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第1話 ヒロインは既に死んでいる
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世の紳士・淑女が思わず、顔を顰める陰惨な事件が起きた。
事が起こったのはカムプスと呼ばれる辺境の村である。
カムプスは王都から駅馬車を乗り継ぎ、およそ十日ほどかかる辺境地にある片田舎の長閑な村落だ。
農業と林業が主な産業と呼べる村だが、いわゆる境界に位置する複雑な土地でもあった。
境界の村らしく、冒険者として身を立てる者も少なくはない。
事件が発覚したのはいわゆるタレコミによるものだった。
血相を変え、息も絶え絶えになって、衛兵の詰所に飛び込んできたのはグレンダという名の若い女性である。
グレンダはコナー男爵家に仕えるメイドで偏見の多い片田舎のカムプスでは珍しい女性でありながら、ある程度の教育を受けた人物だ。
コナー男爵家は貴族と言っても領地を持たない小貴族に過ぎない。
それにも関わらず、カムプスの民から、崇敬を集める名家だった。
コナー家の先祖が高名な冒険者として、名を馳せ故郷の町であるカムプスを守り、発展させてきた歴史があるからだ。
そのコナー家のメイドということもあり、グレンダはカムプスで一目置かれた存在だったと言える。
普段、物静かで穏やかなおとなしい少女と見られていたグレンダが青褪めた顔で衛兵詰所に現れ、「お嬢様が……お嬢様が……」とうわごとのように繰り返した為、事態を重く見た衛兵隊長ブライアン・ソマーズはまず、彼女を落ち着かせることに専念した。
ブライアンが武骨で荒くれた者が多い衛兵の中では異色の優男風の容貌だったのも幸いしたのだろう。
どうにか、落ち着きを取り戻したグレンダが語り出したのは衝撃的な事実だった。
コナー家の令嬢であるイヴァンジェリンが殺されたという。
それも婚約者であるエルドレッドによって、無残な殺され方をしたと涙ながらに語ったのだ。
被害者イヴァンジェリン・コナーは十六歳を迎えたばかりの深窓の令嬢として、知られていた。
ただ、イヴァンジェリンは実は深窓とは程遠い活発な令嬢である。
ややくすみのある紅茶のような色の金髪に良く晴れた青空を思わせる空色の瞳が映える美しい少女だが、快活でお転婆なだけではない。
人目を引く容貌よりもむしろ、優れた薬師としての腕の良さで知られていたというのが本当のところなのだ。
彼女の薬師としての才能はかなり高く、コナー家の令嬢でまだ、家の庇護下にありながらも自立した一人の女性でもあった。
イヴァンジェリンの生き方は抑圧された生き方を求められる女性からは支持されたが、男尊女卑の因習が根付くカムプスでは褒められるだけでなかったことは確かである。
イヴァンジェリンの婚約者エルドレッドはコナー家の遠縁にあたる十九歳の青年だ。
コナー家の当主であるイヴァンジェリンの父テレンスが婿養子として迎えるのにふさわしい男として、見極めた男である。
冒険者を生業としており、腕のいい狩人としても知られていた。
好青年であり、悪い評判は無かったのだ。
何より、二人は幼馴染の間柄でもあり、昔から互いのことを良く知っていた。
仲も順調なようで婚約者として、適切な距離を保ちながら、いずれ愛に昇華される縁を育んでいるものだと思われていた。
そんなエルドレッドがイヴァンジェリンを殺害したと証言するメイド・グレンダ。
彼女の様子は鬼気迫ったもので、とても嘘をついているようには見えない。
そう判断したブライアンは数人の部下を連れるとエルドレッドのもとへと急ぐのだった。
事が起こったのはカムプスと呼ばれる辺境の村である。
カムプスは王都から駅馬車を乗り継ぎ、およそ十日ほどかかる辺境地にある片田舎の長閑な村落だ。
農業と林業が主な産業と呼べる村だが、いわゆる境界に位置する複雑な土地でもあった。
境界の村らしく、冒険者として身を立てる者も少なくはない。
事件が発覚したのはいわゆるタレコミによるものだった。
血相を変え、息も絶え絶えになって、衛兵の詰所に飛び込んできたのはグレンダという名の若い女性である。
グレンダはコナー男爵家に仕えるメイドで偏見の多い片田舎のカムプスでは珍しい女性でありながら、ある程度の教育を受けた人物だ。
コナー男爵家は貴族と言っても領地を持たない小貴族に過ぎない。
それにも関わらず、カムプスの民から、崇敬を集める名家だった。
コナー家の先祖が高名な冒険者として、名を馳せ故郷の町であるカムプスを守り、発展させてきた歴史があるからだ。
そのコナー家のメイドということもあり、グレンダはカムプスで一目置かれた存在だったと言える。
普段、物静かで穏やかなおとなしい少女と見られていたグレンダが青褪めた顔で衛兵詰所に現れ、「お嬢様が……お嬢様が……」とうわごとのように繰り返した為、事態を重く見た衛兵隊長ブライアン・ソマーズはまず、彼女を落ち着かせることに専念した。
ブライアンが武骨で荒くれた者が多い衛兵の中では異色の優男風の容貌だったのも幸いしたのだろう。
どうにか、落ち着きを取り戻したグレンダが語り出したのは衝撃的な事実だった。
コナー家の令嬢であるイヴァンジェリンが殺されたという。
それも婚約者であるエルドレッドによって、無残な殺され方をしたと涙ながらに語ったのだ。
被害者イヴァンジェリン・コナーは十六歳を迎えたばかりの深窓の令嬢として、知られていた。
ただ、イヴァンジェリンは実は深窓とは程遠い活発な令嬢である。
ややくすみのある紅茶のような色の金髪に良く晴れた青空を思わせる空色の瞳が映える美しい少女だが、快活でお転婆なだけではない。
人目を引く容貌よりもむしろ、優れた薬師としての腕の良さで知られていたというのが本当のところなのだ。
彼女の薬師としての才能はかなり高く、コナー家の令嬢でまだ、家の庇護下にありながらも自立した一人の女性でもあった。
イヴァンジェリンの生き方は抑圧された生き方を求められる女性からは支持されたが、男尊女卑の因習が根付くカムプスでは褒められるだけでなかったことは確かである。
イヴァンジェリンの婚約者エルドレッドはコナー家の遠縁にあたる十九歳の青年だ。
コナー家の当主であるイヴァンジェリンの父テレンスが婿養子として迎えるのにふさわしい男として、見極めた男である。
冒険者を生業としており、腕のいい狩人としても知られていた。
好青年であり、悪い評判は無かったのだ。
何より、二人は幼馴染の間柄でもあり、昔から互いのことを良く知っていた。
仲も順調なようで婚約者として、適切な距離を保ちながら、いずれ愛に昇華される縁を育んでいるものだと思われていた。
そんなエルドレッドがイヴァンジェリンを殺害したと証言するメイド・グレンダ。
彼女の様子は鬼気迫ったもので、とても嘘をついているようには見えない。
そう判断したブライアンは数人の部下を連れるとエルドレッドのもとへと急ぐのだった。
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