【完結】(自称)モブ令嬢は見た

黒幸

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終幕

36 懸念

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 意外なことにあれから、何も起きなかった。
 ゲッテンズ嬢の調子は相変わらずどころか、ますます酷くなっていたので殿下は日々、お疲れの様子ではあったけど。
 それでも時が経つのは早いもので卒業の時を迎えた。
 何事もなく、卒業式が終わったのは奇跡と言うべきなのか。
 それとも嵐の前の静けさなのか。

 私はどちらかと言えば、後者の予感がしてならない。
 嫌な予感をぼんやりではなく、はっきりと感じていた。
 そう考えたのは私だけではなかったようだ。

「対策は立てておくべきだろうね」
「そうね。必ず、何かを仕掛けてくるはずなのよ」

 殿下の発案でサマンサ様の主宰する対策会議が開かれたのも当然のことだった。
 卒業の一ヶ月前ほどから、ゲッテンズ嬢の言動はさらに酷くなっている。
 彼女の中では婚約破棄が行われ、自分が王太子妃になるのが既定事項らしい。
 何、怖い。
 思い込み?
 彼女の目は既に常軌を逸していて、クラスでも完全に浮いた存在になっていたようだけど、もはや浮いた存在どころでは済まず、危険人物になっている。
 しかし、これといって、物的な被害を出していないので学園としても手が出せないままだった。

「しかし、婚約破棄とは一体、何だろうね?」
「さあ? どうもあの子の中で私とあなたが婚約しているらしいわ」
「なんだい、それ? 頭がおめでたいのかな」
「おめでたいだけなら、いいのよ。被害は出ないから」
「婚約破棄とその他の懸念事項に関して、調査致しました」

 ここでようやく、私の出番になる。
 ハリーと頑張って、巷で話題になっていることを調べ尽くしたのだ。
 そして、ゲッテンズ嬢が一種の精神的な病に陥った可能性が高いという結論に行き着いた。
 ヒロイン症候群とでも言うべき病だった。
 誰からも愛されるヒロインが不遇にもめげず自身を貫き、ついには王子に見初められて、ハッピーエンドになるというロマンス物語がある。
 そのヒロインと自分を同一視して、現実と虚構の垣根がなくなり、精神に異常を来した挙句、問題行動に走るのが通称・ヒロイン症候群だ。
 これまでのゲッテンズ嬢の言動には婚約破棄や悪役令嬢といった特殊な単語が出ていた。
 どれもヒロイン症候群に罹患した者が、よく発する言葉だということが分かった。

「なるほどね。頭が痛くなってくるね」
「頭が痛いだけで済むのなら、いいのよ? パーティーまでもう時間がないわ。当日の警備員の増員とゲッテンズ邸の監視を強めること。これくらいかしらね」
「俺とメリーもいる……ますから、不測の事態には対処できると思うぜ……ます」

 ハリーの言葉遣いはますます自由になっている気がする。
 もしかしたら、私と一緒にいるせいで言葉が乱れている?
 彼と一緒だとつい気が緩んで、言葉遣いが田舎にいた時に戻ってしまうのだ。
 その悪影響だとしたら、私にも責任があるような……。

 パーティーの時はそれらしい言葉遣いに気を付けなくては!
 そう。
 卒業式は無事に終わった。
 でも、卒業式の一週間後、卒業する生徒会役員主導による謝恩会が開かれるのだ。
 これは通例で行われているのに加え、今期の卒業生には殿下とサマンサ様という超VIPがいる。
 開催しないという選択肢はない。
 そして、ゲッテンズ嬢が何かを狙っているとすれば、このパーティーこそ最後のチャンスに違いないのだ。
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