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32 孤児院の名はエスペランサ
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スペイン全土がいわゆる「時は世紀末」状態になっていて、弱肉強食の世界だ。
特に力を持たない人々は生きるのもやっと。
それを考えたら、プラッツ家の治めるレウス市は割と……どころではなく、ましな部類なのだ。
恐らくはサテレス叔父さんのお陰だろう。
あの人、かなり有能だ。
頭でっかちなところがあって、私に甘すぎるのを除けば、超優良物件だと思う。
それなのに未だに独身を貫いてる。
マジで前世の八雲叔父さんみたい。
私が片付くまで結婚しない誓いでも立ててるんだろうか。
いや、まさか……。
ちょっと鳥肌が立ったので頭を過ぎった嫌な考えを追い払う。
そう。
叔父さんは有能だ。
丁度いい感じの死体を用意するくらいお手の物だった。
だから、馬鹿兄――メテオリスとお花畑なマチルダの死を偽装するのは、思った以上にうまくいった。
結ばれないことに絶望した二人が無理心中を図ったという筋書きだ。
そして、大々的にプラッツの名を使って、異母兄の死を発表した。
世間の目を欺くのに成功したと思う。
少なくともあの二人を担ぎ上げようと画策する輩は出ないはずだ。
「あー、お兄ちゃんらしきモノ。ごきげんよう。まだ、元気だった?」
「相変わらず、口悪いな、妹よ。相変わらず、元気さ」
叔父さんが尽力し、レウスに新設された公立の孤児院『エスペランサ』を訪れると出迎えてくれたのが、兄らしきモノことテオだった。
さすがにメテオリスの名のままで生活するのは危ないと考えた。
アディみたいに愛称でテオという名になっただけ。
無駄に眩しいイケメン度は落ちてない。
銀髪に整った顔立ちでおまけに瞳の色が目立って仕方ないので、眼鏡で隠してもらってる。
そうしなければ、変な虫が寄ってきそうだし。
「あらあら、ステラちゃん。何か、あったの?」
あらあらうふふみたいに全ての空気をほんわかにしてくれるのは、正式に兄と籍を入れた元聖女のマチルダ。
義姉なんだけど、お姉ちゃんというよりも同年代の友人感覚が強い。
きれいではなく、可愛い人だし、頭の中は一年中お花畑だからかもしれない。
そう。
二人は死んだことにして、孤児院の院長夫婦になってもらった。
見た目と来る者は拒まずのスタイルで面倒見のいいテオと『愛の聖女』フィリアだったマチルダほど、孤児院の運営に向いている人はいないだろう。
この読みは間違いではなかったようで、経営状況は非常に好調。
何と言っても『鷹(アルコン)隊』の三人がいる孤児院だから、普通じゃない。
教養だけでなく、実戦テクニックも身に付くと好評で孤児じゃなくても預かって欲しいという意見まで出てる。
何しろ、教育機関も開店休業で息をしてない現状だ。
東の聖女の国や西の暴君? の国はそれなりに行き届いてるらしいけど、それ以外はてんでダメ。
学校のような施設を手掛けるのも悪くないと思ってる。
「実は……」
ダンジョンに行くので同行者として、スサナ、ブランカ、ヴィトーを連れて行きたい旨を伝えた。
「スサナは無理だな、うん。彼女には向いていない」
「そうなの?」
テオは馬鹿じゃない。
ちょっと言動が軽いだけで普通に優秀な人だった。
試しに叔父さんの仕事を少し、やらせてみたことがある。
いとも簡単にこなした。
異母兄だったことがつくづく惜しまれる人だと思った。
もっとも嫡男として生まれていたら、そのプレッシャーで潰れていたのかもしれない。
意外と繊細な人でもあるし。
「彼女とダンジョンの相性はよくないということさ」
「そうなんだ……」
スサナは現在、自分の背丈くらいある大型のクロスボウで狙撃技術を磨いてるらしい。
そういえば、『鋼鉄の聖女』でも彼女は長距離狙撃が得意なスナイパーだったと納得した。
開かれたフィールドのダンジョンでない限り、スナイパーとの相性はいいとは言えない。
むしろ相性最悪かもしれない。
「ブランカとヴィトーなら、問題ない」
「大分ましになった?」
「そこも問題ない。何と言ってもマチルダだからね」
「なるほど」
二人は本来、優秀なマジックキャスターであって、かなりアグレッシブな性質のはずだ。
何がどうなったのか、何事にも全く自信を持てないネガティブの権化になっていた。
二人に預けて、正解だったんだろう。
マチルダは聖女なのが苦痛だったのは、強制される愛だったからと零していた。
自然に人を愛する今のマチルダの方が、聖女らしいと思った。
そんなマチルダが心を閉ざしていた二人の心を解してくれたんだろう。
これでダンジョン攻略が楽になるかも! と内心、小躍りしていたけど、甘かったと思い知らされることになる……。
特に力を持たない人々は生きるのもやっと。
それを考えたら、プラッツ家の治めるレウス市は割と……どころではなく、ましな部類なのだ。
恐らくはサテレス叔父さんのお陰だろう。
あの人、かなり有能だ。
頭でっかちなところがあって、私に甘すぎるのを除けば、超優良物件だと思う。
それなのに未だに独身を貫いてる。
マジで前世の八雲叔父さんみたい。
私が片付くまで結婚しない誓いでも立ててるんだろうか。
いや、まさか……。
ちょっと鳥肌が立ったので頭を過ぎった嫌な考えを追い払う。
そう。
叔父さんは有能だ。
丁度いい感じの死体を用意するくらいお手の物だった。
だから、馬鹿兄――メテオリスとお花畑なマチルダの死を偽装するのは、思った以上にうまくいった。
結ばれないことに絶望した二人が無理心中を図ったという筋書きだ。
そして、大々的にプラッツの名を使って、異母兄の死を発表した。
世間の目を欺くのに成功したと思う。
少なくともあの二人を担ぎ上げようと画策する輩は出ないはずだ。
「あー、お兄ちゃんらしきモノ。ごきげんよう。まだ、元気だった?」
「相変わらず、口悪いな、妹よ。相変わらず、元気さ」
叔父さんが尽力し、レウスに新設された公立の孤児院『エスペランサ』を訪れると出迎えてくれたのが、兄らしきモノことテオだった。
さすがにメテオリスの名のままで生活するのは危ないと考えた。
アディみたいに愛称でテオという名になっただけ。
無駄に眩しいイケメン度は落ちてない。
銀髪に整った顔立ちでおまけに瞳の色が目立って仕方ないので、眼鏡で隠してもらってる。
そうしなければ、変な虫が寄ってきそうだし。
「あらあら、ステラちゃん。何か、あったの?」
あらあらうふふみたいに全ての空気をほんわかにしてくれるのは、正式に兄と籍を入れた元聖女のマチルダ。
義姉なんだけど、お姉ちゃんというよりも同年代の友人感覚が強い。
きれいではなく、可愛い人だし、頭の中は一年中お花畑だからかもしれない。
そう。
二人は死んだことにして、孤児院の院長夫婦になってもらった。
見た目と来る者は拒まずのスタイルで面倒見のいいテオと『愛の聖女』フィリアだったマチルダほど、孤児院の運営に向いている人はいないだろう。
この読みは間違いではなかったようで、経営状況は非常に好調。
何と言っても『鷹(アルコン)隊』の三人がいる孤児院だから、普通じゃない。
教養だけでなく、実戦テクニックも身に付くと好評で孤児じゃなくても預かって欲しいという意見まで出てる。
何しろ、教育機関も開店休業で息をしてない現状だ。
東の聖女の国や西の暴君? の国はそれなりに行き届いてるらしいけど、それ以外はてんでダメ。
学校のような施設を手掛けるのも悪くないと思ってる。
「実は……」
ダンジョンに行くので同行者として、スサナ、ブランカ、ヴィトーを連れて行きたい旨を伝えた。
「スサナは無理だな、うん。彼女には向いていない」
「そうなの?」
テオは馬鹿じゃない。
ちょっと言動が軽いだけで普通に優秀な人だった。
試しに叔父さんの仕事を少し、やらせてみたことがある。
いとも簡単にこなした。
異母兄だったことがつくづく惜しまれる人だと思った。
もっとも嫡男として生まれていたら、そのプレッシャーで潰れていたのかもしれない。
意外と繊細な人でもあるし。
「彼女とダンジョンの相性はよくないということさ」
「そうなんだ……」
スサナは現在、自分の背丈くらいある大型のクロスボウで狙撃技術を磨いてるらしい。
そういえば、『鋼鉄の聖女』でも彼女は長距離狙撃が得意なスナイパーだったと納得した。
開かれたフィールドのダンジョンでない限り、スナイパーとの相性はいいとは言えない。
むしろ相性最悪かもしれない。
「ブランカとヴィトーなら、問題ない」
「大分ましになった?」
「そこも問題ない。何と言ってもマチルダだからね」
「なるほど」
二人は本来、優秀なマジックキャスターであって、かなりアグレッシブな性質のはずだ。
何がどうなったのか、何事にも全く自信を持てないネガティブの権化になっていた。
二人に預けて、正解だったんだろう。
マチルダは聖女なのが苦痛だったのは、強制される愛だったからと零していた。
自然に人を愛する今のマチルダの方が、聖女らしいと思った。
そんなマチルダが心を閉ざしていた二人の心を解してくれたんだろう。
これでダンジョン攻略が楽になるかも! と内心、小躍りしていたけど、甘かったと思い知らされることになる……。
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