「ただの経費削減ですが?」 銀河最弱の補給艦隊が、俺の「在庫管理」で最強になったようです

空木 架

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転移と勘違いと不本意な出世

第11話 倉庫のフェイスと恒星フレア

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 エライアはいつものように、補給倉庫に格納されている小型機に頬ずりをしながら、リベットの感触を楽しんでいた。

「はぁ……この硬度、そして熱伝導率の低さが生む、冷徹な冷たさ……最高ですわぁ」

 エライアが恍惚とした感想を漏らしていた時、補給倉庫の入り口付近が騒がしくなったかと思うと、エライアのよく知る人物が、荒々しい足音を立てて入ってきた。そう、フェイス・ヴァーンだ。

「おい! アストラとか言うやつはいるか!?」

 フェイスが、そう叫びながら倉庫内を見回す。その様子を見ていたエライアは、鉄板への頬ずりをやめて(ただし手は機体を撫でたまま)、フェイスに声をかけた。

「あら? お兄様、このような素晴らしい場所に来るなんて、珍しいですわね?」

 妹から不意に声をかけられたフェイスの思考が一瞬停止する。補給倉庫などに帝国の姫である、実妹がいるなどと想像もしていなかったのだ。

「……エライア。お前、こんな所でなにをしているんだ?」

「小型機の冷たい感触を楽しんでおりますのよ。お兄様もご一緒にいかがですか? この吸気口の曲線美、ゾクゾクして、思わず吸い込まれたくなりますわよ?」

 フェイスは、自分の問いに、さも当然のように狂気じみた答えを返してきたエライアを睨みつける。

「……オレがそんなことをするわけなかろう! 気色悪い! オレはアストラとかいうヤツに会いに来たのだ。そいつはお前の〝想い人おもいびと〟なんだろう?」

 フェイスのその言葉を聞いて、エライアは首を捻った。

(……おもいびと? あのヘルメットそんなに重かったかしら?)

 エライアの脳内辞書に〝想い人(恋愛対象)〟などという言葉は存在しない。あるのは、ただ〝重い(タングステン)〟か〝軽い(チタン)〟かだけだ。
 エライアの頭を占めているのは、〝デカい機械と金属、そしてオイル〟のみなのだ。
 エライアは、アストラのヘルメットを持ち上げたことはない。だが、撫で回していた時に手に伝わってきた感触から、確かに重かったかもしれないと推測した。

「えぇ、確かに〝重い〟人ですわね。でも、ここにはいませんわ」

 フェイスは、『なぜ、自分がこんなにもたらい回しにされなければならないのか』と、会ったこともないアストラへの怒りをさらに強くした。

「アストラは一体どこにいるんだ!?」

「わたくしは存じ上げませんわ。なぜアストラさんを探しているんですの?」

「彼には、色々と世話になったんで、礼をしようと思ってな」

 フェイスが奥歯をギリギリと鳴らしながらそう言ったちょうどその時、倉庫の奥からザッツがやってきた。

「ようエヴァ。誰と話しているんだ?」

 ザッツはいまだにエライアのことを〝エヴァ〟と呼んでいた。長い間〝エヴァ〟と呼んでいたため、今さら〝エライア姫〟と呼ぶのもなんだか呼びにくい。何より、「そう呼んでほしい(身分を気にせず、機械に頬ずりしたい)」というのが他ならぬエライアの希望だった。

「お兄様とお話しているのですわ。ザッツさんは、アストラさんがいる場所は知っていますか? お兄様がアストラさんに〝お礼〟をしたいんですって」

「おぉ、これはフェイス殿下ではありませんか。アストラでしたら、軍本部に呼ばれて戦術のアドバイスをしに行っていますよ」

 フェイスは、それを聞いて口の端を吊り上げた。

「ほう、なるほど……分かった。軍本部に向かうとしよう」

 これでやっとアストラの居場所が割れた。フェイスは静かに残忍な笑みを浮かべ、軍本部の司令室に向かうのであった。

 ◇

 司令室では、ブリーフィングが続けられていた。
 ヘルディナンドが、自ら考えた作戦の概要を説明していた。

「こちらの主力艦、クラウザーム・ヴァイロンは正面でデコイ役。そして、残りの4隻を二手に分け、左右から回り込む。敵艦8隻の両側面から挟撃し、敵が混乱に陥った時に、正面からクラウザーム・ヴァイロンで敵に総攻撃をかける!」

 俺は、ヘルディナンドの豹変具合に目を見張っていた。お前急にどうした? 5隻分かれて行動できることを知っただけで、急に作戦っぽくなったじゃないか。普通に賢いぞ?
 ヘルディナンドが続ける。

「ただ、右側のルートは距離があります。エネルギー残量が心もとない右側の2隻は、途中にある恒星のフレアを利用して、エネルギーを補給してくれ」

 その言葉で俺の眉がピクリと動いた。

「ちょっと待て。今、エネルギー補給と言ったか?」

「……えぇ、それがなにか?」

「そのエネルギーは、ノ……無料ノンコストなのか? あとから追加料金とか請求されないのか?」

 ヘルディナンドが、ぱちぱちとまばたきしながら、心底わからない、とでもいうような顔をした。

「……? 自然のものですから、もちろんタダですが……。なにか問題でも?」

 なるほど、太陽光発電的なやつか。進軍で使うはずのエネルギーを、進軍途中で無料で補給する。100パーセントどころか、200パーセントのポイント還元。
 実質プラス。夢の永久機関だ。
 俺の頭のなかで、スーパーの「詰め放題」と焼肉屋の「食べ放題」の旗が同時にはためいた。
 俺は迷わず、指示を出した。今の帝国の財政を思えば、節約に勝るものはないのだ。

「……そうか、やはり今回においては戦力を分けるのは、得策ではない。全艦、エネルギー補給しながら右側を進め!」

「え? え? なぜ?」

 困惑するヘルディナンドに、俺はもっともらしい理由をつけた。交渉においては、相手が納得できる理由を提示してあげるのが、もっとも重要なのだ(本音は隠して)。

「敵の陣形を見れば分かるだろう。右側の側面が弱点だ。全戦力で、敵の弱点をたたく!」
(そして全艦タダでハイオク満タンだ!)

 俺のその命令を聞き、司令室が喚声に包まれた。

「さすがは知将アストラ殿だ!」
「全艦出撃だ!」
「敵艦を殲滅しろ!」

 その熱狂具合に、少し冷静さを取り戻した俺は、ちょっとやり過ぎたかも……。と反省するのであった。

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