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正義感の強い国
透明人間を見つける方法を知りたいですか?
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「すっかり忘れてたっス!」
フィオが突然言った。
今回のミドとエイミーのミッションは、エイミーに魔法のローブを提供した人物の情報を得ることと、エイミーの協力を得ることである。そのためにエイミーに接触を試みなくてはならないのだが、最後に分かれてからエイミーがどこに行ったのか分からず、街の中をさまよっていたのだ。
「まずは、エイミーを探さないとね~」
「そうっスよミドくん。エイミーちゃんと会えないとキールと別行動した意味がないっス」
ミドがフィオに言うと、フィオも同意する。
しかし探すと言っても、どこにいるのだろうか。今までは偶然に出会う事ができていたが、そう何度も偶然に頼るわけにはいかない。
するとミドがフィオに言った。
「探す方法なら、ないことはないよ」
「どうやって探すっスか? エイミーちゃんは認識阻害のローブで誰にも本人だって認識されないんスよ?」
フィオがミドに疑問を投げかけると、ミドは言った。
「認識されないということが、目印になる」
「全然意味が分からねっス!」
ミドは不敵な笑みを浮かべていた――
*
緑が多い自然公園。そこに白い髪と赤い瞳の少女、エイミーが一人で歩いていた。
しっかり頭までローブを被り、誰にも認識されないようにしている。エイミーは歩き疲れたのか公園のベンチに座った。
するとガサゴソという音が聞こえてきた。次の瞬間――
「やぁ! また会ったね!」
「きゃあ!?」
ミドが真上から逆さにぶら下がってエイミーの目の前に現れた。それにエイミーは驚いて尻もちをついてしまう。
「い、いきなり声をかけないでください……」
「なんで? 声をかける前に『あの~声をかけても、よろしいですか?』なんて言わないでしょ」
「う……」
エイミーは言葉に詰まる。
ミドはベンチの後ろにあった大きな木の中に隠れて潜んでいた。エイミーに声をかけると、くるっと回って飛び降りる。
「キミに聞きたいことがあるんだ。その魔法のローブを手に入れた経緯についてね」
「――!?」
エイミーがあからさまに動揺している。
「……どうして、このローブについて知ってるんですか?」
「ボクは旅人だからね、魔法のかかっている道具や衣服は見慣れてるんだよ。そのローブ、他者からの認識を阻害する影響力があるんでしょ?」
エイミーは閉口する。
彼女からしてみれば、ローブを着た状態の自分に気づく人は非常に稀である。現に国の中では誰にも気づかれることはなかったのだから。
それを目の前の緑髪の旅人は、いとも容易く見破ってしまった。表面上は飄々としているが只者ではないとエイミーは悟った。そして、エイミーは当然の疑問を投げかける。
「どうして私の居場所が分かったんですか?」
認識阻害のローブに関して知識があるのは分かったが、だからといった居場所まで特定できるとは限らない。街の人間に聞き込みをしたとしても、認識阻害の影響でエイミーと話したという認識は相手には伝わらないはずだ。
すると、ミドはにっこり微笑んで言った。
「街の人に教えてもらったんだよ~」
× × ×
今から数十分前、ミドとフィオは街の人たちに聞き込みをしていた。
「ミドくん……聞いても覚えてるはずないっスよ。認識阻害の影響があるんスから……」
「大丈夫大丈夫、きっと教えてくれるよ~」
ミドは何故か自信満々で聞き込みをしようとしている。
まず入ったのは酒場の店主だった。噂が集まりやすい場所は大抵決まっている。
「いらっしゃい」
酒場の店主が入ってきたミドとフィオに声をかけてきた。まだ昼間の時間帯のため、店の中は静かで、人もまばらだった。
ミドとフィオは店の奥で洗い物をしていた店主に向かって歩いていく。
「すいません、お聞きしたいことがあるんですが……」
店主はグラスを洗いながらミドとフィオの二人に気づいて言う。
「何だい? 見たところ旅人って感じだが、仕事の依頼書ならそっちの掲示板に貼ってあるぞ」
「いえいえ、依頼書を見に来たわけじゃないんです。人を探していまして……」
ミドが丁寧に対応すると、店主は顎を触りながら「ふむ」と聞いていた。
「その前に、何も頼まないのかい?」
店主は何も飲まない者には情報も提供できないと言った様子だ。ミドは少し考えてから言う。
「これは失礼しました。フィオは何飲む?」
「あーし、お酒ダメなんスよ……ん~、じゃあ豆乳がほしいっス」
「フィオ、お酒飲めないの? お子様だな~。じゃあボクは甘酒で!」
「ミドくんも人のこと言えないっスよ」
「そう? 名前に“酒”って入ってるんだから、甘酒も立派なお酒だよ~」
ミドとフィオがカウンターの前でしゃべっていると、目の前でそれを見ていた店主が言う。
「お客さん……ここは子どもの来るところじゃないんですがねぇ……」
「あーしは子どもじゃないっスよ!」
「豆乳も甘酒もウチにはないよ……悪いが帰ってくれないか」
「なんで置いてないっスかァ! 豆乳は美容にイイんスよ!」
フィオがぷんすか怒って言うと、店主も言い返す。そして店主は背中を向けて「話は終わりだ」といった様子でフィオの声を無視している。
情報もタダじゃない。お金を店に落とさない者は客とは呼べない。お客じゃない上に、どこの馬の骨とも分からない旅人に無償で情報提供するほど親切というわけでもないようだ。フィオがさらに怒って顔を真っ赤にしていると、ミドがニコニコしながら店主に言う。
「これは失礼しました。では提案があります」
「なんだい?」
「後ろで寝ている用心棒さんに一杯ご馳走する……というのでは、どうですか?」
「ふん……」
ミドは背後で酔っ払って寝ている用心棒と思われる剣士に酒を一杯おごるという提案をした。二人が飲まなければいけないというルールはない。誰でもいいから酒をおごってその代金をミドとフィオが支払う。それならお金を落としてくれる立派な客と認められるという訳だ。すると店主が感心して言う。
「なるほど……いいだろう、何が聞きたい?」
「吸血鬼がこの国にいるって聞いたんですが、どこにいるか知ってますか?」
「………………」
店主は手の動きを止めて沈黙すると、ミドを睨んだ。そして言う。
「アンタら、吸血鬼を探してどうする気だ?」
「実は、ある依頼を受けまして……吸血鬼を捕まえたいんです」
「すまねぇが、オレにも分からねぇ……吸血鬼は神出鬼没だからな」
「では最近、見知らぬ人物が何か尋ねてきませんでしたか?」
「……そういえばいたな、三〇分くらい前だ。この辺の人間なら大抵顔見知りなんだが、今まで見たことないヤツだった。最近入国した旅人さんの情報なら入ってきてたから、そいつが旅人さんじゃないってのは、すぐ分かったんだが……」
「その人は、どんな容姿をしていましたか?」
ミドは笑顔で問いかけた。すると店主は腕を組んでうんうん唸って思い出そうとしている。しかし、しばらく待っても言葉が出てこない。
そして店主は諦めたように、
「ん~すまねぇ……思い出せねぇ、顔と名前の記憶力は良いはずなんだが……」
店主は顔をくしゃくしゃにして苦い顔をしている。
ミドは店主の発言を聞いて口元を緩ませて言った。そして、ミドが言う。
「その人は、何を聞いてきたんですか?」
「情報屋の居場所を教えて欲しいって言ってたな」
「教えたんですか?」
「……いいや」
「他に、情報屋について聞いてきた人はいませんでしたか?」
「そいつのすぐ後に、衛兵の連中が二人ほど来たぞ」
「その衛兵さんには教えたんですか?」
「ああ、教えたよ。ヤツらはお得意さんだからな」
「その衛兵さんたちは、どっちの方向に行ったか分かりますか?」
「さぁ……な」
店主が口元を歪めた。するとミドは眉をピクリと動かすと、おどけながら店主の手を握って言った。
「おっと、いけない。そういえば、さっきのお酒の代金まだ払ってませんでしたね。これくらいでしょうか? ああ、おつりはいりませんよ」
ミドが店主の手に代金を握らせた。店主が自分の掌の感触を確かめると、目を見開いてミドを見た。ミドは相変わらずニコニコしている。
店主はミドに顔を近づけながら、
「ああ、思い出した! 確か自然公園の方角だったな。ここから店を出て右に真っ直ぐだから行けば分かる」
「分かりました、ありがとうございます」
「気をつけてな、旅人さん」
ミドは笑顔で店主にお礼を言うと、フィオの手を引いて店を出て行った。
「ちょ、ちょっとミドくん!?」
「フィオ、エイミーの居場所が分かったよ」
「どういうことっスか!?」
「あの店主が、『容姿を覚えてない』っていうのが証拠だよ」
「もったいぶらないで、早く教えて欲しいっスよぉ!」
エイミーは認識阻害という魔法のローブを羽織って街中を歩いている。おそらく出かける際は必ず着て歩くのだろうとミドは考えていた。当然、酒場でもローブを着て自分の存在を隠しながら聞き込みをしていたと考えてまず間違いない。だが、それは逆にエイミーの存在を際立たせることでもある。
認識阻害は、顔や声などの存在の認識を邪魔する効果があるが、会話の内容までは忘れさせることはできない。
事実、酒場の店主は二人の衛兵のことは鮮明に覚えているのに、もう一人の顔だけを思い出せずにいた。顔はスッカリ忘れているのに話した内容だけはしっかり覚えている。明らかに不自然である。まるで、透明人間と会話していたかのようだ。
ミドが歩きながらフィオに言う。
「たぶん、最初に酒場を訪れた謎の人物は魔法のローブを羽織ったエイミーだ。ボクの想像が正しければ、エイミーは情報屋の元に向かってるよ」
「でも、店主のおっちゃんは情報屋の居場所は教えなかったって言ってたっス」
「エイミーは情報を得ようと酒場の近くに潜んでいたと思うよ。情報を聞き出す方法を考えていた時に衛兵の二人が後から入ってきた。自分と同じ質問をしたことに驚いただろうね。そして衛兵の二人を追いかけていったんだと思うよ。それなら、わざわざ教えてもらう必要もないからね」
「じゃあ、衛兵さんが向かったっていう自然公園にいけばエイミーちゃんに会えるっスか!」
「そういうこと~」
「了解っス!」
ミドが笑うとフィオも笑い、二人は走っていった。
× × ×
「………………」
エイミーは閉口してしまう。
目の前のミドという旅人は魔法のローブの認識阻害を逆手にとって、少ない情報から自分をあっさり見つけ出してしまった。ミドはエイミーに言う。
「でも、まさか自然公園のベンチに堂々と座っているとはね~。てっきり隠れて尾行してるものだと思ってたのに~」
「そうっスね。でも何で呑気に座ってるっスか? 衛兵さんを追いかけなくてイイんスか?」
フィオがエイミーに問いかけると、エイミーが言った。
「実は、その……衛兵さんたちを見失っちゃって……」
「なるほど、尾行をまかれちゃったわけね」
エイミーが悔しそうに言った。するとミドが応える。
衛兵も馬鹿ではなかった。情報屋の居場所までの道中、怪しい人物が自分たちを尾行しているのは気づいていたのだろう。認識阻害の影響力は一般人には効果絶大だが、訓練をした者の中には勘の良い者がいたりする。むしろ逆に返り討ちに遭わなかっただけ幸運だったと言うべきだろう。
エイミーは衛兵にあっさり尾行をまかれて途方に暮れていたところ、ミドとフィオの二人に見つかったのだ。
するとエイミーが改まってミドに言った。
「……あの、お願いがあります」
ミドもエイミーの表情から真剣さを感じ取り、姿勢を正して聞く。そしてエイミーが言う。
「私と一緒に……この国で起こっている事件の犯人を、捕まえてくれませんか?」
エイミーは両手を下げた位置で自分の服を握り、緊張した様子で言い放った。彼女の目は真剣そのものだった。
ミドは少しの沈黙をしてから言った。
「――喜んで、お受けします」
エイミーの表情から安堵が感じられた。
*
少し離れた場所からミドたちを覗いている二人の衛兵がいた。
「あれは……この国じゃ見ない顔だな」
「あ! 最近入国した旅人ですよ。アレ!」
「その旅人と、なんで吸血鬼が一緒にいるんだ?」
「もしかして、旅人と吸血鬼が繋がってるんですかね?」
「だとしたら……神隠し事件と関係があるかもな」
先輩と思われる衛兵の一人が眉間にしわを寄せて睨んでいる。すると後輩と思われる衛兵に言った。
「あの三人を、今度はオレらで尾行するぞ」
「分かりました」
「あの吸血鬼女、さっきはオレたちを尾行しやがって……今度はこっちの番だ。化けの皮を剥いでやる」
その衛兵は、自らの腰の刀剣を握ってエイミーを睨んでいた――
フィオが突然言った。
今回のミドとエイミーのミッションは、エイミーに魔法のローブを提供した人物の情報を得ることと、エイミーの協力を得ることである。そのためにエイミーに接触を試みなくてはならないのだが、最後に分かれてからエイミーがどこに行ったのか分からず、街の中をさまよっていたのだ。
「まずは、エイミーを探さないとね~」
「そうっスよミドくん。エイミーちゃんと会えないとキールと別行動した意味がないっス」
ミドがフィオに言うと、フィオも同意する。
しかし探すと言っても、どこにいるのだろうか。今までは偶然に出会う事ができていたが、そう何度も偶然に頼るわけにはいかない。
するとミドがフィオに言った。
「探す方法なら、ないことはないよ」
「どうやって探すっスか? エイミーちゃんは認識阻害のローブで誰にも本人だって認識されないんスよ?」
フィオがミドに疑問を投げかけると、ミドは言った。
「認識されないということが、目印になる」
「全然意味が分からねっス!」
ミドは不敵な笑みを浮かべていた――
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緑が多い自然公園。そこに白い髪と赤い瞳の少女、エイミーが一人で歩いていた。
しっかり頭までローブを被り、誰にも認識されないようにしている。エイミーは歩き疲れたのか公園のベンチに座った。
するとガサゴソという音が聞こえてきた。次の瞬間――
「やぁ! また会ったね!」
「きゃあ!?」
ミドが真上から逆さにぶら下がってエイミーの目の前に現れた。それにエイミーは驚いて尻もちをついてしまう。
「い、いきなり声をかけないでください……」
「なんで? 声をかける前に『あの~声をかけても、よろしいですか?』なんて言わないでしょ」
「う……」
エイミーは言葉に詰まる。
ミドはベンチの後ろにあった大きな木の中に隠れて潜んでいた。エイミーに声をかけると、くるっと回って飛び降りる。
「キミに聞きたいことがあるんだ。その魔法のローブを手に入れた経緯についてね」
「――!?」
エイミーがあからさまに動揺している。
「……どうして、このローブについて知ってるんですか?」
「ボクは旅人だからね、魔法のかかっている道具や衣服は見慣れてるんだよ。そのローブ、他者からの認識を阻害する影響力があるんでしょ?」
エイミーは閉口する。
彼女からしてみれば、ローブを着た状態の自分に気づく人は非常に稀である。現に国の中では誰にも気づかれることはなかったのだから。
それを目の前の緑髪の旅人は、いとも容易く見破ってしまった。表面上は飄々としているが只者ではないとエイミーは悟った。そして、エイミーは当然の疑問を投げかける。
「どうして私の居場所が分かったんですか?」
認識阻害のローブに関して知識があるのは分かったが、だからといった居場所まで特定できるとは限らない。街の人間に聞き込みをしたとしても、認識阻害の影響でエイミーと話したという認識は相手には伝わらないはずだ。
すると、ミドはにっこり微笑んで言った。
「街の人に教えてもらったんだよ~」
× × ×
今から数十分前、ミドとフィオは街の人たちに聞き込みをしていた。
「ミドくん……聞いても覚えてるはずないっスよ。認識阻害の影響があるんスから……」
「大丈夫大丈夫、きっと教えてくれるよ~」
ミドは何故か自信満々で聞き込みをしようとしている。
まず入ったのは酒場の店主だった。噂が集まりやすい場所は大抵決まっている。
「いらっしゃい」
酒場の店主が入ってきたミドとフィオに声をかけてきた。まだ昼間の時間帯のため、店の中は静かで、人もまばらだった。
ミドとフィオは店の奥で洗い物をしていた店主に向かって歩いていく。
「すいません、お聞きしたいことがあるんですが……」
店主はグラスを洗いながらミドとフィオの二人に気づいて言う。
「何だい? 見たところ旅人って感じだが、仕事の依頼書ならそっちの掲示板に貼ってあるぞ」
「いえいえ、依頼書を見に来たわけじゃないんです。人を探していまして……」
ミドが丁寧に対応すると、店主は顎を触りながら「ふむ」と聞いていた。
「その前に、何も頼まないのかい?」
店主は何も飲まない者には情報も提供できないと言った様子だ。ミドは少し考えてから言う。
「これは失礼しました。フィオは何飲む?」
「あーし、お酒ダメなんスよ……ん~、じゃあ豆乳がほしいっス」
「フィオ、お酒飲めないの? お子様だな~。じゃあボクは甘酒で!」
「ミドくんも人のこと言えないっスよ」
「そう? 名前に“酒”って入ってるんだから、甘酒も立派なお酒だよ~」
ミドとフィオがカウンターの前でしゃべっていると、目の前でそれを見ていた店主が言う。
「お客さん……ここは子どもの来るところじゃないんですがねぇ……」
「あーしは子どもじゃないっスよ!」
「豆乳も甘酒もウチにはないよ……悪いが帰ってくれないか」
「なんで置いてないっスかァ! 豆乳は美容にイイんスよ!」
フィオがぷんすか怒って言うと、店主も言い返す。そして店主は背中を向けて「話は終わりだ」といった様子でフィオの声を無視している。
情報もタダじゃない。お金を店に落とさない者は客とは呼べない。お客じゃない上に、どこの馬の骨とも分からない旅人に無償で情報提供するほど親切というわけでもないようだ。フィオがさらに怒って顔を真っ赤にしていると、ミドがニコニコしながら店主に言う。
「これは失礼しました。では提案があります」
「なんだい?」
「後ろで寝ている用心棒さんに一杯ご馳走する……というのでは、どうですか?」
「ふん……」
ミドは背後で酔っ払って寝ている用心棒と思われる剣士に酒を一杯おごるという提案をした。二人が飲まなければいけないというルールはない。誰でもいいから酒をおごってその代金をミドとフィオが支払う。それならお金を落としてくれる立派な客と認められるという訳だ。すると店主が感心して言う。
「なるほど……いいだろう、何が聞きたい?」
「吸血鬼がこの国にいるって聞いたんですが、どこにいるか知ってますか?」
「………………」
店主は手の動きを止めて沈黙すると、ミドを睨んだ。そして言う。
「アンタら、吸血鬼を探してどうする気だ?」
「実は、ある依頼を受けまして……吸血鬼を捕まえたいんです」
「すまねぇが、オレにも分からねぇ……吸血鬼は神出鬼没だからな」
「では最近、見知らぬ人物が何か尋ねてきませんでしたか?」
「……そういえばいたな、三〇分くらい前だ。この辺の人間なら大抵顔見知りなんだが、今まで見たことないヤツだった。最近入国した旅人さんの情報なら入ってきてたから、そいつが旅人さんじゃないってのは、すぐ分かったんだが……」
「その人は、どんな容姿をしていましたか?」
ミドは笑顔で問いかけた。すると店主は腕を組んでうんうん唸って思い出そうとしている。しかし、しばらく待っても言葉が出てこない。
そして店主は諦めたように、
「ん~すまねぇ……思い出せねぇ、顔と名前の記憶力は良いはずなんだが……」
店主は顔をくしゃくしゃにして苦い顔をしている。
ミドは店主の発言を聞いて口元を緩ませて言った。そして、ミドが言う。
「その人は、何を聞いてきたんですか?」
「情報屋の居場所を教えて欲しいって言ってたな」
「教えたんですか?」
「……いいや」
「他に、情報屋について聞いてきた人はいませんでしたか?」
「そいつのすぐ後に、衛兵の連中が二人ほど来たぞ」
「その衛兵さんには教えたんですか?」
「ああ、教えたよ。ヤツらはお得意さんだからな」
「その衛兵さんたちは、どっちの方向に行ったか分かりますか?」
「さぁ……な」
店主が口元を歪めた。するとミドは眉をピクリと動かすと、おどけながら店主の手を握って言った。
「おっと、いけない。そういえば、さっきのお酒の代金まだ払ってませんでしたね。これくらいでしょうか? ああ、おつりはいりませんよ」
ミドが店主の手に代金を握らせた。店主が自分の掌の感触を確かめると、目を見開いてミドを見た。ミドは相変わらずニコニコしている。
店主はミドに顔を近づけながら、
「ああ、思い出した! 確か自然公園の方角だったな。ここから店を出て右に真っ直ぐだから行けば分かる」
「分かりました、ありがとうございます」
「気をつけてな、旅人さん」
ミドは笑顔で店主にお礼を言うと、フィオの手を引いて店を出て行った。
「ちょ、ちょっとミドくん!?」
「フィオ、エイミーの居場所が分かったよ」
「どういうことっスか!?」
「あの店主が、『容姿を覚えてない』っていうのが証拠だよ」
「もったいぶらないで、早く教えて欲しいっスよぉ!」
エイミーは認識阻害という魔法のローブを羽織って街中を歩いている。おそらく出かける際は必ず着て歩くのだろうとミドは考えていた。当然、酒場でもローブを着て自分の存在を隠しながら聞き込みをしていたと考えてまず間違いない。だが、それは逆にエイミーの存在を際立たせることでもある。
認識阻害は、顔や声などの存在の認識を邪魔する効果があるが、会話の内容までは忘れさせることはできない。
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「そういうこと~」
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目の前のミドという旅人は魔法のローブの認識阻害を逆手にとって、少ない情報から自分をあっさり見つけ出してしまった。ミドはエイミーに言う。
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フィオがエイミーに問いかけると、エイミーが言った。
「実は、その……衛兵さんたちを見失っちゃって……」
「なるほど、尾行をまかれちゃったわけね」
エイミーが悔しそうに言った。するとミドが応える。
衛兵も馬鹿ではなかった。情報屋の居場所までの道中、怪しい人物が自分たちを尾行しているのは気づいていたのだろう。認識阻害の影響力は一般人には効果絶大だが、訓練をした者の中には勘の良い者がいたりする。むしろ逆に返り討ちに遭わなかっただけ幸運だったと言うべきだろう。
エイミーは衛兵にあっさり尾行をまかれて途方に暮れていたところ、ミドとフィオの二人に見つかったのだ。
するとエイミーが改まってミドに言った。
「……あの、お願いがあります」
ミドもエイミーの表情から真剣さを感じ取り、姿勢を正して聞く。そしてエイミーが言う。
「私と一緒に……この国で起こっている事件の犯人を、捕まえてくれませんか?」
エイミーは両手を下げた位置で自分の服を握り、緊張した様子で言い放った。彼女の目は真剣そのものだった。
ミドは少しの沈黙をしてから言った。
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エイミーの表情から安堵が感じられた。
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