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閑話 少女の追憶
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あたし、オルガが生まれたのは常に戦禍に見舞われる続ける不運な国。
野心を露わにした強国が隣人だった。
だから、過酷な運命が待ち受けているのも定められたことだったんだと思う。
もっともあたしの国がどうして滅んだのか。
一夜にして、全てが焦土と化して、消えてなくなってしまったのかは分からない。
あの地はもはや人が住めない土地になってしまったのは事実だ。
そして、まだ小さかったあたしは両親と一緒に西へと逃げたんだと思う。
思うというのは記憶があやふやだから。
あやふやにして、忘れたい記憶だからに違いない。
ようやく辿り着いた場所で父と母は死んだ。
何も持っていないのに全てを奪われて、無惨に殺された。
何で殺されたんだろう。
『弱いから』
『強くなければ、生きる価値はない』
あたしの中であたしではない何かがそう答えた。
だから、あたしは思い出さないことを決めた。
それから、どうやって生き延びたのか。
治安の悪いスラム街にも関わらず、あたしは生きた。
弱ければ死ぬのが当たり前。
地獄にもっとも近い場所でもある。
だけど、あたしは生きた。
スラムの人々はそれでもむしろ、人らしかったのだ。
むしろ、そんな場所であるからこそ、仲間意識が人一倍強かったんだろう。
憐れな孤児を可哀想と思ったのか、守ってくれた。
守ってくれたのは弱い立場にいる人達であって、余裕がないのにあたしの面倒を看てくれた。
一般的な幸せとは程遠いかもしれないけど、あたしは確かに幸せを感じて、生きた。
そして、十歳になる頃、はっきりと気付いた。
あたしは人とは違うってことに……。
まず、成長のスピードが早かった。
それだけでなく、異常に身体能力が高いのだ。
小さい体でも大人の男を余裕で持ち上げられたし、簡単に投げ飛ばせた。
壁があっても身体能力に物を言わせて、高層建築を登ることさえできる。
まるで化け物みたいだって?
そうかもしれない。
でも、あたしはそれでもいいと思った。
この力があれば、これまで優しくしてくれた人達に恩返しができる。
こんなに嬉しいことはないとすら、考えた。
だけど、なぜこんな不思議な力があるのかと疑問に感じない訳ではない。
その答えが出たのも十歳の時。
ある日、迎えと称する物々しい団体客が現れた。
スラムにはふさわしくない一張羅を着た一団だった。
それでいて、只者ではない雰囲気がして、明らかにヤバイ人らだって分かった。
「オルガ様ですな? このような場所にいらしたとは。お迎えに参りました。是非、我らと共に……」
片眼鏡をかけた気障でいけ好かない男はそう言った。
これ、あたしの答えがどうであれ、連れて行くつもりだって、分かった。
彼らが考えを曲げる気はさらさらないことも分かる。
反対したり、抵抗したら、酷い目に遭わせてでもあたしを連れて行く。
むしろ、喜んでそうするだろうと匂いで分かった。
微かな血の匂いが彼らから、したからだ。
「いいわ。その代わり……」
スラムの仲間達は心配そうに見守っていた。
彼らもまた、本能的に気付いていたんだと思う。
もし何か動きを見せたら、血を見ることになるんだって。
だから、派手な行動はしないまでも怒りの感情を露わにして、微かな抗議をしてくれたんだ。
感情を出せないあたしの代わりに……。
そんな仲間達に報いることがあたしの条件だった。
後に風の便りで聞いた。
あたしがねぐらにしていたスラム街が生まれ変わったという漠然としているけど、嬉しいニュースだけだ。
こうしてあたし、オルガはサント・フベルトゥス学院という寄宿学校に入った。
カサドール。
狩猟する者を意味する単語であり、あたしが属する一族の名。
先祖というより始祖は幽世と呼ばれていた世界のシシャの落とし子だそうだ。
そういった落とし子は世界各地にいて、何世代にも渡って血が混じりあい、カサドールは完成していったと聞かされた。
だから、生まれながらに頑強で強靭な肉体を有する戦闘民族と言っても過言ではない存在。
その代わり、濃くなった血のせいか、異形の姿で生まれる者が多いらしい。
指の数が多いとか、水かきが手足にあるなんて、まだ生易しい方で……。
見るからにそういった者だと分かるような直系もちらほらといる。
それがあたしと同じ年に入学した直系の子孫ファブリシオだった。
ファブリシオは直系の中でもエリートであるモイセスの家系。
あたしは傍系の生まれだ。
それもかなり血が薄い部類に入る。
もしも血が濃かったのであれば、父や母が無惨に殺されることも無かったと思う。
殺されていたのは逆だったはずなのだから。
言わば、傍系に生まれた突然変異体があたしだったんだろう。
だから、見た目は限りなく、人に近いのに力が発現できたんだ。
「あれがそう? ふ~ん。そっか」
ファブリシオを初めて、見た時。
鳥肌が立つのを感じた。
そんな経験、今までになかった。
あたしに恐怖という感情はない。
他者は圧倒するに過ぎないちんけな生き物でしかなかったからだ。
しかし、彼は違った。
ただ、そこにいるだけで感じる圧倒的な気配は、まさに王者の……。
そのせいか、彼は常に孤独だった。
もっとも見た目も影響しているんだとは思う。
人に近く、見た目がいいあたしとは違って、彼は見目麗しいには程遠いルックスをしている。
体格がいいからとか、不良ぽいからじゃない。
どこを見ているのか、分からない殺気と狂気を孕んだ瞳が何者も寄せ付けないだけだ。
残念なことに学院であたしと彼がかかわりを持つことは一度として、なかった。
彼の成績が悪いからではない。
むしろ、彼のたたき出した実技試験の結果は他者の追随を許さないものであって。
それはあたしですら、どうにかできるようなレベルじゃなかった。
だから、それが理由ではなく……。
彼は意図的に他者との交わりを断っているとしか、思えない生き方をしているように見えた。
恐らく、それがファブリシオがぼっちを貫いた理由。
でも、それも終わりだ。
卒業。
いえ、全てを変える試練に挑む時が来た。
楽しみで仕方ない。
何しろ、これまでちょっかいを出したくても出せなかった彼――ファブリシオと一緒なのだから。
野心を露わにした強国が隣人だった。
だから、過酷な運命が待ち受けているのも定められたことだったんだと思う。
もっともあたしの国がどうして滅んだのか。
一夜にして、全てが焦土と化して、消えてなくなってしまったのかは分からない。
あの地はもはや人が住めない土地になってしまったのは事実だ。
そして、まだ小さかったあたしは両親と一緒に西へと逃げたんだと思う。
思うというのは記憶があやふやだから。
あやふやにして、忘れたい記憶だからに違いない。
ようやく辿り着いた場所で父と母は死んだ。
何も持っていないのに全てを奪われて、無惨に殺された。
何で殺されたんだろう。
『弱いから』
『強くなければ、生きる価値はない』
あたしの中であたしではない何かがそう答えた。
だから、あたしは思い出さないことを決めた。
それから、どうやって生き延びたのか。
治安の悪いスラム街にも関わらず、あたしは生きた。
弱ければ死ぬのが当たり前。
地獄にもっとも近い場所でもある。
だけど、あたしは生きた。
スラムの人々はそれでもむしろ、人らしかったのだ。
むしろ、そんな場所であるからこそ、仲間意識が人一倍強かったんだろう。
憐れな孤児を可哀想と思ったのか、守ってくれた。
守ってくれたのは弱い立場にいる人達であって、余裕がないのにあたしの面倒を看てくれた。
一般的な幸せとは程遠いかもしれないけど、あたしは確かに幸せを感じて、生きた。
そして、十歳になる頃、はっきりと気付いた。
あたしは人とは違うってことに……。
まず、成長のスピードが早かった。
それだけでなく、異常に身体能力が高いのだ。
小さい体でも大人の男を余裕で持ち上げられたし、簡単に投げ飛ばせた。
壁があっても身体能力に物を言わせて、高層建築を登ることさえできる。
まるで化け物みたいだって?
そうかもしれない。
でも、あたしはそれでもいいと思った。
この力があれば、これまで優しくしてくれた人達に恩返しができる。
こんなに嬉しいことはないとすら、考えた。
だけど、なぜこんな不思議な力があるのかと疑問に感じない訳ではない。
その答えが出たのも十歳の時。
ある日、迎えと称する物々しい団体客が現れた。
スラムにはふさわしくない一張羅を着た一団だった。
それでいて、只者ではない雰囲気がして、明らかにヤバイ人らだって分かった。
「オルガ様ですな? このような場所にいらしたとは。お迎えに参りました。是非、我らと共に……」
片眼鏡をかけた気障でいけ好かない男はそう言った。
これ、あたしの答えがどうであれ、連れて行くつもりだって、分かった。
彼らが考えを曲げる気はさらさらないことも分かる。
反対したり、抵抗したら、酷い目に遭わせてでもあたしを連れて行く。
むしろ、喜んでそうするだろうと匂いで分かった。
微かな血の匂いが彼らから、したからだ。
「いいわ。その代わり……」
スラムの仲間達は心配そうに見守っていた。
彼らもまた、本能的に気付いていたんだと思う。
もし何か動きを見せたら、血を見ることになるんだって。
だから、派手な行動はしないまでも怒りの感情を露わにして、微かな抗議をしてくれたんだ。
感情を出せないあたしの代わりに……。
そんな仲間達に報いることがあたしの条件だった。
後に風の便りで聞いた。
あたしがねぐらにしていたスラム街が生まれ変わったという漠然としているけど、嬉しいニュースだけだ。
こうしてあたし、オルガはサント・フベルトゥス学院という寄宿学校に入った。
カサドール。
狩猟する者を意味する単語であり、あたしが属する一族の名。
先祖というより始祖は幽世と呼ばれていた世界のシシャの落とし子だそうだ。
そういった落とし子は世界各地にいて、何世代にも渡って血が混じりあい、カサドールは完成していったと聞かされた。
だから、生まれながらに頑強で強靭な肉体を有する戦闘民族と言っても過言ではない存在。
その代わり、濃くなった血のせいか、異形の姿で生まれる者が多いらしい。
指の数が多いとか、水かきが手足にあるなんて、まだ生易しい方で……。
見るからにそういった者だと分かるような直系もちらほらといる。
それがあたしと同じ年に入学した直系の子孫ファブリシオだった。
ファブリシオは直系の中でもエリートであるモイセスの家系。
あたしは傍系の生まれだ。
それもかなり血が薄い部類に入る。
もしも血が濃かったのであれば、父や母が無惨に殺されることも無かったと思う。
殺されていたのは逆だったはずなのだから。
言わば、傍系に生まれた突然変異体があたしだったんだろう。
だから、見た目は限りなく、人に近いのに力が発現できたんだ。
「あれがそう? ふ~ん。そっか」
ファブリシオを初めて、見た時。
鳥肌が立つのを感じた。
そんな経験、今までになかった。
あたしに恐怖という感情はない。
他者は圧倒するに過ぎないちんけな生き物でしかなかったからだ。
しかし、彼は違った。
ただ、そこにいるだけで感じる圧倒的な気配は、まさに王者の……。
そのせいか、彼は常に孤独だった。
もっとも見た目も影響しているんだとは思う。
人に近く、見た目がいいあたしとは違って、彼は見目麗しいには程遠いルックスをしている。
体格がいいからとか、不良ぽいからじゃない。
どこを見ているのか、分からない殺気と狂気を孕んだ瞳が何者も寄せ付けないだけだ。
残念なことに学院であたしと彼がかかわりを持つことは一度として、なかった。
彼の成績が悪いからではない。
むしろ、彼のたたき出した実技試験の結果は他者の追随を許さないものであって。
それはあたしですら、どうにかできるようなレベルじゃなかった。
だから、それが理由ではなく……。
彼は意図的に他者との交わりを断っているとしか、思えない生き方をしているように見えた。
恐らく、それがファブリシオがぼっちを貫いた理由。
でも、それも終わりだ。
卒業。
いえ、全てを変える試練に挑む時が来た。
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何しろ、これまでちょっかいを出したくても出せなかった彼――ファブリシオと一緒なのだから。
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