異世界を統べるのは人ではなく竜だ

第4章 人と竜の狭間篇

第44話 八体目の竜

　ハーパーの元に、リュートが飛び出した。

　「俺が時間をかせぐから、お前らは退け」

　「なっ！」

　今の彼女らはまともに戦える状況ではない。このドラゴンの実力を知るためにもこの場で戦っておきたかった。流石にこの戦闘はクリアとオリアナには荷が重いので、遠くで待っててもらうことにした。

　「ほう、面白いな人間。我に向かって来るか」

　「頼むからこいつらを見逃してやってくれないか？」

　「断る。我はただこの飢えを満たしたいだけだからな。汝の命も喰わせて貰おう」

　「やれるものならな」

　バキバキ！灰色の大地の至る所から骨が伸びてきて、リュートを貫こうとする。

　「うおっ！危ねぇ！」

　刀が刀身を光らせながら、骨を切り裂く。リュートは何とか骨を回避する。


　「無理だ！君では勝てない！君こそ今すぐ引くんだ！」

　「！まだ居たのか！早く逃げろって言っただろ！」

　「君を見捨てて逃げられるか！私も戦う！」

　ハーパーが剣を構える。

　「まずはあっちの方から喰わせて貰おうか！」

　骨がハーパーの背後からハーパーを狙う。

　「しまっ…」

　ザクッ！骨がハーパーを貫き、命を喰らう。

　「そして、汝も終わりだ」

　複数の骨が同時にリュートの体を貫いた。

　「なんだ…期待した割にはあっさりと終わったものだな」


　その時、灰喰竜の視界が歪む。気がつくと、先程喰らった筈の二人がまだ生きていた。

　「な、何だ今の魔法は！」

　ハーパーは驚いた。先程自分は呆気なく殺された筈だ。それが何故だか生きている。

　「はぁ…はぁ…。久しぶりだったが、成功したようだな。見えただろ？それがこのあと起こるはずだった結末だ」

　リュートは大量の魔力を消費して、神刀･夢幻白夜の能力『夢幻』を発動させた。

　「今のでわかっただろ？お前じゃこいつには勝てない」

　「なかなか面白い魔法を使うようだが、それもこれまでだ。汝は我に喰われる運命だ」

　「いいか？もう一度だけ言う。俺が時間を稼ぐからお前らは退け！命を無駄に散らすな！」

　リュートの体が変化し始める。人間体を保つ魔力が無くなったのだ。

　「な、君は一体…」

　ハーパーは退きながらその光景を見ていた。

　「行くぜ灰喰竜！俺が相手だ！」

　ハーパーは見た。灰喰竜の前に立ち塞がる巨大な黒いドラゴンの姿を。

　「あれは…八体目の竜…なのか…？」

　そして、ハーパーは退いた。後はこいつを遠ざけるだけだ。残りは簡単な仕事だ。

　「ほう。汝は人では無かったか」

　「あぁ、そうだ。お前もあの緑野郎と同じく、吹き飛ばして逃げさしてもらうぜ！」

　「何！汝がアイツを？」

　灰喰竜はリュートの言葉に驚き、動きが止まる。

　「既にお前の周りに仕掛けてあるぜ？」

　灰喰竜の周りには既に大量の剣が突き刺さっていた。

　「またいつか、お前を討伐しに来る。じゃあな！爆破デトネイト！」

　灰色の大地は大爆発に包まれたのだった。