【完結】ラグナロクなんて、面倒なので勝手にやってくださいまし~ヘルちゃんの時にアンニュイなスローライフ~

黒幸

文字の大きさ
21 / 58
第2章 幼女リリス

第12話 ヘルちゃんとおじいちゃん

しおりを挟む
 ヘムヘム――ヘイムダルと一面に広がる惨状にただ呆れるだけですわ。
 人とは何と愚かな生き物なのか、と……。

「酷くなる一方だな」
「そうでしゅわね」

 ニブルヘイムへと送られてくる罪を犯したとされる者の数が増えてますの。
 おまけにその状態は悪化してますわね。

 アグネス達が送られてきたのが始まり。
 あれ以来、罪を犯したとされる人間や神が送られて来たり、自らの意思で渡ってきて、ニブルヘイムの死者は増える一方ですわ。
 それでも最初の頃はまだ、生命の火が残っている者でしてよ。
 だからこそ、彼らは死者の国で第二の生を謳歌してるんですもの。

 今はどうですの?
 生命の火がとうに消え失せた屍が延々と並んでましてよ。

「どうして、こんなことになったんでしゅの?」
「大方、戦だろうさ。ああ。お前さんは知らなかったか」

 アグネス達がいたゲメトー王国が既に滅んだことは人伝ひとづてに聞いてましてよ。
 利権が絡み、大きな争いが起きたことも知ってますわ。
 彼女らが追放されたのは逆に僥倖でしたわね。
 もしも、あのまま国に残っていれば、巻き込まれて、命を失っていたのではないかしら?
 その後、ゲメトーを中心に広がった小さな火の粉が大火になって、さらなる大きな戦禍になったということですのね。

「こりゃ、俺の単なる邪推ってヤツさ。だから、聞き流してくれてかまわねえさ」
「なんでしゅの?」
「ロキの仕業だな。あいつの特技は変化と暗躍だ。例の悪女ってのもそういうことだろうさ」
「なりゅほど……」

 アグネスを悪役令嬢と貶めた真に悪女と言うべきヒラリー・ド・インデス。
 彼女のその後が杳として知れない訳ですわ。
 正体がロキその人であれば、何もおかしなことはないですもの。
 まさか、戦を起こすことが目的だったとは……。

 いずれ起こるという神々の運命ラグナロクで自分に有利に働くように動いたのかしら?
 そうはさせませんわ。
 わたしとお兄様フェンリルがあなたの思う通りに動くと思ってますの?



「……という訳なんでしゅわ」
「ふむ。全く、分からないのである。わははー」

 お兄様イザークの頭は飾りなんですの。
 これでは古代に生息した恐ろしい狼ダイアウルフの方がまだ、聞き分けがいいですし、物覚えがいいのではなくて!
 無意識のうちに尻尾が地面を激しく叩きつけてますけど、これはお兄様イェレミアスの仕業かしら?

「おにいちゃまはそのしゅがたしてるかりゃ、頭がポンコツではございましぇんの?」
「違うのである。吾輩は狼の姿でなくても同じである。吾輩は最高なのである。あおーん」

 そう言うとフェンリルの姿で天に向けて、咆哮するものですから、空気がビリビリと震えてますわ。
 この前、わたしが少々、破壊した森ですけど、少しくらいは戻りつつあったところにこれですから……また荒れてしまったかしら?

「分かっているのである。心配無用なのである。吾輩に任せておくのである!」
「本当にわかってりゅのかしらぁ?」

 フェンリルの姿のまま、木々を薙ぎ倒しながら、さらに森の奥へと入っていくお兄様を見送って、不安しかありませんわ!
 もしも、本当に神々の運命ラグナロクとやらが起こるのであれば、先陣を切って出てくるのは恐らく、お祖父様オーディンですわ。
 戦は魔槍で始まる
 そうなるとお兄様に暴走されて、全ての計画が台無しになってしまいますわ。

 立ち尽くしていたわたしは隣に不意に気配を感じましたの。
 このような芸当が出来る方は限られてますわね。
 それにこの気配は懐かしくも感じるものですわ。

「苦労しておるようだな。うまく、いきそうかね?」

 全身を闇夜を思わせる漆黒尽くめの装束でこの懐かしい声は間違いありません。
 お祖父様ですわ。

「おにいちゃまがあたちの手に負えましぇんでしゅわ」
「そうか、そうか」

 温かく、大きな手がわたしの頭を静かに撫でてくれましたの。
 お祖母様やお母様に盛大に褒められることはあっても頭を撫でられたことはないですわ。
 何だか、心が落ち着いてきますの。
 なぜかしら?
 不思議……。

「あやつはあのままでいいんじゃ。あのままでな」

 僅かに見えたお祖父様の隻眼に浮かぶのは後悔?
 それとも羨望?

 未来を視ているお祖父様の考えはわたしに想像出来ないものなのでしょう。
 それでもはっきりと分かることはたったの一つ。
 神々の運命ラグナロクを起こしてはならない。
 この一点ですわ!
しおりを挟む
感想 36

あなたにおすすめの小説

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

悪役令嬢は廃墟農園で異世界婚活中!~離婚したら最強農業スキルで貴族たちが求婚してきますが、元夫が邪魔で困ってます~

黒崎隼人
ファンタジー
「君との婚約を破棄し、離婚を宣言する!」 皇太子である夫から突きつけられた突然の別れ。 悪役令嬢の濡れ衣を着せられ追放された先は、誰も寄りつかない最果ての荒れ地だった。 ――最高の農業パラダイスじゃない! 前世の知識を活かし、リネットの農業革命が今、始まる! 美味しい作物で村を潤し、国を救い、気づけば各国の貴族から求婚の嵐!? なのに、なぜか私を捨てたはずの元夫が、いつも邪魔ばかりしてくるんですけど! 「離婚から始まる、最高に輝く人生!」 農業スキル全開で国を救い、不器用な元夫を振り回す、痛快!逆転ラブコメディ!

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

敗戦国の元王子へ 〜私を追放したせいで貴国は我が帝国に負けました。私はもう「敵国の皇后」ですので、頭が高いのではないでしょうか?〜

六角
恋愛
「可愛げがないから婚約破棄だ」 王国の公爵令嬢コーデリアは、その有能さゆえに「鉄の女」と疎まれ、無邪気な聖女を選んだ王太子によって国外追放された。 極寒の国境で凍える彼女を拾ったのは、敵対する帝国の「氷の皇帝」ジークハルト。 「私が求めていたのは、その頭脳だ」 皇帝は彼女の才能を高く評価し、なんと皇后として迎え入れた! コーデリアは得意の「物流管理」と「実務能力」で帝国を黄金時代へと導き、氷の皇帝から極上の溺愛を受けることに。 一方、彼女を失った王国はインフラが崩壊し、経済が破綻。焦った元婚約者は戦争を仕掛けてくるが、コーデリアの完璧な策の前に為す術なく敗北する。 和平交渉の席、泥まみれで土下座する元王子に対し、美しき皇后は冷ややかに言い放つ。 「頭が高いのではないでしょうか? 私はもう、貴国を支配する帝国の皇后ですので」 これは、捨てられた有能令嬢が、最強のパートナーと共に元祖国を「実務」で叩き潰し、世界一幸せになるまでの爽快な大逆転劇。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

処理中です...