいた中の鬼族たちは我先にと出ていこうとした。一気に7~8人が出ていく。フィオとマルコは他の檻も順番に開けていった。次々と鬼族たちは檻の外に出てきてフィオとマルコが来た道とは逆の通路の奥に向かって消えていく。
最後の檻の中に一人だけ取り残されている男がおり、すでに息絶えているようでピクリとも動かない。それに気づいたマルコがつぶやいた。
「……そんな」
悲しそうにマルコが見下ろしている鬼族の男は息絶えた依頼者のニオだった。フィオがマルコに声をかける。
「マルちゃん……」
「ボクがあの時、ニオさんを守れていれば……」
「しょうがないっス……あの吸血鬼女じゃ相手が悪かったっス。マルちゃんは悪くないっスよ……」
落ち込んでいるマルコの肩に手を乗せたフィオが言った。その時──。
「ひゃあ⁉ やめろ! 来るなァ‼ ひぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼‼‼」
「⁉」
突然悲鳴が聞こえてフィオとマルコが振り返る! するとさきほど逃した鬼族たちが血相を変えてこちらに走ってきて、そのまま逆方向のフィオたちが来た道の方に逃げていった。
「──いきなり襲いかかってくるなんて、失礼だと思うのだけど?」
赤い血で汚れた包丁と逃げた鬼族の男の生首を持った女が立っていた。右手に凶器の包丁を持ち、左手には鬼族の頭頂部の髪を掴んで、ぶら下げるように持っている。
おそらくさきほど檻から逃した鬼族の男の死体の一部だろう。切り落とされた直後のようで首から血がダラダラと流れている。
女は左手の生首を振り子のように前後に揺らしてフィオとマルコの足元に投げた。
ボトっ。……ゴロゴロ。
「!」
生気のない生首と目があってフィオとマルコが緊張して目を見開く。すると女が言う。
「ゴメンナサイ。その殿方がいきなり抱きつこうとしてきたから……つい首を切り落としちゃったの。許してね」
まるで当然の行為だったかのように女は笑顔で言った。緊張してフィオとマルコは女を凝視したまま動けずにいる。それを見て女が言った。
「あらあら、もしかしてアナタたちがイカサマで捕まったって子たちかしら? せっかく拷問してあげようと思って来たのに、逃げるなんて残念なのだけど?」
「冗談じゃないっス! 逃げるっスよマルちゃん‼」
「は、はい!」
そう言うと、フィオはマルコの手を引いて一目散に逃げ出した。さっき通ってきた道を戻り、エレベーターの前までくると鬼族立ちが必死でエレベーターの蛇腹扉を開こうとしている。しかし痩せ細った筋肉では開けられない様子だ。そこにフィオとマルコが走ってきて三角キーを差し込んで蛇腹扉を開ける。
金属の網が左右に開かれると鬼族の男たちが我先にと乗り出した。フィオとマルコが乗ろうとすると「ビー!」と定員オーバーのブザーが鳴った。それに驚いたマルコがエレベーターからピョンっと降りるとブザーが鳴り止む。どうやらギリギリマルコまで乗れないようだ。
フィオとマルコがエレベーター内を振り返ると鬼族の男たちは一斉に目を逸らす。当然だ。誰だって一人だけ残されて犠牲になど、なりたくはない。
コツ……コツ……コツ。
「!」
奥の方からヒールの足音が近づいてきた。ゾイが優雅に歩いて迫ってきている。するとマルコが覚悟を決めたように言った。
「フィオさん……鬼族の人たちをお願いします」
「大丈夫っス! あーしが配線イジってなんとかしてみせるっス‼ 早く乗るっスよ‼」
フィオがマルコに手を伸ばす。しかしマルコは困ったように微笑みながらエレベーターのドアを締めてしまう。そして蛇腹式の金属扉が閉じるとマルコは鍵をかけた。
フィオが慌てて叫ぶ。
「ちょっと何してるっスか⁉」
「ここでボクがあの女を足止めします! フィオさんは鬼族の人たちを連れて逃げてください!」
「馬鹿なこと言ってないで早くエレベーターに乗るっスよ‼」
フィオの言葉に嬉しそうに、そして少し不安そうに微笑んだマルコはエレベーターの上がるボタンを押した。エレベーターはガシャンと音を立てて昇っていく。蛇腹の金属の隙間から見えるフィオの姿を見送ったマルコは、背後から近づく足音に意識を向けて振り返る。
コツ……コツ……コツ。
「あらあら、勇敢な坊やなのね。そんなにお姉さんと遊んで欲しいのかしら?」
「残念でしたね。他の人はエレベーターで上まで行きました。このエレベーターの鍵はボクが持ってます。ボクから鍵を奪わないとエレベーターには乗れませんよ……」
「それは残念ね。あ、そうそう。殺す前に聞いておかないと」
「……?」
「緑髪の死神は、今どこ?」
「ま、前にも言いましたよね? そんな人、知りません……!」
「地下に来てないってことは……最上階かしら?」
「──ッ!」
「んふふ、可愛い。図星かしら♥」
「……くっ‼ ミドさんの手を煩わせるわけには行きません‼ ボクがお前を止める‼」
「良い子だから鍵を渡してくれないかしら?」
「嫌だといったら……?」
「聞き分けのない子ね。大人の言うことは素直に聞いた方が身のためだと思うのだけど?」
「すいませんね。いま絶賛、反抗期中なんですよ……!」
──ボワッ‼
マルコは周囲の空気が変わった。顔の左半分に紫色の竜の鱗が浮かぶ上がり、マルコはゾイを見据えて言う。
「鍵は渡さない! ボクを捕まえられるもんなら、捕まえてみろ‼」
「んふふ……いいわ。お姉さんが『イケナイ遊び』を教えてあげる。昇天するくらいに♥」
ついに竜人マルコと血濡れの女淫魔「ゾイ・ゲルヴィラ」の鬼ごっこが始まった──。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
異世界子供ヤクザ【ダラムルバクト】
忍絵 奉公
ファンタジー
孤児院からスラムで育ったバクト。異空間収納と鑑定眼のダブルギフト持ちだった。王都西地区20番街では8割を縄張りとする先代のじいさんに拾われる。しかしその爺さんが死んだときに幹部同士のいざこざが起こり、組は解散。どさくさにまぎれてバクトが5・6番街の守役となった。物語はそこから始まる。7・8番街を収めるダモンとの争い。また後ろ盾になろうと搾取しようとする侯爵ポンポチーコ。バクトは彼らを越えて、どんどん規格外に大きくなっていく。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
俺は陰キャだったはずなのに……なぜか学園内でモテ期が到来した件
こうたろ
青春
友人も恋人も居ないボッチ学生だった山田拓海が何故かモテだしてしまう。
・学園一の美人で、男女問わず憧れの的。
・陸上部のエースで、明るく活発なスポーツ女子。
・物静かで儚げな美術部員。
・アメリカから来た金髪碧眼でハイテンションな留学生。
・幼稚園から中学まで毎朝一緒に登校していた幼馴染。
拓海の生活はどうなるのか!?
鬼の兵法伝承者、異世界に転世せしむる
書仙凡人
ファンタジー
俺の名は桜木小次郎。
鬼一法眼を祖とする鬼一兵法の令和の伝承者。
だがある時、なぜか突然死してしまったのだ。
その時、自称神様の変なペンギンが現れて、ファンタジー世界の転生を持ちかけられた。
俺はヤケになって転生受け入れたら、とんでもない素性の奴にログインする事になったのである。
ログイン先は滅亡した国の王子で、従者に毒盛られて殺されたばかり。
なにこれ? クーリングオフねぇのかよ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる