【完結】氷の魔女は若き黒獅子に溶かされる~最強の魔女なのに年下の婚約者が積極的で抗えません~

黒幸

文字の大きさ
4 / 232
第1章 商業都市バノジェ

第2話 冒険者になろう

しおりを挟む
 私がバノジェを訪れてから、一ヶ月くらいでしょうか。
 僅かな期間しか、経過していないのに町が雰囲気が全く、変わっていることに気付きました。

 生臭さ。
 腐敗臭と血生臭さが入り混じった何とも嫌な空気が充満していて、過ごしにくい場所でしたけど、それがまる嘘のように爽やかな空気です。
 南の明るい港町らしい爽やかな潮風が町を包んでいました。

「いい町ですね。あたし、北の出だから、こういう景色も町の雰囲気も初めてです」

 アンが目を細め、一面の青空を見上げながら、嬉しそうな様子に私も幸せな気分に浸れます。
 私と同世代の女の子なのだから、もっと平穏に生きて欲しい。
 出来れば、恋をして……そうしたら、私の元を離れるかもしれませんね。
 それは寂しいことですけれど、彼女がそれで幸せになれるのなら、いいのです。
 こういった開放的な南部の町で少しくらい、羽を伸ばして自由になってもいいのですわ。
 でも、口には出しません。
 もし、勧めても決して、首を縦には振らないでしょう。
 アンはそういう子ですもの。

「冒険者ギルドで登録するんだっけ?何でアルフィンのギルドでしなかったのかな?」
「アルフィンでは私達の身元がすぐにバレてしまいますわ。バノジェでも多少、顔が知られている可能性はありますけど、アルフィンよりはバレないでしょう?それに旅をするにあたって、冒険者と名乗る方が角が立たないものだと思いますの。冒険者ギルドに登録している冒険者はそれだけで身分を保証されているものですから」

 冒険者ギルドは一つの国に運営されている訳ではなく、国を跨いで運営されている国際共同企業体とでも言うべき巨大な団体です。
 各国の主要都市だけではなく、ダンジョンが存在する迷宮都市には支部が置かれていて、各支部間のネットワークは小国の運営する飛脚を遥かに凌駕すると言われています。
 そこに登録するということはある程度の身分が誰であろうと保証されるという訳です。
 その代わり、守らなければならない規則も存在します。
 そうでもないと犯罪者の温床になってしまいますもの。

「お嬢さまとあたしが幼馴染の設定って、大丈夫ですかねぇ。あたしの方がそれに慣れないかなぁって」
「それで僕がアンの弟って、設定だっけ?」
「何か、問題がございますの?」

 問題があると顔に書いてある気がするのですけど。
 髪の色が似ているから、怪しまれないようにそういう設定を盛り込んでみました。
 我ながら、いい案と思っていたのですけれど、何か、問題があったのかしら?

「そうすると幼馴染の弟である僕とリーナが恋人って、妙な関係だよね」
「初恋の相手が姉の友人、どこにでもある話ではないかしら?おかしくはないと思うの。何か、不満がございますの?」
「え? 別に不満とか、嫌だとかじゃなくってさ。姉の友人って関係だと僕がリーナを甘やかしたり出来ないんじゃない?」
「ふぇ? 甘やかせる? 甘えたいじゃなくって……? それはおかしくありません?」

 思わず、目を見開いて固まってしまいました。
 私の計画ではこの旅行で年上の頼りがいがあるお姉さんとして、レオを甘やかせるだけ甘やかせる予定だったのです。
 そんなことをしなくても彼との関係が拗れることなんて、ないとは思うのですけど!
 でも、甘やかせるだけ甘やかせて、私なしではいられないようにしないと安心出来ない…そういう面倒な性格をしていますの、私。
 ただ、それだけだったのですけど……。
 私が甘やかされる方だなんて、考えてすらいなかったから。

 それは私の前世が女子高生だったせいでしょうか?
 考えてしまうのは私とレオの関係です。
 私は十七歳ですから、女子高生ということになります。
 レオは十二歳で中学生になったばかり、つい半年前くらいまでは小学生だったのです。
 冷静に考えると女子高生と男子小学生が付き合っていることになりますね。
 これはいけないのではありません?
 でも、ここはアースガルド……いいのかしら?

「リーナ、聞いてる?」
「えっ? あっ…はい、聞いてますわ」

 考え事に夢中で聞いてませんでした。
 気になってしまいますもの。
 女子高生は小学生と付き合ってもいいの?駄目なの?
 えっと……そう言っている割にお風呂で迫ったことがあったような……前科一犯になりますわ!?

「うん。だから、僕は男の子だからね。女の子はエスコートしなきゃ、駄目でしょ」

 レオは私が変な考えで頭の中がグルグルしているなんて、思っていないのでしょう。
 あくまで私のことを第一に考えてくれる人ですから。

「甘えたいとは思いませんの?ねえ、アン…男の子はそういう生き物じゃなかったの?」
「そういう生き物だと思ったんですけど、おかしいですねぇ。やっぱ、本頼みの知識しか、ないのがまずかったですよっ」

 アンに同意を求めたら、藪蛇でしたわね。
 私がそういう本に知識を求めていることがレオにバレてしまったのではなくって。
 不安になって、チラッと彼の様子を窺うと特に気にしていないように見えます。
 変な子とは思われていない?

「あれだよ、僕達に演技なんて、無理だって。ここは無理しないで貴族であることも関係も隠さないでいこうよ」

 レオの提案に私もアンも頷いて、同意するしかありません。
 そうよね、よく考えたら、私はともかくとしてレオとアンが設定した人物を演じきれるか、怪しいですもの。
 それなら、最初から演じない方が安全というものです。

「では幼馴染などの回りくどい設定はなしにしましょう。ただ、名をそのままで登録するのはさすがに危険ではありませんの?」

 この提案はすぐに受け入れてもらえました。
 冒険者として、旅をする以上は本名で行動するのに危険が伴う可能性が否めませんし、かといって、本名とあまり離れた名ではお互い呼び合う時に面倒です。
 バノジェの冒険者ギルドへと向う道すがら、どういう名がいいのかと意見を交わしながら、多くの人々が行き交う通りを行くとこういう平穏が感じられる日常はいいものだと改めて、思うのです。



 商業が盛んなバノジェだからなのか、冒険者の需要が高いからなのか。
 冒険者ギルドの建物はかなり立派な建物で帝都の貴族の邸宅でもこれだけの広さを有しているところは珍しいのではないかというくらいです。
 建物自体は豪華な様式ではなく、あくまで実用的なところを重視しているらしく質実剛健という言葉がふさわしい建物なのかもしれません。

 書類に必要事項を書き入れて、私達は晴れて冒険者になったのです。
 レオはレオナール、アンはアンナと分かりやすい名前で。
 私はリリアーナとアイリスから取って、リリスで登録しました。
 ランクは三人とも登録したばかりなので最低のEランクです。
 ちなみにクラスは私が魔女の女王ヘクセ・ケーニギンでレオが暗黒騎士ドゥンケルハイト・リッター
 このクラスとやらは本当に合っているのかしら?
 アンにいたっては暗殺者アサシンですもの。

「リーナって、呼べないのが残念だね。リリーでいいのかな」
「幼馴染で特別な関係なのですから、呼び方が特別でも構わないとは思いません?」
「じゃあ、リーナでいいんだね」
「ええ、レオ」

 それは彼にとって、私が特別であることの証明であり、私にとって、彼が特別であることの証明。
 何か、言葉を口から発する訳でもなく、レオと二人きりの世界のようにただ、見つめ合っているとコホンというアンの軽い咳払いで現実に戻されました。

「あのお嬢さま、それで最初の依頼というのはどうされるんですか?」
しおりを挟む
感想 88

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

処理中です...