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10 調理担当が思うこと
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まだ日も登らない朝早く、調理担当アンデッドのアムルコスは悩んでいました。
(さて、朝食はどうするか……)
食材をテーブルに並べながら作れそうなものを考えてみますが、昨晩の野鳥の残りと調味料替わりに使う果物しかないのでできるものは限られます。
さらにアムルコスは調理担当ではありますがプロの料理人ではないのでさらにレシピは絞られます。
(……焼くか)
溜め息をつきながらアムルコスは下ごしらえに入りました。
そもそも、アムルコスは普通の兵士になるつもりで志願していました。
当時は他国との戦争や魔物の討伐など兵士を大々的に募集していて彼のような若者がこぞって集まっていました。
アムルコスは面接のときに少しでも印象をよくしようと「宿屋で下働きしていて多少料理もできる」と言ってしまったために部隊の調理担当を兼任することになってしまったのです。
兵士としての仕事より調理場に立つことが多くなってしまったアムルコスですが、生前は献立で悩みを持つことはありませんでした。
というのも部隊の兵士たちは「味より量。肉があればなお良し」だったのでぶつ切りにした大き目の食材を大鍋に入れて濃い味付けをしていれば文句は言われませんでした。
それが現在アンデッドとして蘇り、聖女アリアロスの専属料理人になってしまったので大変です。
さらにさらに、その聖女は現在逃亡中の身で、魔物も住みつく森の中に隠れているので使える調理器具、調達できる食材は限られています。
(パンとか卵が欲しいよな……小麦……どっかに生えてないかな……卵は今度探してきてもらうか……)
考え事をしながら調理をしているとゆっくりと昇ってくる朝陽が小屋の中に影を作っていることに気づきました。
(……少し急ごう)
そろそろ他のアンデッドたちもやって来るので、アムルコスは調理に集中しました。
「食材を増やしたい、ですか?」
アリアロスの朝食後、アムルコスはカールに相談しました。
「確かに……この森で調達できる食材は少ないですからね……」
カールはチラリと、空になった皿を見ました。
この森での生活がはじまって数日。アリアロスは変わり映えのしない食事に文句ひとつ言わず「とてもおいしいです。いつもありがとうございます」と笑顔を向けてくれます。
その心の広さ、優しさ笑顔にアンデッドたちは一層の保護欲、もとい忠誠心を掻き立てられているのですが……
「……難しいですね……」
いい返事はもらえません。
これ以上の食材となると動物の卵や魔物の肉になってきます。
食材として生産される卵とは違い子孫を残すための卵は貴重な上採れる時期に限りがあります。
しかも取りすぎてしまえば数が減り生態系に少なからず影響が出てしまうかもしれません。
魔物は食べられるものもいて珍味として愛好家も存在しますが、こちらも狩りすぎれば生態系に影響が出てしまいます。
最悪森を出てしまってそのことがきっかけでこの森に人がやって来ることになってしまうかもしれません。
「やはり一度町に行く必要がありますね……」
方法はどうあれ、やはり人間の生活圏まで行かなければこれ以上は望めません。
「しかし、まだ早すぎます。今しばらくは様子をみなければ……」
人里離れた森の中、しかもアンデッドばかりでは情報収集もできません。
現在アリアロスがどのような扱いになっているのか分からなければ下手な行動をとるわけにはいきません。
「無理を承知でお願いしますが、今あるものでなんとかしてください」
そう言うカール自身も残念そうで、アムルコスは無言で頷きました。
新しい食材の確保を断念して、アムルコスは調理方法を変えることにしました。
「鍋が欲しい?」
今度は物資を担当しているレイトラに頼みました。
「聖女様のためとなれば任せろ……と言いたいところだが……」
レイトラは難しい顔をしています。
「鍛冶をやれる者はいる。材料も……なんとかならんことはない。だが道具と工房が……」
こちらもいい返事はもらえません。
「もう一度森の中を探させよう。もしかしたら鍋自体か代わりになる物が見つかるかもしれん。それまでは今ある物で頑張ってくれ」
そう言い残しレイトラは去っていきました。
(今ある物か……)
アムルコスは小屋に戻りテーブルに調理道具を並べてみました。
ほとんどは職人アンデッドたちが木から削り出してくれたものばかりなので当然火には使えません。
刃物は比較的綺麗な剣を包丁代わりに使っています。
(焼くだけなら今まで通り串に刺して直火できるけど……やっぱりフライパンとか鍋が欲しいよな……でも代わりになる物は……あっ)
アムルコスは『ある物』に気が付きました。
「わぁ!」
翌日、朝食の焼いた魚の隣にはもう一品、スープが追加されていました。
「泉でとれた魚で出汁をとったスープだそうです。お口に合えばいいのですが……」
カールの代弁を横で聞きながらアムルコスは緊張していました。
新メニューを用意したまではいいものの、アンデッドでは味見することができないためぶっつけ本番になってしまったのです。
アリアロスはスープをゆっくりと口に運びました。
「……いかがでしょうか?」
「……とてもおいしいです」
満面の笑みでアリアロスは答えました。
「アムルコスさん、ありがとうございます」
笑顔で頭を下げるアリアロスにアムルコスは手を振り歯を鳴らし「そこまでしなくても」と訴えましたが、内心はほっと胸を撫で下ろしていました。
「……いや、本当によかった」
そして離れたところで見守っていたレイトラもひっそりと胸を撫で下ろしていました。
実はこのスープ、アムルコスの兜を鍋代わりにして調理していたのです。
提案されたときは却下しようとしましたが、「今ある物で」と言ったばかりだったので徹底的に洗って消毒などを繰り返してようやく許可を下ろしていました。
「最初に聞かされた時はわたくしも驚きましたが……なんでもやってみるものですね」
下がってきたカールもどこか安心した様子です。
「あぁ。だが、早くなんとかしなければ」
「分かっています。ですがもう少し様子をみなければ……」
嬉しそうにスープを飲むアリアロスを眺めながら、レイトラはじれったそうにため息をつきました。
(さて、朝食はどうするか……)
食材をテーブルに並べながら作れそうなものを考えてみますが、昨晩の野鳥の残りと調味料替わりに使う果物しかないのでできるものは限られます。
さらにアムルコスは調理担当ではありますがプロの料理人ではないのでさらにレシピは絞られます。
(……焼くか)
溜め息をつきながらアムルコスは下ごしらえに入りました。
そもそも、アムルコスは普通の兵士になるつもりで志願していました。
当時は他国との戦争や魔物の討伐など兵士を大々的に募集していて彼のような若者がこぞって集まっていました。
アムルコスは面接のときに少しでも印象をよくしようと「宿屋で下働きしていて多少料理もできる」と言ってしまったために部隊の調理担当を兼任することになってしまったのです。
兵士としての仕事より調理場に立つことが多くなってしまったアムルコスですが、生前は献立で悩みを持つことはありませんでした。
というのも部隊の兵士たちは「味より量。肉があればなお良し」だったのでぶつ切りにした大き目の食材を大鍋に入れて濃い味付けをしていれば文句は言われませんでした。
それが現在アンデッドとして蘇り、聖女アリアロスの専属料理人になってしまったので大変です。
さらにさらに、その聖女は現在逃亡中の身で、魔物も住みつく森の中に隠れているので使える調理器具、調達できる食材は限られています。
(パンとか卵が欲しいよな……小麦……どっかに生えてないかな……卵は今度探してきてもらうか……)
考え事をしながら調理をしているとゆっくりと昇ってくる朝陽が小屋の中に影を作っていることに気づきました。
(……少し急ごう)
そろそろ他のアンデッドたちもやって来るので、アムルコスは調理に集中しました。
「食材を増やしたい、ですか?」
アリアロスの朝食後、アムルコスはカールに相談しました。
「確かに……この森で調達できる食材は少ないですからね……」
カールはチラリと、空になった皿を見ました。
この森での生活がはじまって数日。アリアロスは変わり映えのしない食事に文句ひとつ言わず「とてもおいしいです。いつもありがとうございます」と笑顔を向けてくれます。
その心の広さ、優しさ笑顔にアンデッドたちは一層の保護欲、もとい忠誠心を掻き立てられているのですが……
「……難しいですね……」
いい返事はもらえません。
これ以上の食材となると動物の卵や魔物の肉になってきます。
食材として生産される卵とは違い子孫を残すための卵は貴重な上採れる時期に限りがあります。
しかも取りすぎてしまえば数が減り生態系に少なからず影響が出てしまうかもしれません。
魔物は食べられるものもいて珍味として愛好家も存在しますが、こちらも狩りすぎれば生態系に影響が出てしまいます。
最悪森を出てしまってそのことがきっかけでこの森に人がやって来ることになってしまうかもしれません。
「やはり一度町に行く必要がありますね……」
方法はどうあれ、やはり人間の生活圏まで行かなければこれ以上は望めません。
「しかし、まだ早すぎます。今しばらくは様子をみなければ……」
人里離れた森の中、しかもアンデッドばかりでは情報収集もできません。
現在アリアロスがどのような扱いになっているのか分からなければ下手な行動をとるわけにはいきません。
「無理を承知でお願いしますが、今あるものでなんとかしてください」
そう言うカール自身も残念そうで、アムルコスは無言で頷きました。
新しい食材の確保を断念して、アムルコスは調理方法を変えることにしました。
「鍋が欲しい?」
今度は物資を担当しているレイトラに頼みました。
「聖女様のためとなれば任せろ……と言いたいところだが……」
レイトラは難しい顔をしています。
「鍛冶をやれる者はいる。材料も……なんとかならんことはない。だが道具と工房が……」
こちらもいい返事はもらえません。
「もう一度森の中を探させよう。もしかしたら鍋自体か代わりになる物が見つかるかもしれん。それまでは今ある物で頑張ってくれ」
そう言い残しレイトラは去っていきました。
(今ある物か……)
アムルコスは小屋に戻りテーブルに調理道具を並べてみました。
ほとんどは職人アンデッドたちが木から削り出してくれたものばかりなので当然火には使えません。
刃物は比較的綺麗な剣を包丁代わりに使っています。
(焼くだけなら今まで通り串に刺して直火できるけど……やっぱりフライパンとか鍋が欲しいよな……でも代わりになる物は……あっ)
アムルコスは『ある物』に気が付きました。
「わぁ!」
翌日、朝食の焼いた魚の隣にはもう一品、スープが追加されていました。
「泉でとれた魚で出汁をとったスープだそうです。お口に合えばいいのですが……」
カールの代弁を横で聞きながらアムルコスは緊張していました。
新メニューを用意したまではいいものの、アンデッドでは味見することができないためぶっつけ本番になってしまったのです。
アリアロスはスープをゆっくりと口に運びました。
「……いかがでしょうか?」
「……とてもおいしいです」
満面の笑みでアリアロスは答えました。
「アムルコスさん、ありがとうございます」
笑顔で頭を下げるアリアロスにアムルコスは手を振り歯を鳴らし「そこまでしなくても」と訴えましたが、内心はほっと胸を撫で下ろしていました。
「……いや、本当によかった」
そして離れたところで見守っていたレイトラもひっそりと胸を撫で下ろしていました。
実はこのスープ、アムルコスの兜を鍋代わりにして調理していたのです。
提案されたときは却下しようとしましたが、「今ある物で」と言ったばかりだったので徹底的に洗って消毒などを繰り返してようやく許可を下ろしていました。
「最初に聞かされた時はわたくしも驚きましたが……なんでもやってみるものですね」
下がってきたカールもどこか安心した様子です。
「あぁ。だが、早くなんとかしなければ」
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