ミドくんの奇妙な異世界旅行記

作者不明

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竜がいた国『パプリカ王国編』

──深夜の来訪者。マルコとの約束を果たす時。

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 ──事件から数日が過ぎた。

 パプリカ王国では王国の復旧作業と清掃が進められている。

 ミドやキール、マルコとドッペルフの戦闘による王家の墓の一部の破損や、亡霊に怯えて逃げまどっていた一部の人たちが物を投げたりなどの抵抗をした結果。町の中が非常に荒れた状態である。それ以外にもフィオの放火によって引き起こされた街路樹の被害もある。

 王家の墓は戦いの傷跡が残ってはいるが、今でもどっしりとそびえ立っている。今後、パプリカ王国によって修繕などされる予定だそうだ。

 マルコの母、アンリエッタの遺体は王家の墓の中で発見されたそうだ。以前のような半分生きているような状態ではなく、腹部に大きな内出血の痕があって明確に死んでいると診断された。
 不思議だったのは、アンリエッタの表情が以前と比べて微笑むように口角が上がっていたことだ。それは心配事がなくなって安心している人のようにも見えた。

 そういえば変わったことが一つある。マルコへの周囲の評価だ。

 ドッペルフの女神の絵本の影響なのか、国民たちのマルコへの認識が少し変わっていた。なぜかマルコは『パプリカ王国の英雄』という認識に改変されていたのだ。

 おそらくドッペルフは『マルコ王子』として転生した後のことを計算していたのだろう。自分が英雄として新しい人生を謳歌するために、亡霊にした人たちの記憶を書き換えていたのだ。
 皮肉なことに、ドッペルフという男は国際的な犯罪者として認識されていた。マルコ王子はドッペルフからパプリカ王国を救った英雄にされていたのだ。

 いくつか疑問点がある。能力者本人ドッペルフが死んだら女神の絵本の呪いは解けるはずなのだが、どうして記憶が改変されたままなのだろうか。女神の絵本に関しては解明されていないことが多いため、はっきりとは分からない。
 とりあえずミドとキールの見解では、ドッペルフの女神の呪力は記憶の書き換えまでであり、書き換えた後の記憶に関しては無関係とカウントされるのだろうという結論に至った。

 まぁ、不名誉な書き換えならともかく、マルコにとっては棚から牡丹ぼた餅のようなものなのだから良かったということにしよう。ドッペルフがやらかした影響もすべてがマイナスになるわけではないということだ。

 そしてミドたちだが、本来ならもうすでにパプリカ王国を出国している予定だった。だが、ミドたちの出国手続きは先送りにされているようだ。

 実は今回の戦闘で、ミドは度重なる無理によって二日ほど眠ったままだったのだ。
 慣れない幽体離脱に加えて、女神の呪い『森羅』の一時的覚醒、女王カタリナやキールたちの傷を癒すために一部血液まで抜かれている。普通の人間なら死んでいるだろう。

 それに加えてフィオのトドメの一撃があるが、アッチの痛みは数時間で引いたため問題ない。いや、問題はあるが大丈夫だ。あれはミドにも責任があるため自業自得である。男性は疲れているとき、死にかけのときほど性欲が高まる傾向があるため、生物学的に致し方ないと思ってほしい。

 ミドたちは女王カタリナの厚意で城に泊めてもらえることになり、ミドは現在パプリカ王国の一室で眠っている。ミドの異常な回復力で一命は取り留めているが、しばらくは安静が必要だそうだ。カタリナの指示でマルコ専属だったミルルがミドの看病もすることになる。

 キールは吸血鬼の生命力の強さもある上に、ミドの血を使ったおかげでだいぶ良くなっていたので、一日ほど安静にしただけで傷が完全に塞がった。夜になると一人で出かけて何か活動をしているようだ。

 言うまでもないがキールは基本は夜型である。つまり夜になると吸血鬼の血が騒いで元気になる。深夜の吸血鬼状態ヴァンパイアモードのキールが窓から外出しようとしている瞬間をメイドたちが何度も目撃している。月明かりに照らされたその姿はメイドたちいわく「猟奇殺人鬼の顔」だったそうで、裏でメイドたちに怖がられているらしい。キールが聞いたら平気そうな顔をするだろうが、内心はショックを受けると思うので秘密にしておこうと思う。

 一方ミドは一~二日は起きる気配がなかったのだが三日目の朝に事件が起きる。ミルルが様子を見に行くと、ミドがベッドの上で自家発電オナニーをしているのを目撃したらしいのだ。焦ったミドは、ベッドに座ったまま両手を掛け布団のしまって涼しげな表情で言った。

「……あの、おはよう、ございます」
「ミド様!? 目が覚めたんですか! 良かった、すぐに皆さんを呼んで──」

 ミルルは喜んで皆を呼んで来ようと思ったのだが思いとどまる。不自然なほどミドの息が荒くなっているのをミルルは見逃さなかった。

 チラッと目を向けたベッド横のサイドテーブルには、ティッシュを三枚くらい重ねてキレイに置いてある。今すぐではないが近い将来にティッシュが必要になることを示唆しさしている。

 さらに決定的だったのが部屋の中の異質な臭いだった。それを嗅いだ瞬間、すべてを察したミルルだった。そして無意識にミドの股間に目を向けるミルル。心なしか、こんもりと山になっているような気がする。ミルルは確信した。

『──ミドさんが“息子さんマイボーイ”を握っておられる!?』

 ミルルが突然入ってきてしまったせいもあって握ったまま動けなくなってしまったのだ。
 ミルルは葛藤した。今すぐ皆を呼べば、ミドさんは確実に精神的な傷を負うことになる。ただでさえ肉体的にも生殺しのような状態にされて、今まさに苦しんでいるというのにそれはこくというものだ。
 しかし女王カタリナ様から「ミドさんが目覚めたらすぐに知らせなさい」と命令されている。メイドとして女王の命令に背くわけにはいかない。

 あと少しで山の神が大噴火スプラッシュ・マウンテンしそうだったのだろう、ミドさんの表情はとても苦しそうだ。おそらく心の中で「静まれ……静まりたまえ……なぜそのように荒ぶるのか……」と必死で唱えているに違いない。まるで怒り狂う山の神を鎮めるかのように。

 ミルルは脳みそをフル回転させる。ミドさんが精神的に傷つかず、同時に肉体の健康ヘルスケアも満足させてあげる方法。ミルルは自分にできることは一つだと確信する。

「そうだ! 私がいてあげれば──」
「ストォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオップ!!!!」

 ──と、ミルルが目撃情報を説明したところで、マルコが話を遮断するように割って入ってきて終了する。セクハラ淑女のミルルと、セクハラ紳士のミドを掛け合わせてはいけない。下ネタの相乗効果で、とんでもないことになるとマルコが判断してのことだ。

 そんなこんなで現在でもミドたちはパプリカ王国にとどまっている状況だ。ミドとフィオは急がず焦らず呑気にしているが、キールは予定を狂わされてイライラを隠せずにいるようだ。

 そこでミドたちは、出国までしばらく時間があるため、フィオの願いだった竜肉のから揚げが食べられる店にマルコと一緒に行くことになった。

「はむっ! はふほふっ! もきゅもきゅ……。竜肉のから揚げ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
「おい、フィオ! 食いながら叫ぶなよ。食いカスがテーブルに飛ぶだろうが!」

 フィオが口の中いっぱいにから揚げを頬張っている。唇を油でテカテカにしながらご機嫌だ。キールはフィオに注意しながら布巾でテーブルを拭いている。

 マルコはフィオが大喜びしているのを対面で眺めながら言った。

「フィオさんに喜んでもらえて良かったです」
「マルちゃんは食べないっスか?」
「いえ、ボクは大丈夫です」
「??????」

 フィオが首をかしげる。するとキールが言う。

「共食いになっちまうもんな」
「あ! マルちゃんごめんっス!!」

 フィオはキールに言われてハッとし、すかさず謝罪する。マルコは両手を振って言う。

「いえいえ、気にしないでください」
「悪気はなかったっスよ! あーしのこと嫌いにならないでほしいっス!」
「大丈夫ですよ。竜人族と竜族は遺伝子的に似ていますが、明確に違う種族ですから気にしないでください」
「へぇ~。バナナと人間の遺伝子が五〇%同じみたいなことっスか?」
「え……まぁ、そうですね」

 マルコはバナナと同列に扱われて少し困惑していたようだが納得したようだ。
 さっきまで目をウルウルさせながら不安そうにしていたフィオは、安心して再び竜肉のから揚げを食べ始めた。マルコもそれを眺めている。そのとき、ミドが不意に問いかけた。

「マルコはこれからどうするの?」

 するとマルコが言う。

「どうするって、今までの生活に戻るだけですけど……」
「マルコが良ければ、一緒に外の世界を見に行かない?」
「え!?」

 突然のミドの誘いにマルコは目を丸くする。

「ぶっ!?」
「んぐっ!??! 〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰ッッッ!!」

 キールは飲んでいた水を噴き出し、フィオはから揚げを喉に詰まらせて顔を真っ青にしながら必死で胸を叩いている。キールがハンカチを取り出して口元を拭く。呼吸を整えてからキールが言った。

「おい! 本気かミド!」
「マルちゃんが仲間になるっスか! あーしは大歓迎っスよ!! 旅は道ずれ世は情けっス!!!」

 キールとフィオが問い詰めると、何を考えているのかわからないような笑顔でミドが言う。

「ボクは本気だよ。マルコ」
「ボクが……ミドさんたちと……一緒に……」
「旅は楽しいよ~。たとえば──」
「──無理ですよ」

 次の瞬間、ミドの話を遮ってマルコがつぶやく。
 キールとフィオも黙る。ミドは表情を一切変えずに笑顔を崩さない。するとマルコはミドに言った。

「ボクは王位を継いで、パプリカ王国を守らなくちゃいけないんです。旅をしてる暇なんてありません」
「英雄だから?」
「それもあります」
「マルコは王様になりたかったの?」
「当たり前じゃないですか。ボクは、みんなに認めてほしかったんですから……」

 数秒の間をおいてからマルコは言った。
 女王カタリナは先の事件で両足を失い、現在では椅子に座ったまま歩くことさえ困難な状態だった。長男のシュナイゼルは死んで、王位継承を望まれている有力候補がいない。

 忘れているかもしれないが、ボクシー王子は王家の墓の裏で気絶しているのをパプリカ王国の兵士が見つけたらしい。意識は戻ったようだが精神を崩壊させており、目を離すとブツブツ何かを言いながら壁に頭を打ち付けているらしい。

 つまり、パプリカ王国でカタリナ以外にまともな後継者と呼べるのは、英雄マルコしかいないのが現状なのだ。

 両足を失って歩けなくなっても、女王カタリナは今しばらくはパプリカ王国を、民を導いてくれるだろう。問題は数年後、彼女が王位を譲る時だ。
 ほかの有力候補がいない以上、当然マルコが選ばれるだろう。今のマルコの人気からみて国民からの支持も後押しするはずだ。それをマルコも理解して受け入れようとしているのだ。

 マルコが、ミドに言う。

「ご存じの通り、カタリナ姉さんは……もう歩くことはできません。ボクが支えないといけないんです」
「………………」
「なりたいかどうかじゃないんです。ならなきゃいけないんです!」
「………………」
「皆さんの出国手続きは今日中には終わらせるように言っておきますので、明日には出国できると思います」
「……そっか」
「皆さんはごゆっくりしてください。それでは失礼します」

 マルコはそう言い残すと、店の代金を払って出て行った。フィオはマルコの態度を見て寂しそうな表情をしている。ミドはマルコの後ろ姿を黙って最後まで見ていた。
 キールがミドに言う。

「どうする気だ?」
「何が?」
「何がじゃねぇよ。本気マジでマルコを連れて行く気か?」
「うん、本気マジだよ~」
「オレは聞いてねぇぞ。いつから考えてた?」
「昨日からだよ~」

 ミドはヘラヘラ笑って言う。するとキールが言った。

「マルコのあの様子だと、連れて行くのは無理そうじゃねぇか?」

 キールがイスに深く腰掛けて腕組みをして言う。そしてチラッと横目でミドを見た。するとミドはニヤニヤ笑っていた。それを見たキールが言った。

「その顔は悪だくみしてる顔だな」
「ふふ~ん。バレたか」
「何する気だ? これ以上の厄介ごとは御免だぞ」

 キールは右手で左肩を揉みながら嫌そうに言う。するとミドが言った。

「今夜、マルコとの約束を果たしに行こう」

 そう言ってミドは不敵な笑いを見せた──。

                   *

 ──時刻は夜の二三時四八分。パプリカ王国、マルコ王子の寝室。

 コンコンコン。

「はい」

 マルコは一人で夜空を眺めていた。するとドアをノックする音が響き、マルコが返事をする。キ~っと音を立ててゆっくりドアが開いた。

「起きてますか? マルコ」
「はい、起きてますよ」

 ドアから入ってきたのは、車イスに乗った女王カタリナだった。マルコがたずねる。

「どうしたんですかカタリナ姉さん? こんな夜に」
「あなたに、謝りたかったのです……」
「ボクに?」
「ええ」

 カタリナは口元に力が入り、両手をグッと握りしめながら言う。

 ずっと言えなかったこと、アンリエッタの首を切り落としたのは自分であることを告げた。そして王家の墓に眠るアンリエッタの存在をずっと隠していたこと。今まで辛く当たっていたことを申し訳なかったと、カタリナはマルコに謝罪した。

「今まで、ごめんなさい……マルコ……」
「いいんですよ。もう謝らないでください」

 カタリナは両手で顔を覆い、肩を震わせていた。マルコはその姿を黙って見ているしかなかった。カタリナの話を最後まで聞いた後、マルコが言った。

「カタリナ姉さん……」
「何ですか?」
「もしボクが、旅に出たいと言ったら……どうしますか?」
「ミドさんたちと……ですか?」
「………………」
「マルコを止める資格は、私にはありません」
「………………」
「私を含め、この国の民はあなたにとても辛く当たってきました。パプリカ王国に恨みを持つのも当然です。出て行ったとしても私は責めません」

 カタリナがうつむいて答えると、マルコが突然笑って言う。

「な~んて、冗談ですよ。ボクがパプリカ王国を出て行くわけないじゃないですか」
「マルコ……」

 マルコは平気そうに笑って言った。カタリナはその姿を見て寂しそうにしている。そして少し居心地が悪い沈黙が続き、カタリナが言う。

「ごめんなさいね、こんな時間に急にきて……」
「また謝ってますよ」
「そ、そうでしたね。おやすみなさい、マルコ」
「はい、おやすみなさい。カタリナ姉さん」

 そう言ってカタリナはマルコの部屋を出て行った。
 急に静かになった空間の中。一人になったマルコは、そろそろ寝ようとベッドに向かって歩いていく。そのままドシンと座って大きく息を吸い、ゆっくりと吐いた。そしてマルコがつぶやく。

「明日も早い、早く寝ないと」

 ──その時である。

 ガチャ! ブワァン!

 突然、窓が開いて強い風が吹く。部屋の中の蠟燭ろうそくの灯がすべて消えて、暗闇がマルコに襲い掛かる。

「!?」

 マルコは窓から距離を取って物陰に隠れた。そしてゆっくりと窓の方を覗くと、賊らしき三人の影が見えた。マルコは窓の外に見える三人の影に向かって勇気を出して叫んだ。

「誰だ!」
「こんばんは」

 すると三人の一人が返答する。その声はマルコにとって聞き覚えのある声だった。今日もその声を聞いているのだから聞き間違えるはずがない。

 マルコが燭台の蝋燭に火をつけて三人の影に向かって灯りを向ける。影の正体を認識したマルコは驚きと安心が混ざったような表情をする。そしてマルコが言った。

「ミドさん!? 何してるんですか?」

 窓の外にいたのは、紛れもないミドとキール、フィオの三人組だった。マルコは緊張が解けたように言う。

「もう、びっくりさせないでくださいよ……こんな時間に一体──」
「マルコ」

 すると、ミドがマルコを呼ぶ。その声はいつもと違って少し恐怖すら覚えるほど低く、感情のない冷淡な声だった。ミドの後ろにいるキールとフィオも、マルコが知っている二人とは思えないほど、冷たい目をしていた。

 窓の外からマルコを見ている旅人は、月の光に照らされたキレイな深緑色の髪と鮮血のような真っ赤な瞳をしていた。マルコが怯えて言う。

「ミド……さん?」
「約束通り、キミを──」

 すると、ミドが無感情な声で言った。











































「──殺しに来たよ」
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