転生したら、最低の悪女でしたが死にたくないので頑張ります

黒幸

文字の大きさ
39 / 50

39 悪女ステラ・プラッツ 三人称視点

しおりを挟む
 ステラ・プラッツは稀代の悪女である。
 この世の悪徳が人の姿を取ったとまで言われる生き様は悪辣非道そのものだった。

 彼女は身の丈に合わない野望を抱いた。
 女辺境伯として、レウス市を治める身でありながら、それ以上を望んだのだ。
 そして、コミューンの暴虐なる王オルデン・デスト・ルクシオンに近付いた。

 ステラは悪徳そのものだが、容貌の良さは人並み外れている。
 国を傾ける魔性の美貌は異性だけではなく、同性さえも羨むほど。
 ただ、それだけを武器にステラはコミューンで確固たる地位を築いたと言っても過言ではない。

 彼女には唯一無二の能力を秘める血こそあったものの、いかんせんそれを生かせない。
 生まれもっての性が悪影響を与えていた。

「老いぼれにはふさわしくないわ。このあたしこそ、頂点に立つべき人間なのよ」

 そう言って憚らない無駄に高い気位の高さに比例するように自己評価も無意味に高かったのだ。
 その為、隙を窺い、事あるごとにルクシオンの地位を狙った。
 もっとも成功しても三日天下がいいところで自滅した。
 だが、ルクシオンはその度に「愚か者めが」と叱責するだけで罰を与えることがなかった。



 ルクシオンの率いるコミューンと聖女を擁するペルフェクティオ・サンクトゥスの熾烈な争いは、激化の一途を辿った。
 しかし、元より地力が違う。
 コミューンは戦いを生業とする者が多数を占める。
 対して、ペルフェクティオ・サンクトゥスは神の加護を受けた聖者が率いてるに過ぎないのだ。
 この差は大きく、埋めようがなかった。
 時が進むにつれ、次第にコミューンの優勢が明らかになった。

 そして、悲劇に繋がる決定的な事件が起きる。
 『鋼の聖女』リベルタ・インテンシオンの片腕であり、歴戦の勇士として知られる神官戦士アイゼン・クラジェが壮絶な死を遂げた。
 アイゼンは救援の知らせに僅かな手勢を率い、向かったがそこで待ち伏せしていたルクシオン本体の奇襲を受けた。
 投降の呼びかけに応ずることなく、アイゼンは果敢に戦ったが衆寡敵せず。
 帰らぬ人となったのである。

 リベルタはこの報に激怒した。
 己の不甲斐なさに怒り、そして、決意した。

「しかし、聖女様!」
「言うな。せねばならないのだ。この私が」

 仲間が引き留めるのも聞かず、リベルタは単身、コミューンの本陣に乗り込んだ。
 全体未聞の離れ業だった。
 勝利を目前にしたコミューンが油断していたのも大きい。
 しかし、『鋼の聖女』の力が彼らの想定以上だったのが真相だ。
 リベルタはコミューンの名のある戦士を軽々と討ち取りながら、本陣奥に座すルクシオンを探した。

「出てこい、ルクシオン! 私と正々堂々と果し合いをしろ!」

 大音声を上げるリベルタに応え、ルクシオンは「貴様など、武器すら使わずに倒してやろう」と余裕のある態度を見せた。
 この時、ステラは事態を傍観していた。
 彼女の戦闘力は性格が災いしているだけでかなり高い。
 ルクシオンに次ぐ実力者であるのは事実だった。
 しかし、本陣を蹂躙するリベルタに一切、攻撃を仕掛けず、様子を見ていた。
 このまま、ルクシオンとリベルタが相討ちになれば、願ったり叶ったりと考えていたのだ。
 実際、ステラの読みは少なからず、当たっていた。

 リベルタとルクシオンの一騎討ちは凄絶だった。
 二人だけの世界。
 世界に二人しか存在せず、誰も立ち入ることができない。
 そんな空気が場を支配していた。
 当初のルクシオンの宣言通り、武器を使わず己の肉体の身を頼りとする熾烈な肉弾戦が展開された。
 序盤はリベルタに有利だった。
 ルクシオンは剛力無双の勇士だったが、『鋼の聖女』たるリベルタと殴り合いで太刀打ちできる者など、存在しない。
 人の身である限り無理な話だった。
 ここでルクシオンは禁じ手を使う。
 隠し持っていた短剣をリベルタの身に突き立てたのだ。

「貴様が終われば、世界は余のものだ」
「そうはさせん」
「ほざけ」

 しかし、それでも折れないのが聖女の聖女たる所以だった。
 歯を食いしばり、立ち上がるリベルタの気迫にルクシオンは押された。
 瀕死のはずの聖女相手にサンドバッグのように殴られたルクシオンは、意識が朦朧としたまま、勢いよく投げ飛ばされた。
 致命傷とはならなかったものの手痛い傷を負ったルクシオンは負けを認めたが、勝利を得たリベルタは既に息をしていなかった。
 図らずもステラが目論んだ通り、両者相討ちとなったのである……。

 時代が来たとばかりにステラはついに本性を露わにする。

「負け犬の老いぼれにはもう用はないのよ」

 満身創痍のルクシオンを足蹴にし、ステラは都マドリードへの帰還を宣言した。
 勝負に勝利したはずのペルフェクティオ・サンクトゥスも余力はない。
 偉大な指導者を失った損失はあまりに大きく、追撃できなかったのだ。
 一方のコミューンもまた、混乱していた。
 圧倒的なカリスマとして君臨していたルクシオンの権力が失墜した。
 リベルタの吶喊により、重職に就いていた者が傷を負ったのも大きい。
 腹に据えかねぬ思いはあれども、ステラに従うしかない状況ができあがっていた。

 ではマドリードへと戻ったステラは幸せな結末へと辿り着いたのだろうか?
 その答えは否である。
 ついにルクシオンを追い落とし、我が世の春を謳歌していたステラは自ら、女王にならんと望んだもののその願いは叶わなかった。
 戴冠式を迎え、ステラが人生の絶頂に辿り着いたその時、同時に絶望をも味わうことになった。
 地獄の淵から舞い戻ったルクシオンが新たな力を得て、帰還したのだ。

 その怒りを受けたステラは抗う暇を与えられることなく、魂を失った。
 ルクシオンの刃が彼女の首を切り裂いたのだ。
 驚いた表情のまま、命の灯が消え、虚ろな表情になった生首を見つめるルクシオンの貌に浮かぶのは愛憎の入り混じった複雑な色だった……。

「愚か者めが……」

 ルクシオンの零した苦い呟きを聞く者は誰もいない。
 勝者のいない虚しい戦いが終わった……。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~

浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。 本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。 ※2024.8.5 番外編を2話追加しました!

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

婚約破棄寸前だった令嬢が殺されかけて眠り姫となり意識を取り戻したら世界が変わっていた話

ひよこ麺
恋愛
シルビア・ベアトリス侯爵令嬢は何もかも完璧なご令嬢だった。婚約者であるリベリオンとの関係を除いては。 リベリオンは公爵家の嫡男で完璧だけれどとても冷たい人だった。それでも彼の幼馴染みで病弱な男爵令嬢のリリアにはとても優しくしていた。 婚約者のシルビアには笑顔ひとつ向けてくれないのに。 どんなに尽くしても努力しても完璧な立ち振る舞いをしても振り返らないリベリオンに疲れてしまったシルビア。その日も舞踏会でエスコートだけしてリリアと居なくなってしまったリベリオンを見ているのが悲しくなりテラスでひとり夜風に当たっていたところ、いきなり何者かに後ろから押されて転落してしまう。 死は免れたが、テラスから転落した際に頭を強く打ったシルビアはそのまま意識を失い、昏睡状態となってしまう。それから3年の月日が流れ、目覚めたシルビアを取り巻く世界は変っていて…… ※正常な人があまりいない話です。

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

悪妻と噂の彼女は、前世を思い出したら吹っ切れた

下菊みこと
恋愛
自分のために生きると決めたら早かった。 小説家になろう様でも投稿しています。

断罪現場に遭遇したので悪役令嬢を擁護してみました

ララ
恋愛
3話完結です。 大好きなゲーム世界のモブですらない人に転生した主人公。 それでも直接この目でゲームの世界を見たくてゲームの舞台に留学する。 そこで見たのはまさにゲームの世界。 主人公も攻略対象も悪役令嬢も揃っている。 そしてゲームは終盤へ。 最後のイベントといえば断罪。 悪役令嬢が断罪されてハッピーエンド。 でもおかしいじゃない? このゲームは悪役令嬢が大したこともしていないのに断罪されてしまう。 ゲームとしてなら多少無理のある設定でも楽しめたけど現実でもこうなるとねぇ。 納得いかない。 それなら私が悪役令嬢を擁護してもいいかしら?

「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」

まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。 目が覚めたら、婚約破棄されていた。 理由は「地味で面白みがない」から。 泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。 最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。 でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。 厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。 そして就任スピーチで宣言した。 「500人全員の名前を、覚えます」 冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。 悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。 元婚約者は——後悔し始めていた。 婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。 なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

処理中です...