【完結】(自称)モブ令嬢は見た

黒幸

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2 蛇に睨まれた蛙

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「ここでは少々、まずいお話になりますの。よろしくて?」
「え、ええ。よしなに?」

 「面白い子」とウィステリア嬢が呟いたように聞こえたけれど、恐らくは気のせい。
 きっと空耳。
 そうに違いない。
 私は何も聞いてない。
 あーあー聞こえない。

 だからといって、あからさまに反感を買うような態度を取れば、どうなるのか。
 人は言う。
 
『ウィステリアに逆らって、太陽の下を歩けると思うな』

 でも、この言葉が本当なのかは怪しい。
 私には分かる。
 分かってしまうのだ。
 サマンサ・ウィステリアという人は決して、そのような気質の人間ではないと……。

 結局、彼女に先導される形であれよあれよと拉致されるが如く、連行された。
 連行先がどこかと言えば、これまた恐ろしい。
 かのウィステリア公爵家本邸なのだから。

 気が付いたら、公爵家のリムジンに同乗していて。
 気が付いたら、彼女の部屋に案内されていて。

 何を言っているのか、分からないだろう。
 私にもよく分からない。

「シテーフィールド嬢。いいえ。エスメラルダさん。あなた……」

 普段、見たことのない豪華な調度品の数々に緊張して、用意されたお茶やお茶請けなんて、当然喉を通らない。
 おまけに迫力のある強い目力で見つめられたら、それこそ心臓が止まる。
 迫力がありすぎなのだから……。

「真実を見る目をお持ちでしょう? あなたが天帝(プロビデンス)のお力を持っていることはとうに分かってましてよ」
「ど、どうしてそれを!?」

 ウィステリア嬢は「まぁ、そのようなことを仰るの?」とでも言いたげな顔だ。
 あれは確信を持った人の表情で間違いない。
 どこでミスをしたのか、私のバカ!
 いや、でも……。
 そんなミスするようなへまはしていないはずなのにおかしい。

「先程、あなたはこう呟いたでしょう? もしかして、人狼? まさか、そんな! と……」
「え? ええ? めっちゃ小声で呟いたんですけど!?」
「あらあら。それは御愁傷様と言うべきかしら? 私、とても耳がよろしくてよ」
「あー。そういうことでし……ございましたか」

 人ではない生き物が闊歩していても何ら、おかしくないこの世。
 不可思議な力を持った人間が、自分だけではないと気付くのが遅かった。
 そう後悔すべきなのだろうか。

 どちらにしても言えることは一つ。
 どうやら逃げ場がないということだ。
 それだけは分かる。
 確実に分かる。
 蛇に睨まれた蛙の気持ちがよく分かる。
 指一本すら動かせる気がしない。
 
「そう緊張なさらないで? 何も貴女を取って食おうとしているのではなくってよ」

 優雅に微笑んでいるように見えるけど、ウィステリア嬢の目は決して笑ってない。
 あれは真贋を見極めようとする捕食者の目だ。
 私の平凡な学園生活は終わった。
 漠然とただ、そう思った。
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