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39 悪女ステラ・プラッツ 三人称視点
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ステラ・プラッツは稀代の悪女である。
この世の悪徳が人の姿を取ったとまで言われる生き様は悪辣非道そのものだった。
彼女は身の丈に合わない野望を抱いた。
女辺境伯として、レウス市を治める身でありながら、それ以上を望んだのだ。
そして、コミューンの暴虐なる王オルデン・デスト・ルクシオンに近付いた。
ステラは悪徳そのものだが、容貌の良さは人並み外れている。
国を傾ける魔性の美貌は異性だけではなく、同性さえも羨むほど。
ただ、それだけを武器にステラはコミューンで確固たる地位を築いたと言っても過言ではない。
彼女には唯一無二の能力を秘める血こそあったものの、いかんせんそれを生かせない。
生まれもっての性が悪影響を与えていた。
「老いぼれにはふさわしくないわ。このあたしこそ、頂点に立つべき人間なのよ」
そう言って憚らない無駄に高い気位の高さに比例するように自己評価も無意味に高かったのだ。
その為、隙を窺い、事あるごとにルクシオンの地位を狙った。
もっとも成功しても三日天下がいいところで自滅した。
だが、ルクシオンはその度に「愚か者めが」と叱責するだけで罰を与えることがなかった。
ルクシオンの率いるコミューンと聖女を擁するペルフェクティオ・サンクトゥスの熾烈な争いは、激化の一途を辿った。
しかし、元より地力が違う。
コミューンは戦いを生業とする者が多数を占める。
対して、ペルフェクティオ・サンクトゥスは神の加護を受けた聖者が率いてるに過ぎないのだ。
この差は大きく、埋めようがなかった。
時が進むにつれ、次第にコミューンの優勢が明らかになった。
そして、悲劇に繋がる決定的な事件が起きる。
『鋼の聖女』リベルタ・インテンシオンの片腕であり、歴戦の勇士として知られる神官戦士アイゼン・クラジェが壮絶な死を遂げた。
アイゼンは救援の知らせに僅かな手勢を率い、向かったがそこで待ち伏せしていたルクシオン本体の奇襲を受けた。
投降の呼びかけに応ずることなく、アイゼンは果敢に戦ったが衆寡敵せず。
帰らぬ人となったのである。
リベルタはこの報に激怒した。
己の不甲斐なさに怒り、そして、決意した。
「しかし、聖女様!」
「言うな。せねばならないのだ。この私が」
仲間が引き留めるのも聞かず、リベルタは単身、コミューンの本陣に乗り込んだ。
全体未聞の離れ業だった。
勝利を目前にしたコミューンが油断していたのも大きい。
しかし、『鋼の聖女』の力が彼らの想定以上だったのが真相だ。
リベルタはコミューンの名のある戦士を軽々と討ち取りながら、本陣奥に座すルクシオンを探した。
「出てこい、ルクシオン! 私と正々堂々と果し合いをしろ!」
大音声を上げるリベルタに応え、ルクシオンは「貴様など、武器すら使わずに倒してやろう」と余裕のある態度を見せた。
この時、ステラは事態を傍観していた。
彼女の戦闘力は性格が災いしているだけでかなり高い。
ルクシオンに次ぐ実力者であるのは事実だった。
しかし、本陣を蹂躙するリベルタに一切、攻撃を仕掛けず、様子を見ていた。
このまま、ルクシオンとリベルタが相討ちになれば、願ったり叶ったりと考えていたのだ。
実際、ステラの読みは少なからず、当たっていた。
リベルタとルクシオンの一騎討ちは凄絶だった。
二人だけの世界。
世界に二人しか存在せず、誰も立ち入ることができない。
そんな空気が場を支配していた。
当初のルクシオンの宣言通り、武器を使わず己の肉体の身を頼りとする熾烈な肉弾戦が展開された。
序盤はリベルタに有利だった。
ルクシオンは剛力無双の勇士だったが、『鋼の聖女』たるリベルタと殴り合いで太刀打ちできる者など、存在しない。
人の身である限り無理な話だった。
ここでルクシオンは禁じ手を使う。
隠し持っていた短剣をリベルタの身に突き立てたのだ。
「貴様が終われば、世界は余のものだ」
「そうはさせん」
「ほざけ」
しかし、それでも折れないのが聖女の聖女たる所以だった。
歯を食いしばり、立ち上がるリベルタの気迫にルクシオンは押された。
瀕死のはずの聖女相手にサンドバッグのように殴られたルクシオンは、意識が朦朧としたまま、勢いよく投げ飛ばされた。
致命傷とはならなかったものの手痛い傷を負ったルクシオンは負けを認めたが、勝利を得たリベルタは既に息をしていなかった。
図らずもステラが目論んだ通り、両者相討ちとなったのである……。
時代が来たとばかりにステラはついに本性を露わにする。
「負け犬の老いぼれにはもう用はないのよ」
満身創痍のルクシオンを足蹴にし、ステラは都マドリードへの帰還を宣言した。
勝負に勝利したはずのペルフェクティオ・サンクトゥスも余力はない。
偉大な指導者を失った損失はあまりに大きく、追撃できなかったのだ。
一方のコミューンもまた、混乱していた。
圧倒的なカリスマとして君臨していたルクシオンの権力が失墜した。
リベルタの吶喊により、重職に就いていた者が傷を負ったのも大きい。
腹に据えかねぬ思いはあれども、ステラに従うしかない状況ができあがっていた。
ではマドリードへと戻ったステラは幸せな結末へと辿り着いたのだろうか?
その答えは否である。
ついにルクシオンを追い落とし、我が世の春を謳歌していたステラは自ら、女王にならんと望んだもののその願いは叶わなかった。
戴冠式を迎え、ステラが人生の絶頂に辿り着いたその時、同時に絶望をも味わうことになった。
地獄の淵から舞い戻ったルクシオンが新たな力を得て、帰還したのだ。
その怒りを受けたステラは抗う暇を与えられることなく、魂を失った。
ルクシオンの刃が彼女の首を切り裂いたのだ。
驚いた表情のまま、命の灯が消え、虚ろな表情になった生首を見つめるルクシオンの貌に浮かぶのは愛憎の入り混じった複雑な色だった……。
「愚か者めが……」
ルクシオンの零した苦い呟きを聞く者は誰もいない。
勝者のいない虚しい戦いが終わった……。
この世の悪徳が人の姿を取ったとまで言われる生き様は悪辣非道そのものだった。
彼女は身の丈に合わない野望を抱いた。
女辺境伯として、レウス市を治める身でありながら、それ以上を望んだのだ。
そして、コミューンの暴虐なる王オルデン・デスト・ルクシオンに近付いた。
ステラは悪徳そのものだが、容貌の良さは人並み外れている。
国を傾ける魔性の美貌は異性だけではなく、同性さえも羨むほど。
ただ、それだけを武器にステラはコミューンで確固たる地位を築いたと言っても過言ではない。
彼女には唯一無二の能力を秘める血こそあったものの、いかんせんそれを生かせない。
生まれもっての性が悪影響を与えていた。
「老いぼれにはふさわしくないわ。このあたしこそ、頂点に立つべき人間なのよ」
そう言って憚らない無駄に高い気位の高さに比例するように自己評価も無意味に高かったのだ。
その為、隙を窺い、事あるごとにルクシオンの地位を狙った。
もっとも成功しても三日天下がいいところで自滅した。
だが、ルクシオンはその度に「愚か者めが」と叱責するだけで罰を与えることがなかった。
ルクシオンの率いるコミューンと聖女を擁するペルフェクティオ・サンクトゥスの熾烈な争いは、激化の一途を辿った。
しかし、元より地力が違う。
コミューンは戦いを生業とする者が多数を占める。
対して、ペルフェクティオ・サンクトゥスは神の加護を受けた聖者が率いてるに過ぎないのだ。
この差は大きく、埋めようがなかった。
時が進むにつれ、次第にコミューンの優勢が明らかになった。
そして、悲劇に繋がる決定的な事件が起きる。
『鋼の聖女』リベルタ・インテンシオンの片腕であり、歴戦の勇士として知られる神官戦士アイゼン・クラジェが壮絶な死を遂げた。
アイゼンは救援の知らせに僅かな手勢を率い、向かったがそこで待ち伏せしていたルクシオン本体の奇襲を受けた。
投降の呼びかけに応ずることなく、アイゼンは果敢に戦ったが衆寡敵せず。
帰らぬ人となったのである。
リベルタはこの報に激怒した。
己の不甲斐なさに怒り、そして、決意した。
「しかし、聖女様!」
「言うな。せねばならないのだ。この私が」
仲間が引き留めるのも聞かず、リベルタは単身、コミューンの本陣に乗り込んだ。
全体未聞の離れ業だった。
勝利を目前にしたコミューンが油断していたのも大きい。
しかし、『鋼の聖女』の力が彼らの想定以上だったのが真相だ。
リベルタはコミューンの名のある戦士を軽々と討ち取りながら、本陣奥に座すルクシオンを探した。
「出てこい、ルクシオン! 私と正々堂々と果し合いをしろ!」
大音声を上げるリベルタに応え、ルクシオンは「貴様など、武器すら使わずに倒してやろう」と余裕のある態度を見せた。
この時、ステラは事態を傍観していた。
彼女の戦闘力は性格が災いしているだけでかなり高い。
ルクシオンに次ぐ実力者であるのは事実だった。
しかし、本陣を蹂躙するリベルタに一切、攻撃を仕掛けず、様子を見ていた。
このまま、ルクシオンとリベルタが相討ちになれば、願ったり叶ったりと考えていたのだ。
実際、ステラの読みは少なからず、当たっていた。
リベルタとルクシオンの一騎討ちは凄絶だった。
二人だけの世界。
世界に二人しか存在せず、誰も立ち入ることができない。
そんな空気が場を支配していた。
当初のルクシオンの宣言通り、武器を使わず己の肉体の身を頼りとする熾烈な肉弾戦が展開された。
序盤はリベルタに有利だった。
ルクシオンは剛力無双の勇士だったが、『鋼の聖女』たるリベルタと殴り合いで太刀打ちできる者など、存在しない。
人の身である限り無理な話だった。
ここでルクシオンは禁じ手を使う。
隠し持っていた短剣をリベルタの身に突き立てたのだ。
「貴様が終われば、世界は余のものだ」
「そうはさせん」
「ほざけ」
しかし、それでも折れないのが聖女の聖女たる所以だった。
歯を食いしばり、立ち上がるリベルタの気迫にルクシオンは押された。
瀕死のはずの聖女相手にサンドバッグのように殴られたルクシオンは、意識が朦朧としたまま、勢いよく投げ飛ばされた。
致命傷とはならなかったものの手痛い傷を負ったルクシオンは負けを認めたが、勝利を得たリベルタは既に息をしていなかった。
図らずもステラが目論んだ通り、両者相討ちとなったのである……。
時代が来たとばかりにステラはついに本性を露わにする。
「負け犬の老いぼれにはもう用はないのよ」
満身創痍のルクシオンを足蹴にし、ステラは都マドリードへの帰還を宣言した。
勝負に勝利したはずのペルフェクティオ・サンクトゥスも余力はない。
偉大な指導者を失った損失はあまりに大きく、追撃できなかったのだ。
一方のコミューンもまた、混乱していた。
圧倒的なカリスマとして君臨していたルクシオンの権力が失墜した。
リベルタの吶喊により、重職に就いていた者が傷を負ったのも大きい。
腹に据えかねぬ思いはあれども、ステラに従うしかない状況ができあがっていた。
ではマドリードへと戻ったステラは幸せな結末へと辿り着いたのだろうか?
その答えは否である。
ついにルクシオンを追い落とし、我が世の春を謳歌していたステラは自ら、女王にならんと望んだもののその願いは叶わなかった。
戴冠式を迎え、ステラが人生の絶頂に辿り着いたその時、同時に絶望をも味わうことになった。
地獄の淵から舞い戻ったルクシオンが新たな力を得て、帰還したのだ。
その怒りを受けたステラは抗う暇を与えられることなく、魂を失った。
ルクシオンの刃が彼女の首を切り裂いたのだ。
驚いた表情のまま、命の灯が消え、虚ろな表情になった生首を見つめるルクシオンの貌に浮かぶのは愛憎の入り混じった複雑な色だった……。
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