ミドくんの奇妙な異世界旅行記

作者不明

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伝説の殺し屋『緑髪の死神』

死刑台に登ると皆が拍手喝采しました。でも処刑の瞬間を迎えた時――

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 ――昔々、様々な文化や思想の国が乱立する混沌の時代に『死神』と呼ばれる殺し屋がいた。

 修羅さながらに人を殺し、彼に殺しの依頼をすれば、一晩で国すら滅ぼしてしまうと噂されるほどの最強の殺し屋。

 その姿は深い緑色の髪と、鮮血のように紅い瞳をしているという。いつしか人は、その殺し屋を『緑髪りょくがの死神』と呼んだ。

 しかし、とある国の王族を皆殺しにしたことがきっかけで、彼は一〇〇億の賞金首として世界から命を狙われてしまい、人知れず姿を消した……。
 その行方は誰も知らない。『緑髪りょくがの死神』の名は、伝説となっていった――。







「――空は何で、蒼いのかなぁ?」

 少年は思わずつぶやいていた。
 雲一つない青空、これはまさに快晴と呼ぶべき光景だろうか。見事なほど視界の端から端まで雲の姿が確認できない。とても、とても、蒼く澄んでいた。
 少年の目の前には木製の階段が青い空の先へと向かっている。その先には、輪っかにされたロープが一本つり下がっている。その独特の雰囲気に少年は確信した。

 ――ボクはこれから、殺されるだろう。

 少年の年齢は、およそ十代後半。つぶらな瞳、黒髪に見えるが太陽の光が当たると深い緑色に輝く美しい髪の毛をしている。動きやすそうな緑色の民族衣装を身にまとい、黒いシンプルな靴を履いている。

「おいガキ、最後に言い残すことはあるか?」

 片手に槍を持ち、安っぽそうな鎧を身に着けた痩せぎすの男が隣に立って聞いてきた。小汚い鎧の風貌、男性特有の汗の臭いが鼻の穴を通り抜けることに不快感を覚えながら応える。

「そうだなぁ……長旅で疲れてるんで、今すぐシャワーでも浴びて、ぐっすり眠りにつきたいですかねぇ」
「ふんっ! 安心しろ。もうすぐ永遠の眠りにつけるだろうよ!」

 痩せぎすの男は、ぶっきらぼうに答えて少年の背中を足で突き飛ばす。少年は少しよろめきながら体勢を立て直し、両手を縛られたまま、ゆっくり木製の階段を上る。

「ハァ……ボクも年貢の納め時かなぁ」

 階段を上った先には、大勢の人間が今か今かと死刑執行の瞬間に期待感を募らせながら、ニヤついた表情でこちらを観ている。死刑が娯楽の国があるとは聞いていたが、まさかこの国がそうだとは思わなかった。
 階段の一番上まで到達する。目の前にぶらさがった首をくくるロープの前まで行くと、ファンファーレが広場中に響き渡り、一人の兵士が声を張り上げた。

「――これより、この国で違法行為をした旅人を……絞首刑に処する!」

「待ってました!」
「早く! 早くしてちょうだい!」
「殺せ、殺せ! 死んで罪を償え!」

 観客の歓声が響き渡る。よだれを垂らしながら、目を血走らせている者までいる。殺せコールが一向に止む気配がない。罪を償わせるという目的からズレて、死刑をすることが目的になっているのだろうか。まさに手段が目的化した例なのかと考えていた。

「人間が死ぬ姿を楽しむなんて、あまりイイ趣味とは言えないね。……まぁ、ボクが言えたことじゃないけど」

 そうしていると、近くの兵士が少年に歩み寄ってロープを首にくくりつける。緊張しているのか、兵士の手にかかっている力が強い気がする。かなりきつめにロープの輪を締められてしまった。

「ちょ、待って! 苦しい苦しい! これじゃ下に落ちる前に窒息死しちゃう! 苦しくて、おしっこ漏らしちゃうううううううううううううううううう!!」
「あぁ! すみません。……ってなんでお前にそんなこと言われなくちゃ――」
「観客は正式な死刑が見たいんだから、ボクが君に殺されたら大勢の観客が納得しないよ! 観客の機嫌を損ねたら次は君が――」
「わ、分かりました! 今、ロープ緩めるんで……」

 兵士は怯えながらロープを緩める。自分でも慌ててよく分からない理論を展開したと思うが、とにかく間一髪セーフである。こっちにも心の準備と言うものがある。死刑執行の前に絞殺などされたくはない。数秒でも長生きできたのだから良しとしよう。
 兵士が少年から離れると階段の下にいる別の兵士が声を張る。

「それでは、お待たせいたしました! 皆さん。準備はよろしいでしょうか? 今から一〇秒後、絞首刑を執行いたします!」

 大晦日のカウントダウンのような雰囲気で進行する兵士。何にもおめでたくないこの状況で観客も一緒に数えるようだ。

「一〇! 九! 八!」

 気持ち悪いほどの大合唱。このカウントダウンの数字がゼロになった瞬間に床が抜けて宙ぶらりんだ。その時、自分の身体の重さで首の骨が折れて、ボクは即死するだろう。

「キール、フィオ………………ごめん」

 少年は静かに目をつむった。

「三! 二! 一!」

 ガコン!

 次の瞬間、床が抜けて少年が落ちていく。

 ヒュン!

 しかし、ロープが伸びきる寸前に小型のナイフのような物が飛んできてロープを切った。そのまま少年が真っ逆さまに落ちていき、地面に頭から激突するとき、何者かが少年を受け止めた。

「――っと。間に合った」

 広場は静寂に包みこまれる。
 処刑台の下に少年を肩に抱えたもう一人の少年がいる。金髪のくせっ気で、ツリ目で緑色の瞳。透き通るような色白の肌。赤いシャツを着て腕まくりをしており、下は黒いズボンと靴を履いている。

「誰だああああああああああ!! 邪魔すんじゃねぇぇえええ!!」
「そいつも殺せえええええええええええええええええええ!!」

 数秒後に観客が怒り狂った。

「チッ……おいミド! 無事か?」
「いやぁ、キールが遅いから、みっともなく騒いで時間稼ぎまでしちゃったよ~。でもこれはこれで、おもしろい経験だったねぇ~」
呑気のんきなこと言ってる場合か! 逃げるぞ!」

 キールと呼ばれた少年は、今しがた絞首刑にされかけた少年をミドと呼び、片手で抱えたまま走りだした。

「逃がすなああああああああああああああああああああああ!!!」

 当然、その広場にいた大衆は二人を追ってくる。狂ったように金切り声を上げている者や、携帯していたであろうナイフを片手に走ってくる。

「ところで、フィオは無事なの?」
「ああ、フィオも今こっちに向かってる!」

 すると、上空からエンジンの轟音を響かせながら、巨大な影が降りてくる。

「ミドくん! キール! 生きてるっスか?」

 上空を見上げると海のマンボウのような独特の形状をした、赤と黄色に彩られた巨大な船が浮かんでいた。飛行を可能とする船だ。その船から少女の声が拡声器を通して響いてきた。

「おお、フィオ! こっちこっち!」
「フィオ! ハシゴ下ろせ!」

 ミドが気づいて声をかけ、キールがハシゴの要求をすると、船の上部から長い縄のハシゴが降りてくる。しかし縄ハシゴの長さが足りず手が届かない。そのことにキールが声を張り上げた。

「おい! もうちょっと近づけろ!」
「悪いんスけど、これ以上近づけないんで飛び乗ってほしいっス!」
「無茶言うな! オレは、ミドも抱えてんだぞ!」
「だああああああああああああ! キール! 後ろ後ろぉぉおおおお!!」

 キールがミドに呼ばれて振り返ると、顔の真横を包丁がかすめた。

「いっ!?」
「死ねえええええええええええええええ! 皆殺しだああああああああああああああ!!!」

 キールの頬が薄く切れて血が流れる。大勢の狂った連中が雄叫びを上げて追いかけながらナイフや包丁、石などを投げつけてくる。

「あいつら本気マジで、どうかしてるぞ! クソ!」

 キールは頬の血を手の甲で拭いながら走る速度を上げる。
 片手にミドを抱えたまま、もう片方の手から赤い鋼線ワイヤーを飛ばして船から下りてるハシゴに結びつける。引っ張って外れないことを確認して、そのまま声を張り上げた。

「フィオ、上昇しろ!」
「了解っス! しっかり掴まってるっスよ!」

 そのまま船は、徐々に上空に上がっていく。先ほどまで走っていた町が少しづつ小さくなっていった。狂った大衆は、それでも逃がすまいと凶器を投げてくる。しかし船は投擲とうてきが届かない高さまで上昇しており、投げつけられた凶器は、途中で虚しく重力に引き寄せられて地面に叩きつけられる。

「逃げるなあああああああああああ!! 下りて来おおおおおおいいいいい!!」

 届かない凶器を諦めずに投げている哀れな大衆の姿を俯瞰しながらキールが、

「うるせぇ……二度と来るか。こんな国」
「あ~ばよ~! とっつぁぁあん!」

 ミドも、目が血走った大衆に向かって笑顔で別れを告げた。すると、

「――っ!?」

 その時、ミドの後頭部に衝撃が走った。それに気づいたキールが、

「おいミド! どうした!?」
「は、にゃ~……」

 そこから、ミドの意識は薄れていった――
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