我欲するゆえに我あり

黒幸

文字の大きさ
18 / 34

17 スリーパー、死す!?

しおりを挟む
 だが、時は待ってくれない。
 無情なものだと思い知った。
 アルファの攻撃を一身に受けたスリーパーが五体満足でいられる保証なんて、なかったんだ。

「ん……が……!」

 立っているのが不思議なくらい、彼は傷だらけだった。
 いや、傷なんて言葉は生易しい。
 辛うじて無事なのは俺達にサムズアップをした右腕だけと言っていい。

 左腕は肘の辺りから、もげてなくなっている。
 丸太のようで頑丈そのものに見えた太い足もあちこちの肉が削がれ、無惨な有様だった。
 何よりも酷いのは頭だ。
 その四分の一ほどが見事に持っていかれている。
 右側頭部は激しく穿たれた痕が生々しい。
 大穴が開いている。

 サムズアップした手が力なく垂れさがり、そして、ヤツは仰向けに大きな音を立てて倒れ込んだ。
 それはスリーパーの意地でもあったんだ。
 決して、背中を向けずに戦い抜くという意思表示でもあった。

 だから、この機を逃してはいけない。

「こんのぉ、化け物がぁ! 喰らえっ!」

 スリーパーが倒れるのとオルガが氷の力を込めた投げ槍を思い切り、投擲したのはほぼ同時だった。
 風を裂く音と共に凄まじい勢いでアルファ目掛けて、飛翔する槍と並走するように俺も思い切りよく、床を蹴って駆け出す。

「絶対に許さん!」

 耳をつんざく爆音と凄まじい衝撃波が発生した。
 アルファの頭をオルガの投げた槍が、見事に突き抜けた証拠だ。
 しかし、致命傷には至らなかった。
 当たる瞬間、本能で察したとでも言うのか。
 手傷を負わすのには成功したが……。
 アルファにとって、それはさして痛くない怪我と言う程度で済んでいるんだろう。
 確かに氷の力でヤツの頭は半分ほど、凍った。
 そこは作戦通りだが、半分しか凍っていない。
 未だヤツは健在なのだ。

「おらあああ」

 ただ、それでも隙ができたのは大きい。
 一瞬でも動揺した隙を逃さず、追撃した。
 狙いは鎌のように鋭い刃を持つ腕だ。

 この目論見はまんまとうまくいった。
 オルガの槍と並走したお陰でヤツの懐にすんなりと入り込むことに成功したからだ。
 一撃目で右の鎌を根元から断ち切り、返す二撃目で左の鎌を狙う。

 しかし、そこはさすが、化け物と言うべきか。
 恐るべき反応速度だった。
 俺の槍が左の鎌の刃を砕こうとするのとヤツの槍状の腕が俺の頭を捉えるのが、同時だった。

 このまま、退かなければ、頭がやられる。
 かといって、退いてしまえば、厄介な腕は健在でオルガが危ない。
 狩人はこういう場合、どうするべきか。
 迷うまでもない。

「危なかったなあ。オラ、ドキドキしちったぞ」
「だ、誰だ……お前?」

 俺は退かずに突き進むことを選んだ。
 悔いはないとばかりにヤツの左鎌を破壊した。
 案外、呆気ないものだ。
 頭をやられて、終わるとは思わなかったけどな……。
 覚悟した俺だったが、衝撃もなければ、痛みもない。

 小柄な影が俺を狙ったエビ野郎の腕を止めていたのだ。

「オラだってば、オラ」

 小柄なヤツはそう言って、仰向けに倒れ伏しているスリーパーを……。
 え?
 お、おや?
 戦いのさなかだったが、信じられないものを見た俺は固まるしか、なかった。
 少し、離れたところにいるオルガもアホの子みたいに口をポカーンと開けているようだ……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

処理中です...