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竜がいた国『パプリカ王国編』
生まれ変わり!? ドッペルフの運命の赤い糸計画
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マルコは呆然とシュナイゼルの死体を見つめていた。
嘘でも冗談でもない。シュナイゼルは、マルコの尊敬する兄は目の前で死んだのだ。それも戦って死んだのではない、自ら命を絶って死んだのだ。剣士として最も恥ずべき死に方である。
「すべて、あなたの責任ですよ。マルコ王子」
「全部……ボクの、責任……」
ドッペルフはマルコを見下ろして言った。マルコも繰り返すようにつぶやく。
「そうです。あなたが生まれてこなければアンリエッタ様が殺されることはなかった……シュナイゼル様も自殺することはなかった。すべてあなたの責任なんですよ」
「ボクの……ボクの……」
そして真実を告げるかのようにドッペルフはマルコに言い放った。
「──あなたなんて、生まれてこなければ良かったんですよ」
マルコは何も言えずに立ちつくす。そしてゆらゆらとシュナイゼルの死体の元へ歩み寄って彼の青白くなった頬を撫で、冷たくなっていくのを手の平で感じた。その目は、もう二度とマルコのことを見てはくれないだろう。どこか眠そうにまぶたを半開きにしながら斜め上を見ているその目は人形のように見えた。
大量の血の臭いで鼻が麻痺してしまいそうだ。マルコはシュナイゼルの手から折れた剣を離して取ると、自らの喉に突き立てた。その時──。
「なんで全部マルちゃんのせいになるっスか! そんなのおかしいっス!」
マルコの背後から聞こえてきた声はフィオのものだった。彼女はマルコの行為に気がついて咄嗟に叫んだのだろう。マルコは驚いて喉に突き立てていた剣を落としてしまう。
「どう考えてもお前のせいじゃないっスか!」
「やれやれ、何も知らない旅人風情が……あなたにマルコ王子の何が分かるというのですか?」
「分かるっス! 少なくともお前なんかよりずっと!」
「ふふ……たかが数時間ここまで一緒に来ただけでですか?」
「そうっス!!!!」
フィオは腰に手を当てて自信たっぷりに宣言した。あまりの堂々とした態度にドッペルフは一瞬目を丸くしてから目を細め、笑って言った。
「ふふふふ……やはり旅人などという人種は、頭の中まで愚かなようですねぇ」
「何がおかしいっスか?」
「旅人など所詮は根無し草の浮浪者のようなものです。地に足のついていない者の言葉など、聞くだけ無駄でしたね」
「なんかバカにされてるのだけは分かるっス……」
フィオは顔を真っ赤にしてドッペルフを睨んだ。ドッペルフはフィオを無視するように言う。
「愚者に付き合っている暇はありません。そろそろ計画に移らせてもらいます」
そういうと、ドッペルフはアンリエッタの身体を触り、撫でまわし始めた。
「まずはアンリエッタ様、私の竜力……返してもらいますよ」
ドッペルフは眠っているアンリエッタの腹部に手をかざして押し込むと、アンリエッタが苦しそうに顔を歪める。するとアンリエッタの身体から金色のオーラが放出し、ドッペルフはそれを口から吸い取っていく。
「んふふふふふふ……帰って来た。私の力が!!」
するとドッペルフが全身から金色の眩いオーラを放ち出した。暗黒の亜空間を隅々まで照らし出すかのような光は太陽のように中心のドッペルフを白く発光させて、周囲が金色に染まっていく。
そのとき、ドッペルフが異変を感じたように顔を目を見開いた。そしてすぐに口元をニヤつかせて興奮し始めた。
「おお、これは何という僥倖! アンリエッタ様の竜力までとは!」
どうやらアンリエッタから奪われていた竜力を奪還したと同時にアンリエッタの竜力までドッペルフは強奪したようである。つまり、ドッペルフは元々の竜人族の力に加えてアンリエッタの竜力まで手に入れたことになる。単純計算だけでも二倍以上の力を手に入れたと言っていいだろう。
「ああ、いい。素晴らしい! アンリエッタ様の愛が……私の全身を満たしていくのを感じるッ……ああっ!」
異様な興奮を見せるドッペルフに対して、マルコは恐る恐る問いかけた。
「何をするつもりなの……?!」
「そうですね……マルコ王子には封印を解除してもらった恩がありますから、冥土の土産に教えてあげましょう。私の目的、それは──」
ドッペルフはアンリエッタを流し見して言った。
「──アンリエッタ様の『無償の愛』を得ることです……」
「お母さんの……?」
マルコが眉間にしわを寄せてドッペルフを見る。ドッペルフはバカにするように鼻で笑いながら続けた。
「正直に言いましょう。私はね、マルコ王子……あなたが羨ましかったんですよ。アンリエッタ様の愛を何の努力もせずに、無邪気に享受していることが……羨ましくて、羨ましくて…………しょうがなかったんだよ!!!」
歯ぎしりをしてマルコを睨ながら突然ドッペルフは怒鳴った。マルコは肩をビクつかせて萎縮する。ドッペルフは気にせずマルコに言い続ける。
「今度は私がアンリエッタ様の愛を享受する番なのです」
「意味が、分からないよ……」
「簡単ですよ。私はアンリエッタ様の子どもとして『生まれ変わり』をするのです」
ドッペルフはマルコの質問に冷静に応えた。マルコはますます訳が分からなくなったのか、口をポッカリ開けている。しばらく黙っていたマルコは言葉を吐きだす。
「う……生まれ変わる……?!」
「そう、生まれ変わるのです」
「ますます意味が分からない! そんなことできるはずが──」
「もうお忘れですか? 私は『亡霊人間』。魂や霊体に関しては超常的な力を手に入れたのですよ」
ドッペルフは、女神の能力『亡霊』があれば可能であると答えた。そして嬉しそうに計画の流れを語った。
まず、ドッペルフはアンリエッタの肉体を生き返らせて、その体に憑依。そして精神操作し、不都合な記憶は消す。
次に、生前に冷凍保存しておいたドッペルフ自身の精子を使ってアンリエッタの卵子と受精、着床させる。当然アンリエッタはドッペルフの子を妊娠することになるだろう。生前のドッペルフならそれで満足だっただろうが、今の願いは違うらしい。
ドッペルフの狙いは自分の子を産んでもらうことではない。ドッペルフは、アンリエッタの『子どもとして生まれる』つもりなのだ。
ドッペルフは生まれてくる自分の赤子である新たな生命の肉体に憑依して乗っ取る。
当然だが、赤子の魂とドッペルフの魂が衝突することになる。ドッペルフは赤子の手をひねるかのように自分の子どもの魂を絞め殺して、自分がその赤ちゃんの身体を乗っ取って生まれるのである。
アンリエッタはドッペルフだとは知らずに豊満な胸を露出して赤ちゃんに母乳を与え、愛し、育てるだろう。赤ちゃんはアンリエッタの無償の愛を受けてすくすくと育ち、成長。いずれパプリカ王国の王となり、愚鈍な人族を竜人族の力で支配……いや、統一し、平和な王国を実現するのだ。
これがドッペルフの『輪廻転生計画』である。
「私とアンリエッタ様は……へその緒という運命の赤い糸で結ばれるのです」
マルコはドッペルフが何を言っているのか、すぐには理解できなかった。
輪廻転生?? 運命の赤い糸??? あまりにも非現実なドッペルフの発言に絶句してしまう。
「好きな人の赤ちゃんになりたいとか、きっしょ!! きしょすぎるっス!」
フィオはあからさまに不快感を露わにして言う。すると横になっているミドが言葉を発した。
「赤ちゃんプレイの上位互換かな? 輪廻転生プレイなんて、レベル高いね~……」
「ミドくん! 大丈夫っスか!?」
「げほっ、げほっ! ……なんとかね~。それにしても、輪廻転生して赤ちゃん授乳プレイ、年齢差的にショタ&熟女。おまけにリアル近親相姦とは……さすがのボクでも引いちゃうね~……」
「そのスケベ変態発言の数々……とりあえず元気になったっぽいっスね!」
「首絞めの趣味はないから、あっちの方は萎えちゃったけどね~……」
フィオが心配そうに見つめると、ミドはまだ微かに苦しそうだがいつものようにヘラヘラと笑っていつものセクハラ発言をした。するとドッペルフが言う。
「何とでも言いなさい。真実の愛を知らない者には理解できないでしょうね……ふふふふ」
ドッペルフは全く意に介せずに嗤っている。すると次はキールがドッペルフに言う。
「本当にパプリカ王国の王になれると思ってんのかお前?」
「何ですって?」
キールが言うと、ドッペルフは片方の眉を上げてキールを睨む。キールは続けた。
「マルコの母親を利用するつもりだろうが、マルコの母親はパプリカ王国じゃあ邪竜だの汚らわしい竜女だの、相当な悪者扱いされてるはずだ。お前の思い通りにはならねぇんじゃねぇか?」
「そこはご安心ください。すべてこの私『ドッペルフの企みだった』として処理させていただきます。そうすればアンリエッタ様の罪はなくなります。現女王であるカタリナも、喜んで協力してくれるでしょうねぇ」
「自分の罪を認めるってのか?」
「認める? これはアンリエッタ様を救うための尊い自己犠牲ですよ。愛する者のために罪を肩代わりする……美しいでしょう?」
ドッペルフは恍惚な表情で自分に酔いしれていた。キールは小さく舌打ちをする。
ドッペルフがアンリエッタを復活させ、国の権力者を精神操作を施す。『一〇年前の邪竜襲撃事件は、ドッペルフの仕業だったのである』と記憶を改ざんすることで問題ないだろう。
さらにアンリエッタ様は、実は邪竜から王国を守ろうとした清らかな竜人族であると王国中の国民に信じさせることで、再び権力を手にすることができるだろう。
アンリエッタが妊娠している理由については、パプリカ王が殺される前に授かったものだったことにする。アンリエッタの死体は冷凍保存によって、お腹の中の子どもも一緒にコールドスリープしていたのだと信じさせれば良い。バカで愚かな国民は、すぐに信じてしまうだろう。ドッペルフはそう考えているようだ。
「……では、そろそろ行きましょうか」
ドッペルフは金色の竜力を全身から放出し、暗闇の中に金色のオーラの弾丸を撃ち出した。すると暗黒の空間に穴が開き、ブラックホールのように周りの空間を吸い込み始めたのだ。ドッペルフが気絶したままのアンリエッタを抱いて言う。
「おっと、忘れる所でした」
ドッペルフは穴から出て行こうとして空中で止まり、マルコの方に振り返って言った。
「私とアンリエッタ様は、これからパプリカ王国に向かいますが、あなたたちにはここで永遠に彷徨い続けてもらいましょう。私の計画を知ってしまった以上……生かしてここから出す訳にはいかないのでね」
そう言うと、ドッペルフはマルコとミド、キール、フィオに向かって手をかざす。すると再び無数の黒い手が床や壁から伸びてきて、マルコたちの両手両足を掴んで暗闇の中に引きずり込もうとする。
「さようなら、マルコ王子。そして愚かな旅人の皆さん──」
マルコは抗う気力もないのか一切の抵抗を見せず、ズブズブと暗闇に引きずり込まれていく。
「チクショウ! 離せ!」
「こんな場所に一生いるなんて嫌っスよお!!」
キールとフィオは黒い手に両手足を掴まれて引きずり込まれながら足掻いている。ミドは力が入らないようで、黒い手にされるがままである。
ドッペルフが通り抜けるとブラックホールのような暗黒の出口は徐々に小さく縮んでいき、このままでは出口が閉じてしまうだろう。そうなればマルコとミド、キール、フィオたちは亜空間に閉じ込められたまま一生出られなくなってしまう。
「マズいっス! 何とかするっスよ、キール!」
「くっ!」
キールが鬼紅線を片手から飛ばすが周囲に掴める物がなく、どうすることもできない。
「ヤバい! ヤバいっス!! ミドくん! キール! なんとか──むぐッ!?」
フィオが慌てふためいて叫んでいると、黒い手が口を覆って塞いでしまう。そのまま何もできずにズルズルと吸い込まれていく。
「んーーー!! んーーーー!!! んーーーー!!!」
マルコは一切抵抗せず、黒い手に吸い込まれて消えていく。そして続くようにミド、フィオ、キールの順で暗闇に吸い込まれていった──。
嘘でも冗談でもない。シュナイゼルは、マルコの尊敬する兄は目の前で死んだのだ。それも戦って死んだのではない、自ら命を絶って死んだのだ。剣士として最も恥ずべき死に方である。
「すべて、あなたの責任ですよ。マルコ王子」
「全部……ボクの、責任……」
ドッペルフはマルコを見下ろして言った。マルコも繰り返すようにつぶやく。
「そうです。あなたが生まれてこなければアンリエッタ様が殺されることはなかった……シュナイゼル様も自殺することはなかった。すべてあなたの責任なんですよ」
「ボクの……ボクの……」
そして真実を告げるかのようにドッペルフはマルコに言い放った。
「──あなたなんて、生まれてこなければ良かったんですよ」
マルコは何も言えずに立ちつくす。そしてゆらゆらとシュナイゼルの死体の元へ歩み寄って彼の青白くなった頬を撫で、冷たくなっていくのを手の平で感じた。その目は、もう二度とマルコのことを見てはくれないだろう。どこか眠そうにまぶたを半開きにしながら斜め上を見ているその目は人形のように見えた。
大量の血の臭いで鼻が麻痺してしまいそうだ。マルコはシュナイゼルの手から折れた剣を離して取ると、自らの喉に突き立てた。その時──。
「なんで全部マルちゃんのせいになるっスか! そんなのおかしいっス!」
マルコの背後から聞こえてきた声はフィオのものだった。彼女はマルコの行為に気がついて咄嗟に叫んだのだろう。マルコは驚いて喉に突き立てていた剣を落としてしまう。
「どう考えてもお前のせいじゃないっスか!」
「やれやれ、何も知らない旅人風情が……あなたにマルコ王子の何が分かるというのですか?」
「分かるっス! 少なくともお前なんかよりずっと!」
「ふふ……たかが数時間ここまで一緒に来ただけでですか?」
「そうっス!!!!」
フィオは腰に手を当てて自信たっぷりに宣言した。あまりの堂々とした態度にドッペルフは一瞬目を丸くしてから目を細め、笑って言った。
「ふふふふ……やはり旅人などという人種は、頭の中まで愚かなようですねぇ」
「何がおかしいっスか?」
「旅人など所詮は根無し草の浮浪者のようなものです。地に足のついていない者の言葉など、聞くだけ無駄でしたね」
「なんかバカにされてるのだけは分かるっス……」
フィオは顔を真っ赤にしてドッペルフを睨んだ。ドッペルフはフィオを無視するように言う。
「愚者に付き合っている暇はありません。そろそろ計画に移らせてもらいます」
そういうと、ドッペルフはアンリエッタの身体を触り、撫でまわし始めた。
「まずはアンリエッタ様、私の竜力……返してもらいますよ」
ドッペルフは眠っているアンリエッタの腹部に手をかざして押し込むと、アンリエッタが苦しそうに顔を歪める。するとアンリエッタの身体から金色のオーラが放出し、ドッペルフはそれを口から吸い取っていく。
「んふふふふふふ……帰って来た。私の力が!!」
するとドッペルフが全身から金色の眩いオーラを放ち出した。暗黒の亜空間を隅々まで照らし出すかのような光は太陽のように中心のドッペルフを白く発光させて、周囲が金色に染まっていく。
そのとき、ドッペルフが異変を感じたように顔を目を見開いた。そしてすぐに口元をニヤつかせて興奮し始めた。
「おお、これは何という僥倖! アンリエッタ様の竜力までとは!」
どうやらアンリエッタから奪われていた竜力を奪還したと同時にアンリエッタの竜力までドッペルフは強奪したようである。つまり、ドッペルフは元々の竜人族の力に加えてアンリエッタの竜力まで手に入れたことになる。単純計算だけでも二倍以上の力を手に入れたと言っていいだろう。
「ああ、いい。素晴らしい! アンリエッタ様の愛が……私の全身を満たしていくのを感じるッ……ああっ!」
異様な興奮を見せるドッペルフに対して、マルコは恐る恐る問いかけた。
「何をするつもりなの……?!」
「そうですね……マルコ王子には封印を解除してもらった恩がありますから、冥土の土産に教えてあげましょう。私の目的、それは──」
ドッペルフはアンリエッタを流し見して言った。
「──アンリエッタ様の『無償の愛』を得ることです……」
「お母さんの……?」
マルコが眉間にしわを寄せてドッペルフを見る。ドッペルフはバカにするように鼻で笑いながら続けた。
「正直に言いましょう。私はね、マルコ王子……あなたが羨ましかったんですよ。アンリエッタ様の愛を何の努力もせずに、無邪気に享受していることが……羨ましくて、羨ましくて…………しょうがなかったんだよ!!!」
歯ぎしりをしてマルコを睨ながら突然ドッペルフは怒鳴った。マルコは肩をビクつかせて萎縮する。ドッペルフは気にせずマルコに言い続ける。
「今度は私がアンリエッタ様の愛を享受する番なのです」
「意味が、分からないよ……」
「簡単ですよ。私はアンリエッタ様の子どもとして『生まれ変わり』をするのです」
ドッペルフはマルコの質問に冷静に応えた。マルコはますます訳が分からなくなったのか、口をポッカリ開けている。しばらく黙っていたマルコは言葉を吐きだす。
「う……生まれ変わる……?!」
「そう、生まれ変わるのです」
「ますます意味が分からない! そんなことできるはずが──」
「もうお忘れですか? 私は『亡霊人間』。魂や霊体に関しては超常的な力を手に入れたのですよ」
ドッペルフは、女神の能力『亡霊』があれば可能であると答えた。そして嬉しそうに計画の流れを語った。
まず、ドッペルフはアンリエッタの肉体を生き返らせて、その体に憑依。そして精神操作し、不都合な記憶は消す。
次に、生前に冷凍保存しておいたドッペルフ自身の精子を使ってアンリエッタの卵子と受精、着床させる。当然アンリエッタはドッペルフの子を妊娠することになるだろう。生前のドッペルフならそれで満足だっただろうが、今の願いは違うらしい。
ドッペルフの狙いは自分の子を産んでもらうことではない。ドッペルフは、アンリエッタの『子どもとして生まれる』つもりなのだ。
ドッペルフは生まれてくる自分の赤子である新たな生命の肉体に憑依して乗っ取る。
当然だが、赤子の魂とドッペルフの魂が衝突することになる。ドッペルフは赤子の手をひねるかのように自分の子どもの魂を絞め殺して、自分がその赤ちゃんの身体を乗っ取って生まれるのである。
アンリエッタはドッペルフだとは知らずに豊満な胸を露出して赤ちゃんに母乳を与え、愛し、育てるだろう。赤ちゃんはアンリエッタの無償の愛を受けてすくすくと育ち、成長。いずれパプリカ王国の王となり、愚鈍な人族を竜人族の力で支配……いや、統一し、平和な王国を実現するのだ。
これがドッペルフの『輪廻転生計画』である。
「私とアンリエッタ様は……へその緒という運命の赤い糸で結ばれるのです」
マルコはドッペルフが何を言っているのか、すぐには理解できなかった。
輪廻転生?? 運命の赤い糸??? あまりにも非現実なドッペルフの発言に絶句してしまう。
「好きな人の赤ちゃんになりたいとか、きっしょ!! きしょすぎるっス!」
フィオはあからさまに不快感を露わにして言う。すると横になっているミドが言葉を発した。
「赤ちゃんプレイの上位互換かな? 輪廻転生プレイなんて、レベル高いね~……」
「ミドくん! 大丈夫っスか!?」
「げほっ、げほっ! ……なんとかね~。それにしても、輪廻転生して赤ちゃん授乳プレイ、年齢差的にショタ&熟女。おまけにリアル近親相姦とは……さすがのボクでも引いちゃうね~……」
「そのスケベ変態発言の数々……とりあえず元気になったっぽいっスね!」
「首絞めの趣味はないから、あっちの方は萎えちゃったけどね~……」
フィオが心配そうに見つめると、ミドはまだ微かに苦しそうだがいつものようにヘラヘラと笑っていつものセクハラ発言をした。するとドッペルフが言う。
「何とでも言いなさい。真実の愛を知らない者には理解できないでしょうね……ふふふふ」
ドッペルフは全く意に介せずに嗤っている。すると次はキールがドッペルフに言う。
「本当にパプリカ王国の王になれると思ってんのかお前?」
「何ですって?」
キールが言うと、ドッペルフは片方の眉を上げてキールを睨む。キールは続けた。
「マルコの母親を利用するつもりだろうが、マルコの母親はパプリカ王国じゃあ邪竜だの汚らわしい竜女だの、相当な悪者扱いされてるはずだ。お前の思い通りにはならねぇんじゃねぇか?」
「そこはご安心ください。すべてこの私『ドッペルフの企みだった』として処理させていただきます。そうすればアンリエッタ様の罪はなくなります。現女王であるカタリナも、喜んで協力してくれるでしょうねぇ」
「自分の罪を認めるってのか?」
「認める? これはアンリエッタ様を救うための尊い自己犠牲ですよ。愛する者のために罪を肩代わりする……美しいでしょう?」
ドッペルフは恍惚な表情で自分に酔いしれていた。キールは小さく舌打ちをする。
ドッペルフがアンリエッタを復活させ、国の権力者を精神操作を施す。『一〇年前の邪竜襲撃事件は、ドッペルフの仕業だったのである』と記憶を改ざんすることで問題ないだろう。
さらにアンリエッタ様は、実は邪竜から王国を守ろうとした清らかな竜人族であると王国中の国民に信じさせることで、再び権力を手にすることができるだろう。
アンリエッタが妊娠している理由については、パプリカ王が殺される前に授かったものだったことにする。アンリエッタの死体は冷凍保存によって、お腹の中の子どもも一緒にコールドスリープしていたのだと信じさせれば良い。バカで愚かな国民は、すぐに信じてしまうだろう。ドッペルフはそう考えているようだ。
「……では、そろそろ行きましょうか」
ドッペルフは金色の竜力を全身から放出し、暗闇の中に金色のオーラの弾丸を撃ち出した。すると暗黒の空間に穴が開き、ブラックホールのように周りの空間を吸い込み始めたのだ。ドッペルフが気絶したままのアンリエッタを抱いて言う。
「おっと、忘れる所でした」
ドッペルフは穴から出て行こうとして空中で止まり、マルコの方に振り返って言った。
「私とアンリエッタ様は、これからパプリカ王国に向かいますが、あなたたちにはここで永遠に彷徨い続けてもらいましょう。私の計画を知ってしまった以上……生かしてここから出す訳にはいかないのでね」
そう言うと、ドッペルフはマルコとミド、キール、フィオに向かって手をかざす。すると再び無数の黒い手が床や壁から伸びてきて、マルコたちの両手両足を掴んで暗闇の中に引きずり込もうとする。
「さようなら、マルコ王子。そして愚かな旅人の皆さん──」
マルコは抗う気力もないのか一切の抵抗を見せず、ズブズブと暗闇に引きずり込まれていく。
「チクショウ! 離せ!」
「こんな場所に一生いるなんて嫌っスよお!!」
キールとフィオは黒い手に両手足を掴まれて引きずり込まれながら足掻いている。ミドは力が入らないようで、黒い手にされるがままである。
ドッペルフが通り抜けるとブラックホールのような暗黒の出口は徐々に小さく縮んでいき、このままでは出口が閉じてしまうだろう。そうなればマルコとミド、キール、フィオたちは亜空間に閉じ込められたまま一生出られなくなってしまう。
「マズいっス! 何とかするっスよ、キール!」
「くっ!」
キールが鬼紅線を片手から飛ばすが周囲に掴める物がなく、どうすることもできない。
「ヤバい! ヤバいっス!! ミドくん! キール! なんとか──むぐッ!?」
フィオが慌てふためいて叫んでいると、黒い手が口を覆って塞いでしまう。そのまま何もできずにズルズルと吸い込まれていく。
「んーーー!! んーーーー!!! んーーーー!!!」
マルコは一切抵抗せず、黒い手に吸い込まれて消えていく。そして続くようにミド、フィオ、キールの順で暗闇に吸い込まれていった──。
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