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3 ファブリシオ
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俺、ファブリシオが生まれたのはこの世の果てみたいな場所にある名もなき小さな村だ。
まず、年寄りが多い。
次に多いのが戦傷で手足が不自由になった者だった。
しかも若い世代と言えば、俺一人くらいだ。
他所から来た人には実に奇妙な村と移るに違いない。
生まれた時から住んでいる俺ですら、そうなんだから。
母親はいない。
母さん――レオノルは命と引き換えに俺を産んだらしい。
そう教えてくれたのは唯一の家族になったじっちゃんだった。
じっちゃんは村人から、モサの旦那と呼ばれてる。
本当の名前はモイセスで昔は凄い人だったらしい。
本人が何も教えてくれないのは孫に自慢話をするみたいで恥ずかしいんだろう。
それは仕方ないと思う。
しかし、村人までもがなぜか、示し合わせたように教えてくれない。
じっちゃんの過去に話が及ぶと途端に逸らそうとしてくる。
あからさまに怪しい。
さすがに子供であっても察して、俺自身がその話題を避けるようになった。
じっちゃんに右目と左腕はなかった。
それに右足も膝から下がない。
何かがあったと子供心でも分かる痛々しい姿だ。
俺が生まれる前よりもずっと前……。
昔々は世界のそれは平和で魔物が人を害することもなかったらしい。
今は違う。
少しでも集落から離れた場所では気を付けなければ、どこで何が起きるか分からない。
そんな危険と隣り合わせなのだ。
だから、じっちゃんも昔、何かがあったのは間違いない。
だが知ってしまうと後戻りができないのではないか?
そう考えるようになった。
普段、穏やかなじっちゃんが別の顔を見せるからだ。
ふとした時に見せる顔はまるで別人のようで怖い。
トレーニングというには厳しすぎて、修行と言った方がふさわしい。
手足に錘をつけられ、半日以上かかる隣村まで行かされるのなんて序の口だ。
深い谷底に落とされたこともある。
あれは地味にきつかった。
半日どころでは済まなかったからだ。
しかし、無事に帰宅してから食べた御飯の旨さは忘れられないだろう。
鬼教官。
じっちゃんにはそんな言葉がぴったり合う。
でも、じっちゃんはたった一人の家族で一番の味方だった。
それだけは疑いようのない事実だ。
だけど、じっちゃんは死んだ。
今から、五年前のことだ。
俺が十歳になる年、じっちゃんは天に召された。
じっちゃんは早起きでお日様が昇る前から起きて、身支度を整えるしっかりした人だった。
寝ている間に安らかに逝ったのか、穏やかな死に顔をしていた。
近所の人が手伝ってくれたから、どうにかしめやかな葬式を出すことができた。
しかし、俺自身はどうすればいいのか、分からなかった。
身寄りはじっちゃんだけで親戚がいるとは聞いてない。
家や家財道具はじっちゃんの持ち物だったから、住む場所には困らない。
食べる物にも困らない。
じっちゃんからトレーニングと称した修行で狩りの真似事も一通り、学んでいたからだ。
ちょっとした獲物を仕留めるくらいどうということもなかった。
だから、生きていくだけなら、問題なかったのだ。
でも、分からなかった。
じっちゃんみたいに教えてくれる人がいないのにいきなり、一人ぼっちになった。
この先、どうすればいいかが分からない。
迷子になった気分だ。
じっちゃんはそんなことをお見通しだったのかもしれない。
もしかしたら、自分の命がそう長くないことも分かっていたんだろう。
遺品を整理していたら、俺宛の手紙が見つかったのだ。
手紙には今後、どうすべきなのかが十歳の俺にも分かるように簡単な文章で書かれていた。
実に分かりやすい内容だった。
サント・フベルトゥス学院に入れ。
ただ、それだけだ。
そして、こうも書かれていた。
『己の信じる道を信じ、迷わず進むべし』と……。
まず、年寄りが多い。
次に多いのが戦傷で手足が不自由になった者だった。
しかも若い世代と言えば、俺一人くらいだ。
他所から来た人には実に奇妙な村と移るに違いない。
生まれた時から住んでいる俺ですら、そうなんだから。
母親はいない。
母さん――レオノルは命と引き換えに俺を産んだらしい。
そう教えてくれたのは唯一の家族になったじっちゃんだった。
じっちゃんは村人から、モサの旦那と呼ばれてる。
本当の名前はモイセスで昔は凄い人だったらしい。
本人が何も教えてくれないのは孫に自慢話をするみたいで恥ずかしいんだろう。
それは仕方ないと思う。
しかし、村人までもがなぜか、示し合わせたように教えてくれない。
じっちゃんの過去に話が及ぶと途端に逸らそうとしてくる。
あからさまに怪しい。
さすがに子供であっても察して、俺自身がその話題を避けるようになった。
じっちゃんに右目と左腕はなかった。
それに右足も膝から下がない。
何かがあったと子供心でも分かる痛々しい姿だ。
俺が生まれる前よりもずっと前……。
昔々は世界のそれは平和で魔物が人を害することもなかったらしい。
今は違う。
少しでも集落から離れた場所では気を付けなければ、どこで何が起きるか分からない。
そんな危険と隣り合わせなのだ。
だから、じっちゃんも昔、何かがあったのは間違いない。
だが知ってしまうと後戻りができないのではないか?
そう考えるようになった。
普段、穏やかなじっちゃんが別の顔を見せるからだ。
ふとした時に見せる顔はまるで別人のようで怖い。
トレーニングというには厳しすぎて、修行と言った方がふさわしい。
手足に錘をつけられ、半日以上かかる隣村まで行かされるのなんて序の口だ。
深い谷底に落とされたこともある。
あれは地味にきつかった。
半日どころでは済まなかったからだ。
しかし、無事に帰宅してから食べた御飯の旨さは忘れられないだろう。
鬼教官。
じっちゃんにはそんな言葉がぴったり合う。
でも、じっちゃんはたった一人の家族で一番の味方だった。
それだけは疑いようのない事実だ。
だけど、じっちゃんは死んだ。
今から、五年前のことだ。
俺が十歳になる年、じっちゃんは天に召された。
じっちゃんは早起きでお日様が昇る前から起きて、身支度を整えるしっかりした人だった。
寝ている間に安らかに逝ったのか、穏やかな死に顔をしていた。
近所の人が手伝ってくれたから、どうにかしめやかな葬式を出すことができた。
しかし、俺自身はどうすればいいのか、分からなかった。
身寄りはじっちゃんだけで親戚がいるとは聞いてない。
家や家財道具はじっちゃんの持ち物だったから、住む場所には困らない。
食べる物にも困らない。
じっちゃんからトレーニングと称した修行で狩りの真似事も一通り、学んでいたからだ。
ちょっとした獲物を仕留めるくらいどうということもなかった。
だから、生きていくだけなら、問題なかったのだ。
でも、分からなかった。
じっちゃんみたいに教えてくれる人がいないのにいきなり、一人ぼっちになった。
この先、どうすればいいかが分からない。
迷子になった気分だ。
じっちゃんはそんなことをお見通しだったのかもしれない。
もしかしたら、自分の命がそう長くないことも分かっていたんだろう。
遺品を整理していたら、俺宛の手紙が見つかったのだ。
手紙には今後、どうすべきなのかが十歳の俺にも分かるように簡単な文章で書かれていた。
実に分かりやすい内容だった。
サント・フベルトゥス学院に入れ。
ただ、それだけだ。
そして、こうも書かれていた。
『己の信じる道を信じ、迷わず進むべし』と……。
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