68 / 232
第2章 自由都市リジュボー
第61話 話くらいは聞いてあげますのよ?
しおりを挟む
ベッドから起き上がるだけの体力が回復出来た頃には既に日が落ちかけていました。
窓から見える夕焼けの空はとても、きれいで差し込む茜色の光を浴びたレオの横顔につい見惚れていると「リーナ…きれいだね」って言われて。
嬉しいのと恥ずかしいのが入り混じって、火が出そうなくらい熱くなっていたから、顔が真っ赤になっていることでしょう。
夕陽のお陰で気付かれてないといいのですけど。
気付かれても困りますし、気付かれないのも悲しいですわ。
ちょっと面倒な性格だと自覚してますけど、簡単に直せるものでもないのよね…。
夜の帳が下りてきて、闇が辺りを支配する時間になる頃。
闇に乗じて、屋根伝いに郊外へと向かっているのです。
屋根から屋根へと軽業師のように軽々と跳んでいくレオとアン、二人の高い身体能力には驚きを隠せません。
私にはちょっと無理な芸当ですもの。
え?私はどうしているのかって?
アンに背負ってもらって、楽しているのですわ。
まず、レオに横抱きに抱えてもらいました。
お姫様抱っこですから、胸が激しくドキドキしますし、嬉しかったんですのよ?
でも、思ったより揺れますし、身長差のせいか、走りにくいようなのです。
残念ながら、諦めざるを得ませんでした。
だから、アンに代わってもらったのですけど、意外と快適ですわ。
「お嬢さま。辛かったら、すぐに言ってくださいねぇ」
二人とも気遣ってくれますし、この速さでしたら、目的地に着くのは時間の問題ですわね。
打ち込まれた楔はまだ、郊外の一点を指し示したまま、動いていませんもの。
リジュボーの海岸沿いには美しい砂浜が広がっていました。
太陽と青空が天にあれば、さぞやきれいな風景が目に入るのでしょう。
実際、観光名所として、かなり有名な砂浜なのです。
レオとデート出来たら、素敵な思い出が残せそうですわ。
残念ながら今は宵闇が支配する夜。
冷たく暗い海と空がどこまでも広がっているだけなのです。
そんな海岸にそびえる岩壁に深淵の闇を湛えた洞穴の入口が開いていました。
「楔はここを指し示していますわ」
「まあ、隠れるにはもってこいの場所って感じがするね」
潮が満ちてきたら、水没するのではないかしら?
あまり人が近寄りそうにない穏やかならぬ雰囲気が漂っています。
もしかしたら、ここに逃げ込んだ件の魔物の影響ですの?
「あの質問なんですが…ギルドの方にどうやって、犯人を突き出すんですかぁ?」
え?
ここにきて、アンからの質問。
実のところ、全く、考えていませんでした。
どうするべきなのでしょう?
あの魔物、最初に現れた時は人の姿に擬態していました。
命を失った時、魔物の姿のままなのか、それとも人の姿に戻ってしまうのか。
抵抗され、討ち取った場合、人の姿をした死体を持っていっても信じてもらえない可能性が高いですわね。
また、無事に捕らえられたとしても少々、面倒そうですけど。
「何とか、なるよ。ね?リーナ」
「え、ええ。何とか、してみますわ」
まるで仔犬が遊んでもらうことを期待して、一心に見つめてきて、尻尾を力いっぱい振っているような。
そんな幻が見えそうなくらいに澄んだ瞳で見つめられると何とかせざるを得ませんわ。
滴り落ちる水滴の音が静けさの中に響き渡ります。
詩的な情緒を有する方であれば、何らかの詩文でも思いつくのかしら?
私にそのような才能は微塵もありませんから、洞穴の奥から感じられる楔の気配を探るのみですけど。
水滴の滴り落ちる音に混じって、女性のすすり泣く声が聞こえてきました。
一番、奥の方―この洞窟の行き止まりから、聞こえてくるようです。
何ともおかしな状況ですわ。
洞穴の最奥で一人の女性が地面に蹲ってすすり泣いていました。
膝を抱えて、頭をそこに埋めたままの姿はとても痛ましいものです。
純白のワンピースを身に着けていて、楔が指し示すのもこの女性ですから、やはり昨夜の魔物と見て間違いないのですけれど、様子がおかしいのよね。
レオは警戒しながら、デュランダルを抜いて、近付いていきます。
レーヴァティンを抜かなかったのは雷の魔力を帯びたかの剣では下手に振るえば、崩落事故を引き起こしかねないからでしょう。
レオは頭で考えずに感覚的にこの辺りの判断を出来るのよね。
持って生まれたセンスとでも言うのかしら?
アンは私を背負っている以上、下手に近付くことは避けるみたい。
「あなた、この世界の住人ではないのでしょう?」
レオがこちらを向き、無言で頷いたので呼びかけるべきは私ということで間違いないでしょう。
一つ、確信があったのです。
私は元々、不死族という不死の肉体を有する人ではない種でした。
血は命であり、血を盟約と為す。
自らの血を使い、特殊な魔法を行使し、他者の血を啜り、自らの力とする。
そのせいでしょうか。
現在の史書において、吸血鬼の祖などとされていますけど、正確には全く、別の存在なのです。
吸血鬼は不死族の劣化複製品とでも言うべき種。
混血が進み、薄れてしまった血と力を持つモノ。
それが現在、吸血鬼と呼ばれる魔物だからです。
彼らは欲望のままに人を襲い、血を啜ったが為に魔物と呼ばれる存在にまで身を落としました。
それは自業自得の所業なのですけど、私の一族までもがそういう扱いを受けているのは未だに納得がいきませんわ。
そして、私たちの目前にいるこの奇怪な生物です。
特殊な手段を用いて、脳を啜るという事実から、推測されるのはこの世界ではないどこかで独自の進化を遂げた不死族の亜種ではないかしら?
それなら、レオの打撃を避けることが出来たのも説明がつくのです。
「話くらいは聞いてあげますのよ?」
私の紅玉色の瞳が薄っすらと輝きを放ち始めます。
この方が耐えられるのかどうか、試してみるのも悪くないと思いますの。
魔眼で見せてもらいましょう。
その結果いかんによっては手を差し伸べてもよろしくてよ?
窓から見える夕焼けの空はとても、きれいで差し込む茜色の光を浴びたレオの横顔につい見惚れていると「リーナ…きれいだね」って言われて。
嬉しいのと恥ずかしいのが入り混じって、火が出そうなくらい熱くなっていたから、顔が真っ赤になっていることでしょう。
夕陽のお陰で気付かれてないといいのですけど。
気付かれても困りますし、気付かれないのも悲しいですわ。
ちょっと面倒な性格だと自覚してますけど、簡単に直せるものでもないのよね…。
夜の帳が下りてきて、闇が辺りを支配する時間になる頃。
闇に乗じて、屋根伝いに郊外へと向かっているのです。
屋根から屋根へと軽業師のように軽々と跳んでいくレオとアン、二人の高い身体能力には驚きを隠せません。
私にはちょっと無理な芸当ですもの。
え?私はどうしているのかって?
アンに背負ってもらって、楽しているのですわ。
まず、レオに横抱きに抱えてもらいました。
お姫様抱っこですから、胸が激しくドキドキしますし、嬉しかったんですのよ?
でも、思ったより揺れますし、身長差のせいか、走りにくいようなのです。
残念ながら、諦めざるを得ませんでした。
だから、アンに代わってもらったのですけど、意外と快適ですわ。
「お嬢さま。辛かったら、すぐに言ってくださいねぇ」
二人とも気遣ってくれますし、この速さでしたら、目的地に着くのは時間の問題ですわね。
打ち込まれた楔はまだ、郊外の一点を指し示したまま、動いていませんもの。
リジュボーの海岸沿いには美しい砂浜が広がっていました。
太陽と青空が天にあれば、さぞやきれいな風景が目に入るのでしょう。
実際、観光名所として、かなり有名な砂浜なのです。
レオとデート出来たら、素敵な思い出が残せそうですわ。
残念ながら今は宵闇が支配する夜。
冷たく暗い海と空がどこまでも広がっているだけなのです。
そんな海岸にそびえる岩壁に深淵の闇を湛えた洞穴の入口が開いていました。
「楔はここを指し示していますわ」
「まあ、隠れるにはもってこいの場所って感じがするね」
潮が満ちてきたら、水没するのではないかしら?
あまり人が近寄りそうにない穏やかならぬ雰囲気が漂っています。
もしかしたら、ここに逃げ込んだ件の魔物の影響ですの?
「あの質問なんですが…ギルドの方にどうやって、犯人を突き出すんですかぁ?」
え?
ここにきて、アンからの質問。
実のところ、全く、考えていませんでした。
どうするべきなのでしょう?
あの魔物、最初に現れた時は人の姿に擬態していました。
命を失った時、魔物の姿のままなのか、それとも人の姿に戻ってしまうのか。
抵抗され、討ち取った場合、人の姿をした死体を持っていっても信じてもらえない可能性が高いですわね。
また、無事に捕らえられたとしても少々、面倒そうですけど。
「何とか、なるよ。ね?リーナ」
「え、ええ。何とか、してみますわ」
まるで仔犬が遊んでもらうことを期待して、一心に見つめてきて、尻尾を力いっぱい振っているような。
そんな幻が見えそうなくらいに澄んだ瞳で見つめられると何とかせざるを得ませんわ。
滴り落ちる水滴の音が静けさの中に響き渡ります。
詩的な情緒を有する方であれば、何らかの詩文でも思いつくのかしら?
私にそのような才能は微塵もありませんから、洞穴の奥から感じられる楔の気配を探るのみですけど。
水滴の滴り落ちる音に混じって、女性のすすり泣く声が聞こえてきました。
一番、奥の方―この洞窟の行き止まりから、聞こえてくるようです。
何ともおかしな状況ですわ。
洞穴の最奥で一人の女性が地面に蹲ってすすり泣いていました。
膝を抱えて、頭をそこに埋めたままの姿はとても痛ましいものです。
純白のワンピースを身に着けていて、楔が指し示すのもこの女性ですから、やはり昨夜の魔物と見て間違いないのですけれど、様子がおかしいのよね。
レオは警戒しながら、デュランダルを抜いて、近付いていきます。
レーヴァティンを抜かなかったのは雷の魔力を帯びたかの剣では下手に振るえば、崩落事故を引き起こしかねないからでしょう。
レオは頭で考えずに感覚的にこの辺りの判断を出来るのよね。
持って生まれたセンスとでも言うのかしら?
アンは私を背負っている以上、下手に近付くことは避けるみたい。
「あなた、この世界の住人ではないのでしょう?」
レオがこちらを向き、無言で頷いたので呼びかけるべきは私ということで間違いないでしょう。
一つ、確信があったのです。
私は元々、不死族という不死の肉体を有する人ではない種でした。
血は命であり、血を盟約と為す。
自らの血を使い、特殊な魔法を行使し、他者の血を啜り、自らの力とする。
そのせいでしょうか。
現在の史書において、吸血鬼の祖などとされていますけど、正確には全く、別の存在なのです。
吸血鬼は不死族の劣化複製品とでも言うべき種。
混血が進み、薄れてしまった血と力を持つモノ。
それが現在、吸血鬼と呼ばれる魔物だからです。
彼らは欲望のままに人を襲い、血を啜ったが為に魔物と呼ばれる存在にまで身を落としました。
それは自業自得の所業なのですけど、私の一族までもがそういう扱いを受けているのは未だに納得がいきませんわ。
そして、私たちの目前にいるこの奇怪な生物です。
特殊な手段を用いて、脳を啜るという事実から、推測されるのはこの世界ではないどこかで独自の進化を遂げた不死族の亜種ではないかしら?
それなら、レオの打撃を避けることが出来たのも説明がつくのです。
「話くらいは聞いてあげますのよ?」
私の紅玉色の瞳が薄っすらと輝きを放ち始めます。
この方が耐えられるのかどうか、試してみるのも悪くないと思いますの。
魔眼で見せてもらいましょう。
その結果いかんによっては手を差し伸べてもよろしくてよ?
0
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる
マチバリ
恋愛
貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。
数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。
書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる