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終幕
31 ヒロイン症候群は不治の病?
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「……という訳でね。困っているんだ。とてもね」
私とハリーは既に行きつけの店になりつつある大手チェーンのカフェでとある高貴な方から、相談されていた。
いや、相談ではないと思う。
これは単に愚痴を聞かされているだけだ。
「しかし、殿下。その方は以前の調査でも不自然なことがなかったのです」
「元々、不愉快極まりない行動とる素養あったんじゃねえの?」
こら、ハリー! と怒る訳にもいかない。
そんなことをしたら、目立ってしまう。
目立つと元も子もない。
サマンサ様から、事の仔細を聞いているとはいえ、ハリーのぞんざいな口調に内心、ハラハラする。
相談主は誰あろう第二王子シルヴェスター殿下であり、サマンサ様からもどうにかするようにとのお達しがあった。
正直なところ、お断りしたい案件だ。
しかし、サマンサ様は無言の威圧をかけてきた。
是非もない。
やるしかないということ。
ハリーも乗り気でないから、態度に出ているのだ。
相手が王子殿下にも関わらず!
「彼女がああなったのは多少、俺のせいってところもあってね」
「さようでございますか」
学園では言葉遣いも丁寧で人当たりのいい殿下が、本当はハリーのような物言いの方だったと誰が思うだろう。
私だって、最初は信じられなかった。
サマンサ様が仰るにはうまく猫を被っているだけであれが本性だそうけど。
確かに格式張っているよりは気安い感じがするけれど、どうにも慣れない。
殿下の仰る彼女――ヒラリー・ゲッテンズはゲッテンズ男爵家の令嬢でユリシーズ殿下の取り巻きの一人だった。
ただし、目で見ても不審な点がなかったのは事実でお咎めなしと放置されていた。
相変わらず、ヒロインを気取るかのような振る舞いが多く、クラスでも浮いた存在になっているらしい。
時折、このカフェでも見かけたがいつからか、姿を見なくなった。
ハリーが軽く聞き込みをしたところ、騒ぎすぎで出禁になったのだという。
優秀だった成績は見る影もなく、言動はさらに酷くなっているらしい……。
「では殿下がゲッテンズ嬢をけしかけ……いえ、差し向けたということですか?」
「まあ。そう言われるとそんなところかな」
ハンチング帽に薄い黄色レンズのサングラスとかなり怪しい変装をしている殿下だけど、それでもイケメンオーラは消えていない。
おまけに目の力を持つ人だから、周囲がちやほやするのも仕方ないと思う。
でも、さすがに酷いとしか言いようがない。
王太子レースに勝利する手駒として、何の罪もなければ、関係のない女の子を人身御供にしたようなものだ。
もっとも殿下にも言い分があった。
ゲッテンズ嬢に軽い働きかけを行っただけに過ぎず、それ以降の歯止めの利かない行動は想定外だと言うのだ。
切っ掛けとなった人が言うにはあまりに無責任だと思う。
ただ、殿下も反省はしている。
ゲッテンズ嬢の言動は度を超えていて、このまま放置すれば、危険と判断された。
「彼女は何を思ったのか、俺に愛されていて、王妃になると言いふらしているんでね。これはさすがに……おっと、そろそろ危ないようだ。頼んだよ、君達」
それだけ言うと殿下は信じられないくらい、軽い身のこなしでカフェを出て行った。
あまりの早業にハリーと顔を見合わせ、溜息を吐く。
ようやく面倒事が終わったと思ったら、またこれか……。
ふとカフェの窓に身をやると殿下が電光石火の逃げを見せた理由が分かった。
窓にべったりと顔を寄せ、中を凝視していた人物がいる。
ゲッテンズ嬢、その人だった。
確かに常軌を逸している。
仮にも貴族の令嬢がすることではない。
田舎育ちの私ですら、あのような振る舞いはしないのに……。
「また、大変なことになりそうね」
「まっ、いいんじゃねえ? お前と一緒なら、面白いしな」
「お、お前?」
「メリーさんの方が良かったか?」
「メリーさん、言うなー」
ハリーにからかわれて、目を離した隙にゲッテンズ嬢の姿は消えていた……。
私とハリーは既に行きつけの店になりつつある大手チェーンのカフェでとある高貴な方から、相談されていた。
いや、相談ではないと思う。
これは単に愚痴を聞かされているだけだ。
「しかし、殿下。その方は以前の調査でも不自然なことがなかったのです」
「元々、不愉快極まりない行動とる素養あったんじゃねえの?」
こら、ハリー! と怒る訳にもいかない。
そんなことをしたら、目立ってしまう。
目立つと元も子もない。
サマンサ様から、事の仔細を聞いているとはいえ、ハリーのぞんざいな口調に内心、ハラハラする。
相談主は誰あろう第二王子シルヴェスター殿下であり、サマンサ様からもどうにかするようにとのお達しがあった。
正直なところ、お断りしたい案件だ。
しかし、サマンサ様は無言の威圧をかけてきた。
是非もない。
やるしかないということ。
ハリーも乗り気でないから、態度に出ているのだ。
相手が王子殿下にも関わらず!
「彼女がああなったのは多少、俺のせいってところもあってね」
「さようでございますか」
学園では言葉遣いも丁寧で人当たりのいい殿下が、本当はハリーのような物言いの方だったと誰が思うだろう。
私だって、最初は信じられなかった。
サマンサ様が仰るにはうまく猫を被っているだけであれが本性だそうけど。
確かに格式張っているよりは気安い感じがするけれど、どうにも慣れない。
殿下の仰る彼女――ヒラリー・ゲッテンズはゲッテンズ男爵家の令嬢でユリシーズ殿下の取り巻きの一人だった。
ただし、目で見ても不審な点がなかったのは事実でお咎めなしと放置されていた。
相変わらず、ヒロインを気取るかのような振る舞いが多く、クラスでも浮いた存在になっているらしい。
時折、このカフェでも見かけたがいつからか、姿を見なくなった。
ハリーが軽く聞き込みをしたところ、騒ぎすぎで出禁になったのだという。
優秀だった成績は見る影もなく、言動はさらに酷くなっているらしい……。
「では殿下がゲッテンズ嬢をけしかけ……いえ、差し向けたということですか?」
「まあ。そう言われるとそんなところかな」
ハンチング帽に薄い黄色レンズのサングラスとかなり怪しい変装をしている殿下だけど、それでもイケメンオーラは消えていない。
おまけに目の力を持つ人だから、周囲がちやほやするのも仕方ないと思う。
でも、さすがに酷いとしか言いようがない。
王太子レースに勝利する手駒として、何の罪もなければ、関係のない女の子を人身御供にしたようなものだ。
もっとも殿下にも言い分があった。
ゲッテンズ嬢に軽い働きかけを行っただけに過ぎず、それ以降の歯止めの利かない行動は想定外だと言うのだ。
切っ掛けとなった人が言うにはあまりに無責任だと思う。
ただ、殿下も反省はしている。
ゲッテンズ嬢の言動は度を超えていて、このまま放置すれば、危険と判断された。
「彼女は何を思ったのか、俺に愛されていて、王妃になると言いふらしているんでね。これはさすがに……おっと、そろそろ危ないようだ。頼んだよ、君達」
それだけ言うと殿下は信じられないくらい、軽い身のこなしでカフェを出て行った。
あまりの早業にハリーと顔を見合わせ、溜息を吐く。
ようやく面倒事が終わったと思ったら、またこれか……。
ふとカフェの窓に身をやると殿下が電光石火の逃げを見せた理由が分かった。
窓にべったりと顔を寄せ、中を凝視していた人物がいる。
ゲッテンズ嬢、その人だった。
確かに常軌を逸している。
仮にも貴族の令嬢がすることではない。
田舎育ちの私ですら、あのような振る舞いはしないのに……。
「また、大変なことになりそうね」
「まっ、いいんじゃねえ? お前と一緒なら、面白いしな」
「お、お前?」
「メリーさんの方が良かったか?」
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