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第3章 茨の姫君

第25話 盛大な勘違い

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 レオの反応が鈍感を通り越していて、少々、頭に来ましたけど……。
 薄着のせいかしら?
 頭どころか、身体まで冷えてきて、冷静になってきましたの。
 よ~く考えたら、わたしの方が悪いのではなくて?
 レオが育った環境――『名も無き島』という絶海の孤島――を考えたら、彼は魔物以外の人を目にしたことがなかったのではないかしら。

 わたしはもう大人ですから、お子様なレオに腹を立てるなんて、いけないですわね。
 だって、大人なんですもの。
 大人の余裕をもって、お姉さんらしいところを見せないといけませんわ!

 でも、「ちょっと。待ってよ、リーナ」と言うレオの声に悲壮感が籠っている気がして、やや焦って、振り向いてしまいましたの。
 彼と視線が交差するとちょっと気恥ずかしくて、顔の温度が確実に上がっていると思いますの。

 んんん?
 レオの視線は微妙に下の方に向けられているような……。
 このローブは裾丈が短いから、見えそうで見えないのが効果的でしたかしら?
 それは動いていない状態でのことであって、動いたらどうなりますの!?
 もしかして、見えていたのではありません?

「どうしたの、リーナ?」
「な、な、なんでもないわぁぁ」

 焦りがもろに出てしまい、語尾が怪しくなったのでレオが怪訝な顔をしていますわ。
 どうして、薦められるままにこんな危ない服を着ちゃったのかしら……。



 そこからは何となく、無言のまま、二人ともただ足を運ぶだけ。
 重苦しい雰囲気という訳ではなく、何と言葉を紡げばいいのかが分かりませんの。
 レオもそんなわたしの気配を察しているのか、言いたそうにしながらも敢えて、口にしないようですわ。
 それでもしっかりと手だけは繋いでますわ!

 手を繋いでいると何だか、心まで繋がったみたいで安心なんですもの。
 はたから見たら、仲の良い姉弟が手を繋いでいるだけとしか、思われないのかしら?

「あのさ。リーナ」
「何? どうしましたの?」

 その状況に焦れたのか、レオの方がおずおずと言いにくそうに言葉を紡ぎ始めましたの。
 奥歯に物が挟まっているような言い方はレオらしくない気がしますわ。

「触ってもいいかな? すごく気になるんだ」
「んんん? 何の話ですの?」

 レオの言っていることが何のことなのか、全く分かりませんわ。
 触る? 何をなのかしら?

 そして、彼の視線が向かっている先はどう見てもわたしのお尻なのですけど!?

「ダ、ダメでしてよ」
「何で? 気になるんだよ」
「ダメなものはダ~メ!」
「僕のも触っていいからさ。お願いだよ。気になるんだ」
「えぇ!?」

 レオの瞳はキラキラと輝いていて、本当に純粋にただ触ってみたいだけ。
 そこに性的な要素は微塵も感じられないのですけど……。
 逆に少しくらいは考えて欲しいとも思う複雑な乙女心はショックを感じてますわ!
 だから、ダメ!

 再び、無言のまま、歩みを進めますけれど、ちゃんと言っておかないといけませんわ。

「あの……レオ。そういうのは将来を約束した人とだけしか、してはいけませんの」
「将来? 約束? お尻を触るだけだよ? 父さんはいつも、尻尾を触らせてくれたよ」

 わたしはリザードマンと同じ扱いですの!?
 二重にショックでしてよ。

「だから、あなたとお父様は家族なのでしょう? それはいいのですわ」
「うん」
「でも、わたしとあなたはまだ、家族ではないわ。分かるでしょう?」
「うん。分かるけど、何でダメなのかな?」
「それは……」
「それは?」
「そんなことをしたら、赤ちゃんが出来てしまうの!」
「そうなの!?」
「ええ。そうですわ」

 本当は手を繋いでいるのも危ないのかもしれないわ。
 まして、彼の手がわたしのお尻を触りますのよ?
 危ないですわ。
 レオと子供なんて、まだ早いですわ。

「それはまだ、早いと思いますの。まずはお付き合いをして……それでレオが大人になったら、け、け、結婚ですわね」
「結婚? 何、それ?」
「分かってなかったの?」
「うん」

 邪気の無い笑顔で元気よく返事をするレオを見ていると結婚よりもまずは先に一般常識を教えるべきですわ! と新たな決意に心が燃えるわたしなのです。

 後に手を繋いだり、お尻を触られたくらいで赤ちゃんが出来ないと知って、レオと二人で愕然とすることになるのですけど、それはまた、別の話ですわ~。
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