ミドくんの奇妙な異世界旅行記

作者不明

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正義感の強い国

決着! 死神と吸血鬼の殺し合い

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「よいしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 ミドが水を得た魚のように木偶棒デクノボウを振り回す。
 ゾイはミドの攻撃を交わしながらカウンターを返すが、ミドはそれをすれすれでかわすと、再び猛攻が始まる。

「ぐっ……!」

 ゾイは顔を歪ませて防御する。
 ミドは、ゾイを明らかに圧倒していた。

「よし、体の方は問題ないな」
「さすが死神さんね。ちゃんと内臓を潰したと思ったのに……残念だわ」
「次からは、ちゃんと死んだかどうか確認することだね。ま、次はないけど」

 守る者がいると人は強くなれる。しかしそれはその時々の状況による。

 守りたい仲間、家族、恋人がいるから強くなれる。確かにそうだろう。一人では逃げるという選択肢もあるからだ。しかし守りたい人がいる場合は逃げることは許されない。そのため、強くならざるを得ないのだ。

 しかし、それは成長という意味での強さだ。戦場の中という状況で、守りたい人がいる状態とは、きつい言い方になるが足手まといがいる状態とも言える。

 先ほどのミドの状態はまさにそうだ。後ろの二人、エイミーとフィオを守ることに集中しすぎて攻撃に一切集中できなかった。ゾイはそんなミドの弱点につけ込んでいたのだ。そのため、防戦一方で追い詰められて最終的に瓦礫の山に埋もれる始末だった。

 だが今は違う、守りたい人に意識を奪われることはなくなった。

 これは別の例だが、守りたい人が死んでしまったために怒りの覚醒をして強くなるという状態もある。それも意識を『敵対者を殺す』という目的に一点集中することができるからだ。敵対者も死んだ人間に死体蹴りをする暇も余裕もないだろうし、覚醒した者も『守る』という仕事が一つ減ったことで認知の削減になる。

 さらに怒りは手加減するという雑念さえも捨ててしまう上に、自身の体が傷つくことさえも気にしなくなる。まさに修羅の如き強さを得るだろう。

 だがミドは怒りの強さを得ているわけではない。むしろ安心によって自分らしい動きができるようになったと言える。キールの存在がいるからだった。

「キール、エイミーをよろしく」
「ああ、思う存分やってこい」

 ミドとキールは互いに見合って不敵に笑う。
 ゾイは、それを見て言った。

「どういう意味かしら? さっきまでは本気じゃなかったとでも?」

 すると、ミドも言った。

「守ることまで考えてると、お前を殺すのに集中できないからね」
「あらやだ、恐いわ。今度は死神さんに本気で責められちゃうのね」

 ゾイがまだ余裕の表情をしている。恐らく再び身を隠すことで認識阻害を利用すれば、まだ自分が有利だと思っているのだろう。しかし、それを許すほどミドとキールは甘くない。
 ミドがキールに小さくつぶやく。

「キール、アイツのローブを脱がせるよ」
「了解」

 キールはミドの考えを瞬時に理解すると、ゾイを再び紅い鋼線で縛り上げるため、鋼線を両腕から飛ばした。鋼線は瞬く間にゾイに絡み付いて、ゾイを締めあげた。

「あらあら、学習能力がないのね。これは私には通用しないわ」

 ゾイはそう言って体を鋼線に擦り付けようとして気づく。

「………………」
「……どうした? 早く擦り付けろよ」

 キールがゾイを煽るように言う。ゾイはキールを見て歯噛みする。

「………………」
「気づいたか? 今お前の身体とオレの鋼線を擦りつけたら、その間にあるローブまでズタボロに切り裂いちまうよなぁ?」
「あなた……」
「ミド、今この女は動けねぇ。どうする?」

 キールはミドに問いかける。ミドもそれに応えた。

「そうだね~、縛られて動けない女の体をもてあそぶのも悪くないな~。でも……」

 ミドは木偶棒をブンブン振り回して、木偶棒の先端をゾイに構えて言う。

「一撃で終わらせる……伸びろおお! 木偶棒ぉぉおお!!」

 ミドの木偶棒は、ゾイの心臓を目掛けて一直線に直進して伸びていく。
 ゾイはミドの攻撃を回避するため、体を鋼線に擦り付ける。
 ローブはバラバラに切り裂かれてその間からゾイの吸血鬼の血が染み出し、鋼線までもボロボロにする。
 そして木偶棒を間一髪で避けて真横に飛ぶ。すると背後にミドがいた。

「――!」
「いい加減……それ、脱いでもらおうか!」

 ミドは、ゾイの認識阻害のローブの襟元を摑んで乱暴に振り回し、ローブを全て引っぺがす。千切れかけたローブはミドによって完全に破り捨てられて風に舞う。

 ゾイはミドに振り回された方向に投げ出されるが、空中で体勢を立て直して優雅に着地する。そしてローブを脱がされたことによって、そのワインレッドのドレスを露わにする。そしてミドを睨んで言う。

「……女性の服を脱がせる時は、もっと優しくするものよ」
「悪いけど、ボクは荒々しいのが好きなんでね」

 ゾイはチッと舌打ちをして、ミドを睨みつける。そして立ち上がって言う。

「でも、まぁいいわ。どうせローブこれは面白そうだと思ってちょっと拝借しただけだし」
「拝借? 一体誰に返すつもりだったのかな?」
「……もちろん、元の持ち主によ」

 ミドは、それがザペケチのことであると瞬時に理解する。
 そして、ミドとゾイの攻防が再び始まった。
 しかし、先ほどと違うのは二つ。ミドが後ろに気を遣わずに戦えること、ゾイが認識阻害のローブを失ったことである。
 ミドは木偶棒を変幻自在に操り、ゾイに猛攻を仕掛ける。
 ゾイはミドの打撃を交わしながら斬りかかる。もう斬りかかってから隠れて、背後から奇襲してといった面倒なことはしなかった。

 ゾイとしては、もはや隠れることは意味をなさない。さっきまでは認識阻害の影響によって、ちょっと物陰に隠れるだけで相手がすぐ見失ってくれた。だから背後などの死角から責め続ける事ができたのだ。

 普通の相手なら認識阻害のローブなどなくても、ゾイの速度を目で追えるものは少ないため、隠れることもできるだろう。しかし今目の前にいるのは死神と呼ばれる存在である。ちょっと隠れた程度では、すぐに見破られて逆にこちらが隠れている壁ごと打ち抜かれてしまうだろう。ならば隠れるなど愚かな行為だ、無駄な行為を増やしているに過ぎない。

 ゾイは体力とスピードに自信があった。圧倒的な速度で追い詰めれば、いずれミドの体力は尽きるだろう、その時が最後だ。

 ミドとゾイの攻防は時間にして数分間だが、とても長く感じられた。

 その間、キールとエイミーは逃げなかった。それがキールの判断だった。

 もちろんキールがエイミーの手を引いて遠くへ逃げればいいと思うかもしれない。しかし、今逃げたらゾイがエイミーを追いかけてくるだろう。何故ならゾイの標的ターゲットは「エイミー」だからだ。そうなれば、ミドは後からゾイを追いかけることになる。

 これではミドが存分に戦えない。それに、いくらキールでもエイミーを連れた状態では思うように動けないため、すぐにゾイに追いつかれてしまうだろう。
 ならば余計な動きはしない方がよいと判断した。

 そしてキールがエイミーの護衛に専念する以上は、まともに戦えるのはミドだけとなる。キールは、ミドが戦いやすい状況を作るためには、最低二つの条件があると考えた。

 一つ、ゾイとエイミーの距離を離しすぎない。
 二つ、キールがエイミーを護衛しつつ、ミドの援護をする。

 この二つは最低でもクリアしていなければならない。
 キールは、静かにミドとゾイの攻防を観察していた。

 すると突然、ゾイの動きが止まった。ミドは木偶棒を構えながら警戒している。

 そして、ゾイは標的を変えた。今、自由に動ける死神ミドを狙うよりも、もっとりやすい存在が近くにいるではないか、というような様子だった。

 ゾイは突然立ち止まると、ゆっくり、ゆっくり、目線を移動した。ゾイが目線を向けた先には、エイミーを背後に隠すキールがいた。

「そうね、そうだわ。金髪の坊やを先にればいいのよね」

 そう言うと、ゾイがキールに向き直って飛びかかった。それに気づいてミドも瞬時に動く。ゾイがキールに斬りかかろうとした時、キールの前に人影が現れた。

 エイミーがキールの前に飛び出していたのだ。

「バカ! 何やって――」

 キールが叫び、エイミーが目をつぶる。
 すると、ミドがやり投げのように木偶棒をゾイ目掛けて投げた。すると、ゾイは木偶棒を咄嗟に弾いた。
 ミドの木偶棒は宙を舞い、ミドは今武器を持たない状態である。それでもミドは止まらない。木偶棒を弾いたゾイの横っ腹を回し蹴りで真横に蹴り飛ばす。

「――くっ!」

 ゾイは弾き飛ばされながらすぐに体制を立て直すと、苛立ちを隠せないと言った様子でミドを睨んだ。
 ミドの武器である木偶棒は宙を舞っている状態だった。ゾイはそれを見て、ミドに一気に斬りかかった。興奮で周りが見えていないのか、キールとエイミーを無視してミドに一直線に向かっていく。

 ミドはゾイの斬撃を交わしながら後方にバックステップで下がり続ける。
 ゾイはミドを追って、何度も首を包丁で切り裂こうとした。
 ミドは背後に壁を感じ取り、追い詰められていると気づくと、ゾイが目前に迫っているのを目にする。
 ゾイは両目をギラつかせて、ミドに迫った。
 ミドは瞬時に逃げ道を探す。後ろは壁、左には民家の壁がある。右側には膝をついているキールがいた。
 どうやら先ほどの攻防の時に、ゾイの包丁がかすったのか額から血を流しており、目に血が入って両目を閉じていた。
 傷ついている味方の方向に逃げれば、ゾイの標的になる可能性がある。今ゾイの目をミドから離させてはいけない。ならば、ミドが逃げられる方向は、一つしか考えられなかった。

「死ねええええええええええええええええええええええええええええええ!」

 ゾイが歓喜の声と共に斬りかかると、目の前からミドの姿が消えた。
 驚いて左右をキョロキョロと見渡すが、ミドがいない。そして何かに気づいたように、目をピクリと動かしてから真上を見上げると、ミドが空中から見下ろしているのが見えた。
 どうやら、ミドは真上に飛び上がったのだ。そして背後の壁を蹴ってゾイの背後に飛んで回ろうとしている。しかし、ゾイはニタ~と嗤って喜んだ。

 空中では体制を立て直すことは困難である。今のミドは、身動きが取れない状態と言っても過言ではない。
 ゾイのスピードなら容易にミドが降りてくる場所にまで移動して、落ちてきたところに斬りかかれるだろう。いや、今すぐ飛び上がってミドの背中に包丁を突き立てるのも簡単だ。

 カラン、コロン。

 その時、遠くで木製の棒が地面に落ちる音が聞こえた。先ほど弾かれた木偶棒がやっと落ちてきたらしい。
 ゾイはその音を合図にするように、空中のミドに向かって飛び上がった。

「くっそ……!」

 キールが血が入ったであろう両目を閉じて、膝をついている。
 エイミーはキールに謝っていた。

「ごめんなさい……私が余計なことしたから」
「頼みが、ある」
「え……?」

 キールがエイミーに言った。

 木偶棒を失い、丸腰の状態のミドは、こちらに向かってくるゾイを空中から見ていた。やけにゆっくりとしているように見えた。
 その時である。

「――えい!!」

 エイミーが、空中にいるミドに向かって木偶棒を投げた。
 木偶棒はやり投げのように真っ直ぐミドに向かって飛んでいく。ミドはそれに気づくと手を伸ばした。
 すると、ゾイが首だけをグルンと動かして飛んでくる木偶棒を見て言う。

「邪魔しないでくれる?」

 しかし、ゾイは飛んでくる木偶棒に気づくと容易く弾き飛ばしてしまった。
 木偶棒はクルクル回りながら進行方向を変えてゾイの真上に向かって飛んでいく。ミドは木偶棒をつかみ損ねてしまった。

「くっ……!」
「うふふ、残念だったわね」

 ミドがゾイを睨むと、ゾイはミドの服を摑んで上から覆いかぶさるようにミドに見下ろし、不敵な笑みを浮かべる。
 ミドは木偶棒の飛んでいった方向をチラッと見る。するとゾイが包丁を構えてミドに言う。

「楽しいデートだったわ、死神さん」
「そりゃどうも……」
「もうお別れの時間ね……さよなら」
「つれないね……門限でも決まってるのかな?」
「そうね、仕事デートが終わったら早く帰らないと依頼主あの人を心配させちゃうのよ」
「なるほど……でも、まだ終わりじゃないよ。最後にとっておきのサプライズがあるんだからね」
「え?」

 ミドがニヤリと笑うと、息をスゥ~っと深く吸い込んで声を張り上げた。

「貫けえええええええ!! 木偶棒デクノボウおおおおおおおお!!!」
「――!!」

 ――ズドオオォォォォォォオオォン!!!

 次の瞬間、ゾイが異変に気付いた時にはもう遅かった。
 ゾイは自身の下腹部を見て目を見開く。そこには弾き飛ばしたはずの木偶棒が腹を貫いていたのだ。目の前のミドは木偶棒を体を横にして避けて両手でしっかりつかんでいる。
 真上に弾かれた木偶棒が、ミドの声によって一直線に伸びて、ゾイの心臓を背中側から貫いたのだ。
 空からゾイを貫いた木偶棒は、そのまま大地に突き刺さり、まるで一本の木が生えているかのように直立不動だった。

「……がはっ!?」
「次からは、背中にも注意するんだね……」

 ミドはゾイの背中側に回り、木偶棒を摑む。そしてゾイの背中に座るようにして言う。

「戻れ、木偶棒デクノボウ

 すると木偶棒は、みるみるうちに短くなっていき、あっという間に地面付近まで短くなっていった。
 ミドはヒョイと下りると、ゾイの背中に片脚を乗せて木偶棒を引き抜いた。
 ブシュっと音を立てて、木偶棒がゾイの心臓付近から引き抜かれる。その背中からは一定の間隔で吸血鬼の血が噴き出していた。吸血鬼の血は地面に落ちると一瞬だけジュっと音を立てて固まっていく。
 ミドは真上からゾイを見下ろしていた。ゾイは倒れた状態で、口から大量の血を流している。そして、ミドはゾイに言う。

「どう? ボクの硬い棒で貫かれた気分は……」
「ゴフっ……あ、あぁ、さ、さいッ、さい……最、高……よ……」

 ゾイは口からも血を吐きながら恍惚な表情で応えると、両目をギョロギョロと動かしながら痙攣している。そして、ゆっくりと動かなくなった。

 ――こうして、死神と吸血鬼の殺し合いは……幕を閉じた。
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