11 / 19
転移と勘違いと不本意な出世
第11話 倉庫のフェイスと恒星フレア
しおりを挟む
エライアはいつものように、補給倉庫に格納されている小型機に頬ずりをしながら、リベットの感触を楽しんでいた。
「はぁ……この硬度、そして熱伝導率の低さが生む、冷徹な冷たさ……最高ですわぁ」
エライアが恍惚とした感想を漏らしていた時、補給倉庫の入り口付近が騒がしくなったかと思うと、エライアのよく知る人物が、荒々しい足音を立てて入ってきた。そう、フェイス・ヴァーンだ。
「おい! アストラとか言うやつはいるか!?」
フェイスが、そう叫びながら倉庫内を見回す。その様子を見ていたエライアは、鉄板への頬ずりをやめて(ただし手は機体を撫でたまま)、フェイスに声をかけた。
「あら? お兄様、このような素晴らしい場所に来るなんて、珍しいですわね?」
妹から不意に声をかけられたフェイスの思考が一瞬停止する。補給倉庫などに帝国の姫である、実妹がいるなどと想像もしていなかったのだ。
「……エライア。お前、こんな所でなにをしているんだ?」
「小型機の冷たい感触を楽しんでおりますのよ。お兄様もご一緒にいかがですか? この吸気口の曲線美、ゾクゾクして、思わず吸い込まれたくなりますわよ?」
フェイスは、自分の問いに、さも当然のように狂気じみた答えを返してきたエライアを睨みつける。
「……オレがそんなことをするわけなかろう! 気色悪い! オレはアストラとかいうヤツに会いに来たのだ。そいつはお前の〝想い人〟なんだろう?」
フェイスのその言葉を聞いて、エライアは首を捻った。
(……おもいびと? あのヘルメットそんなに重かったかしら?)
エライアの脳内辞書に〝想い人(恋愛対象)〟などという言葉は存在しない。あるのは、ただ〝重い(タングステン)〟か〝軽い(チタン)〟かだけだ。
エライアの頭を占めているのは、〝デカい機械と金属、そしてオイル〟のみなのだ。
エライアは、アストラのヘルメットを持ち上げたことはない。だが、撫で回していた時に手に伝わってきた感触から、確かに重かったかもしれないと推測した。
「えぇ、確かに〝重い〟人ですわね。でも、ここにはいませんわ」
フェイスは、『なぜ、自分がこんなにもたらい回しにされなければならないのか』と、会ったこともないアストラへの怒りをさらに強くした。
「アストラは一体どこにいるんだ!?」
「わたくしは存じ上げませんわ。なぜアストラさんを探しているんですの?」
「彼には、色々と世話になったんで、礼をしようと思ってな」
フェイスが奥歯をギリギリと鳴らしながらそう言ったちょうどその時、倉庫の奥からザッツがやってきた。
「ようエヴァ。誰と話しているんだ?」
ザッツはいまだにエライアのことを〝エヴァ〟と呼んでいた。長い間〝エヴァ〟と呼んでいたため、今さら〝エライア姫〟と呼ぶのもなんだか呼びにくい。何より、「そう呼んでほしい(身分を気にせず、機械に頬ずりしたい)」というのが他ならぬエライアの希望だった。
「お兄様とお話しているのですわ。ザッツさんは、アストラさんがいる場所は知っていますか? お兄様がアストラさんに〝お礼〟をしたいんですって」
「おぉ、これはフェイス殿下ではありませんか。アストラでしたら、軍本部に呼ばれて戦術のアドバイスをしに行っていますよ」
フェイスは、それを聞いて口の端を吊り上げた。
「ほう、なるほど……分かった。軍本部に向かうとしよう」
これでやっとアストラの居場所が割れた。フェイスは静かに残忍な笑みを浮かべ、軍本部の司令室に向かうのであった。
◇
司令室では、ブリーフィングが続けられていた。
ヘルディナンドが、自ら考えた作戦の概要を説明していた。
「こちらの主力艦、クラウザーム・ヴァイロンは正面で囮役。そして、残りの4隻を二手に分け、左右から回り込む。敵艦8隻の両側面から挟撃し、敵が混乱に陥った時に、正面からクラウザーム・ヴァイロンで敵に総攻撃をかける!」
俺は、ヘルディナンドの豹変具合に目を見張っていた。お前急にどうした? 5隻分かれて行動できることを知っただけで、急に作戦っぽくなったじゃないか。普通に賢いぞ?
ヘルディナンドが続ける。
「ただ、右側のルートは距離があります。エネルギー残量が心もとない右側の2隻は、途中にある恒星のフレアを利用して、エネルギーを補給してくれ」
その言葉で俺の眉がピクリと動いた。
「ちょっと待て。今、エネルギー補給と言ったか?」
「……えぇ、それがなにか?」
「そのエネルギーは、ノ……無料なのか? あとから追加料金とか請求されないのか?」
ヘルディナンドが、ぱちぱちとまばたきしながら、心底わからない、とでもいうような顔をした。
「……? 自然のものですから、もちろんタダですが……。なにか問題でも?」
なるほど、太陽光発電的なやつか。進軍で使うはずのエネルギーを、進軍途中で無料で補給する。100パーセントどころか、200パーセントのポイント還元。
実質プラス。夢の永久機関だ。
俺の頭のなかで、スーパーの「詰め放題」と焼肉屋の「食べ放題」の旗が同時にはためいた。
俺は迷わず、指示を出した。今の帝国の財政を思えば、節約に勝るものはないのだ。
「……そうか、やはり今回においては戦力を分けるのは、得策ではない。全艦、エネルギー補給しながら右側を進め!」
「え? え? なぜ?」
困惑するヘルディナンドに、俺はもっともらしい理由をつけた。交渉においては、相手が納得できる理由を提示してあげるのが、もっとも重要なのだ(本音は隠して)。
「敵の陣形を見れば分かるだろう。右側の側面が弱点だ。全戦力で、敵の弱点をたたく!」
(そして全艦タダでハイオク満タンだ!)
俺のその命令を聞き、司令室が喚声に包まれた。
「さすがは知将アストラ殿だ!」
「全艦出撃だ!」
「敵艦を殲滅しろ!」
その熱狂具合に、少し冷静さを取り戻した俺は、ちょっとやり過ぎたかも……。と反省するのであった。
「はぁ……この硬度、そして熱伝導率の低さが生む、冷徹な冷たさ……最高ですわぁ」
エライアが恍惚とした感想を漏らしていた時、補給倉庫の入り口付近が騒がしくなったかと思うと、エライアのよく知る人物が、荒々しい足音を立てて入ってきた。そう、フェイス・ヴァーンだ。
「おい! アストラとか言うやつはいるか!?」
フェイスが、そう叫びながら倉庫内を見回す。その様子を見ていたエライアは、鉄板への頬ずりをやめて(ただし手は機体を撫でたまま)、フェイスに声をかけた。
「あら? お兄様、このような素晴らしい場所に来るなんて、珍しいですわね?」
妹から不意に声をかけられたフェイスの思考が一瞬停止する。補給倉庫などに帝国の姫である、実妹がいるなどと想像もしていなかったのだ。
「……エライア。お前、こんな所でなにをしているんだ?」
「小型機の冷たい感触を楽しんでおりますのよ。お兄様もご一緒にいかがですか? この吸気口の曲線美、ゾクゾクして、思わず吸い込まれたくなりますわよ?」
フェイスは、自分の問いに、さも当然のように狂気じみた答えを返してきたエライアを睨みつける。
「……オレがそんなことをするわけなかろう! 気色悪い! オレはアストラとかいうヤツに会いに来たのだ。そいつはお前の〝想い人〟なんだろう?」
フェイスのその言葉を聞いて、エライアは首を捻った。
(……おもいびと? あのヘルメットそんなに重かったかしら?)
エライアの脳内辞書に〝想い人(恋愛対象)〟などという言葉は存在しない。あるのは、ただ〝重い(タングステン)〟か〝軽い(チタン)〟かだけだ。
エライアの頭を占めているのは、〝デカい機械と金属、そしてオイル〟のみなのだ。
エライアは、アストラのヘルメットを持ち上げたことはない。だが、撫で回していた時に手に伝わってきた感触から、確かに重かったかもしれないと推測した。
「えぇ、確かに〝重い〟人ですわね。でも、ここにはいませんわ」
フェイスは、『なぜ、自分がこんなにもたらい回しにされなければならないのか』と、会ったこともないアストラへの怒りをさらに強くした。
「アストラは一体どこにいるんだ!?」
「わたくしは存じ上げませんわ。なぜアストラさんを探しているんですの?」
「彼には、色々と世話になったんで、礼をしようと思ってな」
フェイスが奥歯をギリギリと鳴らしながらそう言ったちょうどその時、倉庫の奥からザッツがやってきた。
「ようエヴァ。誰と話しているんだ?」
ザッツはいまだにエライアのことを〝エヴァ〟と呼んでいた。長い間〝エヴァ〟と呼んでいたため、今さら〝エライア姫〟と呼ぶのもなんだか呼びにくい。何より、「そう呼んでほしい(身分を気にせず、機械に頬ずりしたい)」というのが他ならぬエライアの希望だった。
「お兄様とお話しているのですわ。ザッツさんは、アストラさんがいる場所は知っていますか? お兄様がアストラさんに〝お礼〟をしたいんですって」
「おぉ、これはフェイス殿下ではありませんか。アストラでしたら、軍本部に呼ばれて戦術のアドバイスをしに行っていますよ」
フェイスは、それを聞いて口の端を吊り上げた。
「ほう、なるほど……分かった。軍本部に向かうとしよう」
これでやっとアストラの居場所が割れた。フェイスは静かに残忍な笑みを浮かべ、軍本部の司令室に向かうのであった。
◇
司令室では、ブリーフィングが続けられていた。
ヘルディナンドが、自ら考えた作戦の概要を説明していた。
「こちらの主力艦、クラウザーム・ヴァイロンは正面で囮役。そして、残りの4隻を二手に分け、左右から回り込む。敵艦8隻の両側面から挟撃し、敵が混乱に陥った時に、正面からクラウザーム・ヴァイロンで敵に総攻撃をかける!」
俺は、ヘルディナンドの豹変具合に目を見張っていた。お前急にどうした? 5隻分かれて行動できることを知っただけで、急に作戦っぽくなったじゃないか。普通に賢いぞ?
ヘルディナンドが続ける。
「ただ、右側のルートは距離があります。エネルギー残量が心もとない右側の2隻は、途中にある恒星のフレアを利用して、エネルギーを補給してくれ」
その言葉で俺の眉がピクリと動いた。
「ちょっと待て。今、エネルギー補給と言ったか?」
「……えぇ、それがなにか?」
「そのエネルギーは、ノ……無料なのか? あとから追加料金とか請求されないのか?」
ヘルディナンドが、ぱちぱちとまばたきしながら、心底わからない、とでもいうような顔をした。
「……? 自然のものですから、もちろんタダですが……。なにか問題でも?」
なるほど、太陽光発電的なやつか。進軍で使うはずのエネルギーを、進軍途中で無料で補給する。100パーセントどころか、200パーセントのポイント還元。
実質プラス。夢の永久機関だ。
俺の頭のなかで、スーパーの「詰め放題」と焼肉屋の「食べ放題」の旗が同時にはためいた。
俺は迷わず、指示を出した。今の帝国の財政を思えば、節約に勝るものはないのだ。
「……そうか、やはり今回においては戦力を分けるのは、得策ではない。全艦、エネルギー補給しながら右側を進め!」
「え? え? なぜ?」
困惑するヘルディナンドに、俺はもっともらしい理由をつけた。交渉においては、相手が納得できる理由を提示してあげるのが、もっとも重要なのだ(本音は隠して)。
「敵の陣形を見れば分かるだろう。右側の側面が弱点だ。全戦力で、敵の弱点をたたく!」
(そして全艦タダでハイオク満タンだ!)
俺のその命令を聞き、司令室が喚声に包まれた。
「さすがは知将アストラ殿だ!」
「全艦出撃だ!」
「敵艦を殲滅しろ!」
その熱狂具合に、少し冷静さを取り戻した俺は、ちょっとやり過ぎたかも……。と反省するのであった。
0
あなたにおすすめの小説
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました
黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。
彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。
戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。
現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと!
「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」
ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。
絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。
伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進!
迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る!
これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー!
美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。
人生、逆転できないことなんて何もない!
異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。
異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。
せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。
そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。
これは天啓か。
俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。
異世界で至った男は帰還したがファンタジーに巻き込まれていく
竹桜
ファンタジー
神社のお参り帰りに異世界召喚に巻き込まれた主人公。
巻き込まれただけなのに、狂った姿を見たい為に何も無い真っ白な空間で閉じ込められる。
千年間も。
それなのに主人公は鍛錬をする。
1つのことだけを。
やがて、真っ白な空間から異世界に戻るが、その時に至っていたのだ。
これは異世界で至った男が帰還した現実世界でファンタジーに巻き込まれていく物語だ。
そして、主人公は至った力を存分に振るう。
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
学校がダンジョンに転移してしまいました
竹桜
ファンタジー
異世界に召喚され、帰還した主人公はまた非日常に巻き込まれたのだ。
通っていた高校がダンジョンの中に転移し、街を作れるなスキルを得た。
そのスキルを使用し、唯一の後輩を守る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる