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4 呪い
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「アシュヴァ。このままではモロク様に合わせる顔がないモー」
「ゴウ。全く、その通りだヒヒーン」
「やるしかないモー」
「そうヒヒーン」
まさにズタボロ。
ボロ雑巾と見紛うばかりの酷い有様となり、悲壮な決意を胸に秘めるはモロクに仕える眷属神の二柱だった。
牛頭と呼ばれる牛に似た頭部を有する屈強な肉体の戦士ゴウと馬頭と呼ばれる馬に似た頭部を有する細身の戦士アシュヴァ。
この二柱はモロク神に仕える立場である。
立場上はミトラスに仕える脇侍のカウテース、カウトパテースとあまり変わらない。
ただ、彼らのモロクに対する忠誠心の高さが畏敬を超えた異常なものであり、勘違いしているのが大きな誤りを起こした。
ミトラスとモロクは対立する神性ではない。
それを曲解したゴウとアシュヴァは暴走した。
ミトラスが寵愛する聖女を拉致し、彼女を囮にすることでまんまとミトラスを誘い出したのである。
ここまではゴウとアシュヴァの思惑通りに話が進んだ。
「お主達程度でワシに敵うはずがあるまい? それが分からぬほど、愚かではなかろう? ん? 疾くモロクのところに帰るがよかろう」
ぱきぱきと指の骨を鳴らし、小首を傾げるピンク髪の美女――ミトラスはともすれば、見た人が悪役と勘違いしかねない状況にあった。
縄でぐるぐる巻きにされ、猿ぐつわを噛まされたミラが転がっている。
その前にはボロ雑巾のゴウとアシュヴァ。
嗜虐的な表情を浮かべ、じりじりと近寄るミトラスは襲われた被害者にはとても思えない。
後ろに控えるカウテースとカウトパテースもエキサイトした主を止めるに止められず、困惑している状況である。
「我らでは貴様に勝てぬことなど、端から承知だモー」
「我らはこの命をもって、貴様に一矢報いるヒヒーン」
そう言うとゴウとアシュヴァは手にしていた鋭利な得物を互いの腹へと突き刺した。
ミトラス相手には文字通り歯が立たなかった得物だが、厚い金属板ですら切断する鋭い刃物である。
「ぐふっ」と断末魔の叫びをあげ、覚悟の自決を遂げた二柱の小神だったがその顔に浮かぶのは苦悶ではない。
どこか満足したような不思議と穏やかな表情である。
「お主ら、何を!?」
「ミト様! 危ない」
それもそのはず。
ゴウとアシュヴァは己の命を代償に大いなる呪いをかけようとしたからだ。
命の灯を失った二柱から、思わず見入るほどに美しい虹色の光球が生み出された。
それは徐々に大きくなっていくとミトラスを狙った。
咄嗟のことに動いたのは意外なことにミトラスではない。
カウテースとカウトパテースだった。
ミトラスを庇うようにその前に立ちはだかったのだ。
「ぷっ。くひひひひひひ」
お腹を抱え、笑い転げているのは桃色の髪の少女だ。
纏う装束が身の丈に合わないのか、裾が地面を引き摺りそうになっており、袖から手が出てすらいなかった。
あまりにもだぶだぶしているので今にも動くだけで脱げそうだった。
「ミト様。笑っている場合ではございません」
カウテースの声が窘めるように聞こえてくるがその姿はない。
代わりにそこにいたのはどう見ても案山子である。
カウテースの声で喋る案山子だ。
その体は藁でできている。
人の形を模しているだけあって、辛うじて二足歩行の人の要素は持っているものの腕は固定されたように肩の高さから動かない。
足も歩くことができるのかが怪しいくらいに出来が悪かった。
その隣でふんふんと抗議しているのか、同意しているのか、分からない不思議な生物がいる。
見た目は多肉植物そのものだった。
円筒形の頭と一体化した胴体から、同様の円筒形の手足が伸びている。
全てから釘もかくやと思える鋭い棘が生えていた。
「さながら、お主は案山子……スケアクロウではないか。よいぞよいぞ。スケアクロウ……スケさんではないか。ぷっ」
「笑い事ではございませんぞ」
「これが笑わずにいられるかって。ワシがワシではないのだぞ? これではボクではないか、ボク。ボクも悪くないのう」
「そういう問題ですか」
「カウトパテースはあれか。カクタスだから、カクさんだぞ。くっひひひひ」
「ワシは小さくなっても可愛いからのう」と自画自賛するのはやや小さくなったミトラスである。
ゴウとアシュヴァの命を懸けた呪術が効力を発揮した。
それは神の力を封印するものだ。
しかし、不完全だったのだろう。
完全に封印するには至らず、中途半端に力を奪ったに過ぎない。
その結果、完全無欠の美女だったミトラスは色々と足りなくなったロリ娘になったのだ。
これには咄嗟に庇ったカウテースとカウトパテースの功績が大きい。
その為、二柱の脇侍も呪いで妙な姿になった。
インテリイケメンは憐れなことに何とも醜くも悍ましい殺人案山子の如き、姿に変じた。
マッチョイケメンは歩けるサボテンのお化けになったが相変わらず、言葉を発しないので何を考えているのか分からない……。
「そして、ボクはミト。ミト・ザ・ローコーとでも名乗ろうか」
「ローコーではなく、ローリーでは?」
「やだやだ。ローコーがいいー。ボクも頭が高いをやりたーい」
「それはカウトパテースの仕事では!?」
結構、悲惨な状況に陥っているはずなのに全く、それを感じさせないミトラス一行だった。
「ゴウ。全く、その通りだヒヒーン」
「やるしかないモー」
「そうヒヒーン」
まさにズタボロ。
ボロ雑巾と見紛うばかりの酷い有様となり、悲壮な決意を胸に秘めるはモロクに仕える眷属神の二柱だった。
牛頭と呼ばれる牛に似た頭部を有する屈強な肉体の戦士ゴウと馬頭と呼ばれる馬に似た頭部を有する細身の戦士アシュヴァ。
この二柱はモロク神に仕える立場である。
立場上はミトラスに仕える脇侍のカウテース、カウトパテースとあまり変わらない。
ただ、彼らのモロクに対する忠誠心の高さが畏敬を超えた異常なものであり、勘違いしているのが大きな誤りを起こした。
ミトラスとモロクは対立する神性ではない。
それを曲解したゴウとアシュヴァは暴走した。
ミトラスが寵愛する聖女を拉致し、彼女を囮にすることでまんまとミトラスを誘い出したのである。
ここまではゴウとアシュヴァの思惑通りに話が進んだ。
「お主達程度でワシに敵うはずがあるまい? それが分からぬほど、愚かではなかろう? ん? 疾くモロクのところに帰るがよかろう」
ぱきぱきと指の骨を鳴らし、小首を傾げるピンク髪の美女――ミトラスはともすれば、見た人が悪役と勘違いしかねない状況にあった。
縄でぐるぐる巻きにされ、猿ぐつわを噛まされたミラが転がっている。
その前にはボロ雑巾のゴウとアシュヴァ。
嗜虐的な表情を浮かべ、じりじりと近寄るミトラスは襲われた被害者にはとても思えない。
後ろに控えるカウテースとカウトパテースもエキサイトした主を止めるに止められず、困惑している状況である。
「我らでは貴様に勝てぬことなど、端から承知だモー」
「我らはこの命をもって、貴様に一矢報いるヒヒーン」
そう言うとゴウとアシュヴァは手にしていた鋭利な得物を互いの腹へと突き刺した。
ミトラス相手には文字通り歯が立たなかった得物だが、厚い金属板ですら切断する鋭い刃物である。
「ぐふっ」と断末魔の叫びをあげ、覚悟の自決を遂げた二柱の小神だったがその顔に浮かぶのは苦悶ではない。
どこか満足したような不思議と穏やかな表情である。
「お主ら、何を!?」
「ミト様! 危ない」
それもそのはず。
ゴウとアシュヴァは己の命を代償に大いなる呪いをかけようとしたからだ。
命の灯を失った二柱から、思わず見入るほどに美しい虹色の光球が生み出された。
それは徐々に大きくなっていくとミトラスを狙った。
咄嗟のことに動いたのは意外なことにミトラスではない。
カウテースとカウトパテースだった。
ミトラスを庇うようにその前に立ちはだかったのだ。
「ぷっ。くひひひひひひ」
お腹を抱え、笑い転げているのは桃色の髪の少女だ。
纏う装束が身の丈に合わないのか、裾が地面を引き摺りそうになっており、袖から手が出てすらいなかった。
あまりにもだぶだぶしているので今にも動くだけで脱げそうだった。
「ミト様。笑っている場合ではございません」
カウテースの声が窘めるように聞こえてくるがその姿はない。
代わりにそこにいたのはどう見ても案山子である。
カウテースの声で喋る案山子だ。
その体は藁でできている。
人の形を模しているだけあって、辛うじて二足歩行の人の要素は持っているものの腕は固定されたように肩の高さから動かない。
足も歩くことができるのかが怪しいくらいに出来が悪かった。
その隣でふんふんと抗議しているのか、同意しているのか、分からない不思議な生物がいる。
見た目は多肉植物そのものだった。
円筒形の頭と一体化した胴体から、同様の円筒形の手足が伸びている。
全てから釘もかくやと思える鋭い棘が生えていた。
「さながら、お主は案山子……スケアクロウではないか。よいぞよいぞ。スケアクロウ……スケさんではないか。ぷっ」
「笑い事ではございませんぞ」
「これが笑わずにいられるかって。ワシがワシではないのだぞ? これではボクではないか、ボク。ボクも悪くないのう」
「そういう問題ですか」
「カウトパテースはあれか。カクタスだから、カクさんだぞ。くっひひひひ」
「ワシは小さくなっても可愛いからのう」と自画自賛するのはやや小さくなったミトラスである。
ゴウとアシュヴァの命を懸けた呪術が効力を発揮した。
それは神の力を封印するものだ。
しかし、不完全だったのだろう。
完全に封印するには至らず、中途半端に力を奪ったに過ぎない。
その結果、完全無欠の美女だったミトラスは色々と足りなくなったロリ娘になったのだ。
これには咄嗟に庇ったカウテースとカウトパテースの功績が大きい。
その為、二柱の脇侍も呪いで妙な姿になった。
インテリイケメンは憐れなことに何とも醜くも悍ましい殺人案山子の如き、姿に変じた。
マッチョイケメンは歩けるサボテンのお化けになったが相変わらず、言葉を発しないので何を考えているのか分からない……。
「そして、ボクはミト。ミト・ザ・ローコーとでも名乗ろうか」
「ローコーではなく、ローリーでは?」
「やだやだ。ローコーがいいー。ボクも頭が高いをやりたーい」
「それはカウトパテースの仕事では!?」
結構、悲惨な状況に陥っているはずなのに全く、それを感じさせないミトラス一行だった。
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