逃亡聖女はアンデッド従者たちと平穏な生活を望んでいます

時乃純之助

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09 小さなトラブル

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 アリアロスはアンデッドたちの尽力で無事に水浴びを済ませることができました。

 水浴びが終わったことはすぐに連絡がまわり、警戒体制をとっていた彼らは聖女の無事に安堵し、まるで雑談するように歯を鳴らしてくつろいでいました。

「な、なんですかその姿は!?」

 レイトラの絶叫が聞こえるまでは……





 その声にアンデッドたちは即座に緊急事態と判断しました。

 レベル2のアンデッドが臨時で指示を出し、レイトラたちの元へ急ぎます。

 辿り着いてみると、見た目が骸骨のため表情は分かりづらいですが明らかに驚いたリアクションをしているレイトラ。

 対照的に水浴びをして綺麗になったアリアロスは不思議そうに首を傾げていて、リーサはなぜか困った顔でそっぽを向いています。

 アンデッドたちはなにがどうなっているのか分かりませんでしたが、やがてひとりが気付きました。
 「聖女様のドレスが先ほどと違い、破れて補修されている」と。

 そこからの行動はさすが元兵士でした。

 10人がアリアロスを中心に円陣を組み、武器を構えて周囲を警戒します。

 残りは泉と森へとそれぞれ走り、『アリアロスを襲ったであろう存在』を探しはじめます。

「み、皆さんどうしたのですか!?」

 突然のことにアリアロスは戸惑いました。しかし、警戒中のアンデッドたちはそれどころではありません。

「す、すまない取り乱した! 指揮を変わる! 伝令はすぐにカール殿に連絡を!!」

 そうこうしているとレイトラも復帰しました。
 指揮する姿自体は頼もしい限りなのですが、アリアロスは戸惑うばかりです。

「あの、いったいなにが……」

「そ、そうだ聖女様、水浴びでなにがあったのですか!? リーサ、お前がついていながらみすみすこのようなことに……」

「あー、その、悪い……」

 勘違いさせていることは分かっているリーサなのですが、ドレスがこんなことになった原因が自分なので事情を言い出せずにいました。

「お前の処遇は後回しだ。まずは敵を―――」

「ま、待ってください!!」

 「処遇」という言葉にアリアロスは慌てて割り込みました。

 その場にいる全員がアリアロスの声に驚き、動きを止めました。

「あ、あの、違うんです。これは……」

 単なる事故であることを説明すると、アンデッドたちは一斉に大きなため息をつきました。

「リーサ……お前なぁ……」

「いや確かにオレが悪かったけど、勘違いして騒いだのはお前たちじゃねーか」

「そ、それはそうだが……」

「も、もういいじゃないですか。なにもなかったのですから……」

「いいえ、よくはありませんよアリアロス様」

 落ち着きかけていたところにどこからともなくカールが現れました。

「いいですか。いまだ分からぬことが多いながらもアリアロス様は追われる身。そこに襲撃された、と報告が来ればわたくし生きた心地がしませんでした……いえ生きていませんが」

 そんな定番アンデッドジョークを挟みつつ、カールの話は続きます。

「まずレイトラ。あなたは兵たちをまとめる立場にありながら状況確認が甘い。誤認だとしてもすぐに対処できないとは何事ですか。あなたのその不甲斐なさが今回のトラブルを招いたのです」

「……すまない」

「リーサ、あなたもです。すぐに事情を説明すれば済んだものを……傭兵とはいえ報告の大切さを知らぬわけではないでしょう?」

「そんくらい分かってるよ……」

「まったく……まぁ、今回は緊急時の訓練になったと思ってこれまでとしましょう。それにしてもレベル2たちはレベル1への指示といい、いい動きをしていましたね。生前だったら昇給を進言したいくらいですよ」

 まさに怪我の功名と、カールは嬉しそうです。

「あの、カールさん……私は?」

「私は……とは?」

「私にはなにか注意すること、ないのですか?」

 アリアロスの言葉にカールは意味が分からず、首を傾げました。
 しかし、それが「自分にも問題があったはず」というアリアロスの真面目な考えと分かりカールは苦笑しました。

「今回貴女に落ち度はありません。周りが失敗して騒いだだけのことです」

「でも……」

「そのお考えは尊重します。しかし、自分に非がないのに悪いと決めつけるのは自分にとっても、周囲の者にとってもよくないことですぞ」

 諭すように、優しい声でカールは語ります。

 まだ納得はいかない様子ですが、アリアロスはひとまず頷きました。

「では小屋へ戻るとしましょう。昼食を準備しているアムルコスも気が気ではないでしょうからね」

 話を切り上げ、一同は帰路へとつきました。

 ただ、アリアロスのドレスが貴族御用達の高級ブランドで、一着の値段がとんでもないことを知っているカールだけはその変わり果てた姿にひとり静かにため息をつくのでした。


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