2 / 19
転移と勘違いと不本意な出世
第2話 倉庫管理の達人とスプレッドシートの悲劇
しおりを挟む
「まずは種類ごとに分けないとな……全く、この倉庫の管理は、いったいどうなってるんだよ。絶対棚卸ししてないだろ」
俺は、補給倉庫の整理を始めた。
耳が尖っていないことがバレたら、どうなるか分からないので、ヘルメットは被ったままだ。
なんだかよく分からない、プロパンガスボンベのような鉄製の円筒形の物体が、あちこちにバラバラに転がっている。
「同じものは同じ場所にしまうのが鉄則だろ! ……仕方ない。一旦まとめて端に置いとこう……」
総務で培った備品管理の血が騒ぐ。俺は、結構重いその物体をまとめ始めた。
ガシャンッ! ガシャンッ! ガシャンッ!
鉄同士がぶつかる鈍い音が倉庫に響く。
最後の一つを持ち上げ、ラフに放り投げたとき、倉庫の管理者ザッツ・ハウゼンがやって来た。
「いい音させてるじゃないか、アストラ。その弾頭気を付けろよ。強い衝撃を与えると爆発するぞ」
「…………え? マジ? もうガンガン衝撃与えたんだけど?」
「爆発してないから平気だろ?」
「いや……『平気だろ?』じゃない! なんでこんな危険物転がしとくんだよ! 労災案件だぞ!」
「だって……すぐ使うし」
「すぐ使うって言って出しっぱなしにしておくのが、散らかる原因なんだ!」
「なるほど……お前片付け得意そうだな」
(お前もう『ザッツ・ハウゼン』から、片付けができない『雑然野郎ザッツゼーン』に改名しろぉ!)
「ダメだ……どこに危険物が埋まっているか分からん。危なすぎる……。なぁザッツさん、この倉庫の物品リストはあるか?」
「ん? あぁ、データを送ってやろう。そのヘルメットのアドレスは?」
「アドレス? そんなのあるのか?」
「お前、自分の装備品のアドレスくらいちゃんと覚えておけよ」
(自分の装備品? お前……倉庫内のもの、全然把握出来てないくせに……)
俺がザッツの絶望的な管理能力に呆れていると、ザッツが俺の後ろ側に回り込み、俺の後頭部をのぞき込んだ。
「ちょっと見せてみろ、こういうのは大体後ろ側に識別コードが……お、あった……よし、送ったぞ」
「あ、ありがとうございます」
ヴンッ
俺がヘルメットのボタンを押すと、低く短い起動音が聞こえたあと、ARディスプレイが表示された。
右下に表示されている通知アイコンを指で押すと、ザッツから送られてきたファイルが展開される。目の前に巨大なスプレッドシートが現れた。
「どれどれ? ……なんだこのリストは!?」
俺は自分の目を疑った。
そのリストからは管理する気が微塵も感じられない。狂気すら感じる。
「このリストはあんたが作ったのか?」
ザッツが大きな声で答えた。その声はどこか誇らしげだった。
「ん? あぁ、すごいだろ!? レイアウトにはこだわったんだ! ワッハッハ!」
確かにすごい。悪い意味で。
一つの品目に何行も使い、無意味なセルの結合までしてやがる……。
列も多過ぎる。なんで、セルの横幅を1文字サイズにしてるんだ! これじゃ『エクセル方眼紙』じゃないか! ここは日本の役所か?
しかもこれ……数量が『全角の漢数字』で入力されてるだと……?
これじゃ計算式が組めないだろ! 全てが無茶苦茶だ。
ありえない……表計算というものを全く理解していないヤツの所業だ。
こんなの石板に刻んだほうがまだ管理しやすいだろうが!
「まぁ、ある意味芸術的っすね……あ! このミサイル、使用期限間近だぞ?」
「本当だな。気づかなかった」
「気づかなかったじゃないでしょうが! 新しいやつから先に使ってるじゃねぇか! こっちの古いのから先に使えよ! 先入れ先出しは、在庫管理の基本中の基本だぞ!」
あまりの管理の雑さに、俺はつい叫んでしまった。
しまった。ザッツがぷるぷると震えだした。
(あっ、ヤバい……。こいつ仮にも上司だった……言い過ぎた、不敬罪とかで処刑される!?)
俺がそう思った時、ザッツが顔をパァッと輝かせた。
「アストラさん! あんたすごいな! その溢れる知識で、この倉庫を綺麗にして下さい!」
(……基本的なことしか言ってないんだが?)
そのやりとりをコンテナの隙間から、熱っぽい視線で見つめている一人の女に、俺はまだ気づいていなかった。
俺は、補給倉庫の整理を始めた。
耳が尖っていないことがバレたら、どうなるか分からないので、ヘルメットは被ったままだ。
なんだかよく分からない、プロパンガスボンベのような鉄製の円筒形の物体が、あちこちにバラバラに転がっている。
「同じものは同じ場所にしまうのが鉄則だろ! ……仕方ない。一旦まとめて端に置いとこう……」
総務で培った備品管理の血が騒ぐ。俺は、結構重いその物体をまとめ始めた。
ガシャンッ! ガシャンッ! ガシャンッ!
鉄同士がぶつかる鈍い音が倉庫に響く。
最後の一つを持ち上げ、ラフに放り投げたとき、倉庫の管理者ザッツ・ハウゼンがやって来た。
「いい音させてるじゃないか、アストラ。その弾頭気を付けろよ。強い衝撃を与えると爆発するぞ」
「…………え? マジ? もうガンガン衝撃与えたんだけど?」
「爆発してないから平気だろ?」
「いや……『平気だろ?』じゃない! なんでこんな危険物転がしとくんだよ! 労災案件だぞ!」
「だって……すぐ使うし」
「すぐ使うって言って出しっぱなしにしておくのが、散らかる原因なんだ!」
「なるほど……お前片付け得意そうだな」
(お前もう『ザッツ・ハウゼン』から、片付けができない『雑然野郎ザッツゼーン』に改名しろぉ!)
「ダメだ……どこに危険物が埋まっているか分からん。危なすぎる……。なぁザッツさん、この倉庫の物品リストはあるか?」
「ん? あぁ、データを送ってやろう。そのヘルメットのアドレスは?」
「アドレス? そんなのあるのか?」
「お前、自分の装備品のアドレスくらいちゃんと覚えておけよ」
(自分の装備品? お前……倉庫内のもの、全然把握出来てないくせに……)
俺がザッツの絶望的な管理能力に呆れていると、ザッツが俺の後ろ側に回り込み、俺の後頭部をのぞき込んだ。
「ちょっと見せてみろ、こういうのは大体後ろ側に識別コードが……お、あった……よし、送ったぞ」
「あ、ありがとうございます」
ヴンッ
俺がヘルメットのボタンを押すと、低く短い起動音が聞こえたあと、ARディスプレイが表示された。
右下に表示されている通知アイコンを指で押すと、ザッツから送られてきたファイルが展開される。目の前に巨大なスプレッドシートが現れた。
「どれどれ? ……なんだこのリストは!?」
俺は自分の目を疑った。
そのリストからは管理する気が微塵も感じられない。狂気すら感じる。
「このリストはあんたが作ったのか?」
ザッツが大きな声で答えた。その声はどこか誇らしげだった。
「ん? あぁ、すごいだろ!? レイアウトにはこだわったんだ! ワッハッハ!」
確かにすごい。悪い意味で。
一つの品目に何行も使い、無意味なセルの結合までしてやがる……。
列も多過ぎる。なんで、セルの横幅を1文字サイズにしてるんだ! これじゃ『エクセル方眼紙』じゃないか! ここは日本の役所か?
しかもこれ……数量が『全角の漢数字』で入力されてるだと……?
これじゃ計算式が組めないだろ! 全てが無茶苦茶だ。
ありえない……表計算というものを全く理解していないヤツの所業だ。
こんなの石板に刻んだほうがまだ管理しやすいだろうが!
「まぁ、ある意味芸術的っすね……あ! このミサイル、使用期限間近だぞ?」
「本当だな。気づかなかった」
「気づかなかったじゃないでしょうが! 新しいやつから先に使ってるじゃねぇか! こっちの古いのから先に使えよ! 先入れ先出しは、在庫管理の基本中の基本だぞ!」
あまりの管理の雑さに、俺はつい叫んでしまった。
しまった。ザッツがぷるぷると震えだした。
(あっ、ヤバい……。こいつ仮にも上司だった……言い過ぎた、不敬罪とかで処刑される!?)
俺がそう思った時、ザッツが顔をパァッと輝かせた。
「アストラさん! あんたすごいな! その溢れる知識で、この倉庫を綺麗にして下さい!」
(……基本的なことしか言ってないんだが?)
そのやりとりをコンテナの隙間から、熱っぽい視線で見つめている一人の女に、俺はまだ気づいていなかった。
6
あなたにおすすめの小説
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました
黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。
彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。
戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。
現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと!
「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」
ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。
絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。
伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進!
迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る!
これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー!
美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。
人生、逆転できないことなんて何もない!
異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。
異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。
せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。
そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。
これは天啓か。
俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。
異世界で至った男は帰還したがファンタジーに巻き込まれていく
竹桜
ファンタジー
神社のお参り帰りに異世界召喚に巻き込まれた主人公。
巻き込まれただけなのに、狂った姿を見たい為に何も無い真っ白な空間で閉じ込められる。
千年間も。
それなのに主人公は鍛錬をする。
1つのことだけを。
やがて、真っ白な空間から異世界に戻るが、その時に至っていたのだ。
これは異世界で至った男が帰還した現実世界でファンタジーに巻き込まれていく物語だ。
そして、主人公は至った力を存分に振るう。
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
学校がダンジョンに転移してしまいました
竹桜
ファンタジー
異世界に召喚され、帰還した主人公はまた非日常に巻き込まれたのだ。
通っていた高校がダンジョンの中に転移し、街を作れるなスキルを得た。
そのスキルを使用し、唯一の後輩を守る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる