最強の魔王である俺が全力で世界を守ってたのに勘違いした部下に殺されので三百年後の虐められっ子と融合することになった

名無しの夜

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9 登校

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 目を開ける。本来俺には睡眠は必要ないが、人間の生活パターンを模倣していると彼らの仲間に入れたような気持ちになれるので、特に用事のない時は人を真似て睡眠を取ることにしている。

「さて、それでは登校だな」

 寮の部屋を出る。聖ユギル学院。それは人類の生存圏である『箱庭』にある十二の大国、通称十二大国にそれぞれ一つづつ存在する最高の兵士養成機関とのことだ。そこに今日から通う。まぁルドは今まで通ってたので今日からというのは変かもしれないが、俺とルドが一つになってからという意味では今日からだ。

 ちなみにドラゴンの捕獲に同行していた他の生徒は数日前から学校に戻っているらしい。俺とシーラはドラゴンを従えるに至った経緯について説明する必要があったので戻るのが少し遅れた。

「ヴァレリア大佐か、あの子も中々の実力者だったな。やはり人類全体のレベルが底上げされていると感じたのは間違いではないようだ。……くっ、感動だ」

 小さくか弱かった人類が少しづつ逞しくなっていく。その努力に胸を打たれる。いつまでも見守りたい。そう強く想う。だが、だからこそ人類を滅ぼさんとする悪魔に対して殺意が湧く。できることなら今すぐにでも地上にはびこる悪魔共を一掃してやりたい。だがーー

「……流石に時間がかかるか」

 歩く度に全身の筋肉が悲鳴を上げている。先日シーラとドラゴンの戦いに割り込んだり、軍隊の攻撃を防いだだけでこれだ。俺の力が人間には大きすぎることはわかっていたが、この状態で地上の悪魔全てをいっぺんに相手取れば悪魔共を殲滅しきる前に肉体が消滅するだろう。

「忌々しい悪魔共め。消滅覚悟で今すぐ引導を渡してやろうか? ……いや、だめだ。そんな賭けに出るべきじゃない」

 ここで無理をして万が一にも悪魔を倒し切る前に再び肉体を失うようなことがあれば、本当に人類が滅びかねない。業腹ではあるが、肉体が俺の力に最低限の適応をするまで待ったほうがいいだろう。

「だから仕方なく、そう、仕方なく通うか。学校に!」

 無論別に通いたいわけじゃない。愛しい人間達が滅びかねないこの瀬戸際に、人類を守護すると誓ったこの俺が学園生活などにうつつを抜かす? あり得ない。あるはすがない。これはあくまでも必要だからだ。必要だから学校に通うのだ。

「これが……登校風景か」

 同じ校舎を目指す同じ制服を着た人間達がこんなにいっぱい。何だか不思議な光景だ。

「おい、ルド!」
「ん? おおっ、おはようお前達。いい朝だな」

 校舎の前に立っていた数人の男の子達がこっちにやってくる。あの様子だとどうやら俺がくるのを待っていたようだ。まさか……と、友達なのか? ひょっとして彼らはルドの、俺の友達なのか? くっ、胸が高鳴るぞ。

「おはようじゃねーだろ。お前、一体何をやりやがった?」
「ふむ。すまない。何の話か分からないのだが」
「とぼけんなよ。テメー確かにジオダさんに刺されただろうが。それが何でピンピンしてんだ? その上ドラゴンを従えただと? お前みたいな雑魚が。一体どんな手品を使いやがった? 教えろよ」
「教えろと言われても単にドラゴンが勝手に実力差を理解しただけだぞ」

 まさかブレスを消しただけで、そこまでビビられるとは思っていなかったのだ。あれは本当に予想外だった。

「おい。つくならもっとマシな嘘をつけよ。ドラゴンがお前みたいな腰抜けにビビるとか、本気で言ってんのか?」
「お前達が俺をどんな風に評価しているのかはどうでもいいし、問題ではない。だが俺の前でルドをバカにすると……そうだな。お尻ペンペンするぞ?」

 どうにもシーラが言っていた優しすぎる発言といい、彼らの言動といい、推測するにルドは周りの人間に侮られやすい、俗にいう虐められっ子だったのかもしれない。だが少なくとも俺と一つになる前の彼は自分が死にそうな状況であるにも関わらず誰かのことを気にかけることの出来る凄い人間だった。目の前にいる彼らも俺の愛する人間であるのは間違いないが、それでもルドを馬鹿にされるとちょっとムッとしてしまう。

「上等だ。どんな手品使ったか知らねーが、ルド如きが生意気なんだよ」
「反省する気はないんだな」

 一応周りにいる他の男の子達にも視線で問いかける。

「ボケが。皆が見てるここでボコってルド如きの虚言に騙されてる連中の目を覚まさせてやるぜ」
「お前が俺らより上とかありえねーんだよ。ゴラァ」
「ゴラァ!!」

 そうして男の子達は叫ぶだけ叫ぶと暴力に訴えてきた。だから俺は仕方なくーー

「反省したか?」

 バシン! と叩く。地面に四肢をついて半尻を晒す男の子の尻を。

「ぬぁあああ!? しました。しましたから許してください」
「て、テメー、ルド! こんなことして許されると思ってんのか!? ゴラァ!」
「ゴラァ!」
「ふむ、こちらの二人はまだ反省していないようだな」

 早々に泣き始めた男の子よりももう少しだけズボンを下げる。

「て、てめー。セクハラだぞこれ」
「訴えてやる!」
「自分たちから喧嘩を売ってきておいて何と情けのない」

 バシン! 

「ぐぎぁああ!! 何だこれ? 尻叩かれてるだけなのにスゲェ痛い!? つーか体が動かないのは何でなんだよ!?」
「ごめんなさい、ルド様! もう許してください。本当は俺、ルド様を虐めたくはなかったんです。全部こいつの指示なんです」
「て、テメー何一人だけーー」

 バシン!

「ぬぎゃああああ!! す、すみませんでした。ジオダさんがバックにいると思って調子乗ってたんです。許してください」
「ふむ。いいだろう。だが今後は俺を侮るような発言をしないように。いいな?」
「「「はい」」」

 多少荒っぽくはなったが、何とか分かってもらえたようだ。俺が彼らを縛る術を解こうとしたところでーー

「ルド? 朝っぱらからこれは何の騒ぎなの?」

 二番目の奥さん……いや、まだ候補だったか? とにかく奥さんになるのならシーラの次でも構わないと約束したベルザが現れた。
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