ミドくんの奇妙な異世界旅行記

作者不明

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竜がいた国『パプリカ王国編』

──やっぱりな。マンボウ号に残された真実。

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 ──一方、パプリカ王国の城下町。
 空の雲行きが暗く、怪しくなっている。キールとカタリナ、マルコの三人は城下町の中を走っていた。

「マルコ、あとどれくらいだ?」
「もうすぐです、この裏道を通っていけばすぐですよ」

 マルコが先導してキールの知らない裏道を教える。キールもそれを信じてついて行く。裏道を抜けて街の大通りに出ると、あら不思議。あっという間に王国の内門まで到着してしまった。
 マルコが満足そうに周囲を見て驚愕きょうがくする。街の中が火の海になっていたのだ。街路樹は全て焼き尽くされて黒焦げになっており、火事になっている建物もある。その奥に建物に火をつけている少女がいた。

「フィオ!」「フィオさん?!」

 キールとマルコが思わず声を上げる。するとそれに気づいたフィオが振り返って叫ぶ。

「あ、キール! どんなもんっス! あーしの力で亡霊が街から消えたっス! これでこの国は救われたっス!!」

 彼女は意気揚々と満足そうに言った。マルコがあわあわしながら言う。

「な、なな、何やってるんですか!? フィオさん!!」
「マルちゃん、安心するっス! 亡霊はキャンプファイヤーが大好きっス! こうやっておっきな火があれば勝手に寄ってきて、飛んで火にいる夏の虫っス!」
「い、意味が分かりませんよ!」

 マルコはフィオの凶行を理解できずに困惑する。キールが説明をすると、マルコは訝し気に言う。

「で、でも! 亡霊は一人も寄ってきてないじゃないですか!」
「そう言えばそうっスね? さっきまで来てたっスけど……どこ行ったっス?」

 フィオは首をかしげている。キールが状況をフィオに簡潔に説明する。亡霊はドッペルフが王家の墓に向かうように指示を出した。そのため、街には亡霊はほとんどいないはずである。そして今キールたちがマンボウ号に向かっていることも説明した。

 キールの説明で状況を理解した気になったフィオはガッテン承知と興奮して言う。

「なんスと!? じゃあ急いでマンボウ号ちゃんに向かうっス!」
「ま、待ってください! この火事はどうやって消すつもりですか??!」
「大丈夫っス! ミドくんの変態パワーなら解決できるっス!」
「変態パワー???!!」
「空からミドくんが小便おしっこをばら撒いて、街中の火事を消すっス!」
小便おしっこ?!」
「ミドくんの膀胱は宇宙っス!」
「いくらなんでも小便おしっこで町中の火を消すなんて無理ですよ!」

 フィオはミドの女神の寵愛のうりょくならなんとかできると言う。マルコはさらに困惑してキールに助けを求めるような視線を向ける。

小便それはただの比喩表現だ。本当に小便で消すわけねぇだろ」

 キールはフィオの意味不明な理論もミドの『森羅』なら火を消せるというのは、あながち間違いではないと説明した。

「あ……」

 マルコはミドが指先から水を出すところを見たことがあったのを思い出す。同時に水を出す感覚が小便おしっこを出すときと同じであると聞いたことを思い出した。
 ──その時である。


 バーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッッッッ!!!


 突然大きな爆発音が響き渡った。キールとマルコ、カタリナとフィオは驚いて音のした方角に顔を向けた。その方角とは王家の墓である。現在ミドとドッペルフがいる現場だ。何が起こっているの分からないが、戦闘が繰り広げられているであろうことは全員が理解できた。
 キールの顔つきが厳しくなって言う。

「バカなこと言ってねぇで、急ぐぞ!」
「は、はい!」

 マルコがキールに急かされてパプリカ王国の内門に入って行く。キールもマンボウ号で眠っているはずの『もう一人のミド』の元に向かうために走った。

「ちょっと待って! あーしも行くっス!」

 フィオは慌ててキールたちについて行く。走りながらフィオはキールにたずねる。

「ところでミドくんはどうやってアイツをぶっ飛ばしたっスか?」
「お前の作ったポンコツを使ったんだよ」
「な、失礼な! あーしの発明品はどれも一級品……。え? もしかしてミドくん、幽体離脱マシン分身くんを使ったっスか!?」

 幽体離脱マシン、名付けて分身くんは人体から霊体を引っ張り出して強制的に幽体離脱させる古代文明の叡智が詰まったビックリドッキリ箱である。

 ドッペルフは霊体でありながら実体をもつ者に触れることができるというのは間違いではないが正確な表現ではない。正確には「実体をもつ者の霊体に触れることができる」と言った方が正しいだろう。つまりドッペルフも実体に触れられているわけではないのだ。

 ミドは幽体離脱マシンで肉体と霊体を分離しているのだ。肉体では亡霊のドッペルフに触れることは叶わないが、霊体同士なら話は別だ。
 本来霊体のみの場合、その人間は意識をもつことはできない。だがそれは死んだときの話だ。幽体離脱は半分生きている状態と言えるため、ミドは精神体の幽霊になっても意識を保っていられるのだ。しかしそれも幽体離脱をしてから約三〇分ほどである。それ以上幽体離脱をしている時間が延びると意識は切れるだろう。つまり生命線が千切れてしまう。本当の意味で、ミドが意識のない幽霊となるだろう。

 ──つまり、ミドが『死ぬ』ということだ。

 どうしてキールがそう言えるのか。それはドラゴシムティエール迷宮でドッペルフとミドが対峙し、ミドが敗北したときの経験のおかげかもしれない。あの時ドッペルフはおごっていたのだ。ミドたちを見下し、迷宮から出てこれるはずがないと、たかをくくっていたのだろう。自身の能力の詳細を懇切こんせつ丁寧ていねいに教えてくれていた。

 キールは不敵に笑いながらフィオに言う。

「今のミドはドッペルフあの野郎と同じ霊体だ。同じ霊体同士なら、触れることも殴ることもできるってわけだ」
「でもあーしの分身くんは、三〇分が限界っスよ! それ以内に肉体に戻らないと、生命線が千切れてミドくんが本当に死んじゃうっス!」
「それ以内に勝負を決めてもらうしかねぇ」

 キールが深刻な顔で言う。

 キールたちがマンボウ号に到着すると、確かに亡霊の姿は一人もなく。とても静かな状況だった。全員がマンボウ号の中に入って行く。

 とある部屋の中に入ったキールが、小さく小さくつぶやいた。

「──やっぱりな」

 そこには幽体離脱マシンの近くで横たわるミドの『肉体抜け殻』があった──。
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