ルーシーの平凡なれど幸福な日常

くろいゆき

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ルーシーとアメリーナ3

 アメリーナは不思議で仕方ない。
 しかし、それを上回る好奇心が鎌首をもたげる。
 目の前で小動物のように食べ物を咀嚼する生き物――ルーシーを注意深く観察した。

 全く萎縮した様子は見られない。
 椅子にちょこんと座り、手製のケーキを何の疑いもなく頬張る姿は純真な子供そのものだった。

(しかし、解せない)

 アメリーナは決して人が嫌いなわけではない。
 子供が嫌いなわけでもない。
 なぜか子供に怖がられるだけなのだ。
 子供だけではなく大人にも怖がられている自覚がアメリーナにはあった。

 誤解による思い違いだった。
 アメリーナは周囲の者に怖がられていると感じていたが実際は違う。
 彼女の浮世離れした美しさに気後れしていただけに過ぎないのだ。
 しかし、アメリーナはそのことに全く気付いていない。
 怖がられていると思い込み、ますます自分の殻に閉じこもった。
 その結果が魔女というあだ名だった。

「アメリーナさん」
「何かしら?」

 ところがルーシーは怖がりもしなければ、萎縮することもない。
 きらきらと目を輝かせながら、ルーシーは一人で喋る。
 取り留めもない話ばかりだったがアメリーナにはおやと不思議に思うことがあった。

 ルーシーはどう考えても人ではない生き物と意思を疎通させているとしか思えない話をしている。
 しかし、ルーシーのあまりの勢いにアメリーナは一言も発せないままだった。
 ルーシーのお喋り劇場はそのまま永遠に続くかと思われたが、唐突に終わりを告げる。
 ルーシーは急にアメリーナの顔をじっと見ると真剣な眼差しに落ち着いた口調で改まって呼びかけた。

「なんで髪をまとめてるんですか? アメリーナさんはとってもキラキラしていて、きれいなのに」
「は?」

 何事かと思うとともにこの子はこんな表情もできるのかと感心したアメリーナだったが、ルーシーから出た思いがけない言葉に思わず口をあんぐり開けた。
 淑女としての教育を受け大人の女性として自覚のあるアメリーナとは思えない失態だった。

(きれいなんてケイシーにも言われたことないのに!)

 思わず叫びたくなる欲求を抑え、アメリーナは心の中で叫んだ。
 少女時代からアメリーナは髪を大切にしている。
 欠かさず手入れをした銀糸のような髪は腰に届くほど長い。
 少女時代はアメリーナもがあった。
 お気に入りのサテン生地をリボン代わりに髪留めとして使い、ポニーテールにしていたのだ。
 見せたい相手がいたというのが大きい。
 その相手と喧嘩別れして以来、アメリーナはすっかり無頓着になり意固地になった。
 以来、前髪をきっちりと上げ無造作にまとめたひっつめ髪がアメリーナのトレードマークとなった。

「ブリスは髪をアレンジするのが上手なんですよ。アメリーナさんはきれいなんだから、どんなヘアスタイルでも似合いそうですね」
「き、きれいですって!?」

 アメリーナは何の邪気もなくくすぐったくなるようなお世辞を言うルーシーに思わず声が上ずってしまう。

(この子、またきれいと言ったわ!?)

 彼女の心の中は表面上冷静を装っていることが信じられないほどに混乱していた。

「実際にやった方がいいと思います。そうだ。今すぐにやりましょう」
「え?」

 ルーシーは急に立ち上がるとアメリーナの手を取り、さあ早くと促した。
 ルーシーの瞳は透き通った紫水晶のような色合いを湛えていた。
 奇しくもその色はアメリーナとよく似ている。

(この子はもしかしたら私と同じ……)

 ある一つの可能性が頭を過り、答えを導き出そうとしたアメリーナだったがもう少しのところで阻止された。
 思った以上に力強いルーシーに引っ張られ、予定にない外出をする羽目になったからだった。
 止めようとしてアメリーナは諦めた。
 紫水晶の中で燃え上がる炎の幻影を垣間見たからだ。
 こうなった以上、止まらないとアメリーナは知っている。
 それが古から連綿と連なる血の成せる業だということを……。
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