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第7話 近づく死の足音
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エルドレッドは境界の地を一人、旅をしていた。
青ざめた顔色は相変わらず、生者でありながらもまるで亡者のように見える有様だ。
瞳だけは研ぎ澄まされた刃のように不気味な光を放っており、不気味さに拍車がかかっていた。
焚火にあたるエルドレッドの右手には異様な物が乗っている。
しゃれこうべだった。
「もうすぐだ。イズ」
しゃれこうべを愛おしそうに見つめる彼の瞳に宿るのは狂気の色だ。
彼の左腕は肘から下の部分がなくなっており、ちぎれた袖には既に固まった血がこびりついており、エルドレッドの顔色の悪さが出血によるものであることは明らかだった。
遡ること数時間前。
境界地の森を彷徨うエルドレッドは狼の群れとの戦いを余儀なくされていた。
ただの狼ではない。
艶やかな黒い毛並みに覆われた大きな狼だった。
いわゆる狼と呼ばれる種よりも一回り大きい体躯を支える四肢は非常に太く、しっかりと大地を捉える爪もそれ自体が凶器のように鋭い。
古代に生息した恐ろしい狼と呼ばれる種だった。
ヘルヘイムでは一般的に見られる狼。
人の世では既に絶滅したとされており、その性狂暴にして、獰猛。
狙った獲物が弱ったところに襲い掛かる狡猾さも併せ持っていた。
エルドレッドは弱った獲物と思われた。
それだけのことだ。
しかし、今回はダイアウルフが貧乏くじを引いたということで間違いないだろう。
弱った獲物であるはずのエルドレッドは追い詰められた弱者ではなかった。
狼の群れに囲まれ、圧倒的に不利な状況にありながらも何かに憑りつかれたように戦い続ける悪鬼と化したエルドレッドは右手にロングソード、左手にハンドアックスという変則的な二刀流を駆使して、戦い続けたのだ。
結果、ダイアウルフの群れは無残な躯を晒すことになった。
傷を負いながらも狂ったように戦うエルドレッドはまるで伝説に謳われる狂戦士そのものだったが、群れのリーダーとの戦いは壮絶だった。
エルドレッドが放ったロングソードによる必殺の一撃は確かにリーダーの首を落とした。
代償とでも言うようにリーダーの強靭な顎は彼の左腕を持っていった。
嚙みちぎられた左下腕を事も無げに切断したエルドレッドは簡単な止血をすることしか出来ず、大量の血を失っている。
それで亡者のような有様で焚火に当たっていたのだ。
金色と白金色の髪色の少女が二人。
彼の様子を離れたところから、見守るというよりは見張っていた。
「中々に健気なものよ?」
「でも、あの男さ。このあたしを殺そうとしたわ。信じられない」
怖気を感じたのか、両手で自らの体を抱き締めるような仕草をする金髪の少女に白金色の髪の少女は冷めた視線を送る。
まるで冷気を感じる氷のような視線だった。
「あんたはそれでも許せるわけぇ?」
「うん。彼がわたしを殺したいのなら、喜んで」
「そういえば、あんたはそういう子だったわね」
先程、氷の視線を投げかけていた娘と同じとは思えない熱を帯びたような瞳で虚空を見つめるヘルにイズンが呆れるしかない。
『男は信じない』と言っていた荊の姫が棘を抜かれて、このざまなのだ。
『真実の愛』とやらは余程、恐ろしいものに間違いない。
改めて、怖気を感じたイズンは再び、両手で体を抱き締めると震える体を抑えるのだった。
青ざめた顔色は相変わらず、生者でありながらもまるで亡者のように見える有様だ。
瞳だけは研ぎ澄まされた刃のように不気味な光を放っており、不気味さに拍車がかかっていた。
焚火にあたるエルドレッドの右手には異様な物が乗っている。
しゃれこうべだった。
「もうすぐだ。イズ」
しゃれこうべを愛おしそうに見つめる彼の瞳に宿るのは狂気の色だ。
彼の左腕は肘から下の部分がなくなっており、ちぎれた袖には既に固まった血がこびりついており、エルドレッドの顔色の悪さが出血によるものであることは明らかだった。
遡ること数時間前。
境界地の森を彷徨うエルドレッドは狼の群れとの戦いを余儀なくされていた。
ただの狼ではない。
艶やかな黒い毛並みに覆われた大きな狼だった。
いわゆる狼と呼ばれる種よりも一回り大きい体躯を支える四肢は非常に太く、しっかりと大地を捉える爪もそれ自体が凶器のように鋭い。
古代に生息した恐ろしい狼と呼ばれる種だった。
ヘルヘイムでは一般的に見られる狼。
人の世では既に絶滅したとされており、その性狂暴にして、獰猛。
狙った獲物が弱ったところに襲い掛かる狡猾さも併せ持っていた。
エルドレッドは弱った獲物と思われた。
それだけのことだ。
しかし、今回はダイアウルフが貧乏くじを引いたということで間違いないだろう。
弱った獲物であるはずのエルドレッドは追い詰められた弱者ではなかった。
狼の群れに囲まれ、圧倒的に不利な状況にありながらも何かに憑りつかれたように戦い続ける悪鬼と化したエルドレッドは右手にロングソード、左手にハンドアックスという変則的な二刀流を駆使して、戦い続けたのだ。
結果、ダイアウルフの群れは無残な躯を晒すことになった。
傷を負いながらも狂ったように戦うエルドレッドはまるで伝説に謳われる狂戦士そのものだったが、群れのリーダーとの戦いは壮絶だった。
エルドレッドが放ったロングソードによる必殺の一撃は確かにリーダーの首を落とした。
代償とでも言うようにリーダーの強靭な顎は彼の左腕を持っていった。
嚙みちぎられた左下腕を事も無げに切断したエルドレッドは簡単な止血をすることしか出来ず、大量の血を失っている。
それで亡者のような有様で焚火に当たっていたのだ。
金色と白金色の髪色の少女が二人。
彼の様子を離れたところから、見守るというよりは見張っていた。
「中々に健気なものよ?」
「でも、あの男さ。このあたしを殺そうとしたわ。信じられない」
怖気を感じたのか、両手で自らの体を抱き締めるような仕草をする金髪の少女に白金色の髪の少女は冷めた視線を送る。
まるで冷気を感じる氷のような視線だった。
「あんたはそれでも許せるわけぇ?」
「うん。彼がわたしを殺したいのなら、喜んで」
「そういえば、あんたはそういう子だったわね」
先程、氷の視線を投げかけていた娘と同じとは思えない熱を帯びたような瞳で虚空を見つめるヘルにイズンが呆れるしかない。
『男は信じない』と言っていた荊の姫が棘を抜かれて、このざまなのだ。
『真実の愛』とやらは余程、恐ろしいものに間違いない。
改めて、怖気を感じたイズンは再び、両手で体を抱き締めると震える体を抑えるのだった。
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