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01 聖女選出の儀式
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聖教国マイメエントでは毎年春のはじめに『聖女選出の儀式』が行われています。
その年に15になる娘を国中から集めて次代の『聖女』をひとり、神託により見つけ出すのです。
選ばれた娘はさらに風、水、火、土、光の5つの属性からもっとも相性がよいものを付与され、王よりこの地に蔓延るアンデッドから民を守るお役目を任されるのです。
聖女は素質さえあれば身分を問わず選ばれ、人々の役に立てるとあって聖女になることを夢にみる娘は少なくありません。
もっとも、その中には貴族並みの待遇目当ての者もいますが……それは触れぬがなんとやら。
世界歴447年。
今年も、春がやってきました。
「ではこれより聖女選出の儀式を行う」
王都の大教会、高齢の神官長が厳かに告げるとざわざわとしていた声が一斉に静まりました。
集められた大勢の少女たちは我こそは新しい聖女だと自信に満ちた、あるいは祈るような表情で頭を垂れました。
神官長が祝詞を唱えると、大教会の天井にはめ込まれたステンドグラスを通して一筋の光が降り注いできました。
その光はまるでスポットライトのように、ひとりの少女を照らします。
「神は新たな聖女を選ばれた。その者、こちらへ」
「……はい」
選ばれた少女は神官長の元へと歩き出しました。
光を反射してキラキラと輝く長い金髪。
どこまでも続く青空のように澄んだ青い瞳。
緊張で強張っている表情もよく見ればこの場にいる誰よりもかわいらしく、少女たちの羨望の眼差しが注がれます。
「新たな聖女よ、名はなんという?」
「アリアロス・フレクトと申します」
聖女に選ばれた少女、アリアロスはドレスの裾を持ち上げ優雅に一礼しました。
「ほう、フレクト家の……」
神官長は納得がいったように頷きました。
「やっぱりアリアロス様が選ばれたわ」
「さすがフレクト家のご令嬢だわ」
「えぇ、彼女なら選ばれて当然ですね」
アリアロスと同じようなドレスをまとった少女たちがまるで我がことのように喜んでいます。
「あの、あの方はどういったお方なのですか?」
素朴な衣服の少女が恐る恐るドレスの少女に尋ねます。
「優秀な人材を数多く輩出している名家、フレクト家。その一人娘があのアリアロス様よ」
「彼女は貴族でありながら孤児院や療養所に自ら出向き奉仕活動をなさっていますの。誰にでも分け隔てなく優しくあられるあの方こそ聖女にふさわしいわ」
「そんなお方が……」
「では新たな聖女よ、祭壇へ」
神官長は自分の背後にある祭壇を指しました。
そこには女神が残したとされる聖遺物が数多く祀られており、その中のひとつに水晶があります。
「その水晶に手をかざせばお主に相応しき力が宿るであろう」
「分かりました」
アリアロスはゆっくりと手のひらを水晶にかざしました。
属性は光なら黄色、火なら赤といったように水晶から光が溢れてきます。
(フレクト家の娘は心優しいと聞く。ならば宿るのは光であろう)
神官長は内心そう思っています。
光は5つの属性の中で最も力が強く、また聖女としての一番の象徴でもあります。
(いやしかし新たな聖女が選ばれてくれて、本当によかった……)
実は10年前から新たな聖女が選ばれていなかったのです。
神官長はそのことに不吉な出来事の前触れではないかと長らく恐れていましたがそれも今日までだと、内心胸を撫で下ろしました。
そんな神官長のよそに、アリアロスが手をかざす水晶から光が溢れてきました。
その色は、紫。
見る者の視線を釘付けにし、魅了するような深いその色は吸い込まれるようにアリアロスの体の中に溶けていきました。
(なんと……なんという……)
神官長はその光景が信じられず、目を見開きました。
見守っていたたくさんの少女たちも聞かされていたどの色とも違う光に不安そうにしています。
「あの、神官長……私は、これで聖女になれたのでしょうか?」
アリアロスの声に神官長は意識を引き戻されました。
「いや、待ちなさい……その、だな……」
言い淀む神官長にアリアロスも不安になり、表情がみるみる曇っていきます。
神官長はその顔に罪悪感を覚えましたが、意を決したように声を張り上げました。
「これにて儀式は終了とする! 皆すぐに出て行きなさい!!」
神官長の強い口調に戸惑いながらも少女たちは従い、大教会を後にしていきます。
残されたのは神官長と数名の神官、そしてアリアロスだけです。
「神官長、私はこれから……」
「……アリアロス・フレクト、新たな聖女よ」
神官長は祭壇に置かれていた杖を手に持ちました。アリアロスは受け取るものだと思い、両手を前に出しました。
しかし、神官長は杖の先端を彼女の顔に突き付けたのです。
「お前を拘束する、闇の聖女よ」
「……え?」
神官長の宣言によりアリアロスは近づいていた神官たちに両腕を掴まれました。
「そ、そんな……闇の聖女とはなんのことですか!? 説明してください!」
「聖女様、どうか大人しくしてください。我々も乱暴なことはしたくない……」
神官たちも困惑している様子だがアリアロスを見逃してくれる様子はありません。
「……分かりました」
突然の出来事にアリアロスの頭の中はパニックに陥っていますが、神官長の態度からこれが嘘や冗談ではないこと、また自力でどうにかできないことを悟り大人しく従うことにしました。
(きっと……きっとお父様が助けてくださるはず……それまで我慢すれば……)
世界歴447年、春。
この年新たな聖女に選ばれた少女、アリアロス・フレクトは第6の属性『闇』を司ったことにより、拘束されてしまったのでした。
その年に15になる娘を国中から集めて次代の『聖女』をひとり、神託により見つけ出すのです。
選ばれた娘はさらに風、水、火、土、光の5つの属性からもっとも相性がよいものを付与され、王よりこの地に蔓延るアンデッドから民を守るお役目を任されるのです。
聖女は素質さえあれば身分を問わず選ばれ、人々の役に立てるとあって聖女になることを夢にみる娘は少なくありません。
もっとも、その中には貴族並みの待遇目当ての者もいますが……それは触れぬがなんとやら。
世界歴447年。
今年も、春がやってきました。
「ではこれより聖女選出の儀式を行う」
王都の大教会、高齢の神官長が厳かに告げるとざわざわとしていた声が一斉に静まりました。
集められた大勢の少女たちは我こそは新しい聖女だと自信に満ちた、あるいは祈るような表情で頭を垂れました。
神官長が祝詞を唱えると、大教会の天井にはめ込まれたステンドグラスを通して一筋の光が降り注いできました。
その光はまるでスポットライトのように、ひとりの少女を照らします。
「神は新たな聖女を選ばれた。その者、こちらへ」
「……はい」
選ばれた少女は神官長の元へと歩き出しました。
光を反射してキラキラと輝く長い金髪。
どこまでも続く青空のように澄んだ青い瞳。
緊張で強張っている表情もよく見ればこの場にいる誰よりもかわいらしく、少女たちの羨望の眼差しが注がれます。
「新たな聖女よ、名はなんという?」
「アリアロス・フレクトと申します」
聖女に選ばれた少女、アリアロスはドレスの裾を持ち上げ優雅に一礼しました。
「ほう、フレクト家の……」
神官長は納得がいったように頷きました。
「やっぱりアリアロス様が選ばれたわ」
「さすがフレクト家のご令嬢だわ」
「えぇ、彼女なら選ばれて当然ですね」
アリアロスと同じようなドレスをまとった少女たちがまるで我がことのように喜んでいます。
「あの、あの方はどういったお方なのですか?」
素朴な衣服の少女が恐る恐るドレスの少女に尋ねます。
「優秀な人材を数多く輩出している名家、フレクト家。その一人娘があのアリアロス様よ」
「彼女は貴族でありながら孤児院や療養所に自ら出向き奉仕活動をなさっていますの。誰にでも分け隔てなく優しくあられるあの方こそ聖女にふさわしいわ」
「そんなお方が……」
「では新たな聖女よ、祭壇へ」
神官長は自分の背後にある祭壇を指しました。
そこには女神が残したとされる聖遺物が数多く祀られており、その中のひとつに水晶があります。
「その水晶に手をかざせばお主に相応しき力が宿るであろう」
「分かりました」
アリアロスはゆっくりと手のひらを水晶にかざしました。
属性は光なら黄色、火なら赤といったように水晶から光が溢れてきます。
(フレクト家の娘は心優しいと聞く。ならば宿るのは光であろう)
神官長は内心そう思っています。
光は5つの属性の中で最も力が強く、また聖女としての一番の象徴でもあります。
(いやしかし新たな聖女が選ばれてくれて、本当によかった……)
実は10年前から新たな聖女が選ばれていなかったのです。
神官長はそのことに不吉な出来事の前触れではないかと長らく恐れていましたがそれも今日までだと、内心胸を撫で下ろしました。
そんな神官長のよそに、アリアロスが手をかざす水晶から光が溢れてきました。
その色は、紫。
見る者の視線を釘付けにし、魅了するような深いその色は吸い込まれるようにアリアロスの体の中に溶けていきました。
(なんと……なんという……)
神官長はその光景が信じられず、目を見開きました。
見守っていたたくさんの少女たちも聞かされていたどの色とも違う光に不安そうにしています。
「あの、神官長……私は、これで聖女になれたのでしょうか?」
アリアロスの声に神官長は意識を引き戻されました。
「いや、待ちなさい……その、だな……」
言い淀む神官長にアリアロスも不安になり、表情がみるみる曇っていきます。
神官長はその顔に罪悪感を覚えましたが、意を決したように声を張り上げました。
「これにて儀式は終了とする! 皆すぐに出て行きなさい!!」
神官長の強い口調に戸惑いながらも少女たちは従い、大教会を後にしていきます。
残されたのは神官長と数名の神官、そしてアリアロスだけです。
「神官長、私はこれから……」
「……アリアロス・フレクト、新たな聖女よ」
神官長は祭壇に置かれていた杖を手に持ちました。アリアロスは受け取るものだと思い、両手を前に出しました。
しかし、神官長は杖の先端を彼女の顔に突き付けたのです。
「お前を拘束する、闇の聖女よ」
「……え?」
神官長の宣言によりアリアロスは近づいていた神官たちに両腕を掴まれました。
「そ、そんな……闇の聖女とはなんのことですか!? 説明してください!」
「聖女様、どうか大人しくしてください。我々も乱暴なことはしたくない……」
神官たちも困惑している様子だがアリアロスを見逃してくれる様子はありません。
「……分かりました」
突然の出来事にアリアロスの頭の中はパニックに陥っていますが、神官長の態度からこれが嘘や冗談ではないこと、また自力でどうにかできないことを悟り大人しく従うことにしました。
(きっと……きっとお父様が助けてくださるはず……それまで我慢すれば……)
世界歴447年、春。
この年新たな聖女に選ばれた少女、アリアロス・フレクトは第6の属性『闇』を司ったことにより、拘束されてしまったのでした。
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