【完結】痛いのも殺されるのも嫌なので逃げてもよろしいでしょうか?~稀代の悪女と呼ばれた紅の薔薇は二度目の人生で華麗に返り咲く~

黒幸

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第二章 セラフィナ十四歳

第30話 悪妻、訝しむ

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 ついに婚約式の日を迎えてしまう。
 ああ、胃が痛くなりそう。

 とはいえ、実は今は真夜中である。
 日付が婚約式の日を迎えただけが正解なのだ。
 今の私はセナではなく、エリー。
 エリーは今、絶賛! 冒険者活動中。
 誰にも邪魔はさせない!

「ルビー、シア。あれ、どう思う?」

 ルビーはシルビア。
 シアはアレシア。
 愛称のシルやアリーではないのは念の為だ。
 冒険者活動をする時、本名では支障が出るかもしれないから、マテオ兄とナル姉以外は偽名を使っている。
 三人とも貴族令嬢である以上、揉め事に巻き込まれないとも言えないからだ。

 私がなぜ、エリーなのかって?
 セラフィナだから、愛称はセナ。
 だけど、それではすぐにバレてしまう。
 自分で言うのも変だけど、見た目だけでも目立ってしまうのだ。

 じゃあ、セリーにすれば、いいと思ったかしら?
 確かにバレにくいかもしれない。
 でも、念には念を入れて、エリーなのだ。
 大好きなロマンス小説『冒険令嬢の華麗なる旅』の主人公がエリー。
 だから、エリーにしたのだ。
 これなら、バレないよね?

「怪しいですわ」
「あたしの前世の記憶ではああいう仮面かぶったのはキーキャラよ、間違いないっ」
「あ、うん。そうよね」

 二年経ったけど、相変わらず、アリーはたまに良く分からない単語を使ってくる。
 言いたいことは分かるから、いいんだけど。
 要は怪しいってことでしょ?

 三人で胡乱な目を向けるのは今日のクエストにスポット参加している冒険者だ。
 名前はイシドロ。
 辛うじて、分かるのは髪の色が黒なのかなというくらい。
 すっぽりと頭を覆い尽くす鉄兜のようなヘルムに顔の上半分を隠すマスクのような部分が付け加えられてる。
 怪しいとしか、言いようがない。

 ちゃんと見えるのは口許と鼻くらい?
 ただ、口許と鼻しか、見えていないのに顔立ちが整っているんじゃないかと思う。
 それに声がどこかで聞いたような記憶があるんだけど。
 どこだったんだろう。
 思い出せない。

 私が訝しげに眉をひそめたせいか、この仮面男がぷいと顔を逸らした。
 さっきもそうだった。
 視線を合わせようとすると逸らす。
 何もしてないのに嫌われたのかしら?
 おかしなこともあるものね。
 悪役令嬢の看板は下ろしたんだけど、おかしい。
 学園でもそんなに目立たないようにしてきた。
 冒険者としてもなるべく、波風立てない行動をしてきたつもり。



 マテオ兄はあまり、自己主張をしない人だ。
 そんなマテオ兄が珍しく、提議してきたのが今回の助っ人の話。
 その助っ人こそ、イシドロなんだけど、これまた、ほとんど喋らない人だ。
 仮面は怪しいし、本当に役に立つんだろうか。

「奴の縄張りに入ったぞ。警戒を怠るな」

 マテオ兄が警戒を促す、厳しい声をかけてくる。
 緊張の度合いが高まる。
 それもそのはず。
 私達が今、足を踏み入れた場所は鬱蒼と茂った森の奥深く、誰も訪れないような最奥の地だ。

 そこを棲み処としてる魔獣の討伐が今回のクエストになる。
 魔獣の名はオフィオタウラス。
 非常に奇妙な姿をした魔獣で上半身は屈強な筋肉で覆われた牡牛なのに下半身がとぐろを巻いた蛇なのだと言う。
 いわゆる合成獣キメラの様相を呈した魔獣だけど、元から奇妙な姿らしい。

 両者の特徴を兼ね備えているのか、パワーだけでなくスピードとテクニックも兼ね備えた厄介な魔獣として、知られてる。
 その肝にはとても強い滋養強壮効果があるのでも有名だ。
 そして、クエスト報酬がその肝だったりする。
 アンプルスアゲル卿に少しでも元気になってもらうにはこれでも食べてもらうしかない。
 美味しいのだろうか。
 牛の仲間とすると美味の可能性もあるけど、蛇の仲間とすると珍味になるのかしら?

「……来るぞ!」

 木々が薙ぎ倒される音とともに姿を現したオフィオタウラスは思っていた以上に大きく、恐ろしい姿をしていた。
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