ミドくんの奇妙な異世界旅行記

作者不明

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正義感の強い国

ミドにかけられた女神の呪い『森羅』

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「うふふ……み~つけた」

 ゾイがエイミーを見ながらわらっている。ゾイは以前と違い、ローブを身に纏っていた。それはエイミーがよく知るローブだった。

「そのローブ……!?」
「このローブいいわねぇ……認識阻害っていうの? すごく便利だわ」
「あ、まさか……」
「うふふ……『どうしてそのローブを着ているのか?』そう言いたいんでしょ? ちょっとお邪魔させてもらったのよ、あなたの部屋に……」

 なぜゾイがエイミーの部屋にあったはずの認識阻害のローブを身に纏っているのか。答えは一つしかない。この女がエイミーの部屋に侵入した犯人だからだ。

 エイミーは同時に確信する。この女が部屋に入ったということは、あの木箱は――

 するとゾイがニンマリ嗤いだして言った。

「気に入ってもらえたかしら? 私のプレゼント……」

 エイミーはゾイの言葉に確信して絶句する。

「お前が……マロ、を……!!」
「あら、気に入らなかったかしら? あなたの部屋に入ったら、あの子が吠えてきたから大人しくしてあげただけなのに……もしかして臭いが部屋に残っていたの? ごめんなさいね、消臭剤でも残しておけばよかったかしら?」

 エイミーは全身の毛を逆立ったように感情をむき出しにしてゾイを睨んだ。

 この女がマロを殺したのだ。あの悲しそうな瞳が記憶の中に蘇ってくる。痛かっただろう、苦しかっただろう。それをこの女はニヤニヤ嗤いながら、両手に持ったその包丁で斬り殺したのだ。許せるはずがない。

「殺してやる……!」
「良い目ね。真っ赤な血の色をした瞳……羨ましいわ。私にはもう無いんですもの。見てちょうだい、私の目は金髪の彼に潰されて、両目とも義眼になっちゃったのよ。酷いでしょ?」

 ゾイは両目をギョロギョロ動かして言った。

「だから……あなたのその真っ赤な瞳、私に譲ってくれないかしら?」

 ゾイがエイミーに包丁を向けた。その時――。


「――伸びろ! 木偶棒デクノボウ!!」


 ゾイが砂煙の向こうから聞こえてくる声に反応して振り向いたと同時に、黒い棒が一瞬で伸びてきてゾイの顔面を突き飛ばした。

「ミドさん!」

 エイミーがミドに声をかけた。砂煙が晴れる……すると、伸びた木偶棒を構えるミドが腹部を手でおさえて立っていた。

「はぁ……はぁ……、いきなりブッ刺しやがって……せっかく体力も回復しかけてたってのに……」

 ミドは腹部から、分厚い木の板を取り出してその辺に捨てる。

「殺人予告を受けた時は……心臓やお腹周り、背中は気をつけないとね……」

 ミドは最初から木の板で鎧のような状態を作り出していたようだ。ご丁寧に血糊まで用意していたらしく、遠目からでは本当に血を流しているように見える。

「――!?」

 唐突にミドに向かってゾイが斬りかかる。
 ミドはそれに気づいて木偶棒で受け止めた。
 ゾイは一瞬だが、驚いた表情をして問いかける。

「あらあら、どうして私が見えるのかしら? 認識阻害の影響で見えないはずなんだけど……?」
「見えないってのはちょっと違うんじゃないかな? 正確には、認識しづらいってだけで、実体が無くなったわけでも、完全に見えなくなったわけでもない」
「細かいことを気にするのね、あなた……」
「普通の人より、観察力と洞察力にはちょっと自信があるんだよ。だから認識阻害は、ボクには通用しない……!」
「すごいわ……興奮しちゃう」
「勝手に興奮されても困るんだけど……ね!」

 ミドはゾイの包丁を木偶棒で思いっきり振り払った。
 ゾイは間髪入れず、――ダンッと地面を蹴ってミドに飛び掛かる。
 ミドはゾイの包丁による斬撃をスレスレで回避し、木偶棒で薙ぎ払う。ゾイも対応するように避けた。

 ゾイは認識阻害のローブを頭まで羽織り、ヒットアンドアウェイで攻撃を仕掛けてくる。
 斬撃が来たかと思えば、気づけば物陰に隠れて姿を消す。そうしていると、背後から包丁を突き刺そうとしてくる。しかも時々エイミーにも刃を向けてくる。
 ミドは常に集中して周りに気を配らなければならない。ミドはエイミーから離れるわけにはいかないため、半径三メートル以内の距離でエイミーを守りながら動いた。
 しかし、いくら観察力や洞察力が鋭いといっても限界がある。ミドは少しづつ集中力を削られていき、ゾイに追い詰められていった。

 ミドは目の端にゾイの姿を確認する。
 ゾイは真っ直ぐ包丁を突き出してくる。
 ミドはそれを鼻先で回避して木偶棒を振り抜いてカウンターを仕掛ける。
 ゾイはミドの木偶棒を包丁で受け流して、真っ直ぐ進んで再び岩陰に隠れる。

 斬る! 避ける! 弾く! 叩く! 斬る! 避ける! 弾く! 叩く! 斬る! 避ける! 弾く! 叩く! 斬る! 避ける! 弾く! 叩く! 斬る! 避ける! 弾く! 叩く! 斬る! 避ける! 弾く! 叩く! 斬る! 避ける! 弾く! 叩く! 斬る! 避ける! 弾く! 叩く! 斬る! 避ける! 弾く! 叩く! 斬る! 避ける! 弾く! 叩く! 斬る! 避ける! 弾く! 叩く! 斬る! 避ける! 弾く! 叩く! 斬る! 避ける! 弾く! 叩く! 斬る! 避ける! 弾く! 叩く! 斬る! 避ける! 弾く! 叩く! 斬る! 避ける! 弾く! 叩く! 斬る! 避ける! 弾く! 叩く! 斬る! 避ける! 弾く! 叩く! 斬る! 避ける! 弾く! 叩く!

「はぁ……はぁ……」

 ミドは息を荒くしていた。

 当然だが、いくら認識阻害の影響を受けにくいと言っても集中すれば認知的な疲れは溜まる。ただでさえ変幻自在に動いて繰り出してくるゾイの斬撃は避けづらいというのに、認識阻害の補助魔法までついてくると鬼のように攻略は難しい。

 それに加えて、ミドはエイミーにも気を配らなければならない。どう考えても不利な状況である。

 ミドの息が上がっているのを見て、エイミーは思う。

(私……邪魔になってる)

 エイミーは今、守られている状態なのだ。このままではいけないと思ったのか、エイミーはミドから突然距離を置き始めた。

「――!? 離れちゃダメだ!!」

 ミドがエイミーから一瞬目を離した隙に、彼女は走っていた。ゾイはそのチャンスを見逃さない。

 岩陰から飛び出すように人影が現れた。

「――あッ!」
「あらあら、本当にあなたは迷惑ばかりかける面倒な娘ね……」

 エイミーの目の前に着地したゾイは一言だけつぶやくと、包丁を振り上げた。

「うふふ……」

 ゾイが硬直して動けないエイミーに斬りかかる。
 エイミーは目をつぶった。


 ――ボガアアァァァアアン!!


 エイミーの目の前で、ゾイが突然爆発して吹き飛ばされた。
 エイミーは一瞬何が起こったのか分からず混乱していると、遠くから聞き覚えのある声が聞こえてきた。

極悪戦隊イビルレンジャー、ブルー参上っス!」

 ミドが振り返ると紫色の縁に桃色ピンクのレンズの『愛と誠ちゃん眼鏡』をかけたフィオが仁王立ちしていた。肩には小型の大砲のような物を背負っている。

 ミドは驚いて、フィオに声をかけた。

「フィオ!?」
「ミドくん! まだ生きてるっスか?」
「キールは一緒じゃないの?」
「あれ!? キールってば、まだ来てないっスか? まったく、この一大事に何やってるんスかね……」

 フィオが肩をすくめて、やれやれといった仕草をする。かと思ったら、胸を目一杯張って拳で胸をポンッと叩きながら言った。

「とにかく! あーしが来たからには、もう安心っスよ、ミドくん! この眼鏡を使えば、あーしの目から逃れることはできないっス!」

 わっはっはと笑いながらそう言うと、愛と誠ちゃん眼鏡をクイッと指で上げた。するとゾイが真後ろに立っていた。

「あなた、おもしろい道具ものを持ってるわね」
「――のわぁ!?」

 フィオが振り返ると、ゾイが包丁を構え、問答無用で首を斬り落としにきた。
 フィオは頭を抱えてしゃがみこみ、間一髪で回避する。そして、ダバダバダバっと、ものすごい速度でミドの後ろに隠れて虚勢を張る。

「あ、あーしに傷一つ付けたら、ミドくんとキールが黙ってないっスよ!!」
「あはは……結局、ボク頼みなのね~……」

 ミドは苦笑しながらも、目線だけはゾイから一度も外さなかった。そしてフィオに問いかける。

「一応聞いておくけど、大砲それ……あと何発残ってるの?」

 フィオは小型の大砲を捨てて言う。

大砲これは一発しか装填できないっスから、今ので終わりっス」
「な、なるほど……、でも助かったよフィオ。ありがとう」
「どうってことないっスよお!」

 フィオはミドに感謝されると、あきらかに調子に乗った様子だった。するとゾイが現れて言い放つ。

「お仲間との感動の再会はできたのかしら?」
「ああ、充分ね……」
「それは良かったわ。お荷物がもう一人増えたってわけね」

 ゾイはフィオに戦闘力がないことを瞬時に察している。フィオはゾイの挑発に、あからさまにプンスカ怒っていたが、闘えないのは事実だ。

 普通に一般人に比べれば数々の死線をくぐり抜けてきた旅人ではあるが、戦闘要員ではない。ローグリー一味の中では、むしろ開発部門に属しているのだ。

 その為、ミドはエイミーとフィオの二人を同時に守りながら戦わなくてはいけない。助け舟が来たと思ったら、負担が増えるとは……こりゃ参ったね。

 いや、フィオがお荷物だとか思っているわけではない。人には向き不向きというものがあるのは事実だ。そしてフィオが、か弱い女子なのも事実だから仕方がないことなのだ。決して不利になったとは思っていない。

「あーしはお荷物じゃないっスぅ! ミドくん、懲らしめてあげるっスよ!」
「うん、了解」

 ミドは、さらに気を引き締めるように呼吸を整える。
 すると、ゾイが再び斬りかかってきた。

「どこまで耐えられるかしら?」
「それはどうかな?」
「――!?」

 ミドが微かに不敵な笑みを浮かべたかと思うと、気づけばゾイは周囲を巨大な木で囲まれていた。

 鳥かごのようにそびえ立つ樹木はゾイを中心に囲い込むように急速に伸びてきた。

「こ、これは……!?」
「ボクが意味もなくお前と斬り合ってたと思うのかな?」

 ミドにかけられた女神の呪い。それは『森羅しんら』と呼ばれる呪いの一つである。簡単に言うと、自身の体や一度触れた物体から植物を生やすものである。

 触れた部分から植物を生やす場合、触れてから約5分以内であれば、ミドが心の中で植物が生えてくるイメージをするだけで、森羅を発動させて樹木を出現させられる。

 しかし、一度出現させた箇所からは、もう一度触れない限り、森羅を発動させることはできない。

 ミドはゾイのとの攻防で、周囲のあちこちに移動して地面に触れていたのだ。そのため、ゾイと戦っていたこの場には、ミドの地雷がありとあらゆる場所に埋められているようなものである。

「あんまり町の道路を壊したくなかったんだけどね」

 ミドがため息をついて微笑むと、フィオとエイミーも言う。

「よっしゃあああ! さすがミドくんっス! ミドくんの鳥かごから逃げられるヤツなんていないっス!」
「す……すごい!」

 当然だが、ミドは自分の切り札である能力の説明はゾイには一切しない。ゾイ彼女は何が起きたのか分からず、頑強な木の鳥かごに閉じ込められるだろう。

 呆気ない結末だったが、これでこの街の怪奇事件の犯人は捕らえたも同然だ。一件落着といったところだろうか。

 そう……思った時である。

 バキバキバキッッッッ!!

 ミド、フィオ、エイミーの三人は言葉を失った。

 目の前の巨大な鳥かごが、あっという間に切り崩されていったのだ。そして、鳥かごだったものの中から無傷の白い女が現れる。

「やっぱり、あなたおもしろいわ……でも残念。私を束縛したいなら、もっと自由を奪わないとダ~メ」

 ゾイの平然とした態度にエイミーは絶句し、フィオは叫んでいた。

「そんな……!?」
「あの女、バケモンっスかあああああああああ!?」

 ミドもこれには予想外と言った顔で困り果てて言う。

「あらら……こりゃ参ったね~……」

 ミドは再び、ゾイに向かって木偶棒を構えた――。
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