19歳の一生

春名 久遠

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一生

二生

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フリーターの僕君には毎日、いくつもの試練があります。
フリーターといっても暇じゃないのです。
その1、街ゆく人達からの冷たい目線を気づいてないふりをしてバイト先へ向かう。
自意識過剰ではありません。あいつらは僕君を見下した目で見ている、と僕君は思い込んでいます。
その2、家での立場を考えると何も音を立てずに動かない事が最善策なので、坊主よりも瞑想し、動きません。
時々自分が自分でなくなってしまうのではないかと思うのです。
その3、とにかく辛い。
周りの同期はここまで落ちぶれていないはずだ。
なんせ学校卒業三日後にはフリーターなのであるから。行先が思いやられる所ではない。
比べるだけで不安と現実と嫉妬に押しつぶされそうになります。
そもそも僕君に友達なんていません。
同期と書いた時点で気づけよ、と思う僕君でした。
この現状をそこまで大した事ないと思う奴は、ぜひ替わって欲しいと思う僕君です。
落ちこぼれと入れ替わった場合、その後の人生は苦痛であると同時に、入れ替わった相手と恋愛には発展しない。
替わった僕君は会おうとも思わないだろう。
むしろ替わった僕君は人生を謳歌するだろう。
すなわち、後悔して戻ろうとしても地球を舞台とした大規模鬼ごっこになるという訳だ。
なんてありもしない現実逃避をしていつもギリギリのところで試練を乗り越えています。いえ、よじ登っています。

フリーターになった僕君は日々考える事が増えました。そうです、世の中に対する考え方が変わったのです。
例えば、「大して果汁入ってねえのに素材の味を語るなよボトル野郎」
と陳列されたペットボトルジュース達に念じています。
他にもたくさんありますが、あまり得にならなさそうなのでやめときます。
僕君はフリーターになって世の中をよく見るようになりました。
ちなみにバイトはファミレスの店員です。不満はまだありません。
ファミレスには様々な人間が来ます。
僕君が働いていた時、おじさんの席の後ろを通りかかりました。
そのおじさんはスマホの画面の光をMAXにして、画面を舐めるように必死にグラビアの子の谷間を人差し指と親指で、慣れない手つきで拡大していました。
それを見た時僕君は軽蔑する訳ではなく、逆に愛おしく見えていました。
まるで猫じゃらしを追いかける子猫のようじゃありませんか。欲望には逆らえないということも学べました。
30年以上生きたであろう禿げた毛深い人間でさえ、この愛おしさを醸し出せるのである。
何とも可能性を感じざるを得ない。
そんなこんなでバイトは続けれそうな僕君です。

ファミレスは男女トイレが別ではあるのですが、個室が壁越しに隣合っています。
そして壁がものすごく薄いので、くしゃみの音や、トイレットペーパーをからからさせる音が男側からも女側からも筒抜け状態なのである。
僕君は、個室に入る度、この薄い壁の向こう側のからからしている人が美人な人だったらいいなと思っています。
というか、美人だと思って妄想しております。
そして動物の求愛行動のように、向こう側の人がからからとトイレットペーパーを巻いている時は、事を終えてなくてもからからからからと共鳴するかのように音を立ててアピールします。
僕君はここにいるよ!美人さん!といった所でしょうか。

壁を殴られました。
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