他種族保育園

かわいた ひもの

文字の大きさ
上 下
1 / 2

かけっこ

しおりを挟む
ーーー4月13日、晴れ

 ここ、私立他種族保育園では今日も子どもたちの元気な声が響いていた。

「はい!それじゃあみんな、おはようございます!」
『おはようございます!!』

 担任の挨拶に対して、大きな声で、恥ずかしそうな声で、そっぽを向きながら、さまざまな様子で挨拶を返す子どもたち。

「みんな今日も元気そうだねー、じゃあこれからトイレに行って、その後は園庭で遊ぶからねー!」
『はーーい!!』

 そう言いながら、担任は子どもたちの体調を目視で確認する。尻尾の様子、毛並みや鱗の艶、葉の様子など、全体的に見て気になる子がいないか、できるだけ細かく気を配らなければならない。

 よし、今日は目に見えて体調が悪そうな子は居ないみたいだ。

 朝の挨拶が終われば、子どもたちに排泄を促していき、園庭に送り出していく。

「せんせー、あそぼ。」

 園庭に出ると、ケンタウロスの女の子、セーラちゃんに声をかけられる。

「うん、良いよ。何して遊ぶ?」
「かけっこ!」
「わかった、じゃあいこっか。」

 半人半馬のケンタウロスなだけあって、セーラちゃんは走るのが大好きだ。特に、広い園庭をめいいっぱい走っている時は本当に楽しそうに笑う。

「せんせー、こっちだよー!」
「待て待て~!」

 この会話、非常に微笑ましいと我ながら思う。しかし、実際にはセーラちゃんが楽しそうに走っている後ろを、自分が全力疾走で追いかけるという、犯罪臭を漂わせる構図になっている。
 いくら子どもとはいえ、下半身が馬のケンタウロスとの追いかけっこは、一般的なヒト種の自分にはなかなかにハードなものである。加えて、走りながらも他の子どもたちになるべく目を配らなければならないため、それなりに神経も使う。

「あはははっ!せんせー、こっちこっち!」

 それでも、子どもたちの誘いを断らないのは、幸せそうな笑顔を間近で見られるからだ。これは自分たち保育士の1番の楽しみだろう。

「はぁ…、よしっ!いくぞー!」

 息を整えて、再び駆け出す。

 もうひと頑張りしよう。………給食の時間になるまで…!!


しおりを挟む

処理中です...