我欲するゆえに我あり

黒幸

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閑話 負けを認める

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「こんのぉ、化け物がぁ! 喰らえっ!」

 噓でしょ。
 嘘だと言ってよ。
 渾身の力を込めて投げつけた必殺の槍もヤツには通じなかったんだ。
 
 スリーパーもやられて。
 終わった……。
 そうとしか思えなかった。

 でも、そうじゃなかった。
 まだ、終わってなかった。
 スリーパーは実は死んでなくて。
 いや、そうじゃない。
 正直、よく分かんない。

 スリーパーの中から、何がどうなっているんだか、中の人が出てきちゃった。
 何を言っているのか、分からないけど、実際そうだったので思わず、乙女が見せてはいけない顔になった。
 多分、誰も見ていないので大丈夫だろう。
 もし、見たヤツがいたとしたら、忘れるまで頭を叩いてやろうと思う。

 話が逸れてしまったけれど、スリーパーが生きていたから、消えた勝ち筋が再び、見えたと思ったのよ。
 その時は……。
 束の間の勘違いってとこかしら?

 実際はエビ野郎のヤツがこちらの創造の遥か上を行く化け物だった訳で。
 まさか、スリーパーとフリオ二人まとめて、吹き飛ばされるとは思ってもいなかった。

「フリオ!」

 思わず、出た言葉はなぜか、あいつの名前だった。
 そう。
 これは仕方ないことなのよ。
 スリーパーの中から出てきたスリーパーの中の人の名前は分からないんだもん。
 だから、偶々、あいつの名が出ちゃっただけ。
 それ以上でもそれ以下でもないわ!

 一瞬の出来事だった。
 エビ野郎が尻尾をあんな使い方すると思ってなかったし、あんなにも威力があるなんて……。

 スリーパーだった人は巻き込まれただけだったからか、吹き飛ばされたものの床に叩きつけられながらも受け身を取って、すぐに立ち上がった。
 だから、こっちは問題ない。
 でも、フリオは……。

 動かない。
 彼が叩きつけられた先には壁があって、壁にめり込むほどの衝撃だから、どれだけ痛かったんだろう。
 頭にもダメージがあったのか、大量に出血している。
 あの血の色……。
 コバルトブルーのような淡い青色ををした血は紛れもなく、正当なカサドールの末裔の証だ。
 悔しいけど、あたしの血はあそこまできれいなコバルトブルーじゃない。

 フリオはぴくりとも動かない。
 エビ野郎がニヤリと嫌らしい笑みを浮かべたように見えた。
 あれは勝利を確信して、揺るぎない自信が生み出した慢心の表情だ。
 でも、もう手の打ちようがない。

 このままではスリーパーも……そして、あたしも殺されるのを待つだけしかない。
 その時、不意に感じたのは言い知れぬ恐怖と昂揚だった。
 この感覚は一体!?
 何が起きたのか、分からず感覚が示す通り、フリオを見た。

「フリオ!?」

 先程まで死んだように微動だにしていなかったフリオが立ち上がっていた。
 流れる血も厭わずに……。
 これは……。
 ヤバイんじゃない!?

「スリーパー、逃げるわよ」
「んが!」

 中の人でもそれ、言うの? とツッコんでいる余裕なんてない。
 一刻も早く、少しでも遮蔽物があるところに行かないと!

 逃げながら、ちらっと窺うと案の定、天高く獣のように吠えるフリオとその口から、放出される高出力のエネルギーの流れを見た。
 あれが噂の光火砲(フォトンカノン)なんだろう。

 なぜか、これは不思議と悔しくはなかった。
 そうなのだ。
 あたしは負けを認めてしまって、戦うことから逃げようとしていた。
 フリオはまだ諦めていなかったんだ。
 だから、彼があの力を使えても悔しくなんてない。

 でも、後でたっぷりと文句を言うくらいはいいよね?
 覚悟してなさい。

 死に物狂いで走って、どうにか物陰へと滑り込むことに成功した。
 それから、瞬きもしないうちだ。
 凄まじい衝撃波が襲ってきたのは……。
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