我欲するゆえに我あり

黒幸

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18 走馬灯

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 スリーパーの体は真っ二つに裂けていた。
 そう言うとさぞやグロテスクな映像を目にしていると誤解されても仕方ないと思う。
 ところがそんなことはない。
 むしろ逆だ。
 明らかにおかしい。
 だから、俺とオルガは呆気に取られた。

 きれいに裂けているのにぶちまけられた臓物もなければ、そもそも血液が全く流れていない。
 そうか。
 今更、気付いてしまったぞ。
 スリーパーの体が満身創痍になっていて、腕が吹き飛び、頭もあんなになっているのに血が一滴も流れていなかったじゃないか。
 すっかり、騙されたな……。

「でえじょうぶか? こんな早く出ちゃいけねえ予定だったから、オラも焦ったぞお」
「あ、ああ。で、でえじょうぶだ」

 しかし、スリーパーの中から出てきたそいつ……”中の人”に何者であるのかと悠長に問いかけている余裕など、あろうはずがない。
 そいつは小柄でオルガよりも小さいどころか、十五歳にすら見えない。
 そんな華奢な体で鋭利な刃物へと形を変えた両腕を使って、辛うじてアルファの一撃を受け止めただけなのだ。

 一瞬の猶予を与えられたと言うのが正しいのかもしれない。
 だが、その猶予を有効に使えたのは最悪なことにエビ野郎の方だった。

「フリオ!」

 オルガの悲鳴にも似た声が、遠くに聞こえた。
 腹に凄まじい衝撃と痛みに襲われ、背中に止めとばかりの激痛が走った。
 辛うじて、分かったのはアルファが横薙ぎに払った尾の一撃をまともに喰らったということだけだ。

 スリーパーの中の人は大丈夫だろうか?
 オルガは平気だろうか?
 気になることは他人のことばかりだった。
 目の前の景色が揺らぐ。
 駄目だ、このままでは……。

 俺の思いとは裏腹に意識は沈んでいく。
 昏く冷たい水の底へと……。



「フリオ、どうしたんじゃ? この程度で音を上げるのか」

 あれ?
 おかしいぞ。
 じっちゃんだ。
 死んだはずのじっちゃんが目の前にいた。

 夢……なのか?
 あれか、死ぬ前に見る走馬灯的なものか。

「そうよ、フリオ。これくらいで諦めていいの?」

 誰だ?
 見たことがない人だった。
 知らない人なのになぜか、知っている気がする。
 どうしてそう思うのかは分からない。

 腰まで届く長い髪と猫の目を思わせる瞳のどちらもが金色を帯びていて、まるで女神様のようにきれいで……。
 本当に誰なんだ?

「そんなのでいいの? 本当に諦めていいの?」

 そうか。
 そういうことだったのか。
 この人は俺の……。
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